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XXI ライリー -III

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「今迄どれだけ話し掛けようと、無視される事が殆どだったってのに。最近では奴の方から私の所に来る事もある。それも、全部エルちゃんが来てからだ。あの子が女を連れている所なんか見た事が無かったから、初めて見た時は驚いたよ」

「あれれ、私も一応女なんだけどな」

「何言ってんだい。お前は例外だよ。それに、あの子がお前を連れてるんじゃなくて、お前があの子を連れてるんだろう」

「あは、言えてる」

 私達の間を、引き裂く様に冷たい風が吹き抜けた。それに伴って、私達の会話も途切れる。
 ライリーは変わらず、何処か遠くを見つめたままだ。そんな彼女を、私は黙って見つめる。

「エルちゃんとセドリックは、お似合いだと思うよ」

 気まずいとも、心地良いとも言える沈黙を切り裂いたのは、ライリーの方だった。

「少なくともエルちゃんは、セドリックとの今の関係を変えたいと願っているんだ。セドリックの事は……まぁまだはっきりとは分からないが、病的なまでの女嫌いであるあの子が自分の住処にエルちゃんを住まわせている時点で、答えは分かってる。くっつくのは時間の問題だと思っていたが……こうも長引くとはね。流石に、あの2人だけでは無理だろう。周りが手助けしてやらんと」

「臆病なんだな、きっと」

「あれは臆病なんて言葉で片づけられるもんじゃないよ。2人は普通と違うだろう。もしエルちゃんが街の娘で、別の形で出会っていたら……」

「でも、もしエルちゃんが街の娘だったらセドリックは惹かれなかったかもね」

「全ては結果論に過ぎない。でも私は、あの2人は必然的に出会ったんだと思ってる。そうであって欲しいとも、思ってる。エルちゃんが街の娘では無く、良い所のお嬢様として生まれた事にも、きっと意味があるんだ」

「随分と2人の事を考えてるんだね」

「……セドリックの事は、小さい頃から見てたからね。それに、エルちゃんも何処か他人の様に思えないんだ。もしかすると、友人に――セシリアに重なる所があるのかもしれない」

 セシリア。それは、ライリーの唯一の深い友人である教会のシスターだ。私は一度も会った事の無い人だが、セシリアの話はライリーから時々聞いていた。
 ――エルには、不思議な力がある。
 彼女は決して、危なっかしいという訳でも無いのに、何処か放っておけない様な子だ。他人だと思えず、不必要な程に世話を焼いてしまう。
 それは自身の過去の人物に重なるからだ、と勝手に思い込んでいたが、もしかすると彼女は強い力を持っているのかもしれない。人を引き寄せる、不思議な力を。

「姐さんは、エルちゃんがお嬢様だって、いつから気付いてたの?」

「……」

 彼女の視線が、此方に向く。なんだいきなり、とでも言いたげなその視線に、にこりと笑って返した。

「最初からだよ。あの子の英語には訛りが無い。勿論、訛りが無いからお嬢様だって決めつけるのは早計だってのは分かってる。だけど、纏うオーラで直ぐに分かった。きっと、この街の連中だってそれに気付いてるさ」

「そっか。気付いてて、エルちゃんの事街の子だと思って接してくれてたんだね」

「あの子はもう、この街の子だよ。お嬢様だろうと、あの子はもうこの街に溶け込んでる。今更、誰もあの子をこの街から追い出したりしない」

「それが聞けて安心した。これからもエルちゃんの事よろしく頼むね」

「……お前の頼みは、聞きたくないな。でも、エルちゃんの事は私等が守るから安心しな」

 彼女がふと、頬を緩めた。
 それは、やはり姐さんは姐さんなのだ、と思わせる様な、頼りがいのある笑みだった。
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