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XXIV 心の変化-II
しおりを挟む「――どうしました?」
マクファーデンの顔を見つめたまま黙りこくる私を見て、不審に思ったのか彼が眉を顰めた。
とくとくと、鼓動が早くなっていく。今迄にあまり経験した事の無い、妙な動悸だ。一体何が、こんなにも鼓動を早くさせているのだろう。どれだけ考えても、頭はぼんやりとしてしまって働かない。
「ちょっと、失礼します」
彼の手が、徐に此方へと伸ばされる。そしてひたりと冷たい手が頬に触れ、肩が小さく跳ねた。
「頬がやけに熱いですね。顔も赤いですし、発熱でしょうか。先程は何も無かったのに、不思議ですね……」
「なっ……えっ……」
舌が縺れ、上手く言葉が出て来ない。更には何故だか身体が動かず、頬に触れた彼の手を振り払う事も出来なかった。
早まる鼓動は収まるどころか増すばかりで、思考は完全停止してしまい使い物になってくれない。
「季節の変わり目は風邪を引きやすいですからね。発熱なら、診察しましょうか」
「い、や、いい。いいから! 熱とか無いから! 大丈夫!」
漸く身体が動くも、ぎこちない動きを繰り返し無様にも椅子から転落してしまった。強く床に打ち付けた臀部が痛むが、今はそれよりも、煩い鼓動の方が問題だ。
「大丈夫ですか? 先程から、様子がおかしいですが……」
「おかしくないから! 大丈夫だから!」
マクファーデンが心配げな顔をして私に手を差し伸べるが、激しく首を左右に振り早口で捲し立て、慌ててその場に立ち上がった。
「わ、たし、今日は帰る」
「えっ、今来たばかりじゃないですか」
「急用、思い出した、から」
「……こういう時の急用って、大体嘘なんですよ。知ってました?」
図星を突かれ、反論が出来ず口をきつく結ぶ。
――心が、読めない。故に、彼の事が分からない。
彼の事が、酷く苦手だ。なのに、いつの間にか彼の隣に居る事が心地良く感じる様になっていた。
人の感情が流れてこない、人の感情に左右されない、自分が自分で居られる時間。人と共に居るのに、静寂で穏やかな空間。エリオット先生と共に居た時ですらなかったものだ。その空間に、その時間に、絆されてしまったのだろうか。
心が読めない相手の笑顔を見たから、無様にも鼓動が高鳴ったりしてしまったのだろうか。
「――もしかして」
マクファーデンが何やら考え込む様に顎に手を当て、言葉を漏らした。
「僕と共に居て、安らぎを得てくれていたのでしょうか」
そんな言葉と共に、彼が先程と同じ柔らかく朗らかな笑みを浮かべる。
またもや図星を突かれてしまった様な気がして、顔に熱が上るのを感じた。
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