DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

文字の大きさ
上 下
78 / 222

XXIV 心の変化-II

しおりを挟む

「――どうしました?」

 マクファーデンの顔を見つめたまま黙りこくる私を見て、不審に思ったのか彼が眉を顰めた。
 とくとくと、鼓動が早くなっていく。今迄にあまり経験した事の無い、妙な動悸だ。一体何が、こんなにも鼓動を早くさせているのだろう。どれだけ考えても、頭はぼんやりとしてしまって働かない。

「ちょっと、失礼します」

 彼の手が、徐に此方へと伸ばされる。そしてひたりと冷たい手が頬に触れ、肩が小さく跳ねた。

「頬がやけに熱いですね。顔も赤いですし、発熱でしょうか。先程は何も無かったのに、不思議ですね……」

「なっ……えっ……」

 舌が縺れ、上手く言葉が出て来ない。更には何故だか身体が動かず、頬に触れた彼の手を振り払う事も出来なかった。
 早まる鼓動は収まるどころか増すばかりで、思考は完全停止してしまい使い物になってくれない。

「季節の変わり目は風邪を引きやすいですからね。発熱なら、診察しましょうか」

「い、や、いい。いいから! 熱とか無いから! 大丈夫!」

 漸く身体が動くも、ぎこちない動きを繰り返し無様にも椅子から転落してしまった。強く床に打ち付けた臀部が痛むが、今はそれよりも、煩い鼓動の方が問題だ。

「大丈夫ですか? 先程から、様子がおかしいですが……」

「おかしくないから! 大丈夫だから!」

 マクファーデンが心配げな顔をして私に手を差し伸べるが、激しく首を左右に振り早口で捲し立て、慌ててその場に立ち上がった。
 
「わ、たし、今日は帰る」

「えっ、今来たばかりじゃないですか」

「急用、思い出した、から」

「……こういう時の急用って、大体嘘なんですよ。知ってました?」

 図星を突かれ、反論が出来ず口をきつく結ぶ。
 ――心が、読めない。故に、彼の事が分からない。
 彼の事が、酷く苦手だ。なのに、いつの間にか彼の隣に居る事が心地良く感じる様になっていた。
 人の感情が流れてこない、人の感情に左右されない、自分が自分で居られる時間。人と共に居るのに、静寂で穏やかな空間。エリオット先生と共に居た時ですらなかったものだ。その空間に、その時間に、絆されてしまったのだろうか。
 心が読めない相手の笑顔を見たから、無様にも鼓動が高鳴ったりしてしまったのだろうか。

「――もしかして」

 マクファーデンが何やら考え込む様に顎に手を当て、言葉を漏らした。

「僕と共に居て、安らぎを得てくれていたのでしょうか」

 そんな言葉と共に、彼が先程と同じ柔らかく朗らかな笑みを浮かべる。
 またもや図星を突かれてしまった様な気がして、顔に熱が上るのを感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...