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Ⅱ.入学編

57.ザックの黒い心情

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 腕の力も増したようで、このままでは締め殺されそうな勢いだ。
 モルナとローレンスが慌てた顔で助けに入ろうとしてくれたのが見えたが、瞬間周囲を炎の壁が覆い外界と切断された。
 い、いつの間にこんな高難易度な魔法を!?
 ……ってそんなことより!

「ザ、ザック!! 痛いのだけど!! 離してもらえるかしら!?」
「姉様、今なんとおっしゃしましたか? ダリル王子に誘われて生徒会に入るという空耳が聞こえたような気もしますが、勿論違いますよね?」

 ザックの目が鋭利な光を宿した気がする。
 勿論それは空耳でも何でもないけど、頷いたらヤバいことはわかる。
 いや、でもその内容の何が悪いの? 生徒会に入るなんて、一般的には名誉なことだと思うけど。

「ザック、とりあえず落ち着いて。手を離してもらえる? ちゃんと説明するから」

 とにかくもう息がヤバかったので、最後の力を振り絞って冷静になるよう声を出した。
 なんとか私の声は届いたようでザックの力が弱まる。
 といっても、説明することなんか何もない。さっき告げたことが全てだし、言い訳など全く思い浮かばない。

 ここはザックの出方を窺うしかないわね…。

「姉様、なんで僕以外の男と仲良くするんですか? 姉様には僕さえいればいいじゃないですか。ただでさえ婚約者が邪魔だっていうのに、あの野蛮な隣国の王子まで…」

 距離が離れたことでザックと視線が合わさった。もうどこも触れられていないのに、その瞳に囚われると身動きできない気分になる。

「何を言ってるの。私は公爵家の令嬢なのよ? あなた以外と関わりを断つなんてできるわけないでしょう」
「でも…っ姉様は僕が好きだって言ってくれたじゃないですか!」
「勿論好きよ。たった一人の弟だもの」
「なら…っ」
「でもあなたに一生を捧げるわけにはいかないの。あなただって、いつか公爵家を継いでお嫁さんを迎えることになるのよ? 大人になりなさい」

 うーん、こんなに駄々を捏ねるなんて、少し育て方を間違えたかしら? まあ好きになるよう仕向けたのは私だから文句は言えないのだけど、ここまで執着するよう育てた覚えはない。

 これを機に少しは姉離れしてほしいものだ。

 言い方がキツすぎたのか、ザックは大人しくなった。怒られた子犬のようにしゅんとなっている。
 うっ…ちょっと罪悪感…でもここで甘やかしたらまた同じことの繰り返しだ。

 ここは心を鬼にして──

「ザック、今は辛いかもしれないけど、すぐに慣れるわ。この機会に友達を増やしてみなさい。ね?」

 そう言ってザックの頭を撫でる。ザックはピクリと肩を震わせたが、その瞬間、反射的に私の手首を掴もうとしたので慌てて手を離した。

 び、びっくりした。油断も隙もない。
 感情の読めないザックが少し怖かったので、「それじゃあ学園で会いましょう」とだけ言い残してそそくさとその場を去ろうとする。

 炎の壁は水の魔法で相殺。
 良かった、魔法を磨いといて。今までの努力がなかったらザックを相手にするのは厳しいでしょうね。
 いつも私に魔法を教えてほしいとせがんでいた癖に、全く可愛くない魔法を使うのだから。


 果たしてザックに私の想いは伝わったのかしら。
 少しは心に響いてくれているといいのだけど──そう考えていた私は、気付かない。


「姉様が僕から逃げるというのなら──」


 先程とは比べ物にならない黒いオーラを纏っているザックに。
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