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第一章
トラブル発生
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「おお、佐伯か。こんなところでどうした。一人か?」
「ああ。午前中サークルで大学にいたんだ。んで暇な人集めて遊びに来たはいいけど俺だけ逸れちゃってさ……」
そういえば今日久しぶりにサークルに顔出すって言ってたなぁ。
そっかぁもうお昼だもんね~大学からもまあまあ近いしサークル終わりの人が来るのも不思議ではないよね~。
……と、いつものくせで現実逃避が始まるがいつ爆弾が落とされるかわかったもんじゃないので気をしっかり持たねば。
あーもう、なんでよりによってこの人かな~。神様意地悪すぎない? 運命のいたずらってレベルじゃないよ?
「逸れたって……じゃあお前のこと探してるんじゃないのか? 早く戻った方がいい」
よしナイスだ誠至。これでものすごく自然にさよならすることができる。
内心ガッツポーズを作っていると「じゃあな」と背を向けた誠至に手を掴まれた。
……が。
「ちょっと待った」
「……!」
よっしゃあこのまま一目散に逃げよう! と思ったところで佐伯先輩に引き止められ凍りつく。
二人で顔を見合わせ、どうする? シカトして逃げちゃう? なんて言ってる時だった。
「全く、水臭いなぁ」
ポン、と誠至の肩に置かれた手。
ヒイイイ!! なんて震え上がる私をよそに誠至は努めて冷静に振り返った。……若干頰が引きつっていたけど。
「……なんだ?」
「なんだじゃないだろ~。彼女紹介してくれてもいいじゃないか。俺たちの仲だろ?」
「……は?」
いや俺たちそんな仲良いわけでもないだろ。と、いつもの誠至なら突っ込んでいたに違いない。
しかし今は佐伯先輩の口から放たれた不可解な言葉に二人して首を傾げた。
彼女……? ってもしかしなくても私のこと?
「どうも! 誠至の友達の佐伯礎です! よろしくー!」
ずずい! と差し出される手に思わずびくりと肩を揺らす。
いやフレンドリーにもほどがあるだろ!! 普通友達(かどうかは置いといて)の彼女に対して初対面でここまで積極的になれるか?
ほら誠至だってドン引きしてるじゃん。
とりあえずバレないように必死に顔を下に向けどうしたものかと戸惑っていると、誠至からすかさずお声がかかる。
「俺の彼女恥ずかしがり屋だからお前のテンションにビビってるよ。また改めて紹介するから今日はもういいだろ?」
おお! ナイスすぎるぞ誠至!
私達の間に入ってやんわりと断る誠至に尊敬の眼差しを送る。さすがMr.フォローマンだ。
佐伯先輩は「そうか~なら仕方ないな~」と手を下げ――――るかと思いきやなんと無理矢理私の手を掴んできた!!
「おい!?」
「誠至生意気だけどいい奴だからよろしくな!!」
誠至の驚く声、佐伯先輩の厚かましい声。
私はというと『やっぱこの人怖えええ!!』と冷や汗が止まらない。行動の読めない人ってなんでこんなに怖いんだろう。
まあけどさすがにもう何もないだろう、と手を振り払おうとした。
――――が、しかし。
「………、」
手を握ってから一向に離す気配がなく、何やらずっと私の手を見ている。そりゃあもう食い入るように。
え、やだそんな見られると恥ずかしい。手荒れてるとか? ハンドクリーム塗った方が良かったかな。
などと頓珍漢なことを思ってた私は次の瞬間、比喩でもなんでもなく心臓が凍りつくかと思った。
「この感触……千秋か?」
「!!?」
はああああ!? 今なんだって!?
―――え? 『千秋』? なんでバレた!!?
「何言ってんだお前? コレのどこが千秋なんだよ?」
おおおお誠至!! だよね、そうだよね!! あまりにも驚きすぎて思考停止しちゃったけど認めなきゃいいだけだよね!!
さすがにいくら佐伯先輩でもこんだけ見た目が違ったら勘違いだってすぐ思い直して……。
「いんや! この感触は間違いなく千秋だね! 俺ならわかる!!」
ってなんでやねーーん!!
どんだけ確信してんだよ!! っていうかさっきから感触感触って気持ち悪いわ!!
なに、俺のこと感触で判断してんの? ちょっとストーカーの域超えてない?? 鳥肌止まらないんですけど!!
チラリと誠至を見るとさすがにもうフォロー仕切れないのか頬をヒクつかせて私に『逃げろ』と目線を送ってきた。
いや……そりゃ逃げたいよ……逃げたいけども!! 逃げたところで次顔合わす時気まずいよーー!!
だってなんて説明すればいいの!? 『実は女だけどハーレム気分味わいたいから男のフリしてます』って?
それで? その後は? 佐伯先輩には女として接さなきゃいけないの? 今更?
いやそれより大学のみんなにバレたらどうしよう!! 絶対白い目で見られるじゃん!! 今まで騙してきた報いでみんなに避けられでもしたらもう大学行けないよ!!
まさしく崖っぷちに立たされた“千秋クン”。
……しかし、頭を抱えて黙り込んでる私に佐伯先輩は予想だにしていなかったことを告げた。
「なーあ、千秋なんで女装してんだ?」
「…………はい?」
ん? 今なんと??
JOSOU??
今この人『女装』って言いました??
ついガバッと今まで必死に下げていた頭を持ち上げ目の前で心底不思議そうにしている双眼を凝視してしまう。
「おー! やっぱ千秋は女装が似合うな~。可愛いっ」
固まる私の髪がぐしゃぐしゃとかき混ぜられる。
暫く放心状態の私だったが、突如パアアン! と頭の中が弾けてようやく頭が回転し始めた。
なるほど!! 女装ね!! その手があったか!!
いやあ佐伯先輩がバカでよかった!! バカ万歳!!
この際「あれ千秋なんか縮んだ?」という呟きは無視でいきましょう。そんなとこ気付かなくてよろしい。
「そ、そうです! 実は女装した千秋クンでした~。いやぁさすが先輩! よくわかりましたね!」
「まあな! 普段どんだけお前のこと見てると思ってんだよ」
「うわ~ナチュラルに気持ち悪い」
よし、ようやく通常運転になってきたぞ。
女の姿でこの人と対峙するのはちょっと、いやかなり違和感があるけどまあ仕方ない。
とりあえず早くこの場を離れたい。一刻も早く。
「じゃあ俺たちは行くところあるんで! 佐伯先輩も早くサークルの方達と合流した方がいいですよ!」
「ああ! そうだな!」
「それと! このことは誰にも言わないでくださいね! 俺の密かな趣味なんで!」
「おお! 任せとけ!」
てな感じでやっと、やっとの事でお別れすることができた。
はあああああ……神経磨り減ったあああ……。
「佐伯先輩がバカで良かった……」
「……」
この時、ようやくストレスから解放されて心の底からホッとしていた私のことを、誠至が何やら神妙な面持ちでジッと眺めていたことには気付かなかった。
「ああ。午前中サークルで大学にいたんだ。んで暇な人集めて遊びに来たはいいけど俺だけ逸れちゃってさ……」
そういえば今日久しぶりにサークルに顔出すって言ってたなぁ。
そっかぁもうお昼だもんね~大学からもまあまあ近いしサークル終わりの人が来るのも不思議ではないよね~。
……と、いつものくせで現実逃避が始まるがいつ爆弾が落とされるかわかったもんじゃないので気をしっかり持たねば。
あーもう、なんでよりによってこの人かな~。神様意地悪すぎない? 運命のいたずらってレベルじゃないよ?
「逸れたって……じゃあお前のこと探してるんじゃないのか? 早く戻った方がいい」
よしナイスだ誠至。これでものすごく自然にさよならすることができる。
内心ガッツポーズを作っていると「じゃあな」と背を向けた誠至に手を掴まれた。
……が。
「ちょっと待った」
「……!」
よっしゃあこのまま一目散に逃げよう! と思ったところで佐伯先輩に引き止められ凍りつく。
二人で顔を見合わせ、どうする? シカトして逃げちゃう? なんて言ってる時だった。
「全く、水臭いなぁ」
ポン、と誠至の肩に置かれた手。
ヒイイイ!! なんて震え上がる私をよそに誠至は努めて冷静に振り返った。……若干頰が引きつっていたけど。
「……なんだ?」
「なんだじゃないだろ~。彼女紹介してくれてもいいじゃないか。俺たちの仲だろ?」
「……は?」
いや俺たちそんな仲良いわけでもないだろ。と、いつもの誠至なら突っ込んでいたに違いない。
しかし今は佐伯先輩の口から放たれた不可解な言葉に二人して首を傾げた。
彼女……? ってもしかしなくても私のこと?
「どうも! 誠至の友達の佐伯礎です! よろしくー!」
ずずい! と差し出される手に思わずびくりと肩を揺らす。
いやフレンドリーにもほどがあるだろ!! 普通友達(かどうかは置いといて)の彼女に対して初対面でここまで積極的になれるか?
ほら誠至だってドン引きしてるじゃん。
とりあえずバレないように必死に顔を下に向けどうしたものかと戸惑っていると、誠至からすかさずお声がかかる。
「俺の彼女恥ずかしがり屋だからお前のテンションにビビってるよ。また改めて紹介するから今日はもういいだろ?」
おお! ナイスすぎるぞ誠至!
