67 / 222
XXI ライリー -III
しおりを挟む「今迄どれだけ話し掛けようと、無視される事が殆どだったってのに。最近では奴の方から私の所に来る事もある。それも、全部エルちゃんが来てからだ。あの子が女を連れている所なんか見た事が無かったから、初めて見た時は驚いたよ」
「あれれ、私も一応女なんだけどな」
「何言ってんだい。お前は例外だよ。それに、あの子がお前を連れてるんじゃなくて、お前があの子を連れてるんだろう」
「あは、言えてる」
私達の間を、引き裂く様に冷たい風が吹き抜けた。それに伴って、私達の会話も途切れる。
ライリーは変わらず、何処か遠くを見つめたままだ。そんな彼女を、私は黙って見つめる。
「エルちゃんとセドリックは、お似合いだと思うよ」
気まずいとも、心地良いとも言える沈黙を切り裂いたのは、ライリーの方だった。
「少なくともエルちゃんは、セドリックとの今の関係を変えたいと願っているんだ。セドリックの事は……まぁまだはっきりとは分からないが、病的なまでの女嫌いであるあの子が自分の住処にエルちゃんを住まわせている時点で、答えは分かってる。くっつくのは時間の問題だと思っていたが……こうも長引くとはね。流石に、あの2人だけでは無理だろう。周りが手助けしてやらんと」
「臆病なんだな、きっと」
「あれは臆病なんて言葉で片づけられるもんじゃないよ。2人は普通と違うだろう。もしエルちゃんが街の娘で、別の形で出会っていたら……」
「でも、もしエルちゃんが街の娘だったらセドリックは惹かれなかったかもね」
「全ては結果論に過ぎない。でも私は、あの2人は必然的に出会ったんだと思ってる。そうであって欲しいとも、思ってる。エルちゃんが街の娘では無く、良い所のお嬢様として生まれた事にも、きっと意味があるんだ」
「随分と2人の事を考えてるんだね」
「……セドリックの事は、小さい頃から見てたからね。それに、エルちゃんも何処か他人の様に思えないんだ。もしかすると、友人に――セシリアに重なる所があるのかもしれない」
セシリア。それは、ライリーの唯一の深い友人である教会のシスターだ。私は一度も会った事の無い人だが、セシリアの話はライリーから時々聞いていた。
――エルには、不思議な力がある。
彼女は決して、危なっかしいという訳でも無いのに、何処か放っておけない様な子だ。他人だと思えず、不必要な程に世話を焼いてしまう。
それは自身の過去の人物に重なるからだ、と勝手に思い込んでいたが、もしかすると彼女は強い力を持っているのかもしれない。人を引き寄せる、不思議な力を。
「姐さんは、エルちゃんがお嬢様だって、いつから気付いてたの?」
「……」
彼女の視線が、此方に向く。なんだいきなり、とでも言いたげなその視線に、にこりと笑って返した。
「最初からだよ。あの子の英語には訛りが無い。勿論、訛りが無いからお嬢様だって決めつけるのは早計だってのは分かってる。だけど、纏うオーラで直ぐに分かった。きっと、この街の連中だってそれに気付いてるさ」
「そっか。気付いてて、エルちゃんの事街の子だと思って接してくれてたんだね」
「あの子はもう、この街の子だよ。お嬢様だろうと、あの子はもうこの街に溶け込んでる。今更、誰もあの子をこの街から追い出したりしない」
「それが聞けて安心した。これからもエルちゃんの事よろしく頼むね」
「……お前の頼みは、聞きたくないな。でも、エルちゃんの事は私等が守るから安心しな」
彼女がふと、頬を緩めた。
それは、やはり姐さんは姐さんなのだ、と思わせる様な、頼りがいのある笑みだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる