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XX あの日によく似たティータイム-III

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「エルちゃんの御両親、今どうしてるの?」


 空気を切り裂く様な、自身の言葉。
 ――違う、私はこんな事を言いたかった訳では無い。ただ彼女に罪悪感を与えない様に、優しく諭すつもりだった。
 しかし親の話を出されて、流石の私も冷静で居られなかったのかもしれない。
 人格をしっかりと意地出来ないだなんて、情けない。そんな自己嫌悪に駆られていると、彼女が怯えた様に「ごめんなさい」とやや早口で告げた。

「ごめんごめん、そんなに怖がらせるつもりは無かったんだけど。ほら、知らなくてもいい事って世の中にあるでしょ?」

 彼女のその言葉に我に返り、慌てて取り繕う様に笑って見せる。
 
「私とセディの両親も、知らなくていい事だよ」

 いつも通りの笑みを顔に張り付けながら、皿からビスケットを1枚摘まみ上げた。

「エルちゃんの両親の事も、家の事も、私達にとっては知らなくていい事、でしょ?」

 摘まみ上げたビスケットを、徐に彼女の口元へ持っていく。
 そして、これ以上エルが口を開かぬ様にと、そのビスケットを彼女の唇に触れさせた。

「このビスケット、美味しいんだよ」

 “心が読める”と、“行動が読める”は違う。彼女はセドリックと違い、とても読み辛い人物だった。
 彼女が僅かに口を開き、差し出したビスケットを齧る。これ以上彼女は詮索をするつもりは無いらしく、ただ複雑な感情を漂わせながらも齧ったビスケットを静かに咀嚼していた。
 そんな彼女を見て、僅かに安堵する。しかし明確な理由は分からないが、心の何処かでエルに恐怖を抱いていた。
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