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侯爵令嬢、否定する
しおりを挟む東の森で出来事から3週間が経った。
肩の怪我は概ね回復し、私は今日もまた夜会に参加して貴族令嬢の務めを果たしている。
エリーは今日もマーカス・クロイツ大公と一緒にいるため、私はポツリと1人で佇んでいた。
あぁ、それにしても、何と情けないことだろう。
私はただのモブだというのに、モブの分際でイベントを引き起こしてしまったのだ。
何たる失態!!!
怪我は回復したが、私の精神面は回復しない。
不甲斐なさに気落ちしないわけがないのだ。
何よりもこんな形で物語の邪魔をするつもりは少しもなかった。確かにジゼル様とロアネが恋仲になってくれれば良いと画策している。しかし、ログレス様とロアネの恋路をイベントを潰してまで邪魔しようなどと考えたことは一度もない。
ましてや、私がイベントを奪い去るなんて。
「最近の夜会では、ログレス様の隣にはいつもロアネ・エイミッシュ嬢がいるわ。」
近くの貴族令嬢が、夜会の中心で華麗に踊りを披露するログレス様とロアネに目を向けながら話している声が聞こえた。
「この前、2人で街中を歩いていたそうよ。他の令嬢の付け入る隙なんて無いような気がするわ。」
私の気持ちとは他所に、順調に2人は親交を深めているらしい。それを知って、私は自身が余計な邪魔をしたわけでは無いようだと安堵しつつも焦りを感じていた。
私が物語に介入しようがしまいが、物語は順当に進んでいくのだ。私が画策したところで、何も意味など為さないと告げられているような気がしてしまう。
レアルチア・オールクラウド、それだけの事実であっさりと諦めてしまうのか?
私は自分自身に喝を入れて当初の目的を思い出させる。私の目的は、当て馬の恋を成就させること。加えて周囲の人々を幸せにすることだ。
大丈夫、私はうまくやれる。
抱えていたモヤモヤした気持ちなんて全て捨てて、気にせず突き進まなければ目的は達成されない。
そう結論付けてすぐさま行動に移さなければ、と動き出そうとしたところで、わらわらと数名の貴族令嬢に取り囲まれた。
「オールクラウド侯爵令嬢、お尋ねしたいことがあるのですが……。」
「ええと、なんでしょう?」
令嬢たちは控えめに、しかしながら好奇心を隠せられていない強い眼差しでこちらを見つめている。
「ジゼル様と交際をなさっているのですか!?」
「な、え……!? なぜ、そのような!?」
単刀直入に投げかけられた問いかけに、私はあからさまに動揺してしまう。
一体なぜ、私とジゼル様が交際しているなどという疑いが浮上しているのだろうか? 予想だにしない質問に戸惑ってしまうのは仕方ないと言えよう。
「夜会では良くお2人が一緒にいるのを見かけますわ。」
「それに、以前お2人でシナ・ツクヨミへ行かれたとお伺いしましたわ!」
目の前のご令嬢たちは、きゃいきゃいと興奮気味にその事実を私に突きつけてきた。
「ち、違います、私とジゼル様はそのような……。」
「でも、2人で出かけられたのは事実ですよね!?」
「そ、それは確かに、事実ですが。」
食い気味なご令嬢たちに、私は若干引き気味に事実を認めると「やっぱり!」とまた令嬢たちは感情を昂らせていた。
もしかして、彼女たちは私を非難するつもりだろうか? 私なんてジゼル様に釣り合わないって。
「では、やはりお2人は深い仲にあるのですね!」
それを、肯定できたらどれだけ良いだろう。
そんな気持ちを抱いているという自分にも嫌気がさす。先ほど、自分の目的を明確にしたばかりだというのに。目の前のご令嬢たちの視線が刺さる。
もう、やめて。
「違います! 私とジゼル様は、そのような関係ではありません!!」
気がついたら、強く否定をしていた。
こんなに強く言うつもりでなかった。だけれど、私の気迫に押されたのか令嬢たちはズサリと後ずさっている。
まぁ、これでこれ以上は追求されないだろう。
そう安堵した直後、令嬢たちが私ではなくその背後を見て顔を引き攣らせていることに気がついた。
「で、では、私たちはこれで。」
そうして蜘蛛の子を散らすように、令嬢たちは私から急いで離れていった。
私は何事かと思いながらも、嫌な予感と共に後ろを振り返る。
「あ……ジゼル、様。」
私の後ろにいたのは、とても悲しい表情をしているジゼル様だった。
今の一連の流れを聞いていたのだろうか。いや、きっと聞いていたはずだ。私は、彼を傷つけてしまったのだ。
強く否定する必要なんてなかった。だけれど、気づいたら口から言葉が出てしまっていたのだ。
ジゼル様と目が合う。
彼は力なく小さく笑ってから、ふいっと視線を逸らして人混みの中へと歩いていく。
「待って、違……っ!」
私は彼を追いかけようと踏み出し、そして声をかけようとしたところでハッと自身の口を塞いだ。
私は、今何を言おうとしていた?
違うって、何が違うのだろう。
何も間違っていない、私はジゼル様と交際をしてはいないし、それに近しい関係でもない。
私たちは、あくまでも、友人だ。
それだというのにこれほどに心がざわつくのは何? 私は、私がわからない。
少しずつ、自分の中で歯車がズレてきているのを感じる。
私が視線を上げたときには、もう人影の中に彼を見つけることは出来なかった。
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