51 / 53
第一章
わんこの部屋
しおりを挟む
「えっと……? 先輩、これはどんな状況……?」
「千秋途中で寝ちゃったから、俺の家に運んどいたんだ! 千秋んちより近かったからな!」
「え……」
「もう平気かー? 喉渇いたろ?」
そう言いながらペットボトルの水を手渡してきた先輩。
なんで俺んち知ってんだコイツというツッコミは無駄だろう。だって相手は先輩だし。ストーカーだし。
俺が知りたいのはそれより……。
いつまでも水を飲もうとしない俺を不思議に思ったのか、先輩が首を傾げる。
「そんな躊躇しなくてもそれには何も入ってないぞ? あの女とは違うからな!」
あの女、とはレズっ子のことだろう。
あの子はフロランタンに睡眠薬を盛ったから、確かに口に入れるものは注意しなければならない。
だけど眠る前も思ったけど、問題はなんで先輩がそのことを知っているのかであって……
「先輩、よく俺が薬盛られたってわかりましたね」
「ああ、だって見てたからな」
……はい?
今なんて言ったコイツ。
「見てた……とは?」
「さっきの女――あ、名前は漆原沙希っていうんだけどな? そいつが千秋のこと好きなの知ってたし、最近それがエスカレートして脅迫したり物盗んでたみたいだし、そろそろ何かやらかしそうだな~と思ってたら案の定」
「……」
「でもまさか睡眠薬盛るとはねぇ。外で何やってんだとも思ったけど遅効性のやつとはよく考えたよ。最初は意識が朦朧とするだけだから傍目には具合が悪くなった千秋を支えてるようにしか見えないもんなぁ」
うん、あのさ。
さっきから当然のようにベラベラ喋ってるけどさ? ツッコミどころがありすぎるんですけど!?
え、なんなの!?
まずなんでレズっ子のことそんなに知ってるの!? 名前とかどうやって調べたんだよ!!
てか彼女のストーカー行為やっぱり知ってたんじゃん!! 知ってたなら言えよ!! 注意喚起しろよ!! そしたらこんな目に遭わずに済んだのに……
いや、待てよ? 逆になんで言わなかったんだ?
俺が危険な目に遭っても良かったってこと? むしろそれを望んでた?
……このわんこみたいな先輩が? なんで?
いや、俺がいくら考えたところでこの人の頭の中を知ることなんてできるわけがない。
「先輩、全部知ってて、最後の最後まで助けなかった理由はなんですか?」
「困ってる千秋が可愛くてついっ」
「……」
理由しょうもねええええええ。
はあ!? ついじゃないよ!!!
何言ってんのコイツ!? おかしいでしょ!!
「大丈夫だ、盗まれたものもちゃんと全部取り返したから」
そういう問題じゃねーよ。こいつ絶対頭おかしい。
……あ、でもそういやレズっ子が言ってた脅迫文はいくつか聞き覚えないやつだったな……もしかして、俺が怖がると思って先輩が抜き取ってくれてたのか?
そう思って聞いてみると。
「ああ、それな~。千秋が真に受けて俺と話してくれなくなったらやだったから抜き取っといた」
「……」
あ、はい。なんとなく予想はしてました。
結局全部自分のためかい。どんだけ己の欲に忠実なんだよ。
おかしいな、記憶の中の先輩は天然で空気読めないけどなんだかんだ気は遣えるし優しかったのに……。
ていうか、さっきから身体中にヒシヒシと何かを感じるんだけど。これはなんだ……?
にこにこと満面の笑みを浮かべる先輩。
その笑顔はいつものわんこと変わらないのに、目の奥が笑ってないっていうか、歪んでるっていうか……
「あ、あの……先輩、」
「ん? なんだ?」
「えっと、休ませてくれてありがとうございました。そろそろ俺は帰っ……」
「あ、そうだ! 千秋お腹空いてるだろ? 今軽く食べれるもん作ってくるからちょっと待っててな~」
「えっ、あ、ちょ――」
先輩! と呼び止めようとしたらバタンと閉まったドア。
えーーーーー。毎度のことながらアイツ話聞かねーーーー。
もうこっちは帰りたいんですけど。
ずっとレズっ子の前で気張ってたせいで疲れた。一刻も早く自分の部屋で休みたい。自分の部屋で。
助けてくれたのは感謝してるけどよりによって先輩か……。ちゃんと家に帰してくれるのか不安だ。さっき俺の言葉遮ったのだって不自然すぎるし。
まあお腹空いたのは事実なので、ご飯食べたら速攻帰ろう。
先輩が戻ってくるまで暇を潰そうとチラリと部屋に目をやる。
ふーん、意外と整理されてるんだ。青や白で統一されている部屋は爽やかな先輩らしい。セミダブルのベッドに、俺のより大きいテレビ、隅っこには勉強机が設置されていて……。
……先輩、勉強とかするんだ。
いやいや、いけないよね。人を外見で判断しちゃ。てっきり体動かす事しか能のない脳筋だと思ってたけど……ゴホン。
机の上には一冊のノートが置いてあった。なになに、『観察日記』……?
