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XVIII 痛み-II
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「あの子、家で待ってるんでしょ。早く帰んなよ」
「……分かってる。分かってんだけど、1回座ると中々……」
「辻馬車使えば良かったじゃん」
「金掛かるだろ」
彼は中々、瞳を開かない。
今の彼には、これ以上言っても無駄な様だ。小さく溜息を漏らし、香水を並べたテーブルの前のソファに腰掛けた。そして、目の前の香水に目を向ける。
ざっと数えて14本。意匠を凝らした陶器製の物もあれば、宝石の様にカットされたガラス製の物もある。ガラス製の物は中身の香水が透けて見えており、無色透明な物、薄いピンク、青、黄、赤などに色づいた液体が入っていた。
まず手始めに、ピンクに色づいた香水が入った、ガラス製の瓶を手に取る。銀のキャップを外し、瓶を鼻に近付けた。
ふわりと香る、薔薇の匂い。ダマスク・クラシックの香水だろう、古典的な香りである。瓶は綺麗だが、特別自身の好みに合う訳でも無い。キャップを閉じ、そっとテーブルに戻した。
次に手に取ったのは、陶器製の容器に入れられた香水。丸みを帯びた白色の陶器に、花束の絵が描かれている。栓をする様に嵌め込まれた陶器のキャップを抜き取り、鼻を近づけた。
鼻腔を抜ける、フローラルな芳しい香り。この香水には百合の花が使われているのだろうか。華やかで上品な香りであるが、少々香りが強く密室には向かない香水だ。
そんな事を思いながら香水を吟味していると、突如右横から声が飛んできた。
「――この前エルに会った時、あいつから何を読み取ったんだ」
あまりに唐突な問いに、思考が追い付かず手がぴたりと止まる。
セドリックの方へ視線を投げると、彼も同じ様に此方を見つめていた。
お互いがお互いを想っている筈なのに、エルとセドリックは今も付かず離れずな関係を続けている。そんな2人をじれったく思い、この2ヵ月間私はセドリックに執拗にエルの事を問い掛け続けていた。詮索するのは良くない、と思いつつも、それでも2人の仲はあまりに進展が無く、人間としての感情が機能しているのか心配でならなかったのだ。
もしや、執拗に問い掛け続けた事で彼の心が動いたのか。やや期待しながらも、ここで素直に答えてしまっては意味が無いと思い「内緒」と呟く様に言葉を漏らした。再び手元に視線を戻し、香水の蓋を閉め持っていた瓶をテーブルに戻す。
「……じゃあ、何処まで読み取ったんだ。過去とか、今迄の生活環境とか……」
「いや、私超能力者じゃないから」
一体私を何だと思っているのか。彼は私の能力を何か勘違いしている様で、思わず嘲る様に笑ってしまった。
「人の感情が強ければ強い程、その人の想いが伝わってくるだけ」
優しく諭す様に説明をして、言葉を区切る。そしてなんと無しに手に取った香水の香りを嗅ぎながら、再び口を開いた。
「あの子がどんな生活してたかなんてわかる訳無いでしょ。それに、あの子から伝わってきたのは……」
しかし、自身が行き過ぎた発言をしてしまった事に気付き、慌てて言葉を止めた。
口をきゅっと結び、なんと誤魔化せば良いのかと困惑しながら彼に視線を投げる。
「……伝わってきたのは?」
彼は怪訝な表情を浮べ、先を話す様に催促する。だがこれ以上の事は、私には言えない。私が、言ってはならないのだ。
「……分かってる。分かってんだけど、1回座ると中々……」
「辻馬車使えば良かったじゃん」
「金掛かるだろ」
彼は中々、瞳を開かない。
今の彼には、これ以上言っても無駄な様だ。小さく溜息を漏らし、香水を並べたテーブルの前のソファに腰掛けた。そして、目の前の香水に目を向ける。
ざっと数えて14本。意匠を凝らした陶器製の物もあれば、宝石の様にカットされたガラス製の物もある。ガラス製の物は中身の香水が透けて見えており、無色透明な物、薄いピンク、青、黄、赤などに色づいた液体が入っていた。
まず手始めに、ピンクに色づいた香水が入った、ガラス製の瓶を手に取る。銀のキャップを外し、瓶を鼻に近付けた。
ふわりと香る、薔薇の匂い。ダマスク・クラシックの香水だろう、古典的な香りである。瓶は綺麗だが、特別自身の好みに合う訳でも無い。キャップを閉じ、そっとテーブルに戻した。
次に手に取ったのは、陶器製の容器に入れられた香水。丸みを帯びた白色の陶器に、花束の絵が描かれている。栓をする様に嵌め込まれた陶器のキャップを抜き取り、鼻を近づけた。
鼻腔を抜ける、フローラルな芳しい香り。この香水には百合の花が使われているのだろうか。華やかで上品な香りであるが、少々香りが強く密室には向かない香水だ。
そんな事を思いながら香水を吟味していると、突如右横から声が飛んできた。
「――この前エルに会った時、あいつから何を読み取ったんだ」
あまりに唐突な問いに、思考が追い付かず手がぴたりと止まる。
セドリックの方へ視線を投げると、彼も同じ様に此方を見つめていた。
お互いがお互いを想っている筈なのに、エルとセドリックは今も付かず離れずな関係を続けている。そんな2人をじれったく思い、この2ヵ月間私はセドリックに執拗にエルの事を問い掛け続けていた。詮索するのは良くない、と思いつつも、それでも2人の仲はあまりに進展が無く、人間としての感情が機能しているのか心配でならなかったのだ。
もしや、執拗に問い掛け続けた事で彼の心が動いたのか。やや期待しながらも、ここで素直に答えてしまっては意味が無いと思い「内緒」と呟く様に言葉を漏らした。再び手元に視線を戻し、香水の蓋を閉め持っていた瓶をテーブルに戻す。
「……じゃあ、何処まで読み取ったんだ。過去とか、今迄の生活環境とか……」
「いや、私超能力者じゃないから」
一体私を何だと思っているのか。彼は私の能力を何か勘違いしている様で、思わず嘲る様に笑ってしまった。
「人の感情が強ければ強い程、その人の想いが伝わってくるだけ」
優しく諭す様に説明をして、言葉を区切る。そしてなんと無しに手に取った香水の香りを嗅ぎながら、再び口を開いた。
「あの子がどんな生活してたかなんてわかる訳無いでしょ。それに、あの子から伝わってきたのは……」
しかし、自身が行き過ぎた発言をしてしまった事に気付き、慌てて言葉を止めた。
口をきゅっと結び、なんと誤魔化せば良いのかと困惑しながら彼に視線を投げる。
「……伝わってきたのは?」
彼は怪訝な表情を浮べ、先を話す様に催促する。だがこれ以上の事は、私には言えない。私が、言ってはならないのだ。
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