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XXI ライリー -I

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「――姐さん、久しぶり」

 セドリックとエルの住家を後にしふらりと向かったのは、この街の、市場とも呼ばれる場所。色鮮やかなパラソルに、嗅覚を満たす料理や花の香り。ロンドンの中心部に比べれば人は少ないが、比較的華やかな場所だ。
 私は幼少期から、この市場を見て育った。故に、私にとっては思い入れのある場所である。

 数ある露店の一つ、女性物のアクセサリーを並べた台の向こう側に、退屈そうな顔をして座る女店主の姿を見つけた。その女性に近付き、私は軽い口調で彼女に声を掛ける。

「ああ、お前か」

 女性――ライリー・ワトソンは私を見て、退屈そうな顔を更に歪めて面倒くさそうに返答した。
 しかし彼女は決して、私を本気で疎ましく思っている訳では無い。彼女のその態度は、私と長い付き合いになるからというものと、私の過去の行い――彼女が私を面倒な女だと思う程の絡み方をしてきたからである。

「最近来ないから、やっと静かになったと思って安心してたのに」

「あはは、酷いなぁ」

 彼女のその毒舌にも、笑顔で返答する。これが、私とライリーの関係だ。

「で? 今日は何の用事があって此処に来たんだい」

「うぅん、大した用事って訳でも無いんだけどね。エルちゃんって子、知ってる?」

「エル……、エル・バートンの事か」

 ライリーの言葉に、直ぐ様返答出来ず固まる。
 エル・バートン? 私は聞いていない姓だ。しかし、この街に“エル”という名を持つ人物は彼女以外に居ない事を知っている。故に、その“エル・バートン”という女性が、セドリックが拾って来た令嬢であるエルで間違いないのだろう。

「うん、多分その子だと思う」

「なんだい、『多分その子だと思う』って。確信がある訳じゃなかったのか」

「いや、私エルちゃんの姓を知らないの」

「姓、ね。私もあの子の本当の姓は知らない。“バートン”はどうせ、偽名だろう」

 衝撃的だとも言える発言に、顔に浮かべた笑みが崩れる。
 
「……なんで?」

 ライリーは、良くも悪くも勘の鋭い人間だ。私と同じ様なエンパス気質では無いが、人を洞察する能力は人一倍高い。その為、安易に敵に回せない人物でもある。

「お前から質問されるなんて珍しいね。どうせそんな事わざわざ聞かなくたって、勘の鋭いお前なら私等が気付いてる事位知ってんじゃないのかい。そもそも今日だって、私等が何処まで気付いてるか確かめに来たんだろう?」

「それは否定できないけど」

 確かに私は今日、ライリーがエルと面識があるか、そしてライリーはエルをどの様に見ているかを探りに来た。ライリーはこの街の情報源と言っても過言では無い。顔が広く、彼女の名前を出して「知らない」という人物はこの街には殆ど居ない。
 しかしまさか、エルが偽名を使っていただなんて知りもしなかった。そして、それをライリーは見抜いていたという事も。
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