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第2章

正義のヒーロー?

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「しーっ」

後ろから聞いたことのある声がした。

声の方向を見ると、口に人差し指を当てているヴィンがいた。
静かに、と言っているように見える。

「頑張って走ってきたんですね。えらいえらい。危険な状況下にありながら冷静な判断力でした。
 よく、高位魔法を使わないでいられましたね。」

内心ヴィンであったことにほっとしているが、私の心情を見透かされている感じもしてドキリとした。

そうだ、私は仮にも魔王の娘である。
あんな小物、高位魔法で一瞬にして消し去ることができるのだ。

だが、私はソレをしなかった。

なぜか?

高位魔法は強力な魔法であるため、攻撃系の魔法は周りに多大な被害を与える。

このラスターナ城は昔からお世話になっている場所である上に、近くにはジェイドがいた。

高位魔法を使ったらどうなるか・・・想像は出来るだろう。

では、下位魔法や中位魔法を使えばいいということになる。
しかし、魔王の娘とはなんと不便な生物か。

私は、高位魔法しか使えないのだ。

だから、走って逃げるしかなかった。
結論はそういうことなのだ。

「あなたはもっとおつむの弱い人だと思っていましたが、私の間違いでした。」

さらっと失礼なことを言うなよ。

さぁ、とヴィンは私の手を引いていく。
口を押さえられた時も思ったが・・・とても冷たい手だ。

温もりが少しも無い、凍った手。
そんな印象。

きゅっと私は彼の手を握る。
ヴィンは私の予想外の行動にびっくりしたのだろうか?
一瞬、私の方を見て驚いた顔をした。

そんな顔をしなくてもいいのでは?

「別に握り返されたことに嫌だったわけではありません。
 少し・・・びっくりしただけです。」

なんだ、こいつは人の心が読めるのか!?
ヴィンって結構怖いな・・・。

ヴィンは、とある部屋の扉を開けて入り
そして鍵をかける。

何も無い部屋。
石造りの小さな部屋だ。

「これで、一安心ですね。」

私は、こくりと頷いた。

「・・・先ほどから一言も喋りませんが。」

その言葉にハッとする。
展開が早すぎて、どうも頭がボーっとしてた。

だから、言葉を出すことにまで頭がいかなかった。

「ご、ごめんなさい・・・。あの、ありがとう。」

私はそう呟き、少しずつ私の頭を整理させていく。

私は襲われた?
死亡フラグがたったのは確かだった。

それで、逃げたらヴィンがいて・・・助けてくれた。

「正義のヒーロー、ってとこですかね?」

ヴィンは美しい笑みを浮かべる。

でも、その笑みを私は知っている。
心から笑っていない笑み。

顔に張りつけただけの、嫌な笑み。

私の大嫌いな、大嫌いな、大嫌いな、

「大嫌いな、愛想笑い。」
「え?」

心の声が、漏れた。

ヴィンが不思議そうな顔をする。

「なんでもない!」

私はニッコリと笑う。

さて、これからどうするべきなのだろう。
逃げ出すべきなのか、ここでジッとしているべきなのか。

私はスッと視線を上げたとき、ヴィンの視線がこちらに注がれていることに気づく。

「何?」

私がそう聞くと、ヴィンは顔を歪めた。

「あなたは、あの人程美しくない。」

・・・はい?
なんか、良く分からないタイミングで暴言吐かれたんですけど。

それは、誰を基準にして言ってるの?
確かに平凡だけど、ブスと言われるほどではないよ?

いや、ブスとは言ってないか。

「なのに、あなたが選ばれて、彼女は苦しい思いをする。」
「あなたばかりが、シアワセな思いをする。」
「そのシアワセが彼女にいけばいいのに。あなたじゃなくて、彼女に。」

淡々と発せられる言葉。
彼の言う彼女とは誰なのか。

じりじりとヴィンが私に迫ってくる。
後ろには壁があり、それよりも後ろに下がれない。

いわゆる、壁ドン?

「あなたが私を好きになればいい。それで、解決する。」

彼の顔が迫ってくる。
一点をめがけて、近づいてくる。

逃げない、だって

「キスをする勇気がないなら、やめたら?」

ヴィンはぴたりと動きを止める。
そして、ジッと私を見る。

「ホントに覚悟が出来てないと思っているのですか?」
「出来てるんだったら、そんな悲しそうな顔しないでくれる?」

疑問に疑問で返す。
迫ってくる顔が、ただただ悲しかった。

ヴィンはホントに彼女を愛おしく思っているのだろう。
それが、ひしひしと伝わってくる気がする。

ヴィンは、困ったような顔をした。

無自覚。

この一言に尽きる。

「それに、私はシアワセなんかじゃない。あなたが思ってるほど、楽しく生きてない。」
「はは、あんなに愛されていて恵まれた環境にいて・・・まだ望むと?」

とても悲しそうな顔をする。
でも、そんな顔に意味なんてないんだ。

何もわかってないのに、ぺらぺら語るその口を、二度と使えないようにしてやりたい。

「何も望んでなんかいない。愛されたくもないし、好きで今の地位にいるわけでもない。あなたは私の何を知ってるの?」

こんな世界に来る予定じゃなかった。
魔王の娘なんてする筈でもなかった。

ディズと関わるつもりだって、少しも無かった。

私は、ヴィンの首を片手で優しく掴む。
力を入れないのは、まだ情があるから。

情があるから、傷つけないだけ。

「愛なんて言葉、反吐が出る。
 あんたの言う彼女が誰かなんて私には全然わかんない。わかんないから、今は目を瞑る。だけど、次あんたが噛み付いてきたら・・・」

くっと片手に力を入れる。

ヴィンは、苦しそうに顔を歪めた。

「女は女でも魔王の娘。
 人間の一人や二人、簡単さ。」

パッと手を離し、また笑顔を作る。
この笑顔だって私の大嫌いな愛想笑い。

私は、私が嫌いだ。

「さてと、こんなとこさっさと退散しようかな?助けてくれてありがとね!」

じゃあ、と私は軽く手を振って部屋を出る。

ヴィンはボーっとしていた。
放心状態、というのだろうか。

まさに、そんな感じだった。



私は人殺しが大嫌いだ。
だから、アレはただの脅し。

しかし、ヴィンの言っていることに全く理解が出来なかった。

私は、側から見たらシアワセなのだろうか。こんなにもモヤモヤするのに?

ははっ、馬鹿らしいね。

誰もいない場所で転移魔法を使い魔王城に戻る。
まだ戻るつもりは無かったのだが、ルーザとエルミナの顔が見たい。

今、相当機嫌が悪い。
だから、今ならエルミナに怒ることが出来るかもしれない。

もちろん、監禁したことについて。
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