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プロローグ
洗脳スキルを得ました
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――――カンビロノ大監獄。
それは間違いなくこの国で最も大きな投獄だった。
この国で最も大きな罪は死刑だが、その判決が下るのは極めて稀だ。
例えば王族殺しや、首都一つが滅ぶほどのテロ行為など、この国に直接影響を与えるようなことをしない限り、犯罪者はこの大監獄に送られる。
そして俺は、死刑に次に重いとされる罪、この大監獄での終身刑を下された。
つまりは、俺は死ぬまでこの大監獄で過ごさなければならないのだ。
「ロベルト・ワイズ。今日からここがお前の牢獄だ。せいぜい大人しく過ごすんだな」
ガチャン、と重い音が牢屋に響く。
聖騎士長を殺したとされた俺は、一級犯罪者と定められ、常に見張りがつくのだそうだ。
犯罪者の等級はそれぞれがやった罪の危険度によって決められる。
聖騎士長などの有力者を殺した者や、複数の殺人を行った者など、『放っておいたらヤバイ』と思われる人間だ。
……だが、俺は、もう既に何度も言っているが……俺は! やっていない!
聖騎士長殺しどころか生まれてこのかた、何一つ犯罪など犯していない!
むしろ村の仕事は文句を言わずに頑張ったし、困っている人がいればすかさず助けたし(全部裏目に出たけど)、人の迷惑にならないようひっそりと過ごしていた!
なのに、何故。
何故……!
今までの善行は全てなんの意味もなかった。
いつか俺のこともわかってもらえるとひたすらに信じ続けていた哀れな俺に訪れたのは、これ以上ないくらいの仕打ち。
俺の人生、殺人の冤罪で終了とか。笑える。笑えるなんてもんじゃない。最早大爆笑だ。
「わっはははっ! わーっはっはっは!」
「うるさい! 静かにしろ!」
するとすぐさま看守から怒鳴られた。
クソッ、ここじゃ声を出して笑うこともできないのかよ。
この大監獄では本当のやることがなかった。
投獄されている犯罪者なら普通昼は与えられた仕事をこなさなくてはならないのだが、一級犯罪者はこれに当てはまらない。
何しろ最重要危険物扱いだ。
外に出すことさえ許されないのだ。
したがって一日中牢屋の中でじっとしている他ない。
少しでも身体を動かそうものならすぐに看守の目が光るし、声を出した瞬間『うるさい!』と怒鳴られる。
しかし人間ずっとこんなくらい監獄の中何もしないでいることに耐えられるはずがなく、先程ついにおかしくなった奴が突然笑い出したが、それすらも禁止された。って俺か。
さあ、どうしようか。本当にやることがない。
もういつ気が狂ってもおかしくない。一級犯罪者には俺の他にもう一人いるらしいが、そいつはどうやってこの地獄を過ごしているのだろう。
耳を澄ませてもそいつの声なんて全く聞こえないし、こことは違うエリアにいるのだろうか。
……まあ今はそんなことどうでもいい。
もうこの牢屋でできる思いつく限りのことはしてしまったし、あとできることと言えば……神を呪うことくらいか。
よく考えればそうだ。
俺がこんな悲惨な人生を送ることになってしまったのは俺のせいじゃない。
まあ強いていうならこの極悪ヅラのせいだろうが、やはりそれだって俺のせいではない。
全ては神。こんな理不尽な世界を作った神が悪いのだ。
だってそうだろ? 今までいつか報われることを信じて頑張ってきた俺に対しこの仕打ち。
まさしく『裏切られた』って感じだ。
よし、そうと決まればとことん呪ってやる。三日三晩寝ずに恨み言を吐いてやる。
幸い看守は大きな声さえ出さなきゃ反応することはない。多少ブツブツ言っても問題はないだろう。
俺は意外と執念深かったらしい。
三日三晩とは言わず、一週間もの間一心不乱に神を呪っていた。
俺をこんな目にあわせた神を。
俺をこんな世界に生み出した神を。
