異世界転生した俺はまったりスローライフを送りたいのだが案外修羅場だらけであり

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4.予想外は意外なところに

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「………」

体を揺らされながら俺は周りの景色に目を向けていた。
見渡す限りの山、川、草原、そして、遠くに見えるのは石造りが主と思われる町。改めて思うが俺のいた世界とはかけ離れた風景が広がっている。

「……ん?」

チラチラと横やら後ろを見回しているとふと目に止まったものがあった。それは後ろの荷台車で書物を読んでいるお下げ髪をした娘さんの姿だ。

荷台車の後ろに乗っけられている箱型の荷物に背を預け、余程熱心な目つきで書物を読みふけっていた。

「…なあ、おっさん、後ろの子何読んでんの?」

「ん?あぁ、娘は勉強熱心でな、今も衣服について学んでんのよ。」

「衣服?」

「そうだ。うちは服屋だからな。今向かってる町で商売してんのよ。」

「…へぇー。そうなのか。じゃあ、後ろの荷物とかって、服の材料…布とかが入ってるってことか?」

「そうだ。商売道具だぜ。」

そうなのか。と、俺は興味深げに相槌を打つ。
なるほど、服屋さんか。まあ、どんな世界にも衣服を売る者たちもいるわな。
なんて納得し、俺は再度娘を見ると変わらず熱心に書物を黙読していた。おそらく裁縫についての知識などを身につけているのだろう。思わず、真面目だなと独り言を呟いてしまう。

というか、ふむふむなるほど

ーふむふむふむふむ、なるほどなるほど

「ずいぶん熱心なんだなあ。」

「そうだろう。自慢の娘だぜ。」

「いい商売人になるんだろうなあ」

「はっはっは。間違いねぇぜ。」

「そして、何よりべっぴんさんだなぁ。」

「はっはっはっはっ、…おい。」

俺が感慨深くそういうと、突如、聞き慣れない声音が耳に入った。
誰の声だ?と思ったが荷物車には俺、おっさん、娘さんと三人以外の人物は見当たらない。

だが、何故だろう。なんだかおかしな光景がそこには映されていた。

俺の首元に手刀が添えられている。おっさんがなんかすごく鋭い眼差しでこちらにガンを飛ばしていた。うわぁ、すごい眉間にシワ寄ってる。

「…?…?…え?……?…これ…なに?おっさ」

「喋るな」

急に黙秘権を酷使された。
もちろん、それを守らなければならない義務は俺にはない。ないのであるが、

今、ここで喋ったら木っ端微塵にされる気がする。
それくらいの雰囲気が今のおっさんにはあった。

俺の首元に添えられたおっさんの手刀は敵意を示していることが察せられた。

え?え?え?なに?どうしたの?おっさん?さっきまでの温厚なおっさんどこ行ったの?今俺の横にいる怖そうなこの人誰?

疑問しか頭に浮かばないがこちらに鋭利な視線を向ける人物は依然俺を敵視している。

怖いよ。おっさん。特にその手刀が一番怖ぇよ。
俺は戦闘経験皆無よ?おそろしく速い手刀だったら俺は見逃しちゃうよ?

「…てめぇ。」

と、おっさんは俺に一言そう告げる。声音には重々しさが含まれているのが感じられた。

おそらく、というか確実に、誰の目から見ても分かる通り、このおっさんは怒っている。何に対して怒っているかと問われれば俺に対して怒っている。

なんで?俺が怒られてんの?俺何かした?

怒りを向けられる原因に心当たりがなく、俺はただただ困惑する。

ちなみにそんな尋常ならざる雰囲気を醸し出しているのにもかかわらず、後ろの荷台で娘さんは熱心に勉強に取り組んでいた。

娘さん、真面目すぎません?あなたのお父上が大変なことになってます!こっち気付いてぇ~!

そのようなことを思いながら俺は娘さんの方に目を向ける。しかし、喉元の手刀はされどそれを許さなかった。

「おい、てめぇ、娘に色目使ってんじゃねえ…」

おっさんは手刀で俺の喉元をポンと叩きながらそう言い放つ。大声ではないが確かに怒気の孕んだ声音だった。

というか。はあ?色目?俺がいつそんなことしたよ?

俺は訳がわからないといった表情を向けるが、おっさんの怒りは収まりそうにない。依然として眼差しは鋭いままだ。

「…なあ、兄ちゃんよ、一つだけ言っといてやらぁ。」

すると、おっさんは俺を睨みつけながらそんなことを言い出した。
怒る理由を教えてやろうとでも言わんばかりに語り出す。

だが、俺だっていきなり怒りの矛先を向けられて理解ができない状態なんだ。せめて、納得させて欲しい。

ちなみに娘さんは今も熱心に書物に夢中だ。なにあの子、ちょっと鈍感すぎない?

とかなんとか思っているうちにおっさんは怒りの声音で話し出した。

鋭い視線を俺に向けながら毅然とした風に話し出した。

「…俺の娘はべっぴんさんだ。」

「…」

は?何言ってんだ?このおっさん。

「あの子はあまりにも可愛い女の子だ」

何言ってんだ?このおっさん。アホか?

「その事実はゆるぎないだろう」

何を急に語り出してんだ?

「娘は俺にとっての宝物で、俺にとっての唯一で」

めっちゃ私情挟んでるじゃねえか。

「あの子は俺のものだ」

発言が犯罪者じみた。

「正直、娘は誰にも渡したくはない」

愛が重い。

「…………………」

目の前で過剰な親心を熱く語られ思わず瞠目してしまう。喋るなとは言われたが、いきなり想定外すぎるほどの言葉を聞かされてさすがに今は言葉が出てこなかった。

言葉は出てきそうにはなかったが、かろうじて耳に入った言葉の意味は理解できた。というのも、

あー、そうかこのおっさん。

極度に娘を溺愛しているのだ。

父親として余程に、過激に娘っ子なのだ。

つまり、限りなく娘依存が激しすぎる男なのだ。

ちなみに話の渦中である娘は今も熱心に書物を見ていた。
ちょっと娘さん、あなたの父親やばいのですが助けてくれないですか?










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