へーえ、先輩日記帳とか作るタイプなんだ。意外とマメだな~。
……ちょっとくらい覗いてもいいよね? いや、別に他人のプライバシーを侵害する趣味はないけどさ?
あのいっつも何考えてるかわからない先輩だよ? これくらいハンデあっても許されるよね? うん我ながら意味不明な言い訳だ。
つまりはめちゃくちゃ気になります。
そしていざ、ノートを開く。
――――先に言っておこう。ソレは間違いなく開いたら終わりのパンドラの箱だった。
「千秋途中で寝ちゃったから、俺の家に運んどいたんだ! 千秋んちより近かったからな!」
「え……」
「もう平気かー? 喉渇いたろ?」
そう言いながらペットボトルの水を手渡してきた先輩。
なんで俺んち知ってんだコイツというツッコミは無駄だろう。だって相手は先輩だし。ストーカーだし。
俺が知りたいのはそれより……。
いつまでも水を飲もうとしない俺を不思議に思ったのか、先輩が首を傾げる。
「そんな躊躇しなくてもそれには何も入ってないぞ? あの女とは違うからな!」
あの女、とはレズっ子のことだろう。
あの子はフロランタンに睡眠薬を盛ったから、確かに口に入れるものは注意しなければならない。
だけど眠る前も思ったけど、問題はなんで先輩がそのことを知っているのかであって……
「先輩、よく俺が薬盛られたってわかりましたね」
「ああ、だって見てたからな」
……はい?
今なんて言ったコイツ。
「見てた……とは?」
「さっきの女――あ、名前は漆原沙希っていうんだけどな? そいつが千秋のこと好きなの知ってたし、最近それがエスカレートして脅迫したり物盗んでたみたいだし、そろそろ何かやらかしそうだな~と思ってたら案の定」
「……」
「でもまさか睡眠薬盛るとはねぇ。外で何やってんだとも思ったけど遅効性のやつとはよく考えたよ。最初は意識が朦朧とするだけだから傍目には具合が悪くなった千秋を支えてるようにしか見えないもんなぁ」
うん、あのさ。
さっきから当然のようにベラベラ喋ってるけどさ? ツッコミどころがありすぎるんですけど!?
え、なんなの!?
まずなんでレズっ子のことそんなに知ってるの!? 名前とかどうやって調べたんだよ!!
てか彼女のストーカー行為やっぱり知ってたんじゃん!! 知ってたなら言えよ!! 注意喚起しろよ!! そしたらこんな目に遭わずに済んだのに……
いや、待てよ? 逆になんで言わなかったんだ?
俺が危険な目に遭っても良かったってこと? むしろそれを望んでた?
……このわんこみたいな先輩が? なんで?
いや、俺がいくら考えたところでこの人の頭の中を知ることなんてできるわけがない。
「先輩、全部知ってて、最後の最後まで助けなかった理由はなんですか?」
「困ってる千秋が可愛くてついっ」
「……」
理由しょうもねええええええ。
はあ!? ついじゃないよ!!!
何言ってんのコイツ!? おかしいでしょ!!
「大丈夫だ、盗まれたものもちゃんと全部取り返したから」
そういう問題じゃねーよ。こいつ絶対頭おかしい。
……あ、でもそういやレズっ子が言ってた脅迫文はいくつか聞き覚えないやつだったな……もしかして、俺が怖がると思って先輩が抜き取ってくれてたのか?
そう思って聞いてみると。
「ああ、それな~。千秋が真に受けて俺と話してくれなくなったらやだったから抜き取っといた」
「……」
あ、はい。なんとなく予想はしてました。
結局全部自分のためかい。どんだけ己の欲に忠実なんだよ。
おかしいな、記憶の中の先輩は天然で空気読めないけどなんだかんだ気は遣えるし優しかったのに……。
ていうか、さっきから身体中にヒシヒシと何かを感じるんだけど。これはなんだ……?
