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侯爵令嬢、記憶を思い出す
しおりを挟む現実の恋愛なんて上手くいったことがない。
高校生時代の彼とは何だか合わなくて振られたし、大学の彼とは自然消滅。社会人1年目に付き合った上司の彼とは結婚を考えていたけれど2年目にして浮気をされた。
恋愛に全く良い思い出はないけれど、少女漫画を読むことは小さい頃から大好きだった。
どんなジャンルも読んでいたけれど、ただ一つ共通していたことは『当て馬キャラが好き』だということ。
ヒロインと結ばれるキャラクターを1番に好きだったことはなく、いつだって2番手が大好きだった。
ただ、そんな人は現実の世にはいないものだ。
あぁ、願わくば、来世では出会わせて下さい。
そんな願いを胸に抱きながら病院のベッドの上で「私」は息を引き取った。
享年27歳でした。
と、突然にこんな記憶を思い出した私はレアルチア・オールクラウド、7歳です。
つまりこれは"前世の記憶"というもので、病気により27歳という若さで急死した「私」はレアルチアとして転生したということか。
なるほど、なるほど……全然わからん!!!
急なことに頭が大パニックを起こした私はバタンとその場で倒れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
倒れてから3日間、高熱にうなされた。
やっと回復し冷静にこの状況を整理することが出来るのだ。
事の発端は3日前に遡る。
私、レアルチア・オールクラウドは侯爵家の次女として生まれ、現在7歳だ。
5つ歳が上の双子の兄と姉がいて、構成としては3人兄妹の末っ子だ。
その日はお母様と一緒に公爵家のお茶会に参加していた。同年代の子供たちも参加するとのことで、私も強制的に参加させられた。
正直面倒で、あまり乗り気ではなかった。
「おかあさま、レアもうかえりたい。」
そんなことを言って、お母様の服の裾をグイグイ引っ張っていた。その度に
「レア、あんまり引きこもってないでそろそろお友達を作らないと。」
と言われ引きずられるように子供たちのところへ引き戻された。
もうすぐ学校が始まったらお友達なんてすぐ出来るもん、と拗ねながら群れの端っこでぽつんと立つ。
「どうしたの、ぐあいわるいの?」
私よりも少し背の小さい女の子が近寄ってきて、心配そうに顔を覗き込んだ。
「わるくない。」
私は、帰りたくて仕方なかったので酷く冷たい口調で返答した。
ちらりと少女の顔を見る。とても可愛らしくて天使のようだと思った。同時に何だか見たことあるような気がした。
「そっか、よかった! わたしはエリー、よろしくね!」
エリーが手を出したので、私もおずおずと手を出すとギュッと握られる。
「レアです、よろしく。」
エリーが嬉しそうにニコリと笑うので、つられて私も笑顔になっていた。
エリーと話すうちに彼女が、有名な公爵家の1つであるノグワール公爵家の娘ーーエライザ・ノグワールだということがわかった。
幼いながらに、公爵家の子と仲良くなったことに戸惑いを感じていた。
話していると、何だか奥の方が騒がしくなる。
「ログレスさまとジゼルさまよ。」
私がそちらをじっと見ているとエリーが教えてくれた。
あまり外に出ない引きこもり体質なので、ログレスさまについては王太子であると分かるが、ジゼルさまが一体誰なのかわからない。
正直エリーのこともわからなかったのだから、私は相当な世間知らずだったのだろう。
これで何も知らず学校に通おうとしていた自分が怖い。
こちらに群れが移動してくるので遂にその姿を視界に捕らえる。
「ひだりにいるのがログレス・ファン・アデレインさま。みぎがジゼル・ヴァレンティアさま。」
エリーが親切にも名前を教えてくれた。
その瞬間、私の中に記憶が流れ込んできた。
人並みに勉学に励み、恋愛経験も積んで友人や家族にも恵まれ、大学を卒業し一般企業に就職した後に27歳という若さで病気を患い急逝してしまった「私」の記憶だ。
ベッドの上で元気であった最期まで私は大好きな少女マンガを読んでいた。普通に病気は治るのだと信じて疑わなかったが、ある日突然に容態は悪化しそのまま還らぬ人となってしまった。
なんてあっけない最期なのだろう。
そして、その前世で聞いたことのある名前と名残のある姿が目の前にある。
随分幼い姿だが、私には分かる。
最期に概要だけ読んで、本編は大して読めず終わってしまった作品のヒーローと当て馬だ。
王国の王太子であるログレス・ファン・アデレインと貴族令嬢ロアネ・エイミッシュの恋物語。
そしてログレスと親友である公爵家のジゼル・ヴァレンティアはヒロインであるロアネを好きになってしまう当て馬である。
何より驚くべきは、この可愛い天使のようなエライザ・ノグワールが悪役令嬢であること。
「何がどうなってるの……。」
私は直立したまま後ろにバタンと倒れ、そして視界がブラックアウトした。
そんなことがあり現在、私は回復して頭を整理しているわけだ。
当然レアとしての意識が強く、前世の記憶があるだけだという感覚がある。前世の私とはまた別の人間だということはわかるし、家族構成に関しても今世の世界に関しても……例えば食文化や貴族としての生活に関しても違和感は覚えない。そして急激に価値観が庶民的になるわけでもなんでもない。
ただ、取り戻す以前よりも完全に精神年齢は高くなっている。
あぁ、それにしてもジゼルさま……。
「かっこよかったなぁ……。」
いけない、声に出してしまった。
私が概要を見て推していたキャラクターを、そして焦がれていた当て馬キャラを、遂に目の前で拝むことが出来たのだ。
こんなに嬉しいことはあるだろうか、いやない!!!
そしてここから私の野望は始まった。
「遂に当て馬キャラの恋が成就する時だわ!」
前世では、何度もヒロインとの恋に破れた当て馬キャラたち。どう考えてもヒーローたちよりカッコよくて性格も良いのになぜか報われない彼たち。
君たちの無念は必ず私が果たして見せるわ。
架空のキャラクターたちへの謎の誓いを胸に、レアルチア・オールクラウド 7歳。ジゼルさまの恋を応援し成就させることをここに宣誓致します!!!
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