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15.高スペック猫耳幼女

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ーーーーーーーーーー

「…ふう。」

俺は歩きながら軽く息を吐いた。
今は見慣れない廊下を進んでいる最中。
ニコニコと笑みを浮かべながら鼻歌を歌っている猫耳コラルの後ろをついて行っているところである。

幼女の涙?ああ、うんあったね、そんな事。

………………………。

あ、いや、違う違う、勘違いしないでほしい。
今のは別に幼女のことを適当にあしらったみたいな、そんな意味の言い方じゃない。
もしかしたら、そう聞こえるかもしれないが、全然そんなんじゃなくて。

さっきのことは過去の産物にでもしないとこちらが危なかったのだ。

この猫耳幼女の泣きながら、しかしこちらを心配させまいと笑いかけてきた表情は、それはもう可愛いの一言だった。
正直、頭撫でてあげたかった。抱きしめてあげたかった。正直、舐めまわしたくなっ……おっと失礼。

とにかく、この幼女のcry and smileに俺は心を奪われたのは事実だ。
本当に俺がロリコンじゃなくてよかったと思う。
ロリコンだったら理性崩壊してたからね。
たがが外れてたのは確実だね。

「…………」

えっと……そう、だから、あの時の俺はある意味正気を保てていなかったんだけど、今はもう大丈夫。

「ふう…。」

もう一度、目を瞑りながら息を吐く。

俺は一種の賢者タイムを利用したのだ。
つまり、心を落ち着かせ俯瞰的に自分を見つめたことで正気を取り戻したのだ。
幼女の泣き顔に理性が崩壊しかけたところを賢者タイムを発動させたことにより自我を回復させたのだ。
ここで言う賢者タイムはあれをあれした後のあれ的な話じゃないよ。
過度な興奮状態から冷静さを取り戻したっていうそれだけの意味だから、まだ犯罪には手を染めてませんよ。

そもそも、俺は未経験だ………し………

うん、それについては触れてはダメだ。

これ以上考えたら男として死にたくなるから。

でも、そっか。俺、前の世界では未経験……

考えちゃダメだっ!!

「…うっ」

「何してんのよ。」

頭を抱え、自分の中のプライドだかなんだかのせいで煩悶しているところに、ツンとした声音がかけられる。
横を見ると歩いているレイネルが呆れじみてこちらに目を向けていた。

「いや、なんでもない。」

「そ。」

それだけ言うと、ふいっとこちらから顔を背ける彼女。

まるで、興味が毛ほどもないかのようだ。
その反応は少し癪に触るのだけど。

あれ?ていうか?

俺は横のレイネルをチラと見る。
しかし、以外というかなんというかそこにいるのはただの澄まし顔のレイネルだった。

あれ?さっきはコラルを見るや口を押さえてちょっと泣きそうになってたのに。子供の成長を実感して感動した親みたいだったのに。
なんか今は別に普通だな。

澄ました顔で歩みを進めるレイネル。
さっきの表情はなんだったのか。

「…何よ。」

すると、こちらの目線に気づいたのか彼女は不快感を示すようにこちらに応じてくる。

やはり女性というものはジロジロ見られるのは嫌なのだろうかなどと俺なりに考えるが、今はそれじゃなくて、

「いや、なんか、お前、さっきまでこの子の可愛らしさに心打たれてたじゃん。その心持ちはどこいったんだろうって思って。」

「二人ともどうかしたのかー?」

「どうもしてないです。ちゃんとコラル先生について行きますよー。」

「にゃっははー。なら、いいのだー」

俺の何気ないレイネルへの質問にコラルが反応する。しかしそれをレイネルは優しめな声音で軽く笑いながら応じた。コラルもそれに納得して鼻歌まじりに廊下を進んで行く。

そして、レイネルはこちらを向き、

「はっ、それはあんたもでしょう。」

腕を組みながらレイネルの発言。それは一つ前の俺の質問に対してだろう。

「いや、それはそうだけど。だったら、俺は同じ言葉をお前に打ち返せるぜ?」

「………はあ。」

「なんだよ。」

レイネルのため息。肩をすくめながらの吐息は呆れたような意志の表れにも見える。

それに俺は短く抗弁するが、

「この子は恐ろしい子よ。」

レイネルはそう言って俺に薄目を向けてきた。

え、どしたの、急に。

「なぜなら、無自覚にあのレベルの可愛らしさを生み出すのよ。」

「そりゃ、まあ、そうだけど。」

「魔法なんて使わずにあそこまで人を虜にするの」

「まあ、末恐ろしいっちゃ、末恐ろしいけど。」

「あの純粋な笑顔は人を狂わせる。」

「はあ、そだね。」

「正直、あんたが襲わなかったのは奇跡だと思っているわ」

「んんー?」

んんー?

