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第1章: 初等部
俺様御曹司の登場
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入学してから2ヶ月が経とうという頃、ついにヤツと対面する日がやってきた。
まさかこのタイミングで会うと思っていなかったから私は驚いた。
「こちら、天龍寺 梓。もう2ヶ月くらい前だけど綾ちゃんに会ってみたい人がいるって言ったでしょ?」
うわ、天龍寺 梓だ。俺様美青ね……いや、美少年だ。
正直、物語としてみれば素敵なキャラクターだけど、それを現実世界に持って来られるとめんどくさいことこの上ないと思う。
「ふんっ、海里が会わせたいと言うから会っただけで俺が会いたいと言ったわけではないぞ、勘違いするなよっ!」
開口一番そんなこと言われましても。
円香と全く違って、ゲームと同じなのねこの人は。
「そんなこと言って、篤也さんの妹だから会いたいって言ったのは誰だっけ?」
海ちゃんが爽やかな笑みを浮かべて、天龍寺さんを見ると、彼はふんっとそっぽを向いてからちらりとこちらを見た。
「しかし、篤也さんの妹がこんなに身近にいるとは思わなかった。」
未だに顔を逸らしたままで天龍寺さんは答える。
「お兄様と、お知り合いなんですか?」
「い、一方的に、尊敬の念を抱いているだけだ。」
少し恥ずかしそうに言う天龍寺さんに海ちゃんは、ふふっと笑う。
「1度僕の付き添いで剣士科に見学に行ってね、丁度その時はトーナメントをしてて、篤也さんが試合をしていたんだ。その試合を見て梓が感銘を受けちゃってね。」
まあお兄様、凄いからね! 私の自慢のお兄様だからね! と何故か私が得意げになってしまった。
「僕が篤也さんと知り合いだって知ってから根掘り葉掘り聞かれて、ほら篤也さんて凄いじゃん? だから更に感銘受けちゃって、それからファンみたい。」
「篤也さんのような素晴らしい人は中々いない。」
こうしてお兄様にはたくさんのファンが増えていくのね。きっと、お兄様がもうちょっと若ければ攻略対象だろうなぁ……と内心で予測する。
「天龍寺さん、兄を慕ってくれてありがとうございます。」
私がお礼を言うと、天龍寺さんはもごもごと「お、お礼を言われる筋合いなど、ない、ぞ。」と言った。
何ていうか、やっぱりちっちゃい頃だと俺様でも凄く可愛いなぁと感じる。
一種のツンデレだと思えば許せてしまう、美少年だということも相まっている。
だが、これが大きくなったら……と考えると複雑な気持ちだ。ぜひとも、そのままで居て欲しい。
「篤也さんの妹だ、特別に梓と呼んでも良いぞ。」
さっきの可愛さはどこへやら、上から目線な言葉で腕を組み、ふんっと胸を張って自信満々な笑みで私に言い放った。
「梓……さん。」
梓さんは、ふむふむと腕を組みながら頷く。
「うむ、それでもいいぞ、篤也さんの妹。」
「梓、名前は綾子だよ。」
「ふむ、そうだったな。すまん、人の名前を覚えるのは苦手でな。」
全く悪びれる様子もなく淡々と梓さんは語る。しかし、篤也さんの妹って呼び方はあんまり好きじゃないから名前の方がいい。
「あの、そんなにお兄様のことを慕っているのなら、今度会いに来ますか?」
そう私が言った瞬間に、梓さんは目を輝かせる。
「い、いいい、良いのか!?」
私がこくこくと頷くと、うおおお!と歓喜の雄叫びをあげる。
「だ、ダメだよ! 女の子の家に男の子1人を連れ込むだなんてっ!!!」
「そんなケチくさいこと言うな、海里。あの、篤也さんに真近で会えるのだぞ!」
海ちゃんの言葉に梓は笑顔で応戦する。
連れ込むだなんて、語弊があるではないか。
「海ちゃんだって、1人で来るじゃない。」
「僕はいいのっ!」
「何よ、それ。」
意味がわからない。
あ、従兄弟だしってことかな?
