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第2章

厄日だと!?

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森の葉は真っ赤で、まるで燃えているように見える。
それが、この森が『紅煉の森』と呼ばれる理由だった。

夜になっても少し明るさが残っているため、迷う者は少ない。

しかし、明るい為に魔物活動は通常よりも活発になるので
魔物によって殺される者は多数いる。

『紅煉の森』は、レヴ国の近くにあるのでそれ故に指定したのだろう。

しかし、それだけでは無いような予感がする。他にもっと大きな意図があるような・・・?

今、そんなこと気にしてもなんの解決にもならない。

だから、何も考えずにとりあえず会ってみようと思った。

「あんたさ、『疑う』って言葉を知らないわけ?どう考えたって罠だろ、コレ。」
「私だってそんなことが分からないほど、馬鹿じゃないわよ。
 でも、ここで逃げたら魔王国を危険に晒すかもしれないリスクがあるわ。本当に説明して欲しいだけ、という可能性にかけてみたいの。」

そう言うと、ロジェは額を抑えハーッと大きなため息をつく。

「どーせ、あいつがそそのかしたんだろーがな。」

きっとロジェの言う『あいつ』は、私を殺すように依頼した人のことなのだろう。この前問い詰めたが、やはり契約だ守秘義務だ何だらで教えてくれなかった。

しかし、私が会ったことのある人物であるなどヒントはくれた。
そのことから大体誰なのかはわかる。

私の勘違いであって欲しい訳なのだが。

そう考えていると、ロジェが何か勘付いているようで短剣を小さく構える。

「ここら一帯少し狂気が漂っている。約束の場に近づく程濃くなっているぞ。」
「狂気の中に変なモノまで混ざっている・・・早く処理しないとこの森がヤバイかもしれないわ。」

私は、キョロキョロと辺りを見回してみる。
魔物一匹いない、ただの森の風景・・・そこがおかしかった。

この森は多く魔物がいるとして世界的に有名な場所だ。
だから、ここに来るまでに一匹も出会わないなんてありえないことだった。

これは、私が思っているよりも深刻な事態なのかもしれない。

「絶対罠だぞ、もう戻ったほうが良い。」
「罠なら潰すまで!それに、もう遅いし。」

先にある少し開けた場所には、レヴ国の姫ジーンともう一人フードを被った男がいた。

「あぁ、来て頂けて良かった。」

彼女が口を開くと狂気の濃度が増す。
『狂気の根源』が目の前にいる。しかし『変なモノ』は違う。

狂気よりそちらの方が厄介だ。

「手紙にも記しましたが、説明して頂きたくて。」

赤く長い髪にオレンジの瞳、美人より可愛いに近い顔立ち。
笑みを浮かべると、輝きが増すような印象を受ける。

ただ、狂気が無いのなら。

狂気が、彼女の髪も瞳も黒く染める。顔も悪に満ちていて輝きなど無い。

私にはそれが『見える』のだ。
普通の人には見えないそれが、魔王の娘である私には『見える』。

だから、彼女を操る狂気の糸も見える。

「聞いておりますの?私は、説明を、して、頂きたいと、言ったのです。」

今は糸をどうすることも出来ない。
まずは、説明するしか無いか。

「残念ながら、私はディズの正妃になることは無いわ。ただの幼馴染だもの。
    あれはディズが勝手に言っていることよ。一々真に受けていると身が持たないわ。聞き流していれば良いの。
 正直、私を敵対ライバル視するのは時間の無駄よ。意味が無いわ。」

ジーンは、少し眉間に皺を寄せて怪訝そうな顔をする。
あぁ、少しハッキリ言い過ぎたかもしれない。

そう思って、私はもう一言付け足す。

「もしあなたが、正妃になりたいなら、ね?」

その言葉を言った瞬間、彼女の瞳が狂気を払う程に輝く。

「え、えぇ・・・なりたいわッ!そうなのね、真に受けてはいけないのね。
 大事なことが知れて嬉しいですわ!ありがとうございます、アルフィニ様!」

ジーンは私の手をとり、笑顔で言う。
その言葉の中に狂気は含められていなかった。

だから―――少し安心してしまった。

「でも―――・・・」

ジーンはポツリと呟きうつむく。
そして、とても強い力で彼女は私の手を握る。

い、痛いッ!!

それは男の力より何倍も強くて、骨が折られそうになる。

「私よりも彼を知る女なんて・・・いらないッ!!」

顔を上げた彼女の顔は般若のような形相で可愛らしいという言葉は消える。
キッと私をにらみ、怒りだけが満ちていた。

ちょっと、さっきの私の話聞いてた?
私を敵対視したって意味ないんだってばあああ!!!

力が強すぎて逃げられない。
だからといって魔法を放つのは、彼女が死んでしまうし、きっと私も巻き込まれる。

ブンッ!