「あの子の泣き顔が胸にしみたのは確かだわ。けれど…それをもし、あの変態が見たらって思うと衛兵としての忠義心が駆り立てられてね。」

「おい、変態って誰のことですか?」

「まずいって思って顔を上げたけれど何も起こってなかったから、あれ?って不思議に思ったの。それから、あの子が襲われなくてよかったって安堵したら私は安心して、それから正気を取り戻せた。」

「なんだか。いろいろと物申したいのですが。」

「あんたが変態でも、ロリコんの変態じゃなくてよかったわ。」

「嬉しくねぇよ!」

「何話してるんだー?着いたぞー?わちの部屋だなー。にゃっはー。」

レイネルの胸を撫で下ろしながらの発言に俺は激しく言い返す。

すると、そんな後ろの情勢などいざ知らず、コラルは明るくこちらに声をかけた。
どうやら目的の場に着いたようだ。

じゃあねぇよ、このレイネル野郎。
俺を罵倒する言葉は減らない一方ですってか?
この女、絶対いずれ記憶に残るレベルのトラウマ植えつけてやるからな。

「何よ。気持ち悪いわね。」

「なんでもねえよ。」

宣戦布告だよ。このアマぁ。

メンチを切りながら反抗の意志を示す俺。
それに対し、冷えた声音で言葉を突きつけるレイネル。

上等だ。覚悟しときやがれ。

「何しとるんだなー、早く入るのだー。」

そんな刺々しい雰囲気が醸し出されているにもかかわらず、コラルは能天気かのように部屋へ招く。

俺は敵への威嚇を中断し、進められた部屋へと入った。

「おお…」

部屋内はさほど大きくない。食客用のソファーや机が置いてあったり、本棚が置いてあったりと、一般的な室内だ。

うん、割と普通だ。

「にゃっははー。んじゃ、お兄さん、適当に座ってなー。」

「え、ああ。ん?てか、ここで何すんの?俺、なんも聞かされてないんだけど。」

流れるままに連れてこられたが、ここにいる理由が全くわからない。

「言ったじゃない。コラル先生は治癒魔法の使い手だって。」

すると、部屋の扉付近で佇んでいるレイネルが俺の疑問に答える。

「いや、まあ、それは知ってるけど。それが、何さ?」

「だからぁ、あんたの記憶喪失を診てもらうのよ。」

「にゃっははー。そうなのだー。」

腕を組みながら、レイネルはため息。
と、同時にコラルは彼女の言葉を肯定する。

記憶喪失?あー、あったねー。そんな設定。いろんなことあったから忘れてた。
そっかそっか。なるほど。そういや、荷物車のおっちゃんはそのことレイネルに話してたな。元気かな。おっちゃん。ま、いいや。

つまり俺が記憶喪失ってことで治癒魔法のエキスパートであるコラル先生の登場ってわけね。
あの時、レイネルはコラル先生を呼びに行ってたってわけか。で、そのあとにトイレ騒動があったってわけか。
なんか全然落ち着かないなー俺。
まあ、いいや、ちゃっちゃと診てもらってこれからのことはそれから考えよう。

「んじゃ、お兄さん、ちょっと診るよー。」

「あいよー。」

「けどなー。」

俺の診療承諾の空返事。
しかしコラルは言葉をとめると、

「お兄さんの記憶喪失。それは嘘なんだなー。にゃっははー。」

「え?」

「え?」

笑いながらのコラルの言葉。

それに対し、俺とレイネルは同じ言葉を放ってしまう。

え、ちょっと。え、なんで嘘ってわかって?

「ちょっと、あんた、どういうことよ。」

俺は胸中で混乱する。しかし、そんな中、後ろから鋭い声音が飛んできた。
腕組んでこちらに強い眼差しを向けるレイネルだ。

いや、まあそっちはまだいい!

肝心なのは

「あれー?お兄さんはちゃんとした記憶喪失なんだぞう。何をおかしなこと言ってるんだい?」

ニタリと笑いながらコラルにヘラヘラと言い返す。

ちょっとお巡りさんに声かけられそうな態度してるな、今の俺。

けれども、この幼女はそんな俺の態度など関係なく、「にゃっははー」と笑いかけると、

「わちは獣人族にゃ。人間の言うことが嘘かどうかなんてすぐわかんだなー。」

「…え?」

その言葉を聞くや俺はバッと後ろを振り返った。
腕を組みながらこちらを見据えるレイネルさんに口弁を求めたのだ。
求めたのだが、レイネルさんは俺を見てため息を吐くと、(なんかめっちゃレイネルさんに呆れられてる気がする)

「コラル先生に嘘は通じないわよ。獣人族は発達した耳と持ち前の観察眼で相手を見るの。それは人の並ではないわ。」

「何?獣人族ってみんなそうなの?」

「みんながみんなそうじゃないけど…。コラル先生にとってそれは普通なのよ。」

「ご飯食べるのと同じくらい簡単なことなのだー」

嘘を見抜く力がですか。

腕を上げながら笑う猫耳幼女コラルに俺はただ嘆息する。

ヤバイな。この猫耳幼女のスペックが計り知れない。





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