38 / 222
XIV 追憶-生血- -III
しおりを挟む
――しかし、いつまで待っても扉が開く事は無い。疑問に思い、再び4度ノックする。
「マリアちゃん? 私、マーシャだけど……、今大丈夫かな」
声を掛けてみるが、扉の向こうからは物音1つしなかった。
ノエルが今診療所に居るという事は、マリアは留守にしているという事だろうか。いやしかし、ノエルは“ママの所に行くのか”と私に尋ねた。そしてマクファーデンからも、マリアが外出した話は聞いていない。
もしや、彼女の身に何かあったのではないだろうか。“あの日”の事が蘇り、ドアノブに手を掛けた。
「マリアちゃん、開けるよ」
そう声を掛け、扉を開く。
開いた扉の先から香る、僅かな血液のニオイ。テーブルの奥に見える、マリアの小さな背中。
「マリアちゃん……? どうしたの……?」
私の声が聞こえているのかいないのか、彼女は床に座り込んだまま微動だにしない。
ゆっくりと部屋に足を踏み入れ、彼女に近付いた。
「――!」
マリアの右手には、血液の付着したペティナイフが握られている。そして、だらりと彼女の膝の上に投げ出された左腕からは止め処なく血液が溢れ出していた。今回は、躊躇い傷などでは無い。傷が動脈に触れている可能性を考え、慌てて部屋を飛び出した。
「――先生!」
階段を駆け下り、叫ぶ様にデスクに向かっているマクファーデンを呼んだ。私の声音でただ事では無い事を悟ったのか、彼が素早く椅子から立ち上がり私に目を遣る。
「血が! 腕からの血が止まらないの!」
私の言葉に、彼が手際良く止血する為の医療器具を用意し始める。その姿を見て、直ぐに彼は部屋に来てくれると分かり踵を返し部屋へ戻った。
「マリアちゃん!」
未だ動かないマリアに駆け寄り、血液が溢れ出す左手首を強く握った。生暖かい血液が、両の掌に広がっていく。ぽたり、ぽたりと音を立てて床に落ちる鮮血に、くらりと眩暈がした。
血液を見るのは、決して初めてでは無い。昔、アッカーソン邸に招待されたあの日だって“見た”筈だ。なのに、死に関わるかもしれない出血量にどくどくと鼓動は早くなり、首を絞められた様に息が苦しくなる。
「――そこを退いてください」
部屋へ駆け込んできたマクファーデンが、私を押し退け持っていた小箱を開いた。その中には、沢山の医療器具が入っている。素人の私には何が入っているのか、マクファーデンが何を行っているのかは分からないが、彼は医者として真剣にマリアの治療をしてくれているのだと分かりただその姿を眺めていた。
「――とりあえず、止血等応急処置はしました。命に関わる事は無いでしょう」
マクファーデンの声で、ふと我に返る。しかし、我に返ったところで苦しさは収まらなかった。
呼吸が浅くなり、目の前が徐々に暗くなっていく。
「マーシャ」
遠くで、マクファーデンの声が聞こえる。脈打つ音が耳奥で聞こえ、呼吸が出来ない。
――初めての、感覚だった。今まで当たり前に出来ていた呼吸が出来なくなり、鼓動は意図せず勝手に早くなる。そして、言葉にし難い強烈な恐怖襲われる。
「マリアちゃん? 私、マーシャだけど……、今大丈夫かな」
声を掛けてみるが、扉の向こうからは物音1つしなかった。
ノエルが今診療所に居るという事は、マリアは留守にしているという事だろうか。いやしかし、ノエルは“ママの所に行くのか”と私に尋ねた。そしてマクファーデンからも、マリアが外出した話は聞いていない。
もしや、彼女の身に何かあったのではないだろうか。“あの日”の事が蘇り、ドアノブに手を掛けた。
「マリアちゃん、開けるよ」
そう声を掛け、扉を開く。
開いた扉の先から香る、僅かな血液のニオイ。テーブルの奥に見える、マリアの小さな背中。
「マリアちゃん……? どうしたの……?」
私の声が聞こえているのかいないのか、彼女は床に座り込んだまま微動だにしない。
ゆっくりと部屋に足を踏み入れ、彼女に近付いた。
「――!」
マリアの右手には、血液の付着したペティナイフが握られている。そして、だらりと彼女の膝の上に投げ出された左腕からは止め処なく血液が溢れ出していた。今回は、躊躇い傷などでは無い。傷が動脈に触れている可能性を考え、慌てて部屋を飛び出した。
「――先生!」
階段を駆け下り、叫ぶ様にデスクに向かっているマクファーデンを呼んだ。私の声音でただ事では無い事を悟ったのか、彼が素早く椅子から立ち上がり私に目を遣る。
「血が! 腕からの血が止まらないの!」
私の言葉に、彼が手際良く止血する為の医療器具を用意し始める。その姿を見て、直ぐに彼は部屋に来てくれると分かり踵を返し部屋へ戻った。
「マリアちゃん!」
未だ動かないマリアに駆け寄り、血液が溢れ出す左手首を強く握った。生暖かい血液が、両の掌に広がっていく。ぽたり、ぽたりと音を立てて床に落ちる鮮血に、くらりと眩暈がした。
血液を見るのは、決して初めてでは無い。昔、アッカーソン邸に招待されたあの日だって“見た”筈だ。なのに、死に関わるかもしれない出血量にどくどくと鼓動は早くなり、首を絞められた様に息が苦しくなる。
「――そこを退いてください」
部屋へ駆け込んできたマクファーデンが、私を押し退け持っていた小箱を開いた。その中には、沢山の医療器具が入っている。素人の私には何が入っているのか、マクファーデンが何を行っているのかは分からないが、彼は医者として真剣にマリアの治療をしてくれているのだと分かりただその姿を眺めていた。
「――とりあえず、止血等応急処置はしました。命に関わる事は無いでしょう」
マクファーデンの声で、ふと我に返る。しかし、我に返ったところで苦しさは収まらなかった。
呼吸が浅くなり、目の前が徐々に暗くなっていく。
「マーシャ」
遠くで、マクファーデンの声が聞こえる。脈打つ音が耳奥で聞こえ、呼吸が出来ない。
――初めての、感覚だった。今まで当たり前に出来ていた呼吸が出来なくなり、鼓動は意図せず勝手に早くなる。そして、言葉にし難い強烈な恐怖襲われる。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる