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VII 追憶-願い- -III
しおりを挟む「わぁ……綺麗……」
丁度、彼女の左胸から左肩にかけて。美しく花開いた白百合と、1輪の赤薔薇が描かれていた。
胸を包むコルセットで隠れてしまっているが、どうやら花と一緒に文字が彫られているらしい。まだ字の読み書きが完全では無かった私にはそれがなんと書かれているのか解読する事が出来ず、その文字に指を這わせながら彼女に問うた。
「これ、なんて書いてあるの?」
「“Swear eternal love《永遠の愛を誓う》”よ。娘は普通じゃないって、昨日話したでしょう? その事で、誰からも愛されない子になってしまったけれど、私だけは永遠に娘を愛してるって、形に残る証明が欲しかったの」
「そっか……」
指を触れさせた皮膚には、線に沿って僅かに凹凸がある。どの様にすれば肌にこうして色付くのかは分からないが、タトゥーの下は僅かに痣の様になっていた。皮膚の凹凸やその痣を見る限り、色を肌に入れるのには痛みを伴うに違いない。
「痛かった?」
そう問うと、マリアが少々困った様に笑った。
「そうね……。でも、娘がこれから味わうであろう苦しみに比べたら、こんなの痛いうちに入らないわ。娘の腕に彫った時は……少し大変だったけれど」
彼女に釣られ、私も笑う。
子供の事を考えている時のマリアは、少しだけ普段より穏やかだ。昨日は苦し気な顔を見せたが、やはり実の子というだけあって心から愛しているのだろう。
もう少し見ていたかったが、彼女が人目を気にしてか早々とシャツのボタンを留めてしまった為、美しく咲いた花は隠されてしまった。内心残念に思いながらも、胸元のリボンを結び直す彼女を黙って見つめる。
「マーシャには、愛する人はいる?」
「……愛する人?」
復唱する様に問い返すと、彼女が優しく微笑み小さく頷いた。
彼女のその問いに、瞬時に思いつく人物は居ない。しかし、強いていうなら唯一の理解者であるエリオット先生だろうか。しかし、“愛する人”という人物には当てはまらない様に思える。
思考を巡らせながらうぅんと唸ると、マリアが鈴を転がす様な笑い声を漏らした。
「貴女にもいつか、愛する人が出来るわ。そしたらきっと、私が痛みに耐えてまで胸にタトゥーを彫った本当の意味が分かると思うの」
「本当の意味……」
口の中で呟き、そして脳内でもその言葉を繰り返す。
その時の私には、彼女が口にした言葉の意味がはっきりと分からなかった。
きっと大人には大人の事情があるのだろう、なんて呑気な事を考えていた。
――あの光景を、目にするまでは。
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