ただひたすら、寝ることも惜しまず。
そして丁度一週間に差し掛かった頃、プツリと意識が途切れた。
ついに電池切れを起こしたようだ。まあそりゃそうか、一週間まともに食わず眠らず……逆によくここまで持ったものだ。
人間の執着ってのは恐ろしいな。
そして泥のように眠る中―――夢を見た。
性別もわからないくらい幼い子どもが泣いている夢だ。
その子どもは泣きながら頻りに謝っていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、わざとじゃないんです。あなたを酷い目にあわせようとしたわけじゃないんです。ごめんなさい、許してください」
流れている涙を拭いながら一生懸命に訴えかけている子ども。
誰だ、こんな小さな子どもを泣かせているのは……。
そう思い、慰めようと子どもに手を差し伸べる。――――が。
「ひっ」
子どもは小さく悲鳴を漏らし俺の手を躱した。
……ふっ、そうか、夢の中でも俺の犯罪者顔は健在なんだな。なんて自嘲が溢れる。
何もしてなくても怯えられる……こんなこともう慣れたはずなのに、俺はまだ諦めていないのか胸がチクリと痛む。
すると、子どもは一旦泣くのをやめて俺を正面から見据えた。
「あの……僕がこんなこと言うのもあれですけど、少しでも罪滅ぼしさせてください」
「罪滅ぼし?」
「はい。この悲惨な状況から抜け出すお手伝いをできれば……と」
悲惨な状況……とは、この大監獄のことだろうか。
おかしな夢だ。俺の願望から生まれているのだろうが、この状況から抜け出すなどと。
カンビロノ大監獄はその規模もさることながら、一度入ってしまえば二度と出られることはないと有名な絶対の守りを誇っている。
そんな絶対要塞からどうやって……。
「ていっても、僕ができることはスキルを与えるくらいだけど……」
「スキル?」
「そう、個人が持つことができる独特の能力。使い方次第で毒にも薬にもなります」
なんか子どもがわけわからないこと言い始めた。
スキルってなんだ?聞いたことないけど。
「まあ村人のあなたには一生関係のない能力でしょうけど……」
ねえ、今馬鹿にされたよね?俺こんな小さな子どもに馬鹿にされたよね?
「でも安心してください!僕の力を持ってすればあなたみたいな村人にもスキルの一つや二つ与えることなんて朝飯前です!」
「あーはいはい。もういいから。この状況抜け出すことなんてまず不可能だし」
てか夢なのにコイツ煩いな。俺の願望が生み出した存在の筈なのにまるで自我を持っているみたいだ。
翌日友達に言ったら笑い飛ばされるやつだな。まあ友達なんていないけど。
「まあまあ。嘘だと思って受け取ってみてください。その名も『洗脳スキル』。これさえあれば人を意のままに操ることができます」
「っ!」
いやこっわ‼︎ なんだその恐ろしいスキル⁉︎
意のままに操るって……まさしくチートじゃん。コイツ夢だからって調子乗りすぎだろ。
「いらねーよそんな胡散臭いもの。洗脳とか、まだ小さいガキがそんな不埒なこと言うんじゃない」
「僕、403歳だけど」
「嘘つけ」
つくにしてももっとマシな嘘つけよ。
なんだ403歳って。
……って俺は何自分の夢にツッコミ入れてるんだ。もうこんなわけわかんない夢早く覚めてくんねーかな。
「そんなことより! ほら! 受け取ってくださいよ! 洗脳スキル! ほらほらほら!」
「あーもう! わかったよ! わかったから!」
なんなんだこのガキは。さっきあんなに号泣して俺にビビってたくせに態度急変しすぎだろ。
「やったぁ! じゃあ早速使い方を説明しますね! まあ使い方と言っても簡単です。対象に口で命令すればいいだけ。そうすると相手は自分の意思関係なしにあなたの命令をこなそうとします。相手に洗脳されているという自覚はありません。さらに――」
改めて聞くとやっぱり怖い能力だな。まあ夢だけど。なんでこの子どもはそんな怖いことを次から次へと話せるんだ。どんな人生送ってきたんだ?
