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第一章 怖くて偉大で大きな木
21.大樹戦 プライド
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「どう…いうこと?」
空から天樹を見下ろしたカウラは掠れた声音でただ呟く。思わず目を見開いてまじまじと見つめてしまった。
しかし、カウラが驚愕するのも無理はない。なぜなら、天樹が異様すぎるほどに変色しているのだ。
それまではまだ植物らしく、茶色がかった根がうねうねとしていたが、今、カウラの目に見えるものは赤へと変わった多くの根たちだ。
一体、天樹に何が起こったのか。そのような疑念が頭の中を過ぎる。
しかし、そんな様子でいるカウラだったが、唐突に視界には疑念に対する答えをまじまじと映し出された。
「あ…れは?」
カウラが目にしたもの、それは多くの動物達だった。
いや、もはや生命を絶たれ、動物としての存在を剥奪された屍達。
天樹は動物達を森中から根で絡め取っており、蠢く無数の根の海へと次々に放り込んでいた。放られた多くの残骸は軋みあっている根の中で盛大に締められ、引きちぎられ、縛り上げられてく。根が赤くなった根源とは、殺され血飛沫を撒き散らす動物の死骸から流血したものであった。
いったい、どれほどの動物を狩り殺してきたのだろう。本体からうねり生える根はほぼ赤で染められている。
多くの命が根の中で失われていっていることを物語っていた。
しかし、今、カウラが言及すべき点はそこではない。問題は天樹が多くの動物を狩り殺している意味。この真っ赤に染められた根は何を示して…
ーいや、待て、そもそもこの天樹は生贄を捧げられていると。
カウラは、戦況を見据えながら村で話したことを思い出した。生贄ということは殺されるということ。天樹が人間を殺す理由。それは、
「…食……事…?」
ふと、カウラは天樹の今している行為、それに対して思考し一つの答えを導き出す。根拠はない、だが、人を生贄にするという村の許されざる風習、それはつまり天樹が人間を食する怪物だということが断言できる。
しかし、食するものは人間ではないと駄目なのか、どうなのか。それを論証できるほどの情報素材は今は持ち合わせていない。
けれども可能性で考えるとするならば、天樹が動物を食することができないということは考えにくい。
血肉の成分は動物と人間ではあまり差はないだろう。
「…だと、したら。」
カウラははるか上空から天樹を見下ろした。激昂に満ちた鋭利な眼差しを向けて。
「敵を前にして、食事とは。どこまでも」
ネチネチと、盛大に、これでもかというようにカウラの内から湧き上がる憤怒の情。
それまでも鬱憤は溜まってはいた。しかし、この瞬間天樹の食事行為を見るやいなやカウラの中で何かがプツンときれる音がして。
「……。」
カウラは冷酷非道とも言える瞳を浮かばせ、口を閉じ手中に雷を込める。練りに練って雷電を限界まで圧縮させ、雷同士がえげつなく反発するような雷塊を作り上げる。
無論、心身ともに疲弊しきっているカウラである。
雷を作っている最中に痛みは生じた。それも、決して軽い痛みではない。激痛だ。
腕は神経が激痛の怨嗟を歌っており、手のひらに至っては雷を浴びすぎたせいか少々黒焦げてきていた。
もはや雷と手の感覚の違いなど分からなくなってきている。
しかし、カウラの表情は決して変わりはしなかった。
激痛に耐え難く苦しむなんてことはしない。ただ無造作とも言えるかのような顔を浮かべ、ただただ高密度であり、高圧縮された雷突を作り出す。怒りを体現したかのような大雷はあたりに閃光を撒き散らしていた。
「…覚悟。」
カウラは低い声音で見下ろしながらそう吐きこぼす。憤怒はピークに達していた。
だが…、実をいうと、皮肉にもカウラの予測は的中していたのだ。天樹が動物達を狩り殺していた理由。それはとどのつまり食事であった。根を使い動物達を捕まえ自らの命の糧とする。
しかし、これは決してカウラを舐めていたわけではない。むしろ逆である。
天樹は己のもとにやってきた謎の二人を相手し、数々の部位を損傷した。たかが人間だと最初はたかを括っていたが、思いの外苦戦を強いられてしまっていることは否めない。
反撃をしようにも二人が速すぎるためなかなか捕まえることができず、さらにはどこから湧いて出てきたのか降り注ぐ多くの落雷によって根の大半にダメージを受けてしまった。
天樹はここまで自らの根を破壊されたことは初めての経験である。人間などちっぽけな存在であり、ただの食料だという固定概念があったが、その人間ごときにここまで追い詰められたことは天樹にとって前代未聞であった。
そこで、天樹は意を決して強硬手段へと試みる。
幸いにも厄介な二人のうち一人は薙ぎ払うことができたため、天樹は隙をみては根を山林の各地へと散会させ、動物達を狩り、食することが敵と立ち向かうための最善の行為だと考えたのだ。
それにより、損傷した部分を少しでも癒すため、持ち前の自己回復能力を底上げするために。
たかが、動物の血肉ではあるが、今できる応急処置だ。それほどまでにここにきた人間二人には苦しめられたということである。
天樹はここにきた謎の二人をもうただの人間だとは意識してはいない。自らを脅かす存在になり得る者たち。この食事は今目の前にいる敵を打ち倒すために己を万全の状態へとする行為だ。
しかし、カウラはそんな考えには辿り着かない。敵前での食事とは余裕がある証拠。
そんなことをされたとなってはたまったものではない。戦士としてのプライドはズタボロだ。
これでもカウラは数々の戦場を生き抜いてきた猛者である。その数々の歴戦の過去に泥を塗られた気がしては戦心は怒りで真っ赤に燃え上がり続けており留まることを知らない。
「…帯なさい」
カウラが空で作り出し、圧縮された電圧は周囲に影響を及ぼしている。雲のある空域で高電圧のプラズマを量産していたため、カウラの周囲には轟音高鳴る雷が発生しているだろう暗雲が立ち込め始めていた。カウラは暗雲のすぐ下に留まり、雷突を天樹に向けて構える。
ービチィィィ!!
