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VI 追憶-出逢い- -II
しおりを挟む街で出会った赤毛の女性は、マリア・アッカーソンと名乗った。彼女はとても心優しく、品のある女性だった。
そんな彼女は約1年前、18歳の時に中流階級の男性と結婚し、そして数ヵ月前、その男性との赤子を産んだ。しかし、その赤子は普通とは違っていた。
「普通と違うって? 何処が違うの?」
私の問いに、その女性――マリアが口籠る。視線を泳がせ、意味無く指先を絡ます様に組み、えっとあの、などと言い淀む彼女は酷く悩んでいる様だった。
「……ごめんなさい、あの、……それは言いたくないの」
うっすらと予測していた通り、彼女はその“普通”の意味を誤魔化した。彼女の返答に「そっかぁ」と一言返し、ベンチから浮いた足をぶらつかせた。
「夫は、とても、とても優しい人だったの。なのに、産まれてきた子を見て豹変した。最初は口喧嘩が増える程度だったのに、それが次第にエスカレートして……私に手を上げる様になった」
私の隣で、相変わらずスカーフを手で引っ張り顔に影を作る彼女が、不安気な口調でそう呟く様に言った。宝石の様なローズピンクの瞳に、大粒の涙が滲んでいく。
「何処で間違えたんだろうって、毎晩考える。この子さえ居なければと、我が子を恨んだこともあった。どれだけ考えても、正解が分からないの」
そこまで言って、遂に彼女の双眸から涙がぽつぽつと零れ落ちる。
途切れ途切れの話を聞きながら、顔を覆う彼女の背をただ黙って撫でた。
「ごめんなさいね、こんな話をしてしまって」
涙に濡れた顔に無理矢理笑みを張り付けて、彼女が軽い口調で告げる。しかし、その言葉の裏には重い複雑な感情が絡んでいる事が分かった。
「大丈夫だよ。その人と、離縁する事は出来ないの? 離縁して、元居た場所に戻るとか」
その時私は、彼女の意識が何処か遠い場所にある事を読み取っていた。彼女は結婚前、とても幸せな環境に居た様だ。マリアは無意識のうちに、その場所へ帰りたいと願っている。
「元居た場所……?」
マリアが怪訝な瞳を此方に向けた。しかし、私がそれに対して返答する前に「凄いわね、貴女は何でも分かってしまうのね」と言って笑った。
「あの場所に、帰りたい。彼等が私を拒む事はないと分かってる。寧ろ、歓迎してくれるでしょう。だからこそ、戻りたくないの。勝手に自分だけの判断で結婚して、あの場所を捨てて来たのに、上手くいかなかったから戻るなんて虫が良すぎるじゃない。彼等に、甘えたくはないの」
そう言って、マリアが再び笑った。
「ねぇ、マーシャ。お願いがあるの」
「お願い?」
「えぇ、そうよ」
彼女が徐に、私の手を取った。そして、銀貨を1枚握らせる。
「私の、友達になって欲しいの。時々でいいわ。こうして、話すだけで構わないら」
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