私達の間に入ってやんわりと断る誠至に尊敬の眼差しを送る。さすがMr.フォローマンだ。
佐伯先輩は「そうか~なら仕方ないな~」と手を下げ――――るかと思いきやなんと無理矢理私の手を掴んできた!!
「おい!?」
「誠至生意気だけどいい奴だからよろしくな!!」
誠至の驚く声、佐伯先輩の厚かましい声。
私はというと『やっぱこの人怖えええ!!』と冷や汗が止まらない。行動の読めない人ってなんでこんなに怖いんだろう。
まあけどさすがにもう何もないだろう、と手を振り払おうとした。
――――が、しかし。
「………、」
手を握ってから一向に離す気配がなく、何やらずっと私の手を見ている。そりゃあもう食い入るように。
え、やだそんな見られると恥ずかしい。手荒れてるとか? ハンドクリーム塗った方が良かったかな。
などと頓珍漢なことを思ってた私は次の瞬間、比喩でもなんでもなく心臓が凍りつくかと思った。
「この感触……千秋か?」
「!!?」
はああああ!? 今なんだって!?
―――え? 『千秋』? なんでバレた!!?
「何言ってんだお前? コレのどこが千秋なんだよ?」
おおおお誠至!! だよね、そうだよね!! あまりにも驚きすぎて思考停止しちゃったけど認めなきゃいいだけだよね!!
さすがにいくら佐伯先輩でもこんだけ見た目が違ったら勘違いだってすぐ思い直して……。
「いんや! この感触は間違いなく千秋だね! 俺ならわかる!!」
ってなんでやねーーん!!
どんだけ確信してんだよ!! っていうかさっきから感触感触って気持ち悪いわ!!
なに、俺のこと感触で判断してんの? ちょっとストーカーの域超えてない?? 鳥肌止まらないんですけど!!
チラリと誠至を見るとさすがにもうフォロー仕切れないのか頬をヒクつかせて私に『逃げろ』と目線を送ってきた。
いや……そりゃ逃げたいよ……逃げたいけども!! 逃げたところで次顔合わす時気まずいよーー!!
だってなんて説明すればいいの!? 『実は女だけどハーレム気分味わいたいから男のフリしてます』って?
それで? その後は? 佐伯先輩には女として接さなきゃいけないの? 今更?
いやそれより大学のみんなにバレたらどうしよう!! 絶対白い目で見られるじゃん!! 今まで騙してきた報いでみんなに避けられでもしたらもう大学行けないよ!!
まさしく崖っぷちに立たされた“千秋クン”。
……しかし、頭を抱えて黙り込んでる私に佐伯先輩は予想だにしていなかったことを告げた。
「なーあ、千秋なんで女装してんだ?」
「…………はい?」
ん? 今なんと??
JOSOU??
今この人『女装』って言いました??
ついガバッと今まで必死に下げていた頭を持ち上げ目の前で心底不思議そうにしている双眼を凝視してしまう。
「おー! やっぱ千秋は女装が似合うな~。可愛いっ」
固まる私の髪がぐしゃぐしゃとかき混ぜられる。
暫く放心状態の私だったが、突如パアアン! と頭の中が弾けてようやく頭が回転し始めた。
なるほど!! 女装ね!! その手があったか!!
いやあ佐伯先輩がバカでよかった!! バカ万歳!!
この際「あれ千秋なんか縮んだ?」という呟きは無視でいきましょう。そんなとこ気付かなくてよろしい。
「そ、そうです! 実は女装した千秋クンでした~。いやぁさすが先輩! よくわかりましたね!」
「まあな! 普段どんだけお前のこと見てると思ってんだよ」
「うわ~ナチュラルに気持ち悪い」
よし、ようやく通常運転になってきたぞ。
女の姿でこの人と対峙するのはちょっと、いやかなり違和感があるけどまあ仕方ない。
とりあえず早くこの場を離れたい。一刻も早く。
「じゃあ俺たちは行くところあるんで! 佐伯先輩も早くサークルの方達と合流した方がいいですよ!」
「ああ! そうだな!」
「それと! このことは誰にも言わないでくださいね! 俺の密かな趣味なんで!」
「おお! 任せとけ!」
てな感じでやっと、やっとの事でお別れすることができた。
はあああああ……神経磨り減ったあああ……。
「佐伯先輩がバカで良かった……」
「……」
この時、ようやくストレスから解放されて心の底からホッとしていた私のことを、誠至が何やら神妙な面持ちでジッと眺めていたことには気付かなかった。
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