すると、カウラの作り出した雷突に向かって暗雲内から激しく音を上げて電撃が浴びせられた。迸る閃光は空に眩く光る白球を生み出しているかのようであり。
カウラの作り出した雷突と暗雲内で生産された大雷が同一化する。はたしてそれはどれほどの電圧を発しているのだろうか。高密度に高圧縮に練られた雷は、天樹へと狙いを定めた。
「大轟の雷突」
カウラはただまっすぐに腕を振り下ろす。凄まじく帯電し、目を開けない程眩く光る雷魂は凄絶な落雷を発生させていた。意識が飛びかけるほどカウラが電撃を練って作り出した雷突に自然界のエネルギーによって生み出された落雷が合わさった一撃。
天樹は上空の光る異変に気付き、すぐさま硬化された根を本体の元へと集め尽くす。この威力に対して生半可な防御では甚大な被害は免れないとでも判断したのか、硬化した根を何本も何百本も重ねに重ね尽くした。
「…爆ぜろ」
天樹のはるか上空で呟かれる言葉。それが誰にも届くことはなく。はたして最強の矛と最高の盾はどちらに軍配があがるのか。
空から天樹を見下ろしたカウラは掠れた声音でただ呟く。思わず目を見開いてまじまじと見つめてしまった。
しかし、カウラが驚愕するのも無理はない。なぜなら、天樹が異様すぎるほどに変色しているのだ。
それまではまだ植物らしく、茶色がかった根がうねうねとしていたが、今、カウラの目に見えるものは赤へと変わった多くの根たちだ。
一体、天樹に何が起こったのか。そのような疑念が頭の中を過ぎる。
しかし、そんな様子でいるカウラだったが、唐突に視界には疑念に対する答えをまじまじと映し出された。
「あ…れは?」
カウラが目にしたもの、それは多くの動物達だった。
いや、もはや生命を絶たれ、動物としての存在を剥奪された屍達。
天樹は動物達を森中から根で絡め取っており、蠢く無数の根の海へと次々に放り込んでいた。放られた多くの残骸は軋みあっている根の中で盛大に締められ、引きちぎられ、縛り上げられてく。根が赤くなった根源とは、殺され血飛沫を撒き散らす動物の死骸から流血したものであった。
いったい、どれほどの動物を狩り殺してきたのだろう。本体からうねり生える根はほぼ赤で染められている。
多くの命が根の中で失われていっていることを物語っていた。
しかし、今、カウラが言及すべき点はそこではない。問題は天樹が多くの動物を狩り殺している意味。この真っ赤に染められた根は何を示して…
ーいや、待て、そもそもこの天樹は生贄を捧げられていると。
カウラは、戦況を見据えながら村で話したことを思い出した。生贄ということは殺されるということ。天樹が人間を殺す理由。それは、
「…食……事…?」
ふと、カウラは天樹の今している行為、それに対して思考し一つの答えを導き出す。根拠はない、だが、人を生贄にするという村の許されざる風習、それはつまり天樹が人間を食する怪物だということが断言できる。
しかし、食するものは人間ではないと駄目なのか、どうなのか。それを論証できるほどの情報素材は今は持ち合わせていない。
けれども可能性で考えるとするならば、天樹が動物を食することができないということは考えにくい。
血肉の成分は動物と人間ではあまり差はないだろう。
「…だと、したら。」
カウラははるか上空から天樹を見下ろした。激昂に満ちた鋭利な眼差しを向けて。
「敵を前にして、食事とは。どこまでも」
ネチネチと、盛大に、これでもかというようにカウラの内から湧き上がる憤怒の情。
それまでも鬱憤は溜まってはいた。しかし、この瞬間天樹の食事行為を見るやいなやカウラの中で何かがプツンときれる音がして。
「……。」
カウラは冷酷非道とも言える瞳を浮かばせ、口を閉じ手中に雷を込める。練りに練って雷電を限界まで圧縮させ、雷同士がえげつなく反発するような雷塊を作り上げる。
無論、心身ともに疲弊しきっているカウラである。
雷を作っている最中に痛みは生じた。それも、決して軽い痛みではない。激痛だ。
