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XV 危険なティータイム -X
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「もうこんな時間。随分と話し込んじゃったね」
時計が指しているのは16時半。此処に来てから、早くも2時間が経過しようとしていた。
「ティーカップ、ごめんね。怪我は無い?」
「……ええ、大丈夫。私が悪いの、ごめんなさい」
「いや、原因を作ったのは私だから。セディには私から謝っておくね」
彼女の前に置かれていたティーカップを取り、空の紙袋に押し込んだ。そしてゆっくりと、名残惜しく感じながらも席を立つ。
「これは、私が処分しておくから」
「……お手を煩わせてしまって……ごめんなさい……」
「いいんだよ。全部私が招いた事だし。エルちゃんはもう謝らないで」
帰る支度を整え、玄関扉を開く。そして振り返り、何処か不安気な表情を浮べている彼女と視線を合わせた。
「今日は、色々と困らせちゃってごめんね。でも誤解しないで、初めて会った時に言った『仲良くなりたい』は本音だから。それに、エルちゃんの力になれる事もあるって言った事も」
私の言葉に、彼女が小さく頷く。
「嘘は、もうつかない。これからは全部本当の事を言うよ。難しいと思うけど、私の事はあまり疑わないで、信じて欲しい」
「……ええ、勿論。疑うつもりは無いわ」
「そう。分かって貰えて良かった。それと、セディの事も信じてやって。あいつ、嘘ついたりとか出来る程器用な人間じゃないから。それにセディは分かり易いし、注意して見てたら性格とかも色々掴めてくるんじゃないかな」
「……そうかしら」
冬に比べて日が長くなってきたものの、まだこの時期は、16時を過ぎると薄暗くなってくる。
犯罪の増える夜間に外を出歩く事は、女性であれば控えるべきだ。私は護身術を身に着けている故に、そこらの男性よりも強い自信がある為何の問題も無いが、これから彼女が街を歩く様になったら、夜間は外出を控える様にと言っておく必要がある。
「ごめんなさい、送っていく事が出来なくて」
こんな事を平気で言ってしまう様な子だ。貴族令嬢が何処まで知識を蓄えているかは分からないが、1人で街を歩かせたらその日にでも犯罪に巻き込まれそうである。
「何言ってんの。エルちゃんに夜道歩かせる方が心配だよ。エルちゃんは可愛いんだから、直ぐに男に食べられちゃいそう」
「そんな事無いわ。貴女……マーシャの方がよっぽど綺麗な顔をしているもの」
「あは、女の子からそんな事言われたの初めてだなぁ」
彼女の頭をぽんと撫で、小さく溜息を吐いた。少々危なっかしい子だ。誰かが守ってやらなければ直ぐに壊れてしまいそうな、そんな存在である。
「次会う時は、ちゃんと“友達”として会おうね」
「ええ、是非」
彼女に手を振り、2人の家を後にした。背中に彼女の視線を感じながら、職場までの道をゆったりと歩く。
そこでふと、悪戯心が沸き上がるのを感じた。
「――言い忘れてたけど、私とセディはただの幼馴染! ただの家族みたいな存在で、一緒に居てドキドキもしないし、況してや恋心なんて一切抱いてないから!」
私の声が、周囲に響き渡る。幸い人は居なかったが、彼女の激しい羞恥心が離れた此処まで伝わって来た。
「――だから、私とセディの関係は気にしなくていいよ! 2人の事、応援してるから!」
それだけ言って頭上で大きく手を振り、踵を返し職場の方へと再び足を向けた。
――彼女と話をしている時に一瞬見えた、喉元に突き付けられた短剣。
基本、私は人の心が読めようと記憶の共有は出来ない。しかし、何故だかその光景が彼女から伝わって来た。
彼女は、一度自死を選んだ事がある。短剣を刺す前に思い留まったのか、それとも行動に移した後命が助かったのかは分からないが、余程の事が無い限り人間は自ら死を選ぶ事は無い。
マリアも、そうだった。苦しい人生を歩み、自ら命を絶った。
やはりどうしても、何処か彼女にマリアが重なってしまう。マリアを失った今、もうこれ以上同じ苦しみを抱く人間を出したくは無かった。