まあ夢の中の架空人物にそんなこと思っても無駄だな。ていうかこの場合俺の意識が反映されてるんだから俺の過去が壮絶だっただけじゃん。
「――と、いうわけです。わかりましたか?」
「ああ」
まあ半分以上聞き流していたが問題ないだろう。夢なんだから。
「では最後に。このスキルは一度発動するともう取り消せません。内容はよく考えてください」
「はいはい」
よし、やっと終わりか。長い説明だった。
よほど誰かと喋りたかったのだろうか。なんて寂しいんだ俺。
まあコイツのおかげで久しぶりに人と話せた満足感はある。夢だけど。
「ではこのスキルで人生もう一度頑張ってください! もう僕を呪わないでくださいね!」
それは間違いなくこの国で最も大きな投獄だった。
この国で最も大きな罪は死刑だが、その判決が下るのは極めて稀だ。
例えば王族殺しや、首都一つが滅ぶほどのテロ行為など、この国に直接影響を与えるようなことをしない限り、犯罪者はこの大監獄に送られる。
そして俺は、死刑に次に重いとされる罪、この大監獄での終身刑を下された。
つまりは、俺は死ぬまでこの大監獄で過ごさなければならないのだ。
「ロベルト・ワイズ。今日からここがお前の牢獄だ。せいぜい大人しく過ごすんだな」
ガチャン、と重い音が牢屋に響く。
聖騎士長を殺したとされた俺は、一級犯罪者と定められ、常に見張りがつくのだそうだ。
犯罪者の等級はそれぞれがやった罪の危険度によって決められる。
聖騎士長などの有力者を殺した者や、複数の殺人を行った者など、『放っておいたらヤバイ』と思われる人間だ。
……だが、俺は、もう既に何度も言っているが……俺は! やっていない!
聖騎士長殺しどころか生まれてこのかた、何一つ犯罪など犯していない!
むしろ村の仕事は文句を言わずに頑張ったし、困っている人がいればすかさず助けたし(全部裏目に出たけど)、人の迷惑にならないようひっそりと過ごしていた!
なのに、何故。
何故……!
今までの善行は全てなんの意味もなかった。
いつか俺のこともわかってもらえるとひたすらに信じ続けていた哀れな俺に訪れたのは、これ以上ないくらいの仕打ち。
俺の人生、殺人の冤罪で終了とか。笑える。笑えるなんてもんじゃない。最早大爆笑だ。
「わっはははっ! わーっはっはっは!」
「うるさい! 静かにしろ!」
するとすぐさま看守から怒鳴られた。
クソッ、ここじゃ声を出して笑うこともできないのかよ。
この大監獄では本当のやることがなかった。
投獄されている犯罪者なら普通昼は与えられた仕事をこなさなくてはならないのだが、一級犯罪者はこれに当てはまらない。
何しろ最重要危険物扱いだ。
外に出すことさえ許されないのだ。
したがって一日中牢屋の中でじっとしている他ない。
少しでも身体を動かそうものならすぐに看守の目が光るし、声を出した瞬間『うるさい!』と怒鳴られる。
しかし人間ずっとこんなくらい監獄の中何もしないでいることに耐えられるはずがなく、先程ついにおかしくなった奴が突然笑い出したが、それすらも禁止された。って俺か。
さあ、どうしようか。本当にやることがない。
もういつ気が狂ってもおかしくない。一級犯罪者には俺の他にもう一人いるらしいが、そいつはどうやってこの地獄を過ごしているのだろう。
耳を澄ませてもそいつの声なんて全く聞こえないし、こことは違うエリアにいるのだろうか。
……まあ今はそんなことどうでもいい。
もうこの牢屋でできる思いつく限りのことはしてしまったし、あとできることと言えば……神を呪うことくらいか。
よく考えればそうだ。
俺がこんな悲惨な人生を送ることになってしまったのは俺のせいじゃない。
まあ強いていうならこの極悪ヅラのせいだろうが、やはりそれだって俺のせいではない。
全ては神。こんな理不尽な世界を作った神が悪いのだ。
だってそうだろ? 今までいつか報われることを信じて頑張ってきた俺に対しこの仕打ち。
まさしく『裏切られた』って感じだ。
よし、そうと決まればとことん呪ってやる。三日三晩寝ずに恨み言を吐いてやる。
幸い看守は大きな声さえ出さなきゃ反応することはない。多少ブツブツ言っても問題はないだろう。
俺は意外と執念深かったらしい。
三日三晩とは言わず、一週間もの間一心不乱に神を呪っていた。
俺をこんな目にあわせた神を。
俺をこんな世界に生み出した神を。
ただひたすら、寝ることも惜しまず。
そして丁度一週間に差し掛かった頃、プツリと意識が途切れた。
ついに電池切れを起こしたようだ。まあそりゃそうか、一週間まともに食わず眠らず……逆によくここまで持ったものだ。