にこにこと満面の笑みを浮かべる先輩。
その笑顔はいつものわんこと変わらないのに、目の奥が笑ってないっていうか、歪んでるっていうか……
「あ、あの……先輩、」
「ん? なんだ?」
「えっと、休ませてくれてありがとうございました。そろそろ俺は帰っ……」
「あ、そうだ! 千秋お腹空いてるだろ? 今軽く食べれるもん作ってくるからちょっと待っててな~」
「えっ、あ、ちょ――」
先輩! と呼び止めようとしたらバタンと閉まったドア。
えーーーーー。毎度のことながらアイツ話聞かねーーーー。
もうこっちは帰りたいんですけど。
ずっとレズっ子の前で気張ってたせいで疲れた。一刻も早く自分の部屋で休みたい。自分の部屋で。
助けてくれたのは感謝してるけどよりによって先輩か……。ちゃんと家に帰してくれるのか不安だ。さっき俺の言葉遮ったのだって不自然すぎるし。
まあお腹空いたのは事実なので、ご飯食べたら速攻帰ろう。
先輩が戻ってくるまで暇を潰そうとチラリと部屋に目をやる。
ふーん、意外と整理されてるんだ。青や白で統一されている部屋は爽やかな先輩らしい。セミダブルのベッドに、俺のより大きいテレビ、隅っこには勉強机が設置されていて……。
……先輩、勉強とかするんだ。
いやいや、いけないよね。人を外見で判断しちゃ。てっきり体動かす事しか能のない脳筋だと思ってたけど……ゴホン。
机の上には一冊のノートが置いてあった。なになに、『観察日記』……?
へーえ、先輩日記帳とか作るタイプなんだ。意外とマメだな~。
……ちょっとくらい覗いてもいいよね? いや、別に他人のプライバシーを侵害する趣味はないけどさ?
あのいっつも何考えてるかわからない先輩だよ? これくらいハンデあっても許されるよね? うん我ながら意味不明な言い訳だ。
つまりはめちゃくちゃ気になります。
そしていざ、ノートを開く。
――――先に言っておこう。ソレは間違いなく開いたら終わりのパンドラの箱だった。
0
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
蛇神様の花わずらい~逆ハー溺愛新婚生活~
ここのえ
恋愛
※ベッドシーン多めで複数プレイなどありますのでご注意ください。
蛇神様の巫女になった美鎖(ミサ)は、同時に三人の蛇神様と結婚することに。
優しくて頼りになる雪影(ユキカゲ)。
ぶっきらぼうで照れ屋な暗夜(アンヤ)。
神様になりたてで好奇心旺盛な穂波(ホナミ)。
三人の花嫁として、美鎖の新しい暮らしが始まる。
※大人のケータイ官能小説さんに過去置いてあったものの修正版です
※ムーンライトノベルスさんでも公開しています
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
異世界転生先で溺愛されてます!
目玉焼きはソース
恋愛
異世界転生した18歳のエマが転生先で色々なタイプのイケメンたちから溺愛される話。
・男性のみ美醜逆転した世界
・一妻多夫制
・一応R指定にしてます
⚠️一部、差別的表現・暴力的表現が入るかもしれません
タグは追加していきます。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
【ヤンデレ鬼ごっこ実況中】
階段
恋愛
ヤンデレ彼氏の鬼ごっこしながら、
屋敷(監禁場所)から脱出しようとする話
_________________________________
【登場人物】
・アオイ
昨日初彼氏ができた。
初デートの後、そのまま監禁される。
面食い。
・ヒナタ
アオイの彼氏。
お金持ちでイケメン。
アオイを自身の屋敷に監禁する。
・カイト
泥棒。
ヒナタの屋敷に盗みに入るが脱出できなくなる。
アオイに協力する。
_________________________________
【あらすじ】
彼氏との初デートを楽しんだアオイ。
彼氏に家まで送ってもらっていると急に眠気に襲われる。
目覚めると知らないベッドに横たわっており、手足を縛られていた。
色々あってヒタナに監禁された事を知り、隙を見て拘束を解いて部屋の外へ出ることに成功する。
だがそこは人里離れた大きな屋敷の最上階だった。
ヒタナから逃げ切るためには、まずこの屋敷から脱出しなければならない。
果たしてアオイはヤンデレから逃げ切ることができるのか!?
_________________________________
7話くらいで終わらせます。
短いです。
途中でR15くらいになるかもしれませんがわからないです。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる