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第一章 怖くて偉大で大きな木
30.大樹戦 二方戦法
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「…囲まれていますね。」
白霧に包まれながらそう呟くのは上空を睨むカウラだ。立ち上がり、天樹の様子を感知する。どうやら、根達は白霧の周りをウヨウヨしているようである。四方を囲み逃げ場をなくす。ラザクとカウラが出て来た時に容赦なく叩き潰すためとでも言うように。
ラザクも腰に手を当て上を見上げた。
「こっからどう出るかな。」
ラザクは天樹に対する策を考えたのは良かったが、この白霧から出る方法をまず先に考察するべきだと改める。案外この状況は、角に追い詰められたネズミではなかろうか。
白霧から出た瞬間、天樹が襲ってくるのは考えなくてもわかることだ。敵もこれだけの機会を無駄にするほど愚かな輩ではないだろう。
「…ラザク。あなた、先に出なさい。」
と、そんな思索をしているラザクに対しカウラがポツリと口出しする。そして言葉を付け足して、
「あなたが氷術を使い、ある程度この周りの根をばらけさせなさい。その隙に私はこの霧から脱出します。」
「簡単に言ってくれるな。どんだけ根が漂ってると思ってんだ。一回捕まったら終わりのハードモードだぞ。」
「今は氷術である程度、抵抗できるでしょう?先ほどはそれを知らずに逃げていたのですから。」
「まあ、そうだけどよ。」
「私が空にさえいくことができれば、ほぼこちらが優勢なれます。」
「それはそうだけど。俺は囮か…。」
「不満ですか?」
カウラの疑問にラザクは少しの息を鼻で吐く。そして、「いや」と軽く呟くと、
「いつもなら不満だけど。今はそうこう言ってられねえ相手だろ。分かったよ。」
「うむ。物わかりが良くてよろしい。」
少し不本意そうに言いながら了承するラザクを見て、カウラは笑みを向ける。
プライドに溺れて勝負に負けるなど三流のすることだ。戦において勝つための判断を違えない。
ラザクはそれを熟知している。
「んじゃ、そろそろ行くか。俺は横。お前は真上だ。」
「ええ、私はあなたが霧から出たあと雷纏を用いて上空へ行きます。あなた、術力はまだあるんですよね。」
「んん。まあ、まず使うのが氷術だからな。元々、術力の使用量としては全然少ない術なんだよ。炎術と違ってな。だから、心配ねぇよ。」
カウラの懸念に肩に刀を担ぎながらラザクは答える。それを聞き、カウラは少し安堵しながら「…そうですか」と答えると、
「では、先程の言伝通りに」
「ああ、分かってるよ!」
ラザクはその言葉と同時に足に強く力を入れ地を踏み込む。刀を白く光らせ、刀身に氷を宿らせた。
そして、
「…らぁ!!」
勢いよく、白霧から飛び出し、一瞬にして場から姿を消す。走風によって霧が蠢き冷気がから回っていた。
「…せいぜい、死なぬよう。」
ラザクの向かった先を見つめながらカウラは一人そう呟いた。
ーーーーーーーーー
「ははあっ!居すぎだろぉっ!おらぁっ!」
ラザクは霧から出たと同時に目の前に現れた根を切り裂く。
思った通り、白霧の周りは根がとてつもなく蔓延っていた。二人が出てくるのを待ち受けていた天樹の根はラザクが霧から飛び出したと同時に一斉に飛びつくかのように襲撃する。
太い根も細い根も全てを用いてラザクを葬る。そのような意思さえ感じるほどだ。
「…邪魔だ!どけぇぇ!!」
ラザクは手にする刀をふんだんに使い、突き進む。
目の前に次々に現れる根を氷術込みの剣術で一閃。
「…とりあえず、斬る!」
後ろの根には目もくれず、ただ地を駆け、まっすぐ進むだけ。
