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第一章 怖くて偉大で大きな木
20.大樹戦 血の森
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「なんって…ことを…!」
カウラは森山の奥を凝視し、言葉を吐き捨てた。瞳が見据える先はラザクが落ちていったと思われる部分。しかし、視界には男の姿は映ることなどなく、鬱蒼とそびえ立つ木々しか目に入らなかった。
ラザクのことなので一撃でやられるなんてことはないとは思うのだが、大根に凄絶に叩きつけられ安否が不明というのは過度な心配をせざるを得ない。
ーなぜ、私をかばうなどと。
カウラはラザクの行動に対し腑に落ちないといった風だ。理解できず、疑問を持ち、また、ラザクに対して怒りの情さえも持ち合わせた。
「あなたがいなくては、勝てるものも勝てないでしょう…!」
カウラは今この場にいない男に対し、怒声を吐く。
しかし、その声音は空中へと無残にもかっ消えてしまう。ただ一人で嘆いても仕方がない。
だが、ただ怒るだけのカウラではない。
それもそのはず、ラザクの行為は称賛に値するものだ。味方を庇い、味方を救った。
あのままでは死んでいたのはカウラの方かもしれないのだ。仲間としては誇りを持たざるを得ない。
しかし、カウラを庇ったラザクが命を絶つなんてことがあったら…
「無事じゃなかったら、承知しませんよ。」
戦士としてのプライド。庇われたという事実。相対する敵に対しての戦力差。様々な事柄が思考を加熱する。
しかし、現実は余裕を許さない。
「…っ!」
正直、罵声を吐き散らしたい状況であるが、時間というものは待ってはくれない。
先ほどまで二人を脅かしつづけている天樹の根は健在だ。
一人をぶっ放し、ある程度余裕でも見せるかの様子の天樹は根を集め、攻撃対象を決めつける。
狙うものはもちろんカウラ一人だ。
「くそっ!」
カウラは天樹に向けて鋭利な眼差しで睨みつけながらも、逃避行為を開始する。
こんな現状ではあるが、カウラの雷纏のスピードではギリギリ撒けるか撒けないかといったところか。
一人になった分、これまで以上に賢く最善の方法で逃げなければ。
しかし、雷纏状態が長く続くとリスクが生まれることは免れないのは現状であり、
「…あぐぅっ!」
痺れるような鋭い痛みにカウラは思わず声を吐く。
身体への負担は限界を迎えていた。四肢の節々に痛みが発生しており、全身に痛覚が響き渡っている。
電撃を纏うということが人体に影響を与えないわけがないのだ。
フルスピードで動き続ければ、それこそ身体への負担は増築されていく。
けれど、この状態を解くわけにはいかない。相手が相手だ。無理をする以外、選択肢はない。
「全くもって、最悪ですね…」
カウラは怒っていた。
憤怒を表へとさらけ出し、穏和とはかけ離れた鋭い怒気の瞳を携える。
怒りの矛先はどこなのか。相対する天樹にか、この場にいないラザクに対してか、この身を苛み続ける痛覚に対してか、どうしようもないこの現状に対してか。
ただむしゃくしゃし、脳内を憤怒が網羅する。
二人から一人になったということで、ますます打つ手がなくなった。死の可能性が格段に上がる。
「……ちぃっ!」
カウラは唾を吐きこぼしながら、天樹の根から背を向ける。
それも仕方がない。今できることは逃げることだけなのだから。
カウラの雷突は天樹に効果がない。唯一、天樹にダメージを負わせた広範囲攻撃もおそらく分裂させた根によって無力化されるだろう。あれだけ損傷させることのできた攻撃も今となっては無意味となった。
つまり、今行うべき行為は逃げること、それ以外はないのだ。
とにかく、足を動かし、腕を振り続け、この場から離れなければ。
しかし、
「…………?」
そんな心境の中、、ふと、カウラは不可解に感じることがあって。
天樹から逃げるカウラ、それを追う無数の根。そのような光景が続いているが。
「………おかしい。」
カウラはこの状況を疑問に思う。
なぜなら、天樹の追跡に脅威さが感じられない。否、追いつかれた後の死、根から生み出される恐ろしさは相変わらず健在なのではあるのだが、
この追う追われるの状況が変わらないのだ。
追跡対象が二人から一人になったことで、天樹からしたらカウラを捕まえやすくなった筈である。
それなのに、天樹の根が追跡するスピードは変化しておらず、根の本数も変わらない。
なんなら、追跡する根の数は減っているのではなかろうか。
ーどういうこと?
