モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー

文字の大きさ
上 下
7 / 32

侯爵令嬢、夜会に出る

しおりを挟む
 泣きながらも愛莉は冷静にその前後に何が起きていたのかを思い出していた。それは自分が見舞われた悲劇でなく世界の情勢だ。

 とにかく2020年代は人類史上最悪なものだった。堕落して分裂した民主主義国家と、一部エリート層に牛耳られた権威主義国家による、冷戦が次第に熱を帯びていた。

 かつての民主主義国家群のリーダーであった国々も、経済的利益を優先し権威主義国家による複数の国に対する軍事的侵略行為に対し無為無策に終始していた。特にリーダであった某国の大統領が個人的に権威主義国の総統と友好関係があったため、半ば公認していた一方で自らの同盟の絆を分断したため、全く無力となり世界中で難民が増加しても自らの国の繁栄しか顧みらなくなっていた。

 そんな中、2020年代中盤になって複数の国で発生したのが、生物の身体を機械のように変えてしまうウイルス型ナノマシーンの蔓延と、超中性子弾搭載の小型超音速巡航ミサイルの拡散だった。最初のうちに封じ込めができなかったのは、発生したのが権威主義国家と極端に通信技術が整備されていない国などであったため、情報の共有が出来なかったのは原因だった。

 そんな中、発生したのが悲劇の13日間の前年に起きた第三次世界大戦だった。その戦いそのものは約半日、正確には14時間32分で終結したが、その間に米中露の三大軍事大国の中枢システムは完全に崩壊していた。世界大戦と称しているが人的被害は開戦前の戦乱の方が大部分を占めていたが、世界秩序は瓦解していた。

 「淳司、分かっているわ。もう後戻りできなかったということよね。でも、なぜエキゾチックブレインは人類に歯向かったの?」

 愛莉がいくら調べてもそれは知らなかった。実は公式に原因不明とされているからだ。公式見解では麗華は世界を手玉にとって兄弟国の蔡国と結託して世界征服を意図していたが、制御不能に陥り悲劇の13日間を引き起こしたとされていた。そのエキゾチックブレインの暴走が終わったのも何者かが設置されていた共和国宮殿を麗華首都ごと純粋水爆で破壊したとされていた。全ての真相は完全に解明されていないとされているのだ。

 「それは・・・丹下教順が知った時には手遅れだったが、麗華がエキゾチックブレインという悪魔を作り出した最初から現生人類の粛清と新たな人類の創造という目的があったのさ。もちろん麗華の政治指導者どもは踊らされていたのを知らなかったけどな」

 「じゃあ、人間を機械にするウイルスも」

 「そう、丹下教授は加担したのさ。愛莉ちゃんの身体をガイノイドにした技術の開発に」

 愛莉は自分の本当の身体を思い出してぞっとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】記憶を失くした公爵様に溺愛されています ~冷たかった婚約者が、なぜか猛アプローチしてくるのですが!?~

21時完結
恋愛
王都の名門貴族の令嬢・エリシアは、冷徹な公爵フィリップと政略結婚の婚約を交わしていた。しかし彼は彼女に興味を示さず、婚約関係は形だけのもの。いずれ「婚約破棄」を言い渡されるのだろうと、エリシアは覚悟していた。 そんなある日、フィリップが戦地での事故により記憶を失くしてしまう。王宮に戻った彼は、なぜかエリシアを見るなり「愛しい人……!」と呟き、別人のように優しく甘やかし始めた。 「えっ、あなた、私の婚約者ですよね!? そんなに優しくなかったはずでは!?」 「そんなことはない。俺はずっと君を愛していた……はずだ」 記憶を失くしたフィリップは、エリシアを心から大切にしようとする。手を繋ぐのは当たり前、食事を共にし、愛の言葉を囁き、まるで最愛の恋人のように振る舞う彼に、エリシアは戸惑いながらも心を惹かれていく。 しかし、フィリップの記憶が戻ったとき、彼は本当にエリシアを愛し続けてくれるのか? それとも、元の冷たい公爵に戻ってしまうのか?

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

闇黒の悪役令嬢は溺愛される

葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。 今は二度目の人生だ。 十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。 記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。 前世の仲間と、冒険の日々を送ろう! 婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。 だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!? 悪役令嬢、溺愛物語。 ☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。 ☆2025年3月4日、書籍発売予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

悪役令嬢は楽しいな

kae
恋愛
 気が弱い侯爵令嬢、エディット・アーノンは、第一王子ユリウスの婚約者候補として、教養を学びに王宮に通っていた。  でも大事な時に緊張してしまうエディットは、本当は王子と結婚なんてしてくない。実はユリウス王子には、他に結婚をしたい伯爵令嬢がいて、その子の家が反対勢力に潰されないように、目くらましとして婚約者候補のふりをしているのだ。  ある日いつものいじめっ子たちが、小さな少年をイジメているのを目撃したエディットが勇気を出して注意をすると、「悪役令嬢」と呼ばれるようになってしまった。流行りの小説に出てくる、曲がったことが大嫌いで、誰に批判されようと、自分の好きな事をする悪役の令嬢エリザベス。そのエリザベスに似ていると言われたエディットは、その日から、悪役令嬢になり切って生活するようになる。 「オーッホッホ。私はこの服が着たいから着ているの。流行なんて関係ないわ。あなたにはご自分の好みという物がないのかしら?」  悪役令嬢になり切って言いたいことを言うのは、思った以上に爽快で楽しくて……。

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

処理中です...