羅天絞喰

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第一章 怖くて偉大で大きな木

29.大樹戦 終焉への反撃

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それぞれの術力が伝達されていく。
回操術によりお互いの痛みが分け与えられていく。

リスクは承知。闘いを生き抜くためならばどんな手段も厭わない。

それがこの二人の、ラザクとカウラの、戦場における流儀。死ねば、何も残らない。生き抜いて闘い抜く。闘志を燃やし続けていく。

敵は未知の化け物。恐怖の根源である怪物だ。

しかし、それが何だというのか。
足掻いて抗ってどんな手段を講じてでも倒す。
目の前の敵におめおめと見せ付けてやるのは自分達が勝利したという姿だ。

追い詰められようと追い込まれようと敵を打ちのめす。
さあ、もう終止符を打つとしよう。

反撃の狼煙を上げるのは、今だ。

ーーーーーーーーーー

「痛づあぁぁぁぁぁぁ!」

盛大な声音で叫ぶのは電撃を身に受けているラザクだ。カウラの容赦のかけらもない回操術に身体は悲鳴を上げていた。まさか一番苦しめられるのがカウラの雷だとは戦前には思いもしなかったことだ。

「…さて」

一息つき、カウラは身体の感覚を確かめる。いささか、痛みはまだ所々に健在しているが、肝心の術力はある程度回復できた。
カウラはラザクに最後の一撃を、ではなくて回操術をし終える。自分なりに腕や足を動かし、軽く雷術を発動させるなどして違和感のなさを検分する。雷突の大技を放った事で無残な形姿となった腕は全治とはいかないが、それでも動かせるくらいには感覚が戻ってきているようだ。

ある程度、自身の状態を確かめてからカウラは前にいる相方に目を遣った。

そこには、大の男が地に蹲っている様子があり、

「早く、立ちなさい。今はまだ戦の最中ですよ。」

「…あがっ。くそっ。誰のせいだと思って、痛っつ!」

蔑んだ目でカウラは告げる。

対して、ラザクは自分の身の内に不慣れな雷が送られたことでひいひいと息を荒げていた。節々の痛みが止め処なく発しており、少し動かすだけでもきつい。

「おい、てえめのせいでまともに体が動かせねぇぞ。殺されたらどうすんだ。」

「あなたがその程度で死ぬ玉ですか。ま、本当に死んだら滑稽ですが。」

「もし、そんなことがあれば死因はお前だぞ?」

「死ぬんですか?」

「死なねえよ。」

白霧の中で軽口、否、辛口で叩き合う二人。
この冷えた領域は今のところは安全地。天樹が入ることを拒む場だ。
しかし、いつまでもここにいてはならない。いるつもりなど微塵もない。

「…よっと。あぁ~、痛ってぇ。なんか全身が隅々まで筋肉痛になんた感じだ。」

立ち上がり、身体の状態を所感する。様々な部位の動きがなんだかぎこちないが、なんとか行動不能とはならなさそうだ。

「動けますか?」

「とりあえず。」

「そうですか。いつも通りですね。」

「いや、いつも通りではねえよ?」

「……もうちょっと強めにやっても良かったか?」

「聞こえてっからな⁈あれ以上はマジでやばかったわ!」

小声でボソリと呟いたカウラの言葉をラザクは逃さない。
だが、そんなラザクの反論など気にも留めずカウラは自分の腹部に手を持っていく。

「…というか、なんだかあばら骨あたりが痛いのですが。」

「あ、俺の肋骨が折れたの伝達されたな。」

「うっわ、最悪です。なんですか?ふざけるのも大概にしてくださいよ?」

「お前の疲労やら痛みやらも十分俺もくらってるわ!見ろ、この腕の有様。火傷っていうレベルじゃねぇぞ⁈」

「はあ、全く。巨躯だけで使えない。」

「聞けよ!」

ラザクの弁明に耳を向けずカウラは不満だけをぶつける。会話は一方通行だ。

二人が話している通りラザクとカウラのの容態は決して好調とは言えない。
カウラは術力こそは回復したが、片腕の損傷具合は未だ酷いものだ。雷突によってできた焼け焦げ跡はまだあり、皮膚のえぐれた様は見る者を怖気させるほどだ。神経は戻り、動かせるようにはなったが痛みはまだ残っている。回操術により肋骨も折れているようであった。
一方、ラザクの方はというと術力が大幅に減ってしまった。かろうじてまだ残っているがそれもいつなくなるかわからない。さらには、元々生じていた腕の骨折とそこに加えられたカウラの火傷の激痛。

回操術による痛み分け。それは必ずしも万能ではないのだ。

「…あ、そういえば。あなたの言っていた策はなんですか?」

不意に、ひょんな口調でカウラはラザクに目を向ける。

自分の言うことには目を向けられておらず、それでいて自分の都合のいいことだけ聞きに来るカウラに対し、ラザクは怪訝な目を向けるがとりあえず今は気にしない。今はそれより、

「…そうだ!策だ。お前に言うことがあった!」

「…あなたまさか。忘れてました?」

「そんなわっきゃ、ない…だろうが!…とにかく!策ってのは…」

明らかにあたふた様子を見せているラザクだが特段怒る気にもならない。
カウラは少しだけ肩を竦めると、

「…はあ、私がこの山の頂上にでも行けばいいのですか?」

ため息と共に目を伏せ、そう告げた。

「……⁈」

ラザクは急に言われたことに驚きを隠せず思わず目を見張ってしまう。なぜなら、今から伝えることを先に言われたようなものでもあり、

「お前、どうして?」

「あなたの考えることくらい察しがつきますよ。天樹の特性、低温が弱点、そして私の術力の回復。つまりはそう言うことでしょう?」

カウラの的確な言葉を聞き、思わず呆けてしまう。
口を開け、間抜けそうな面をしてしまったが、それも仕方ないだろう。
カウラの読みが鋭すぎるのだ。

「察しが良くて助かるというより、察しが良すぎて怖ぇなお前。」

「あなたの思考が浅はかすぎるのですよ。考えるのなんて容易い。」

「お前…」

辛辣さが留まることを知らないようでカウラの口調には刺が含まれている。
そんな印象を受けながらもラザクは再度相方に詰め寄る。
この状況を打開する、そのための確認を。

「お前はじゃあ、やることはわかってんのか?」

「理解していますよ。“源泉”と”水流”。それが私の役目でしょう?」

「…お、おう。そう、だ。…よし。それだけ分かってれば十分だ。」

ラザクはカウラの言葉を聞き入れ、得心する。

これで。

圧倒的な力で生命を屠る天樹に対し、用いる打開策の準備は整った。

冷えた白霧に包まれながらカウラは感慨深く、そして狂気さを含めた瞳を宿す。

「散々逃げ回りましたね。」

「ああ、だがもう逃げんのも飽きたな。」

「私もですよ。」

二人は笑う。
痛みが全身に響いており、体の状態は絶不調と言っても過言ではない。
さらに相対する敵は人々を震わせる化け物。
この状態のラザクとカウラを見て、もしかしたら誰もが思わず言うかもしれない。
この二人が今のままで戦える相手ではないだろう。
と。

しかし。

それでも。

その程度で、この二人は、屈する戦士では決してない。

ラザクとカウラは闘いの猛火を瞳に抱く。

この闘いを終わらせる反撃の猛追を。










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