進行方向は適当だ。目の前に迫りくる根をどんどん切り払っていく。
とにかく、根を自分に惹きつけろ。
幾ばくもある根もラザクの氷刀には敵わずどんどん薙ぎ払われていく。
それと同時に天樹はラザクを後ろから刺し殺そうと躍起になって追いかけていた。
数々の根を両断され天樹自身もたまったものではない。弱点を突く攻撃手段を持っているあの男は早急に排除しなければ。
天樹は敵意をラザクに集中させる。あの男は危険だと、天樹がそう判断したために。
だが、それは得策とは言い難い。
白霧にいる女性への注意を怠ったことを天樹は後悔することになる。
ーーーーーーーーー
「さて、」
白霧の中で未だ滞在中のカウラ。目を瞑り、意識を一点へと集中する。
「ふうぅぅぅ。」
深い深呼吸をし、両手をかざす。まずは手のひらに雷を発生させ、ジッと佇む。雷を感覚的に理解し、両の手を合わせ合掌のかまえ。
無駄なことは一切考えない。余計な思考を全て省き、雷術を徐々に発動させていく。雷と同化するようなイメージを浮かばせ、持ち続ける。
術の練り込みは集中して時間をかけた分だけ効力を発揮する。
「…はあぁぁぁぁっ」
カウラはゆっくりと声を発しながら手のひらに雷を作り出していった。
そして、それを操作するためにさらに雷術発動に念を込める。
手のひらから腕へ、腕から肩へ、そして全身へと雷を伝達させていく。
ビリビリとあたりに雷の音をかき鳴らせながらカウラはゆっくりと目を開ける。
雷を深く練り込ませた雷纏状態だ。
「……ふぅぅぅ。」
集中力を必要とする雷纏状態への移行。そこから解き放たれ、カウラは周りへと意識を向ける。
白霧の向こうではかなりの騒音が耳に入った。どうやらラザクは派手に交戦しているようだ。
「よし。」
一言、呟き上を見上げる。おそらく、多くの天樹の根はラザクを追跡しているのか、ここは手薄となっている。
白霧を少しだけ手で払い、それからグッと足に力を込め、
「はあっ!」
カウラは掛け声とともに大きく上空へと飛び立った。
白霧に包まれながらそう呟くのは上空を睨むカウラだ。立ち上がり、天樹の様子を感知する。どうやら、根達は白霧の周りをウヨウヨしているようである。四方を囲み逃げ場をなくす。ラザクとカウラが出て来た時に容赦なく叩き潰すためとでも言うように。
ラザクも腰に手を当て上を見上げた。
「こっからどう出るかな。」
ラザクは天樹に対する策を考えたのは良かったが、この白霧から出る方法をまず先に考察するべきだと改める。案外この状況は、角に追い詰められたネズミではなかろうか。
白霧から出た瞬間、天樹が襲ってくるのは考えなくてもわかることだ。敵もこれだけの機会を無駄にするほど愚かな輩ではないだろう。
「…ラザク。あなた、先に出なさい。」
と、そんな思索をしているラザクに対しカウラがポツリと口出しする。そして言葉を付け足して、
「あなたが氷術を使い、ある程度この周りの根をばらけさせなさい。その隙に私はこの霧から脱出します。」
「簡単に言ってくれるな。どんだけ根が漂ってると思ってんだ。一回捕まったら終わりのハードモードだぞ。」
「今は氷術である程度、抵抗できるでしょう?先ほどはそれを知らずに逃げていたのですから。」
「まあ、そうだけどよ。」
「私が空にさえいくことができれば、ほぼこちらが優勢なれます。」
「それはそうだけど。俺は囮か…。」
「不満ですか?」
カウラの疑問にラザクは少しの息を鼻で吐く。そして、「いや」と軽く呟くと、
「いつもなら不満だけど。今はそうこう言ってられねえ相手だろ。分かったよ。」
「うむ。物わかりが良くてよろしい。」
少し不本意そうに言いながら了承するラザクを見て、カウラは笑みを向ける。
プライドに溺れて勝負に負けるなど三流のすることだ。戦において勝つための判断を違えない。