カウラは隙を見て後ろを見返す。相変わらず無数の根はカウラを追ってきてはいるが、明らかに天樹の根の数にしては少なかった。
ならば今、カウラを追っていない、他の根たちは一体何をしている?
「キィィィィッ!!」
「…!?」
「カァァァァッ!!」
「…なに?」
突如、カウラの耳につんざくような叫び声、否、鳴き声がどこからともなく聞こえてくる。それは一回、二回ではない。多くの奇声がどこからともなく叫び上がっている。
「…一体なにが起きて…?」
そんな奇声が漂う森にカウラは動揺を隠せない。
すると、そんな心境の中ふと逃げている右斜め前に木々の隙間から一匹の鹿がカウラの視界に入った。
テクテクと草むらを歩いている鹿がいる。
だが、
ーザシュッ!
「……なっ?」
一瞬の出来事である。
視界の先で歩いていた鹿は突然根に突き刺され絡め取られ、どこか遠くへと持ってかれた。鹿のいた場には鹿の血痕のみがポタポタと落ちている。鹿は少しも抗うこともできず無残にもその場から姿を消してしまった。
一体、鹿はどこへと連れ去られたのか。
いや、それよりも天樹が鹿を連れ去る理由とは。
「ギリィィィィッ!」
「…ッ⁈」
また、奇声が森中に鳴り響く。先ほどから悲惨とも受け取れる鳴き声が森中で連呼し続けていた。
「…さっきのようなことが他の場でも?」
カウラは疲弊しきった頭の中で状況を整理する。
天樹が森中の動物達を狩り続けている。さっきからの奇声はその動物達のものだろう。
だが、天樹の真意が理解できない。
なぜ、今、動物達を狩る?
「…確かめるしか」
敵の真意を知るためにカウラは行動を変える。逃げながらも空を見上げ、目前にある大岩を盛大に蹴り上げた。そして、行先を上へと移動し、森内から上空へと向かう。
雷纏の力を使い、空を蹴り、上へ上へと駆け上がっていく。天樹の本体が見渡せるくらいの上空まで。
「はぁ、はぁ、…」
雲にも届きうるかと思われるくらいまで駆け上がり、カウラは下を見下ろした。
なぜか今回、天樹の根はカウラを追ってきてはいない。天樹の真意が理解できないがそれはそれで好都合。息を整えながらカウラは視線を下へと向ける。
そこには、
「……⁈」
本体の根の部分を中心にして広がるように真っ赤に染められた天樹の姿が拝見できたのであった。
カウラは森山の奥を凝視し、言葉を吐き捨てた。瞳が見据える先はラザクが落ちていったと思われる部分。しかし、視界には男の姿は映ることなどなく、鬱蒼とそびえ立つ木々しか目に入らなかった。
ラザクのことなので一撃でやられるなんてことはないとは思うのだが、大根に凄絶に叩きつけられ安否が不明というのは過度な心配をせざるを得ない。
ーなぜ、私をかばうなどと。
カウラはラザクの行動に対し腑に落ちないといった風だ。理解できず、疑問を持ち、また、ラザクに対して怒りの情さえも持ち合わせた。
「あなたがいなくては、勝てるものも勝てないでしょう…!」
カウラは今この場にいない男に対し、怒声を吐く。
しかし、その声音は空中へと無残にもかっ消えてしまう。ただ一人で嘆いても仕方がない。
だが、ただ怒るだけのカウラではない。
それもそのはず、ラザクの行為は称賛に値するものだ。味方を庇い、味方を救った。
あのままでは死んでいたのはカウラの方かもしれないのだ。仲間としては誇りを持たざるを得ない。
しかし、カウラを庇ったラザクが命を絶つなんてことがあったら…
「無事じゃなかったら、承知しませんよ。」
戦士としてのプライド。庇われたという事実。相対する敵に対しての戦力差。様々な事柄が思考を加熱する。
しかし、現実は余裕を許さない。
「…っ!」
正直、罵声を吐き散らしたい状況であるが、時間というものは待ってはくれない。
先ほどまで二人を脅かしつづけている天樹の根は健在だ。
一人をぶっ放し、ある程度余裕でも見せるかの様子の天樹は根を集め、攻撃対象を決めつける。
狙うものはもちろんカウラ一人だ。
「くそっ!」
カウラは天樹に向けて鋭利な眼差しで睨みつけながらも、逃避行為を開始する。
こんな現状ではあるが、カウラの雷纏のスピードではギリギリ撒けるか撒けないかといったところか。
一人になった分、これまで以上に賢く最善の方法で逃げなければ。
しかし、雷纏状態が長く続くとリスクが生まれることは免れないのは現状であり、
「…あぐぅっ!」
痺れるような鋭い痛みにカウラは思わず声を吐く。
