14 / 36
第一章 怖くて偉大で大きな木
13.大樹戦 挨拶
しおりを挟む
二人は颯爽と木の枝に立つ。目の前にそびえ立ち、存在を発揮している大樹を凝視する。
「どうしますか。ラザク。」
「そうだな」
カウラは一声かけてラザクの方を向く。
ラザクは愛刀を手に持ち、臨戦態勢に入っていた。顔には笑いが見え、童のように待ちきれないといった様子だ。
カウラは頭の中で戦況を整理する。どのように天樹と渡り合うか、軽んじて相対したら命の保証はできない敵だ。しっかりと対策を立てるに越したことはないだろう。
だが、ラザクはカウラのそんな心境になど目もくれなかった。
刀を担いだかと思うと、
「まずは、挨拶だな」
と天樹を見ながら、構えを取った。
「挨拶?」
カウラは言葉の真意がわからずキョトンと首をひねる。が、ラザクはそんなの関係なしに天樹に向かって飛躍した。
「…⁈」
カウラはいきなり横の男がとった行動に目を見開く。
「おらぁ!これでも喰らっとけ!」
ラザクは空中で飛翔したまま上段の構えで刀を握る。すると、刀身が紅の色のように光ったかと思うと、刀に炎が纏われた。
刀に纏った炎は刀身のリーチより長く、業々と燃え盛っており、触れたもの全て焼き尽くすかのようである。
ラザクは炎を纏った刀をそのまま振り下ろし、豪炎を天樹に向かって薙ぎ払う。高熱を帯びた炎の塊が大木に向かって放たれた。
メラメラと燃え盛る塊は大木に辿り着くと、否応無しに、触れる全てを焼き尽くさんとする。バチバチといった轟音を立て、紅蓮の光景を作り上げる。
「はぁ!木偶がぁ!」
「ラザク!」
ラザクが攻撃をくらわした瞬間、下から焦燥感の含まれた声がかけられる。
ラザクにその声音が耳に入った瞬間と、本能が直感的に危険を察知したのは同時だった。
「ぐぅっ…!」
空にいたラザクの元に一つの巨大すぎる根が襲いかかる。地から勢いをつけ、ラザクへと迫ってきたのだ。
致命的な大傷を避けるためラザクは無理やり腕で防ごうとしたが、巨大な根は問答無用にラザクの身体を叩き払う。そのまま、地に叩き落とされたラザクを天樹は二つ目の根を使い、ラザクの身体を縛り付け、
「がぁっ………、くそっ、が…」
縛り付ける力は人間程度では計り知れないほどの剛力だ。ラザクの腕が、胴体が、キシキシと悲鳴をあげる。
「はぁぁ!!」
突如、ラザクを縛り付けた根の元に槍のような電撃が突き刺さる。
カウラの放った雷の一撃。人呼んで「雷突」。カウラの得意技の一つだ。電撃は根を痺れさせ、動きを硬直させた。
「おらぁ!!」
ラザクは根が縛り付ける力を一瞬無くしたことを感知し、持ち前の腕力と刀を使い、根の縛りから無理矢理脱出する。
「うひょあー、焦ったぜ。少し。」
ラザクはカウラのいる所に降り立ち、天樹に直接、盛大に叩き払われた腕をぶらぶらとさせる。そんな様子を見、カウラは今日何度目なのかわからない不満気な表情をラザクに向けた。
「どうして、あなたは身勝手に行動してしまうのですか。一緒にいる者のことも少しは考えてください。」
「別に勝手じゃねえだろ。言ったろ?挨拶するって」
「あなたの常識はどうなっているのですか。」
ラザクは眉を上げて自分したことの愚かさに気づけていないようである。「炎をぶっ放す事が挨拶なのですか?」という指摘したい気はあったが、この男に言っても無意味かと思い吐き出さず、カウラは嘆息気味に呟いた。
「別にいいだろ。無事だったんだし。それより見ろよあれ。」
「誰のおかげで無事だったと。……………?」
カウラは愚痴をこぼすように言い、ラザクの指差したものを見る。それを見ると、不可解な点が見受けられた。
「………私は、割と本気で打ちましたよ。」
「それは、間近で見たから俺も知ってる。けどな、根っこさんは焼かれて焦げただけって感じだな。」
二人の見たものは先ほどラザクを縛り付けた根をカウラが槍のような雷撃で撃ち放った残骸である。根に直撃した部分は表面は焦げてこそいるものの折れたり、貫通などはしていなかった。
「雷突が効いていないというのは結構こたえますね。」
「そう、僻むなよ。お前の雷が尋常じゃない威力だってのは俺がよく知ってる。それで、あの被害ってことは、あの天樹とやらが異常すぎるほどに現実離れしてるってことだ。」
「そうですね。全く、教官もどれほど厄介な任務を私達にやらせるのか。」
カウラは額に手を当てて溜息を出しつつ、状況を見定め、なんとか打開策はないかと思案する。
どうやら、今回の相手は相当手がかかるようだ。
「そういや。」
「?どうしました。ラザク。」
カウラの横でラザクが眉をひそめ、考え込む。そんな様子を見かねたカウラが話しかける。
「いやぁよ、さっき俺がくらわせた炎はどこいった?」
「え?」
カウラとラザクは揃って天樹を見る。しかし、先程までラザクが挨拶だと言い、メラメラと燃えゆる業火を放った所には炎はない。
そこには、焦げた燃え後すら残っていなかった。
「どうしますか。ラザク。」
「そうだな」
カウラは一声かけてラザクの方を向く。
ラザクは愛刀を手に持ち、臨戦態勢に入っていた。顔には笑いが見え、童のように待ちきれないといった様子だ。