ラザクはそれを熟知している。
「んじゃ、そろそろ行くか。俺は横。お前は真上だ。」
「ええ、私はあなたが霧から出たあと雷纏を用いて上空へ行きます。あなた、術力はまだあるんですよね。」
「んん。まあ、まず使うのが氷術だからな。元々、術力の使用量としては全然少ない術なんだよ。炎術と違ってな。だから、心配ねぇよ。」
カウラの懸念に肩に刀を担ぎながらラザクは答える。それを聞き、カウラは少し安堵しながら「…そうですか」と答えると、
「では、先程の言伝通りに」
「ああ、分かってるよ!」
ラザクはその言葉と同時に足に強く力を入れ地を踏み込む。刀を白く光らせ、刀身に氷を宿らせた。
そして、
「…らぁ!!」
勢いよく、白霧から飛び出し、一瞬にして場から姿を消す。走風によって霧が蠢き冷気がから回っていた。
「…せいぜい、死なぬよう。」
ラザクの向かった先を見つめながらカウラは一人そう呟いた。
ーーーーーーーーー
「ははあっ!居すぎだろぉっ!おらぁっ!」
ラザクは霧から出たと同時に目の前に現れた根を切り裂く。
思った通り、白霧の周りは根がとてつもなく蔓延っていた。二人が出てくるのを待ち受けていた天樹の根はラザクが霧から飛び出したと同時に一斉に飛びつくかのように襲撃する。
太い根も細い根も全てを用いてラザクを葬る。そのような意思さえ感じるほどだ。
「…邪魔だ!どけぇぇ!!」
ラザクは手にする刀をふんだんに使い、突き進む。
目の前に次々に現れる根を氷術込みの剣術で一閃。
「…とりあえず、斬る!」
後ろの根には目もくれず、ただ地を駆け、まっすぐ進むだけ。
進行方向は適当だ。目の前に迫りくる根をどんどん切り払っていく。
とにかく、根を自分に惹きつけろ。
幾ばくもある根もラザクの氷刀には敵わずどんどん薙ぎ払われていく。
それと同時に天樹はラザクを後ろから刺し殺そうと躍起になって追いかけていた。
数々の根を両断され天樹自身もたまったものではない。弱点を突く攻撃手段を持っているあの男は早急に排除しなければ。
天樹は敵意をラザクに集中させる。あの男は危険だと、天樹がそう判断したために。
だが、それは得策とは言い難い。
白霧にいる女性への注意を怠ったことを天樹は後悔することになる。
ーーーーーーーーー
「さて、」
白霧の中で未だ滞在中のカウラ。目を瞑り、意識を一点へと集中する。
「ふうぅぅぅ。」
深い深呼吸をし、両手をかざす。まずは手のひらに雷を発生させ、ジッと佇む。雷を感覚的に理解し、両の手を合わせ合掌のかまえ。
無駄なことは一切考えない。余計な思考を全て省き、雷術を徐々に発動させていく。雷と同化するようなイメージを浮かばせ、持ち続ける。
術の練り込みは集中して時間をかけた分だけ効力を発揮する。
「…はあぁぁぁぁっ」
カウラはゆっくりと声を発しながら手のひらに雷を作り出していった。
そして、それを操作するためにさらに雷術発動に念を込める。
手のひらから腕へ、腕から肩へ、そして全身へと雷を伝達させていく。
ビリビリとあたりに雷の音をかき鳴らせながらカウラはゆっくりと目を開ける。
雷を深く練り込ませた雷纏状態だ。
「……ふぅぅぅ。」
集中力を必要とする雷纏状態への移行。そこから解き放たれ、カウラは周りへと意識を向ける。
白霧の向こうではかなりの騒音が耳に入った。どうやらラザクは派手に交戦しているようだ。
「よし。」
一言、呟き上を見上げる。おそらく、多くの天樹の根はラザクを追跡しているのか、ここは手薄となっている。
白霧を少しだけ手で払い、それからグッと足に力を込め、
「はあっ!」
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