「円香も一緒ならいいんでしょ。梓さん、円香も連れて来てくれますか?」
「ああ、勿論だ。」
円香がうちに来たことはないので、梓さんがお兄様に夢中になってる間は円香とお茶でもしていれば良いだろう。
「早ければいつだ?」
梓さんが興奮気味に鼻息荒く言う。
「兄が次の任務まで休養するのは今日と明日で「ならば今日伺おう。」すね。」
私が言葉を言い終わらないうちに梓さんは言うが、いやいやまてまて、それは急すぎるだろう!!!
「なんだ、何か用事でもあるのか?」
「いえ、そういう訳では。」
「ならば良かろう。」
な、何て強引なんだ、こいつはっ!!!
そして結局、来ることになりました。
「うわ~、綾ちゃんの家にお邪魔出来るなんて嬉しいわっ!」
円香がとても嬉しそうにワクワクしながら語る。
というのも車の中での会話なのだが。
私のではなく、天龍寺家のだ。
最近、私は徒歩で通学している。
正直車を使うほどの距離でもないのだ。
そして、やはり前世が庶民だということもあって、車通学はどうも違和感すぎて、無理。
「しかし、海里までついて来なくて良かったのだぞ。」
「僕は心配なの。」
「一体、何を心配すると言うのだ。」
梓さん、ごもっともである。
海ちゃんは何だかしれっとくっ付いて来て、今は私の隣に座っている。
一体何なの……あなた最近、過保護にもほどがあってよ。
まるでうちの緋堂のように……いや、あれは桁が違うわ。
そんなことを話しているうちに、私の家に着いたようで車が止まり扉が開く。
私の家は和風と洋風が混ざったような家である。
まあ豪邸なのは言うまでもないと思うけれど。
父方である三ヶ森家の剣術は魔法も使う華やかな剣術であるが、母方の綾瀬家はそうではなく魔法を使わない剣術であり、昔の日本というような感じだ。
剣も正直「刀」と言った方が相応しい。
そのため、洋風的な三ヶ森家に対し和風的な綾瀬家。結果的に両方の要素を入れるということで家のモチーフは決まったのだ。
何より、スタイルの違いは私とお兄様の剣術にも影響を与えている。現代では、魔法を使う剣術の方が強いとされるが、私はそんな常識を覆してやりたい。
「お嬢様、おかえりなさいませ。」
玄関を開けると緋堂が出迎える。
そして私の周りの人を見ながら「この人たち、は……。」と話の途中で驚いた表情をする。
「あ、貴方は、何故こんな、むぐっ!」
梓さんも驚きの声をあげるが、その発言は緋堂が口を抑えることによってとどめられる。
そして、何やら小声で会話をしてからお互い納得したようにこくりと頷く。
「知り合い、なんですか?」
「あ、あぁ、以前俺が数週間だけ世話係として雇っていてな。ただ、その、えーっと、そう! その頃こいつは新米でな、色々とミスをしてな、俺が世話をしてやったのだ。」
自分のミスを暴露されたくなかったのか緋堂。なるほど、君は今では完璧だからね、むしろミスするところを見てみたいものよ。
「綾子、今日は早い帰宅だね。」
お兄様が階段を降りながら私たちを出迎える。
まあ、歩いてませんから、車ですから。
早い帰宅は当然のことです。
「そちらはお友達? あ、海里くんいらっしゃい。」
「篤也さん、こんにちは、お邪魔します。」
「あ、篤也さんだ、うわぁ…。」
なんかもう、隣でこの人感動しすぎて目がウルウルしてるんだけど、なんなの。
「初めまして、篤也さん。天龍寺 円香です。綾ちゃんとは親しくさせて貰っています。」
いつも通り円香がふわふわとした雰囲気を纏いながら言うと、お兄様は笑みを浮かべて「綾子をよろしく」と一言伝えた。
円香はそれに対して少しだけ頬を染めてコクリと頷く。お兄様かっこいいからね、わかるよ。
「あ、あの俺、天龍寺 梓って言います、そのあの、尊敬っ! してます!」
お兄様は少しだけびっくりした表情をしてからにっこりと嬉しそうに笑う。
「そんなに面と向かって言われるのは始めてだなぁ、それも天龍寺家の人とはね。君は剣士科の人かな?剣術を学んでいるの?」
「いえ、普通科です。ですが剣術を習ってはいます!」
「そっか、じゃあちょっと稽古してみる? 3人もおいで。」
お兄様の言葉に梓さんは嬉しすぎて満面の笑みだった。
私たちは庭へと移動して、お兄様と梓さんは剣を持つ、といっても勿論木刀であるが。基本的に練習で実物の剣を使うことはあまりない。
「それじゃあまず、綾子と戦ってみてよ。」
「ええっ!?」
私はびっくりしすぎて声をあげる。
いやなぜ、このタイミングで!
「お言葉ですが、俺が彼女に負けるとは思えません、彼女は女の子だし、第一俺だって剣の技術が無いわけではありません。」
私に負けるハズがないと、そういうことか。
何て舐められたものかしら。
私も少し苛立ち、勢いよく自分の剣を握りしめ梓さんの前に立つ。
「まあやってみなよ、綾子はやる気みたいだし……ヨーイスタート!」
その掛け声と同時に私は梓さんに詰め寄り剣を振るう。
「ちょ、まっ!?」
梓さんはそれを受け止めるのに必死だ。
何とか私の剣を返したときには、息が荒かった。
「本気で来ないと痛い目を見ますよ。」
梓さんは、クッと苦い表情を浮かべる。
「おおおおっ!!」
そして声をあげて私に向かってくる。
何て隙だらけで、何て粗末な剣術なのかしら。
「甘いですよ!!」
私は、その隙だらけの身体にごんっと剣を打ち込む。
「ぐっ、うっ。」
梓さんは私の剣を受けてぐらりとよろけた。
「これで、終わりです!」
私は最後の打撃を与えて梓さんを軽く飛ばす。
梓さんは地面にどしゃりと倒れこんだ。
「そこまで!」
お兄様の一声で私は剣を下げる。
「そ、んな、俺が負けるなんて。」
梓さんの伸びていた鼻がぽきりと折れる瞬間だった。
「私はこれでも三ヶ森の女剣士の中では実力はトップクラスに近くなると言われているわ。私が貴方に負けるハズが無いのよ。」
そう私が言うと、彼は悔しそうな顔をした。
「あまり、自分の力を過大評価すべきではないよ。確かに天龍寺家は凄いし君も凄いと思う、その評判を僕はよく知っている。しかしその自信は時に自身を破滅に追い込む。僕はそんな人たちを良く知っている。君にはそんな人になって欲しくないんだ。」
確かに、天龍寺の跡取りの梓さんは、この歳で既に数多くの素晴らしい評判と共に悪評もついてまわっていた。
自信家でとにかく自分より能力の低い者は見下す、などといったものだ。
まあ、そのせいでヒロインに一喝されて、興味を示して好きになるという……え? なにそのテンプレなシナリオ。
やっぱり現実になるとわけわかんないよね、単純かよ、梓さん。
梓さんは涙ぐみながら走って逃げた。
「え、ちょ、梓兄様!? あの、失礼しますっ!!」
円香も追いかけてこの場を去る。
「強いですねぇ、篤也さん。」
「ん? 何が?」
海ちゃんに言われた言葉にわかっている癖にわざと何がと問うお兄様。
うちのお兄様程、敵に回したくない人はいない。
「あの子は純粋そうだから大丈夫だよ、きっと数日後にまたここに来るだろうさ。」
その目論見通り、約一週間後に梓さんは私を訪ねて来てお兄様の元に連れて行くように頼まれ、お兄様に会った時には礼を言っていた。そしてまた、多くのことを教えてほしいと頼んでいた。
お兄様の予測通りすぎる。
このことで天龍寺 梓のフラグはバッキバキに折れたのでした。
俺様は全く変わってないけど。
まさかこのタイミングで会うと思っていなかったから私は驚いた。
「こちら、天龍寺 梓。もう2ヶ月くらい前だけど綾ちゃんに会ってみたい人がいるって言ったでしょ?」
うわ、天龍寺 梓だ。俺様美青ね……いや、美少年だ。
正直、物語としてみれば素敵なキャラクターだけど、それを現実世界に持って来られるとめんどくさいことこの上ないと思う。
「ふんっ、海里が会わせたいと言うから会っただけで俺が会いたいと言ったわけではないぞ、勘違いするなよっ!」
開口一番そんなこと言われましても。
円香と全く違って、ゲームと同じなのねこの人は。
「そんなこと言って、篤也さんの妹だから会いたいって言ったのは誰だっけ?」
海ちゃんが爽やかな笑みを浮かべて、天龍寺さんを見ると、彼はふんっとそっぽを向いてからちらりとこちらを見た。
「しかし、篤也さんの妹がこんなに身近にいるとは思わなかった。」
未だに顔を逸らしたままで天龍寺さんは答える。
「お兄様と、お知り合いなんですか?」
「い、一方的に、尊敬の念を抱いているだけだ。」
少し恥ずかしそうに言う天龍寺さんに海ちゃんは、ふふっと笑う。
「1度僕の付き添いで剣士科に見学に行ってね、丁度その時はトーナメントをしてて、篤也さんが試合をしていたんだ。その試合を見て梓が感銘を受けちゃってね。」
まあお兄様、凄いからね! 私の自慢のお兄様だからね! と何故か私が得意げになってしまった。
「僕が篤也さんと知り合いだって知ってから根掘り葉掘り聞かれて、ほら篤也さんて凄いじゃん? だから更に感銘受けちゃって、それからファンみたい。」
「篤也さんのような素晴らしい人は中々いない。」
こうしてお兄様にはたくさんのファンが増えていくのね。きっと、お兄様がもうちょっと若ければ攻略対象だろうなぁ……と内心で予測する。
「天龍寺さん、兄を慕ってくれてありがとうございます。」
私がお礼を言うと、天龍寺さんはもごもごと「お、お礼を言われる筋合いなど、ない、ぞ。」と言った。
何ていうか、やっぱりちっちゃい頃だと俺様でも凄く可愛いなぁと感じる。
一種のツンデレだと思えば許せてしまう、美少年だということも相まっている。
だが、これが大きくなったら……と考えると複雑な気持ちだ。ぜひとも、そのままで居て欲しい。
「篤也さんの妹だ、特別に梓と呼んでも良いぞ。」
さっきの可愛さはどこへやら、上から目線な言葉で腕を組み、ふんっと胸を張って自信満々な笑みで私に言い放った。
「梓……さん。」
梓さんは、ふむふむと腕を組みながら頷く。
「うむ、それでもいいぞ、篤也さんの妹。」
「梓、名前は綾子だよ。」
「ふむ、そうだったな。すまん、人の名前を覚えるのは苦手でな。」
全く悪びれる様子もなく淡々と梓さんは語る。しかし、篤也さんの妹って呼び方はあんまり好きじゃないから名前の方がいい。
「あの、そんなにお兄様のことを慕っているのなら、今度会いに来ますか?」
そう私が言った瞬間に、梓さんは目を輝かせる。
「い、いいい、良いのか!?」
私がこくこくと頷くと、うおおお!と歓喜の雄叫びをあげる。
「だ、ダメだよ! 女の子の家に男の子1人を連れ込むだなんてっ!!!」
「そんなケチくさいこと言うな、海里。あの、篤也さんに真近で会えるのだぞ!」
海ちゃんの言葉に梓は笑顔で応戦する。
連れ込むだなんて、語弊があるではないか。
「海ちゃんだって、1人で来るじゃない。」
「僕はいいのっ!」
「何よ、それ。」
意味がわからない。
あ、従兄弟だしってことかな?
「円香も一緒ならいいんでしょ。梓さん、円香も連れて来てくれますか?」
「ああ、勿論だ。」
円香がうちに来たことはないので、梓さんがお兄様に夢中になってる間は円香とお茶でもしていれば良いだろう。
「早ければいつだ?」
梓さんが興奮気味に鼻息荒く言う。
「兄が次の任務まで休養するのは今日と明日で「ならば今日伺おう。」すね。」
私が言葉を言い終わらないうちに梓さんは言うが、いやいやまてまて、それは急すぎるだろう!!!
「なんだ、何か用事でもあるのか?」
「いえ、そういう訳では。」
「ならば良かろう。」
な、何て強引なんだ、こいつはっ!!!
そして結局、来ることになりました。
「うわ~、綾ちゃんの家にお邪魔出来るなんて嬉しいわっ!」
円香がとても嬉しそうにワクワクしながら語る。
というのも車の中での会話なのだが。
私のではなく、天龍寺家のだ。
最近、私は徒歩で通学している。
正直車を使うほどの距離でもないのだ。
そして、やはり前世が庶民だということもあって、車通学はどうも違和感すぎて、無理。
「しかし、海里までついて来なくて良かったのだぞ。」
「僕は心配なの。」
「一体、何を心配すると言うのだ。」
梓さん、ごもっともである。
海ちゃんは何だかしれっとくっ付いて来て、今は私の隣に座っている。
一体何なの……あなた最近、過保護にもほどがあってよ。
まるでうちの緋堂のように……いや、あれは桁が違うわ。
そんなことを話しているうちに、私の家に着いたようで車が止まり扉が開く。
私の家は和風と洋風が混ざったような家である。
まあ豪邸なのは言うまでもないと思うけれど。
父方である三ヶ森家の剣術は魔法も使う華やかな剣術であるが、母方の綾瀬家はそうではなく魔法を使わない剣術であり、昔の日本というような感じだ。
剣も正直「刀」と言った方が相応しい。
そのため、洋風的な三ヶ森家に対し和風的な綾瀬家。結果的に両方の要素を入れるということで家のモチーフは決まったのだ。
何より、スタイルの違いは私とお兄様の剣術にも影響を与えている。現代では、魔法を使う剣術の方が強いとされるが、私はそんな常識を覆してやりたい。
「お嬢様、おかえりなさいませ。」
玄関を開けると緋堂が出迎える。
そして私の周りの人を見ながら「この人たち、は……。」と話の途中で驚いた表情をする。
「あ、貴方は、何故こんな、むぐっ!」
梓さんも驚きの声をあげるが、その発言は緋堂が口を抑えることによってとどめられる。
そして、何やら小声で会話をしてからお互い納得したようにこくりと頷く。
「知り合い、なんですか?」
「あ、あぁ、以前俺が数週間だけ世話係として雇っていてな。ただ、その、えーっと、そう! その頃こいつは新米でな、色々とミスをしてな、俺が世話をしてやったのだ。」
自分のミスを暴露されたくなかったのか緋堂。なるほど、君は今では完璧だからね、むしろミスするところを見てみたいものよ。
「綾子、今日は早い帰宅だね。」
お兄様が階段を降りながら私たちを出迎える。
まあ、歩いてませんから、車ですから。
早い帰宅は当然のことです。
「そちらはお友達? あ、海里くんいらっしゃい。」
「篤也さん、こんにちは、お邪魔します。」
「あ、篤也さんだ、うわぁ…。」
なんかもう、隣でこの人感動しすぎて目がウルウルしてるんだけど、なんなの。
「初めまして、篤也さん。天龍寺 円香です。綾ちゃんとは親しくさせて貰っています。」
いつも通り円香がふわふわとした雰囲気を纏いながら言うと、お兄様は笑みを浮かべて「綾子をよろしく」と一言伝えた。
円香はそれに対して少しだけ頬を染めてコクリと頷く。お兄様かっこいいからね、わかるよ。
「あ、あの俺、天龍寺 梓って言います、そのあの、尊敬っ! してます!」
お兄様は少しだけびっくりした表情をしてからにっこりと嬉しそうに笑う。
「そんなに面と向かって言われるのは始めてだなぁ、それも天龍寺家の人とはね。君は剣士科の人かな?剣術を学んでいるの?」
「いえ、普通科です。ですが剣術を習ってはいます!」
「そっか、じゃあちょっと稽古してみる? 3人もおいで。」
お兄様の言葉に梓さんは嬉しすぎて満面の笑みだった。
私たちは庭へと移動して、お兄様と梓さんは剣を持つ、といっても勿論木刀であるが。基本的に練習で実物の剣を使うことはあまりない。
「それじゃあまず、綾子と戦ってみてよ。」
「ええっ!?」
私はびっくりしすぎて声をあげる。
いやなぜ、このタイミングで!
「お言葉ですが、俺が彼女に負けるとは思えません、彼女は女の子だし、第一俺だって剣の技術が無いわけではありません。」
私に負けるハズがないと、そういうことか。
何て舐められたものかしら。
私も少し苛立ち、勢いよく自分の剣を握りしめ梓さんの前に立つ。
「まあやってみなよ、綾子はやる気みたいだし……ヨーイスタート!」
その掛け声と同時に私は梓さんに詰め寄り剣を振るう。
「ちょ、まっ!?」
梓さんはそれを受け止めるのに必死だ。
何とか私の剣を返したときには、息が荒かった。
「本気で来ないと痛い目を見ますよ。」
梓さんは、クッと苦い表情を浮かべる。
「おおおおっ!!」
そして声をあげて私に向かってくる。
何て隙だらけで、何て粗末な剣術なのかしら。
「甘いですよ!!」
私は、その隙だらけの身体にごんっと剣を打ち込む。
「ぐっ、うっ。」
梓さんは私の剣を受けてぐらりとよろけた。
「これで、終わりです!」
私は最後の打撃を与えて梓さんを軽く飛ばす。
梓さんは地面にどしゃりと倒れこんだ。
「そこまで!」
お兄様の一声で私は剣を下げる。
「そ、んな、俺が負けるなんて。」
梓さんの伸びていた鼻がぽきりと折れる瞬間だった。
「私はこれでも三ヶ森の女剣士の中では実力はトップクラスに近くなると言われているわ。私が貴方に負けるハズが無いのよ。」
そう私が言うと、彼は悔しそうな顔をした。
「あまり、自分の力を過大評価すべきではないよ。確かに天龍寺家は凄いし君も凄いと思う、その評判を僕はよく知っている。しかしその自信は時に自身を破滅に追い込む。僕はそんな人たちを良く知っている。君にはそんな人になって欲しくないんだ。」
確かに、天龍寺の跡取りの梓さんは、この歳で既に数多くの素晴らしい評判と共に悪評もついてまわっていた。
自信家でとにかく自分より能力の低い者は見下す、などといったものだ。
まあ、そのせいでヒロインに一喝されて、興味を示して好きになるという……え? なにそのテンプレなシナリオ。
やっぱり現実になるとわけわかんないよね、単純かよ、梓さん。
梓さんは涙ぐみながら走って逃げた。
「え、ちょ、梓兄様!? あの、失礼しますっ!!」
円香も追いかけてこの場を去る。
「強いですねぇ、篤也さん。」
「ん? 何が?」
海ちゃんに言われた言葉にわかっている癖にわざと何がと問うお兄様。
うちのお兄様程、敵に回したくない人はいない。
「あの子は純粋そうだから大丈夫だよ、きっと数日後にまたここに来るだろうさ。」
その目論見通り、約一週間後に梓さんは私を訪ねて来てお兄様の元に連れて行くように頼まれ、お兄様に会った時には礼を言っていた。そしてまた、多くのことを教えてほしいと頼んでいた。
お兄様の予測通りすぎる。
このことで天龍寺 梓のフラグはバッキバキに折れたのでした。
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