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Ⅱ.入学編

アゼンside≫婚約者の憂鬱

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「何故君が……」

 教師から親睦会の件で呼び出され向かった先には、我が婚約者の忌々しい義弟くんと、彼女が初めて僕に嫉妬してくれた時にいた女子生徒がいた。

「親睦会準備はこの3人にやってもらうことになりました。人員はこちらで用意するので現場の指揮をお願いします。資材調達はアルランデくん、装飾はクラークくん、そして総監督はアゼン殿下に」

「はい!」

 教師に対し元気な声で返事をした女子生徒を見て舌打ちが溢れそうになる。
 おかしい、何故ルリアーノが任命されていない? 学年の代表というから、間違いなくルリも頭数に入れられていると思い承諾したのに。
 邪魔で仕方のない義弟と特になんの感情も湧かない女子生徒と一緒に一週間もやらなくてはならないなんて。急ピッチで準備する必要があるから放課後も居残り、ほぼプライベートな時間はないと言われた。ふざけるな。誰がこんなこと好き好んでやるか。
 チラリと横を見れば、義弟くんはこれでもかというほど眉間に皺を寄せていた。大方僕と同じようなことを考えているのだろう。ただ、僕はそこまであからさまに感情は出さないけど。

 幼い頃から感情を表に出すことは愚かな行動だと言われてきた。将来国の頂点に立つものとして、何事にも動じてはならないと。
 だから基本的に僕の感情の起伏はあまりない。ルリに会った時など、余程衝撃的な時でしか僕の表情筋は動かないのだ。
 ……思えば、ルリの隣にいる時の僕はよく笑うし感情も表に出やすいかもしれない。彼女といる時は驚きの連続だし何より楽しいから。自然と笑みが溢れる時は、いつだって彼女の前だけだ。


 ただ、この学園に入ってからはちょっと違う。自然に笑う回数が少なくなってしまった。それはひとえに、邪魔者が多いからだ。

 義弟と専属騎士に加え、隣国の王子までルリに興味を持ったようだ。ある日一年生の教室がある階を彷徨いているところを発見し、またくだらないことで僕に絡んでくるのかと警戒していたら、どうやら探しているのは僕ではなくルリだった。
 理由は一つしか思い浮かばない。婚約パーティーの時、僕がいない間に何かあったのだろう。やはり彼女を自由にさせるべきではなかった。
 そもそも、何故人の婚約者にちょっかいを出そうとする? 同じ皇太子という立場であるのに、隣国の次期国王の婚約者に興味を持つなど、許されるわけがない。

 みんな邪魔だ。邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔。

 ああ、でもそういえば、この能天気そうな男爵令嬢は使えるな。最初はしつこく喋りかけてきて煩わしかったけど、そのおかげでルリに嫉妬してもらえた。彼女が怒る姿は初めて見た。その原因に僕が存在することが、たまらなく嬉しい。
 今回の準備は非常に面倒だけど、またルリが嫉妬してくれるなら……って、やはりそれだけのために一週間も棒に振るのは惜しすぎる。

 それにこうやっている間にも、彼女の側にはずっとローレンスがいるのだ。あの何を考えているかよくわからない男。最近すっかり大人しくなってしまったが、言葉の節々にルリに対する異常な感情が見え隠れする。勿論ルリは気付いていないが。

 はあ、どうやったらルリの周りから邪魔者が全て消えるんだろう。権力を使ってもいいのだけど、できればルリの知らないところで片付けたい。もし彼女に幻滅されるようなことがあれば僕は生きていけないから。
 物理的にねじ伏せるのも、今の段階では難しいだろう。この前のザックとの魔法対決は互角だったし、彼もあれが全力ではないはずだ。それに我が国きっての天才騎士と言われるローレンスの実力もまだわかっていない。

 なんで婚約者の僕がこんなに焦んないといけないんだ。だから早く結婚したかったのに。堅物な父上め……。3年待てば結婚できるが、その期間が果てしなく長く感じる。

 彼女を手に入れるためには手段なんか選んでいられない。誰かに攫われる前に閉じ込めてしまえばいいのだろうけど……そういえば、王宮に使っていない離宮があったような。
 あそこなら手入れさえすれば綺麗だし、庭園も広い。彼女が飽きないよう各地から珍しい特産物を取り寄せて──うん、いつそうなってもいいように、準備だけ進めておこうかな。
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