人間の執着ってのは恐ろしいな。
そして泥のように眠る中―――夢を見た。
性別もわからないくらい幼い子どもが泣いている夢だ。
その子どもは泣きながら頻りに謝っていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、わざとじゃないんです。あなたを酷い目にあわせようとしたわけじゃないんです。ごめんなさい、許してください」
流れている涙を拭いながら一生懸命に訴えかけている子ども。
誰だ、こんな小さな子どもを泣かせているのは……。
そう思い、慰めようと子どもに手を差し伸べる。――――が。
「ひっ」
子どもは小さく悲鳴を漏らし俺の手を躱した。
……ふっ、そうか、夢の中でも俺の犯罪者顔は健在なんだな。なんて自嘲が溢れる。
何もしてなくても怯えられる……こんなこともう慣れたはずなのに、俺はまだ諦めていないのか胸がチクリと痛む。
すると、子どもは一旦泣くのをやめて俺を正面から見据えた。
「あの……僕がこんなこと言うのもあれですけど、少しでも罪滅ぼしさせてください」
「罪滅ぼし?」
「はい。この悲惨な状況から抜け出すお手伝いをできれば……と」
悲惨な状況……とは、この大監獄のことだろうか。
おかしな夢だ。俺の願望から生まれているのだろうが、この状況から抜け出すなどと。
カンビロノ大監獄はその規模もさることながら、一度入ってしまえば二度と出られることはないと有名な絶対の守りを誇っている。
そんな絶対要塞からどうやって……。
「ていっても、僕ができることはスキルを与えるくらいだけど……」
「スキル?」
「そう、個人が持つことができる独特の能力。使い方次第で毒にも薬にもなります」
なんか子どもがわけわからないこと言い始めた。
スキルってなんだ?聞いたことないけど。
「まあ村人のあなたには一生関係のない能力でしょうけど……」
ねえ、今馬鹿にされたよね?俺こんな小さな子どもに馬鹿にされたよね?
「でも安心してください!僕の力を持ってすればあなたみたいな村人にもスキルの一つや二つ与えることなんて朝飯前です!」
「あーはいはい。もういいから。この状況抜け出すことなんてまず不可能だし」
てか夢なのにコイツ煩いな。俺の願望が生み出した存在の筈なのにまるで自我を持っているみたいだ。
翌日友達に言ったら笑い飛ばされるやつだな。まあ友達なんていないけど。
「まあまあ。嘘だと思って受け取ってみてください。その名も『洗脳スキル』。これさえあれば人を意のままに操ることができます」
「っ!」
いやこっわ‼︎ なんだその恐ろしいスキル⁉︎
意のままに操るって……まさしくチートじゃん。コイツ夢だからって調子乗りすぎだろ。
「いらねーよそんな胡散臭いもの。洗脳とか、まだ小さいガキがそんな不埒なこと言うんじゃない」
「僕、403歳だけど」
「嘘つけ」
つくにしてももっとマシな嘘つけよ。
なんだ403歳って。
……って俺は何自分の夢にツッコミ入れてるんだ。もうこんなわけわかんない夢早く覚めてくんねーかな。
「そんなことより! ほら! 受け取ってくださいよ! 洗脳スキル! ほらほらほら!」
「あーもう! わかったよ! わかったから!」
なんなんだこのガキは。さっきあんなに号泣して俺にビビってたくせに態度急変しすぎだろ。
「やったぁ! じゃあ早速使い方を説明しますね! まあ使い方と言っても簡単です。対象に口で命令すればいいだけ。そうすると相手は自分の意思関係なしにあなたの命令をこなそうとします。相手に洗脳されているという自覚はありません。さらに――」
改めて聞くとやっぱり怖い能力だな。まあ夢だけど。なんでこの子どもはそんな怖いことを次から次へと話せるんだ。どんな人生送ってきたんだ?
まあ夢の中の架空人物にそんなこと思っても無駄だな。ていうかこの場合俺の意識が反映されてるんだから俺の過去が壮絶だっただけじゃん。
「――と、いうわけです。わかりましたか?」
「ああ」
まあ半分以上聞き流していたが問題ないだろう。夢なんだから。
「では最後に。このスキルは一度発動するともう取り消せません。内容はよく考えてください」
「はいはい」
よし、やっと終わりか。長い説明だった。
よほど誰かと喋りたかったのだろうか。なんて寂しいんだ俺。
まあコイツのおかげで久しぶりに人と話せた満足感はある。夢だけど。
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