完全無欠なライバル令嬢に転生できたので男を手玉に取りたいと思います

Ⅱ.入学編

ミシェルside≫ヒロインの焦燥 前編

「ああもうなんで…何で上手くいかないのよぉ…」

　アゼンもザックも、なんで思い通りにいかないわけ？　ルリアーノルリアーノって、なんで私には見向きもしてくれないのよ……

「手首痛い……」

　ザックが出した炎の鎖の痕を見て顔が歪む。ほんと最悪、正ヒロインである私の肌を傷つけるなんて。どういう神経してるわけ？
　しかも私治癒魔法苦手なんですけど？　痕が残ったらどうしてくれる……あ、そうだ。これをネタにザックの罪悪感を煽って卒業まで私を拒否できないようにしてやろうか。
　きっと今はルリアーノに誑かされているんだ。私が彼らの目を覚まさせてあげないと。だって私に恋するのが正しいルートなんだから。

「おや、こんなところにいたんですね」
「ッ」

　保健室には行かず校舎に入ってすぐの物陰でしゃがみ込んでいると、後ろから優しそうな男の声がした。

「あなたは……」

　振り返ると、すらっとした高身長の茶髪の男性がにこりとこちらに微笑みかけている。
　間違いない、ローレンス・ベイリーだ。アゼンとザックに続き3人目の攻略対象。この学園で彼が1人でいるところを見たことがなく、視界に入る時は常にルリアーノの側に控えているせいでまだ喋ったことはない。
　そんな彼がどうして…？

「可哀想に、ザック様にこんな酷い怪我をさせられて」
「えっと…」
「じっとしていてください。今治癒して差し上げます。こう見えて私、得意なんですよ」

　両の手首にローレンスの手がかざされ、パァッと黄緑色の光に包まれる。次の瞬間、最初から何もなかったかのように手首から痕が消えていた。痛みも全くない。

「あ、ありがとうございます…」
「いえ、お礼を言われるほどではありません。ただあなたを助けたかっただけですから」
「え……」

　私と同じ目線までしゃがんだローレンスが、優しげに微笑みかける。
　これは……もしかしてローレンスの気を引いているってこと？　ゲームでは自分が仕える主人であるアゼンにだけ優しかったローレンス。彼に認められ始めようやくヒロインにも優しく振る舞ってくれるようになった。
　だからまともに話したことのない私に優してくれるということは、この時点で既に気を引いている可能性がある。
　なるほど……つまり今回はローレンスルートに入ったということね。だからアゼンとザックが私に冷たかったのかも。てっきり全員同時に攻略できると思っていたけれど、そんなに甘くはなかったのね。
　ゲームでの最推しはアゼンだったけど、ローレンスもこうやって間近で見ると常人より遥かに整った顔立ちをしている。
　誰も攻略できないよりマシかな……ローレンスで手を打つとするか。

「あの、もし良ければ私の騎士に──」
「本当に良かった、これでお嬢様の気苦労を１つ減らすことができました」
「──え？」