「――大丈夫、今度は私が、ちゃんと守るからね」
自身に言い聞かせる様に1人呟き、暗くなった空を見上げた。
時計が指しているのは16時半。此処に来てから、早くも2時間が経過しようとしていた。
「ティーカップ、ごめんね。怪我は無い?」
「……ええ、大丈夫。私が悪いの、ごめんなさい」
「いや、原因を作ったのは私だから。セディには私から謝っておくね」
彼女の前に置かれていたティーカップを取り、空の紙袋に押し込んだ。そしてゆっくりと、名残惜しく感じながらも席を立つ。
「これは、私が処分しておくから」
「……お手を煩わせてしまって……ごめんなさい……」
「いいんだよ。全部私が招いた事だし。エルちゃんはもう謝らないで」
帰る支度を整え、玄関扉を開く。そして振り返り、何処か不安気な表情を浮べている彼女と視線を合わせた。
「今日は、色々と困らせちゃってごめんね。でも誤解しないで、初めて会った時に言った『仲良くなりたい』は本音だから。それに、エルちゃんの力になれる事もあるって言った事も」
私の言葉に、彼女が小さく頷く。
「嘘は、もうつかない。これからは全部本当の事を言うよ。難しいと思うけど、私の事はあまり疑わないで、信じて欲しい」
「……ええ、勿論。疑うつもりは無いわ」
「そう。分かって貰えて良かった。それと、セディの事も信じてやって。あいつ、嘘ついたりとか出来る程器用な人間じゃないから。それにセディは分かり易いし、注意して見てたら性格とかも色々掴めてくるんじゃないかな」
「……そうかしら」
冬に比べて日が長くなってきたものの、まだこの時期は、16時を過ぎると薄暗くなってくる。
犯罪の増える夜間に外を出歩く事は、女性であれば控えるべきだ。私は護身術を身に着けている故に、そこらの男性よりも強い自信がある為何の問題も無いが、これから彼女が街を歩く様になったら、夜間は外出を控える様にと言っておく必要がある。
「ごめんなさい、送っていく事が出来なくて」
こんな事を平気で言ってしまう様な子だ。貴族令嬢が何処まで知識を蓄えているかは分からないが、1人で街を歩かせたらその日にでも犯罪に巻き込まれそうである。
「何言ってんの。エルちゃんに夜道歩かせる方が心配だよ。エルちゃんは可愛いんだから、直ぐに男に食べられちゃいそう」
「そんな事無いわ。貴女……マーシャの方がよっぽど綺麗な顔をしているもの」
「あは、女の子からそんな事言われたの初めてだなぁ」
彼女の頭をぽんと撫で、小さく溜息を吐いた。少々危なっかしい子だ。誰かが守ってやらなければ直ぐに壊れてしまいそうな、そんな存在である。
「次会う時は、ちゃんと“友達”として会おうね」
「ええ、是非」
彼女に手を振り、2人の家を後にした。背中に彼女の視線を感じながら、職場までの道をゆったりと歩く。
そこでふと、悪戯心が沸き上がるのを感じた。
「――言い忘れてたけど、私とセディはただの幼馴染! ただの家族みたいな存在で、一緒に居てドキドキもしないし、況してや恋心なんて一切抱いてないから!」
私の声が、周囲に響き渡る。幸い人は居なかったが、彼女の激しい羞恥心が離れた此処まで伝わって来た。
「――だから、私とセディの関係は気にしなくていいよ! 2人の事、応援してるから!」
それだけ言って頭上で大きく手を振り、踵を返し職場の方へと再び足を向けた。
――彼女と話をしている時に一瞬見えた、喉元に突き付けられた短剣。
基本、私は人の心が読めようと記憶の共有は出来ない。しかし、何故だかその光景が彼女から伝わって来た。
彼女は、一度自死を選んだ事がある。短剣を刺す前に思い留まったのか、それとも行動に移した後命が助かったのかは分からないが、余程の事が無い限り人間は自ら死を選ぶ事は無い。
マリアも、そうだった。苦しい人生を歩み、自ら命を絶った。
やはりどうしても、何処か彼女にマリアが重なってしまう。マリアを失った今、もうこれ以上同じ苦しみを抱く人間を出したくは無かった。
「――大丈夫、今度は私が、ちゃんと守るからね」
自身に言い聞かせる様に1人呟き、暗くなった空を見上げた。
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