腕は神経が激痛の怨嗟を歌っており、手のひらに至っては雷を浴びすぎたせいか少々黒焦げてきていた。
もはや雷と手の感覚の違いなど分からなくなってきている。
しかし、カウラの表情は決して変わりはしなかった。
激痛に耐え難く苦しむなんてことはしない。ただ無造作とも言えるかのような顔を浮かべ、ただただ高密度であり、高圧縮された雷突を作り出す。怒りを体現したかのような大雷はあたりに閃光を撒き散らしていた。
「…覚悟。」
カウラは低い声音で見下ろしながらそう吐きこぼす。憤怒はピークに達していた。
だが…、実をいうと、皮肉にもカウラの予測は的中していたのだ。天樹が動物達を狩り殺していた理由。それはとどのつまり食事であった。根を使い動物達を捕まえ自らの命の糧とする。
しかし、これは決してカウラを舐めていたわけではない。むしろ逆である。
天樹は己のもとにやってきた謎の二人を相手し、数々の部位を損傷した。たかが人間だと最初はたかを括っていたが、思いの外苦戦を強いられてしまっていることは否めない。
反撃をしようにも二人が速すぎるためなかなか捕まえることができず、さらにはどこから湧いて出てきたのか降り注ぐ多くの落雷によって根の大半にダメージを受けてしまった。
天樹はここまで自らの根を破壊されたことは初めての経験である。人間などちっぽけな存在であり、ただの食料だという固定概念があったが、その人間ごときにここまで追い詰められたことは天樹にとって前代未聞であった。
そこで、天樹は意を決して強硬手段へと試みる。
幸いにも厄介な二人のうち一人は薙ぎ払うことができたため、天樹は隙をみては根を山林の各地へと散会させ、動物達を狩り、食することが敵と立ち向かうための最善の行為だと考えたのだ。
それにより、損傷した部分を少しでも癒すため、持ち前の自己回復能力を底上げするために。
たかが、動物の血肉ではあるが、今できる応急処置だ。それほどまでにここにきた人間二人には苦しめられたということである。
天樹はここにきた謎の二人をもうただの人間だとは意識してはいない。自らを脅かす存在になり得る者たち。この食事は今目の前にいる敵を打ち倒すために己を万全の状態へとする行為だ。
しかし、カウラはそんな考えには辿り着かない。敵前での食事とは余裕がある証拠。
そんなことをされたとなってはたまったものではない。戦士としてのプライドはズタボロだ。
これでもカウラは数々の戦場を生き抜いてきた猛者である。その数々の歴戦の過去に泥を塗られた気がしては戦心は怒りで真っ赤に燃え上がり続けており留まることを知らない。
「…帯なさい」
カウラが空で作り出し、圧縮された電圧は周囲に影響を及ぼしている。雲のある空域で高電圧のプラズマを量産していたため、カウラの周囲には轟音高鳴る雷が発生しているだろう暗雲が立ち込め始めていた。カウラは暗雲のすぐ下に留まり、雷突を天樹に向けて構える。
ービチィィィ!!
すると、カウラの作り出した雷突に向かって暗雲内から激しく音を上げて電撃が浴びせられた。迸る閃光は空に眩く光る白球を生み出しているかのようであり。
カウラの作り出した雷突と暗雲内で生産された大雷が同一化する。はたしてそれはどれほどの電圧を発しているのだろうか。高密度に高圧縮に練られた雷は、天樹へと狙いを定めた。
「大轟の雷突」
カウラはただまっすぐに腕を振り下ろす。凄まじく帯電し、目を開けない程眩く光る雷魂は凄絶な落雷を発生させていた。意識が飛びかけるほどカウラが電撃を練って作り出した雷突に自然界のエネルギーによって生み出された落雷が合わさった一撃。
天樹は上空の光る異変に気付き、すぐさま硬化された根を本体の元へと集め尽くす。この威力に対して生半可な防御では甚大な被害は免れないとでも判断したのか、硬化した根を何本も何百本も重ねに重ね尽くした。
「…爆ぜろ」
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