一瞬何が起きたか分からなかった。
しかし、すぐに体が浮いたような感覚が襲ってくる。

あぁ、投げられたのか。

そう認識するのに数秒かかった。
次の瞬間、ドンッ!と木に体を強く打ちつける。

私は、ぐったりと木にもたれかかった。

絶対、骨折れた!うわ、折れた!だってクッソ痛いもん!
こんなの久しぶりだ。戦うのも、痛いのも。

乙女ゲームの世界なハズなのにな、何このRPG的超展開。
あれ、でもディズルートであったかなぁ、こんなの。

・・・いや、無いわ。レヴ国の姫とか前世で聞いたこともない。

「んー、まだ死んでない。」

ジーンが隣の男を笑みを浮かべながらちらりと見る。
男はコクリとうなずき、こちらに凄い速さで向かってくる。

完璧なパーフェクト・・・ガード・・・」

そう唱えると私のまわりにバリアが張られる。

しかし、無駄だった。
彼は、私の盾を―――超えた。

正確に言うと彼の触手のような糸が入ってきて私を捕まえたのだ。

「う、そ・・・完璧な盾が・・・敗れた?」

破られるハズのない魔法、まさか―――・・・そんな・・・彼は?
ぐいんと引っ張られ、私は盾の外へ出て彼の目の前まで寄せられる。

そして、彼の"世界"へと連れていかれた。





―――――――――――――――――




〈とある城で〉

「それで、用件はなんだい?
 キミがわざわざここに来るなんて、余程のことなんだろうね。」

ラスターナ城の執務室でのことだ。
そこには、本来いるはずではない者がいる。

ルーザ・セルシュート。

彼はあまり城を出ない、だからこそ、ここにいることが重要なことだった。

「姉さんが、レヴ国の姫から手紙を受け取りました。そして今、会いに行っています。」

ラスターナ国の王子、ディゼル・ラスターナはパッと顔を上げる。
そして、ガサガサと引き出しをあけて何かを探し始める。

数十秒後に出したものは、一通の手紙だった。

「まさか、本当に・・・。」

ディズはポンと手紙を机の上に投げ捨てた。それをルーザはすばやく取り読み始める。

『ディズ様へ

 あぁ、この前はとても楽しかったですわ。

 ディズ様は私を見てくださった、あぁ、私を気にかけてくださるのね。相思相愛なのだと認識しましたわ。

 私はずーっと幼少期からディズ様が大好きなのです。

 そういえばアルフィニ様を正妃にするとか仰っていた気がしますが、それは照れていただけですわよね?そうですよね?

 それか、彼女があなたをそそのかしたんだわ。きっとそうだわ、そうに違いない。

 私とあなたとの間を邪魔する人を排除しなければいけませんわね。そうね、邪魔者を排除しに行こうと思いますわ。

 『紅煉の森』で良いかしら、邪魔者に似合いそうな散り場所ね。

 また今度、いえすぐにでも城に参りますわ。だから寂しがらずに待っていてくださいね?ホント、すぐに、行きます。

                       あなたの天使  ジーンより』

ルーザは鳥肌がたった。
これかいわゆるストーカーというやつか!?とも思った。

ただの勘違いだ。
頭がおかしいとしか思えない。

しかし、もしもこの邪魔者が姉さんならば―――・・・

「姉さんに何かあったら、僕はあんたを一生恨みますよ、許さない。護衛は一人との条件があったんでしょうね?ロジェさんしか連れていかなかった。
 それに、僕らが心配しないようわざと何も言わなかったんですよ。だから本来は僕も行くべきなのだろうけれど、行くことが出来なかったんです。」

ルーザはディズの胸倉をクッと掴む。

「これがどういうことかわかりますよね?」

ディズはルーザの腕を無理に引き剥がして服を整える。
そして、近くにいた従者に出かける支度をさせる。

「キミが心配するようなことは何もない。早く帰って勉強でもしておけ、それがキミの姉の望むことだ。」

ルーザはその言葉に怒りを覚え、近くにあった椅子を蹴り飛ばす。

「誰のせいだと思っているんですか?
 あんたが姉さんのことを正妃にするだの何だの言ったからですよね!?いい加減にしてくれませんか?姉さんの嫌がることばかりして!!!
 昔からそうだ。いつも姉さんはあんたの気を窺って生きてきた。どこまで姉さんを苦しめて巻き込めば気が済むんだよ、あんたは!!!」

ディズは、従者から剣を貰いコートを着る。
そして転移魔方陣の中に入る。

「僕は、アルを失いたくない。少し離れれば彼女は僕から離れていく。離したくないんだ。僕以外のどこにもやらない、誰にも触れさせない。

 だって、僕は、彼女を。」

その顔は寂しげで、どこか儚さもあった。

きっと僕がこの人に何を言ってもダメなのだ。



僕はこの人には、勝てない。



ルーザは静かにその部屋を出て行った。
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