カウラは頭の中で戦況を整理する。どのように天樹と渡り合うか、軽んじて相対したら命の保証はできない敵だ。しっかりと対策を立てるに越したことはないだろう。
だが、ラザクはカウラのそんな心境になど目もくれなかった。
刀を担いだかと思うと、
「まずは、挨拶だな」
と天樹を見ながら、構えを取った。
「挨拶?」
カウラは言葉の真意がわからずキョトンと首をひねる。が、ラザクはそんなの関係なしに天樹に向かって飛躍した。
「…⁈」
カウラはいきなり横の男がとった行動に目を見開く。
「おらぁ!これでも喰らっとけ!」
ラザクは空中で飛翔したまま上段の構えで刀を握る。すると、刀身が紅の色のように光ったかと思うと、刀に炎が纏われた。
刀に纏った炎は刀身のリーチより長く、業々と燃え盛っており、触れたもの全て焼き尽くすかのようである。
ラザクは炎を纏った刀をそのまま振り下ろし、豪炎を天樹に向かって薙ぎ払う。高熱を帯びた炎の塊が大木に向かって放たれた。
メラメラと燃え盛る塊は大木に辿り着くと、否応無しに、触れる全てを焼き尽くさんとする。バチバチといった轟音を立て、紅蓮の光景を作り上げる。
「はぁ!木偶がぁ!」
「ラザク!」
ラザクが攻撃をくらわした瞬間、下から焦燥感の含まれた声がかけられる。
ラザクにその声音が耳に入った瞬間と、本能が直感的に危険を察知したのは同時だった。
「ぐぅっ…!」
空にいたラザクの元に一つの巨大すぎる根が襲いかかる。地から勢いをつけ、ラザクへと迫ってきたのだ。
致命的な大傷を避けるためラザクは無理やり腕で防ごうとしたが、巨大な根は問答無用にラザクの身体を叩き払う。そのまま、地に叩き落とされたラザクを天樹は二つ目の根を使い、ラザクの身体を縛り付け、
「がぁっ………、くそっ、が…」
縛り付ける力は人間程度では計り知れないほどの剛力だ。ラザクの腕が、胴体が、キシキシと悲鳴をあげる。
「はぁぁ!!」
突如、ラザクを縛り付けた根の元に槍のような電撃が突き刺さる。
カウラの放った雷の一撃。人呼んで「雷突」。カウラの得意技の一つだ。電撃は根を痺れさせ、動きを硬直させた。
「おらぁ!!」
ラザクは根が縛り付ける力を一瞬無くしたことを感知し、持ち前の腕力と刀を使い、根の縛りから無理矢理脱出する。
「うひょあー、焦ったぜ。少し。」
ラザクはカウラのいる所に降り立ち、天樹に直接、盛大に叩き払われた腕をぶらぶらとさせる。そんな様子を見、カウラは今日何度目なのかわからない不満気な表情をラザクに向けた。
「どうして、あなたは身勝手に行動してしまうのですか。一緒にいる者のことも少しは考えてください。」
「別に勝手じゃねえだろ。言ったろ?挨拶するって」
「あなたの常識はどうなっているのですか。」
ラザクは眉を上げて自分したことの愚かさに気づけていないようである。「炎をぶっ放す事が挨拶なのですか?」という指摘したい気はあったが、この男に言っても無意味かと思い吐き出さず、カウラは嘆息気味に呟いた。
「別にいいだろ。無事だったんだし。それより見ろよあれ。」
「誰のおかげで無事だったと。……………?」
カウラは愚痴をこぼすように言い、ラザクの指差したものを見る。それを見ると、不可解な点が見受けられた。
「………私は、割と本気で打ちましたよ。」
「それは、間近で見たから俺も知ってる。けどな、根っこさんは焼かれて焦げただけって感じだな。」
二人の見たものは先ほどラザクを縛り付けた根をカウラが槍のような雷撃で撃ち放った残骸である。根に直撃した部分は表面は焦げてこそいるものの折れたり、貫通などはしていなかった。
「雷突が効いていないというのは結構こたえますね。」
「そう、僻むなよ。お前の雷が尋常じゃない威力だってのは俺がよく知ってる。それで、あの被害ってことは、あの天樹とやらが異常すぎるほどに現実離れしてるってことだ。」
「そうですね。全く、教官もどれほど厄介な任務を私達にやらせるのか。」
カウラは額に手を当てて溜息を出しつつ、状況を見定め、なんとか打開策はないかと思案する。
どうやら、今回の相手は相当手がかかるようだ。
「そういや。」
「?どうしました。ラザク。」
カウラの横でラザクが眉をひそめ、考え込む。そんな様子を見かねたカウラが話しかける。
「いやぁよ、さっき俺がくらわせた炎はどこいった?」
「え?」
カウラとラザクは揃って天樹を見る。しかし、先程までラザクが挨拶だと言い、メラメラと燃えゆる業火を放った所には炎はない。
そこには、焦げた燃え後すら残っていなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
斑鳩いかるのシンリョウジョ
ちきりやばじーな
ファンタジー
特殊能力の発現・取り扱いにお悩みの方へ
特殊症状の診断を受けてみませんか?
斑鳩シンリョウジョでは症状の改善・サポートを行っています!
まずはお気軽にご相談ください!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる