28 / 38
kcarC 話41第
しおりを挟む
ティミリアが公爵邸を出て実家に帰ってから、俺は毎日彼女の元を訪れていた。
彼女と話をしたい。
ちゃんと謝りたい、そして誤解を解きたい。
しかし、いつも彼女には「帰って下さい。」という一言しか貰えない。
彼女の言うことを聞かずに一方的に話すことも謝ることも出来る。
だが、それでは今までと何も変わらない。彼女の意思で対話をしないと意味がないのだ。
また、彼女の笑顔が見たい。
2人で散歩がしたい。
この気持ちが"愛情"なのかどうか、俺にはわからないけれど、だけど初めとは随分彼女に抱く気持ちが変わってきたように思える。
俺は深呼吸をしてから、コンコンとティミリアの部屋の戸を叩いた。
「ティミリア。」
呼びかけてはみるが、特に返事は返ってこない。
「どうか姿を見せてはくれないか? 君と話がしたい。」
「私は、話すことなどありません。」
ティミリアの冷たい声が扉の向こうから聞こえてきた。はっきりとした拒絶が伝わる。
いつもは諦めて帰るが、今日は少し粘ってみようかという気になって再び声をかけてみる。
「せめて、誤解だけでも解かせてはくれないだろうか。」
彼女はどうしてか、俺に愛人がいると思い込んでいる。
"バルコニーで会っていた女性"という点からランのことだと察することが出来た。勿論、キスだってしていない。
考え抜いた結果、もしかしたらティミリアはランのことを男性だと思っているのではないか、という予想に至った。
事実は彼女に聞いてみなければわからないけれど。
「帰って下さい!」
彼女から帰ってきたのは、かなり強い拒絶の声だった。俺は、一瞬固まってしまい静寂が流れる。
「……すまない。」
その謝罪の声は彼女に届いただろうか。
だけれど、あまり大きな声で言うような気にはなれなくてポツリとだけ呟いて俺は扉に背を向けた。
「毎日来て頂いているのに、ごめんなさいね。」
帰り際、ティミリアの母親が俺に申し訳なさそうに声をかけてくれた。
俺はそれに対して首を振った。
「いえ……俺が悪いんです。よければ、これをどうぞ。いつも同じようなもので申し訳ないですが。」
毎日持って来ている手土産をティミリアの母親に渡す。ティミリアが菓子を作るのが好きだということから、街の中の様々なお菓子を手土産に持っていくのが日課のようになっていた。
「あら、いつもありがとう。ただ……ティミリアは中々食べてくれなくて。」
「……当然のことです、また明日も来ます。」
俺のことを嫌っているのだから、俺が持って来たものに手をつけないのは当たり前のことだ。
そう頭の中では理解しているのにズキリと心が痛んだ。
それから、俺は家へ帰るために馬車へ乗り込む。
明日は、ティミリアと話せるだろうか。
そんなことを考えながら、俺は窓の外を見つめた。
彼女と話をしたい。
ちゃんと謝りたい、そして誤解を解きたい。
しかし、いつも彼女には「帰って下さい。」という一言しか貰えない。
彼女の言うことを聞かずに一方的に話すことも謝ることも出来る。
だが、それでは今までと何も変わらない。彼女の意思で対話をしないと意味がないのだ。
また、彼女の笑顔が見たい。
2人で散歩がしたい。
この気持ちが"愛情"なのかどうか、俺にはわからないけれど、だけど初めとは随分彼女に抱く気持ちが変わってきたように思える。
俺は深呼吸をしてから、コンコンとティミリアの部屋の戸を叩いた。
「ティミリア。」
呼びかけてはみるが、特に返事は返ってこない。
「どうか姿を見せてはくれないか? 君と話がしたい。」
「私は、話すことなどありません。」
ティミリアの冷たい声が扉の向こうから聞こえてきた。はっきりとした拒絶が伝わる。
いつもは諦めて帰るが、今日は少し粘ってみようかという気になって再び声をかけてみる。
「せめて、誤解だけでも解かせてはくれないだろうか。」
彼女はどうしてか、俺に愛人がいると思い込んでいる。
"バルコニーで会っていた女性"という点からランのことだと察することが出来た。勿論、キスだってしていない。
考え抜いた結果、もしかしたらティミリアはランのことを男性だと思っているのではないか、という予想に至った。
事実は彼女に聞いてみなければわからないけれど。
「帰って下さい!」
彼女から帰ってきたのは、かなり強い拒絶の声だった。俺は、一瞬固まってしまい静寂が流れる。
「……すまない。」
その謝罪の声は彼女に届いただろうか。
だけれど、あまり大きな声で言うような気にはなれなくてポツリとだけ呟いて俺は扉に背を向けた。
「毎日来て頂いているのに、ごめんなさいね。」
帰り際、ティミリアの母親が俺に申し訳なさそうに声をかけてくれた。
俺はそれに対して首を振った。
「いえ……俺が悪いんです。よければ、これをどうぞ。いつも同じようなもので申し訳ないですが。」
毎日持って来ている手土産をティミリアの母親に渡す。ティミリアが菓子を作るのが好きだということから、街の中の様々なお菓子を手土産に持っていくのが日課のようになっていた。
「あら、いつもありがとう。ただ……ティミリアは中々食べてくれなくて。」
「……当然のことです、また明日も来ます。」
俺のことを嫌っているのだから、俺が持って来たものに手をつけないのは当たり前のことだ。
そう頭の中では理解しているのにズキリと心が痛んだ。
それから、俺は家へ帰るために馬車へ乗り込む。
明日は、ティミリアと話せるだろうか。
そんなことを考えながら、俺は窓の外を見つめた。
2
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。
二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。
そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。
ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。
そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……?
※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる