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裏の物語

執事の独白 ①

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初めまして、みなさん。
私は今まで表舞台に立つこと無く名前すら、いやむしろ存在すら出てきていません。

私は、魔王城にてお嬢様・・・魔王の娘であるアルフィニ・セルシュート様の執事をさせて頂いています。

「シュロム、どっちが似合う?」

お嬢様は今日のドレスを緑か青か、どちらにするか迷っているようでそれを私に見せながら聞いてくる。

「青ですかねぇ?」
「じゃあ、今日は青で行くわ!」

ドレスの色を自分で決めるくらいには自立して欲しいものですけれど。

しかし、ニコニコと嬉しそうにしているお嬢様に、そんな申し立てをする気持ちには一切ならなかった。

私の名前はシュロム・マーキュエル。
執事をしながら魔国軍の幹部を務めている。

そんな私は現在200歳を超えたところである。

まだお嬢様ぐらいの本当に若い頃の私は、魔族の中で身分も家柄も高くはなかったので盗人のような仕事をし食い繋いでいた。
そんな私がかつて王城のモノを盗むという仕事を受けた際、既に亡くなってしまった王妃様と出会った。

今となってはなぜ、そんな仕事を受けたのか自分でも恥ずかしくなる。
しかしその頃は生きて行くことに必死だったのだから、仕方ない気もしているが。

王妃様は私を叱った。
あの頃は王妃様も大層若かった、魔王様も。結婚して数十年というところだった。

『モノを盗むほど食べ物に困っているのならここへ来れば私が食べさせてあげる、だから盗みなんてやめなさい。』

正直、この女は頭でもおかしいのではないかと思った。現に代わった方ではあったが。

それから幾度か訪れ料理を食べさせて頂いたし、沢山語り沢山のことを教えて貰った。
魔王様とも酒を交わしたり、金に困っているのならと私でも出来る仕事をさせて貰ったりした。

まるで私に兄と姉が出来たようだった。

そんなことを続けているうちに、私はいつしか「盗み」という仕事を捨てた。職を探している際、王妃様から

『私の執事なんてどうかしら』

と提案を受け、執事という仕事をするに至る。
とある国との戦争の際には、兵士として働きその功績を讃えられて幹部の座についた。

お嬢様が産まれてからは、王妃様ではなくお嬢様の世話もするようになった為、お嬢様とは産まれた頃からの付き合いとなる。
まるで可愛い妹が出来たような感覚だ。
もちろん、エルミナ様やルーザ様のお世話もさせて頂いている。

「そうだ、シュロムもたまには一緒にラスターナ王国に行こう?」
「いえ、私はそんな・・・。」
「いいじゃん、たまにはお休みして遊んだって!休養も必要だよ!」
「お嬢様と一緒に居ては、休養になりませんよ。」

私が、クスリと笑って答えるとお嬢様はムスーっとした顔をする。

「何それ、すっごく失礼。」
「申し訳ございません、私は魔国の城下町でゆっくりする方がよほど癒されます。」

少し頭を下げてから、笑みを浮かべてそうお嬢様に言う。

「まあ、シュロムがそう言うならいいんだけど・・・。」

口を尖らせてお嬢様は少し拗ねたように言う。それから、じゃあ行って来るねと一言私に告げてから転移魔法を使った。

「いってらっしゃいませ。」

その言葉が彼女に届いたか否か。

さて、私のようなただの執事がなぜここで話をしているのか、なぜ私が急に登場したか。

それにはとある大きな深い理由があります。

まず私には、前世の記憶があります。
しかしこの世界でそれは珍しいことではありません。下手に隠す必要も無く、何か特別なことがあるわけでもありません。

ただ生まれつき持っている人や途中で思い出す人、全てを思い出す人もいれば断片的に覚えている人など多くの誤差はあります。

私も初めからもっていたわけではありません、思い出したのもつい十数年ほど前でお嬢様は4,5歳の頃でした。

そして私は前世を思い出して衝撃を受けました、こんな偶然があるのかと。
お嬢様は私に前世を語ったことはありませんが私にはわかりました、あぁ彼女なのだと。

話し方も仕草も癖も全てが彼女のものでした、容姿はまるで違うのに彼女がそこにいた。
これは私に対する罰なのだ。彼女を傷つけてしまった罰だ。

そう、私は前世で彼女を愛していた、しかし傷つけてしまった、坂上 章介である。

ただ思い出したのがシュロムとして人格が形成されて随分経っていることなどから、私はただ単に坂上の記憶を持っているだけのシュロムである。

そのためお嬢様に恋心を抱いていることなどなく、純粋に妹のように大切に思っている。

ただ確かに俺としての感情も持ち合わせてはいるため、負い目を感じることもあったりはするが、特に問題はない。

まあ俺が転生してこうして生きていることに怒りを抱く者もいるだろう。さぞ、俺がざまぁwな人生を送ることを願っている者もいるだろう。

現に前世では幸せとは言えなかった。
家族が出来ても心には彼女への罪悪感、好意などの多くの感情がぐるぐると混ざり最期の時まで消えることは無かった。

しかし、俺がこうして生きているのは現実で、それが私と何か関係があるかと言われると確かにYESだが、そのことで私に何か大きな影響があるかと言われると声を大にしてNO!と叫びたい。

私が幸せになることが許せない者もいるだろうが、私は既に幸せであるし、この幸せを手放そうとは思わない。

彼女に対してこの真実を述べようとも思わない。

ただいつの日か、前世の俺としての罪滅ぼしを彼女にしたいとは思っている。

どんな形であろうとも。
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