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XV 危険なティータイム -II
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右手には、下着を詰めた紙袋。そして左手には、手土産である街で買ったビスケット。更には肩に、恋愛小説とお気に入りの紅茶の茶葉が詰められた鞄が掛けられている。
随分と大荷物になってしまった。あの子も、驚くかもしれない。
ふらふらと道を歩きながら、漸く見えてきたセドリックの家に小さく息を吐く。
流石に本を数冊も下げていると、その重さだけで身体が疲れてくる。職場の書斎から数冊本を借家に持ち帰る事はよくあったが、今日はその倍程の冊数鞄に入れていた。
「やっと着いた……」
思わずぽつりと独言を漏らし、セドリックの家の前で立ち止まる。塞がった両手をあけるべくビスケットが入った紙袋を口に咥え、ドアノッカーを掴み4度扉を叩いた。
咥えた紙袋を左手に持ち直し、反応を待つ。
しかし、幾ら待っても家の中から誰かが出てくる気配は無い。それどころか、物音1つしなかった。
――あぁ、そういえば。
確かセドリックが、あの子を連れ戻そうとする人間が彼の家を嗅ぎつけた時の為に、訪問者が来ても扉を開けるなとあの子に伝えたと言っていた気がする。ともなれば、あの子が扉を開けないのも、気配を消すのも納得だ。
暫し悩んだ結果、周囲に人が居ないのを確認した末扉に向かって声を掛けた。
「――こんにちは」
この声は、彼女に届いているだろうか。少々不安に思いつつ、再び口を開く。
「――私、この前会ったマーシャだけど、今大丈夫?」
待つ事、数秒。家の中から、微かに物音が聞こえた。そしてカチ、と心地よい音を立て、扉が解錠される。
ゆっくりと開かれた扉の隙間から、不安気に此方を覗き見るのは、あの日と変わらない彼女の顔。相変わらず、目を見張る程の美しさだ。
随分と警戒している様だが、私だと分かって扉を開いてくれたのは嬉しかった。
「3時だし、アフタヌーンティーでもしよう」
顔に笑顔を作り、そう言ってビスケットが入った紙袋を揺らして見せた。
――どうやら、彼女も私に幾つか尋ねたい事があった様で、躊躇いながらも私を家に入れてくれた。彼女は可愛らしく、何処か虐めたくなってしまう様な子だ。ついつい、「セディに許可を取ってないのに私を入れて良いの?」なんて言いたくなってしまう。流石に意地悪が過ぎる上に、これ以上警戒されたくない為口を噤んだが、それを口にしたら彼女はどんな反応をしただろうと考えるだけで笑みが漏れた。
こうして女の子とお茶会をするのは何年ぶりだろうか。昔、マリアともこうしてお茶会をしたものだ。鼻歌を歌いながら、キッチンで紅茶の支度を始める。
持ってきた本を見せた時、彼女は子供の様に瞳を輝かせていた。どうやら彼女は私と同じく、読書が好きな子の様だった。あの顔が見れただけで、不思議と満足してしまう。
セドリックの家のキッチンは、やはりというべきか全く使用感が無かった。食器棚の中も充分に揃っておらず、よくこれで生活をしてきたものだと感心する。しかし、棚の一番上に来客用の物か、ティーカップとソーサーが2セット置かれているのを見つけた。地味なデザインで全く私好みでは無かったが、紅茶を注げる物は他に無い為これを使うしかない。落とさない様に慎重に取り出し、そっと台に並べる。
そうこうしているうちに砂時計の砂が落ち切り、紅茶が完成した。トレーにビスケットを並べた皿とティーカップを乗せ、リビングへと運ぶ。
随分と大荷物になってしまった。あの子も、驚くかもしれない。
ふらふらと道を歩きながら、漸く見えてきたセドリックの家に小さく息を吐く。
流石に本を数冊も下げていると、その重さだけで身体が疲れてくる。職場の書斎から数冊本を借家に持ち帰る事はよくあったが、今日はその倍程の冊数鞄に入れていた。
「やっと着いた……」
思わずぽつりと独言を漏らし、セドリックの家の前で立ち止まる。塞がった両手をあけるべくビスケットが入った紙袋を口に咥え、ドアノッカーを掴み4度扉を叩いた。
咥えた紙袋を左手に持ち直し、反応を待つ。
しかし、幾ら待っても家の中から誰かが出てくる気配は無い。それどころか、物音1つしなかった。
――あぁ、そういえば。
確かセドリックが、あの子を連れ戻そうとする人間が彼の家を嗅ぎつけた時の為に、訪問者が来ても扉を開けるなとあの子に伝えたと言っていた気がする。ともなれば、あの子が扉を開けないのも、気配を消すのも納得だ。
暫し悩んだ結果、周囲に人が居ないのを確認した末扉に向かって声を掛けた。
「――こんにちは」
この声は、彼女に届いているだろうか。少々不安に思いつつ、再び口を開く。
「――私、この前会ったマーシャだけど、今大丈夫?」
待つ事、数秒。家の中から、微かに物音が聞こえた。そしてカチ、と心地よい音を立て、扉が解錠される。
ゆっくりと開かれた扉の隙間から、不安気に此方を覗き見るのは、あの日と変わらない彼女の顔。相変わらず、目を見張る程の美しさだ。
随分と警戒している様だが、私だと分かって扉を開いてくれたのは嬉しかった。
「3時だし、アフタヌーンティーでもしよう」
顔に笑顔を作り、そう言ってビスケットが入った紙袋を揺らして見せた。
――どうやら、彼女も私に幾つか尋ねたい事があった様で、躊躇いながらも私を家に入れてくれた。彼女は可愛らしく、何処か虐めたくなってしまう様な子だ。ついつい、「セディに許可を取ってないのに私を入れて良いの?」なんて言いたくなってしまう。流石に意地悪が過ぎる上に、これ以上警戒されたくない為口を噤んだが、それを口にしたら彼女はどんな反応をしただろうと考えるだけで笑みが漏れた。
こうして女の子とお茶会をするのは何年ぶりだろうか。昔、マリアともこうしてお茶会をしたものだ。鼻歌を歌いながら、キッチンで紅茶の支度を始める。
持ってきた本を見せた時、彼女は子供の様に瞳を輝かせていた。どうやら彼女は私と同じく、読書が好きな子の様だった。あの顔が見れただけで、不思議と満足してしまう。
セドリックの家のキッチンは、やはりというべきか全く使用感が無かった。食器棚の中も充分に揃っておらず、よくこれで生活をしてきたものだと感心する。しかし、棚の一番上に来客用の物か、ティーカップとソーサーが2セット置かれているのを見つけた。地味なデザインで全く私好みでは無かったが、紅茶を注げる物は他に無い為これを使うしかない。落とさない様に慎重に取り出し、そっと台に並べる。
そうこうしているうちに砂時計の砂が落ち切り、紅茶が完成した。トレーにビスケットを並べた皿とティーカップを乗せ、リビングへと運ぶ。
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