身体への負担は限界を迎えていた。四肢の節々に痛みが発生しており、全身に痛覚が響き渡っている。
電撃を纏うということが人体に影響を与えないわけがないのだ。
フルスピードで動き続ければ、それこそ身体への負担は増築されていく。
けれど、この状態を解くわけにはいかない。相手が相手だ。無理をする以外、選択肢はない。
「全くもって、最悪ですね…」
カウラは怒っていた。
憤怒を表へとさらけ出し、穏和とはかけ離れた鋭い怒気の瞳を携える。
怒りの矛先はどこなのか。相対する天樹にか、この場にいないラザクに対してか、この身を苛み続ける痛覚に対してか、どうしようもないこの現状に対してか。
ただむしゃくしゃし、脳内を憤怒が網羅する。
二人から一人になったということで、ますます打つ手がなくなった。死の可能性が格段に上がる。
「……ちぃっ!」
カウラは唾を吐きこぼしながら、天樹の根から背を向ける。
それも仕方がない。今できることは逃げることだけなのだから。
カウラの雷突は天樹に効果がない。唯一、天樹にダメージを負わせた広範囲攻撃もおそらく分裂させた根によって無力化されるだろう。あれだけ損傷させることのできた攻撃も今となっては無意味となった。
つまり、今行うべき行為は逃げること、それ以外はないのだ。
とにかく、足を動かし、腕を振り続け、この場から離れなければ。
しかし、
「…………?」
そんな心境の中、、ふと、カウラは不可解に感じることがあって。
天樹から逃げるカウラ、それを追う無数の根。そのような光景が続いているが。
「………おかしい。」
カウラはこの状況を疑問に思う。
なぜなら、天樹の追跡に脅威さが感じられない。否、追いつかれた後の死、根から生み出される恐ろしさは相変わらず健在なのではあるのだが、
この追う追われるの状況が変わらないのだ。
追跡対象が二人から一人になったことで、天樹からしたらカウラを捕まえやすくなった筈である。
それなのに、天樹の根が追跡するスピードは変化しておらず、根の本数も変わらない。
なんなら、追跡する根の数は減っているのではなかろうか。
ーどういうこと?
カウラは隙を見て後ろを見返す。相変わらず無数の根はカウラを追ってきてはいるが、明らかに天樹の根の数にしては少なかった。
ならば今、カウラを追っていない、他の根たちは一体何をしている?
「キィィィィッ!!」
「…!?」
「カァァァァッ!!」
「…なに?」
突如、カウラの耳につんざくような叫び声、否、鳴き声がどこからともなく聞こえてくる。それは一回、二回ではない。多くの奇声がどこからともなく叫び上がっている。
「…一体なにが起きて…?」
そんな奇声が漂う森にカウラは動揺を隠せない。
すると、そんな心境の中ふと逃げている右斜め前に木々の隙間から一匹の鹿がカウラの視界に入った。
テクテクと草むらを歩いている鹿がいる。
だが、
ーザシュッ!
「……なっ?」
一瞬の出来事である。
視界の先で歩いていた鹿は突然根に突き刺され絡め取られ、どこか遠くへと持ってかれた。鹿のいた場には鹿の血痕のみがポタポタと落ちている。鹿は少しも抗うこともできず無残にもその場から姿を消してしまった。
一体、鹿はどこへと連れ去られたのか。
いや、それよりも天樹が鹿を連れ去る理由とは。
「ギリィィィィッ!」
「…ッ⁈」
また、奇声が森中に鳴り響く。先ほどから悲惨とも受け取れる鳴き声が森中で連呼し続けていた。
「…さっきのようなことが他の場でも?」
カウラは疲弊しきった頭の中で状況を整理する。
天樹が森中の動物達を狩り続けている。さっきからの奇声はその動物達のものだろう。
だが、天樹の真意が理解できない。
なぜ、今、動物達を狩る?
「…確かめるしか」
敵の真意を知るためにカウラは行動を変える。逃げながらも空を見上げ、目前にある大岩を盛大に蹴り上げた。そして、行先を上へと移動し、森内から上空へと向かう。
雷纏の力を使い、空を蹴り、上へ上へと駆け上がっていく。天樹の本体が見渡せるくらいの上空まで。
「はぁ、はぁ、…」
雲にも届きうるかと思われるくらいまで駆け上がり、カウラは下を見下ろした。
なぜか今回、天樹の根はカウラを追ってきてはいない。天樹の真意が理解できないがそれはそれで好都合。息を整えながらカウラは視線を下へと向ける。
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