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Ⅱ.入学編

32.アゼン様の異変

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 私の耳ちゃんと機能してる? 今アゼン様が喋ってたの?
 衝撃強すぎて全然内容が頭に入ってこなかったんだけど。

「ま、待ってください!!」

 するとミシェルが慌てたようにアゼン様の腕を掴んだ。す、すごいなヒロイン。私でも縮み上がるような冷たい視線を浴びて平気でいられるとは。鈍感なのかしら。

「ちょっと、一応僕王族だよ? 勝手に触れていいと思っているの? それに婚約者の前でこんなことされたら困るんだけど」

 しかしアゼン様は引き止めるミシェルをバッサリ。
 私の方をチラリと見て「ルリごめんね、嫉妬しちゃうよね」なんて何故か期待のこもった目を向けてくる。……え、何これどうするのが正解?
 さっきの発言は悪役令嬢っぽいセリフを言ってみたかっただけで、別にアゼン様に嫉妬したわけじゃないんだけど……なんて言ったら面倒そうだからやめておいた方がいいのはなんとなくわかる。

「そんな…酷い…ちょっとくらい話聞いてくれてもいいじゃないですかぁ…」

 すると今度はミシェルが顔を両手で覆いながら俯いて肩を震わせ始めた。
 えっ…な、泣いてるの? さっきの涙目くらいなら可愛いで済んだけど、なんだかちょっと可哀想に思えてきたわ…まさかヒロインがこんなに弱々しいとは…。あ、だからゲームのルリアーノもあまり酷く苛めることができなかったのかしら?

「アゼン様…あの、さすがにご令嬢を泣かせてしまうのはどうかと…」

 うん、自分で“勝手に近付かないで!”なんて言っといて何言ってんだって感じなのだけど、私だって登場キャラを悲しませたくてこんなことやっているわけではない。私はこの人生で最大限楽しみたいが、誰かの屍の上で楽しむなんて狂人にはなりたくない。

「大丈夫だよ、どうせ泣き真似でしょ? そんな変な女置いといて行こう? 早くしないとザック達に見つかっちゃう」
「えっ、あの…!」

 アゼン様やっぱり様子おかしくないですか!?
 何故勝手に泣き真似だと決めつける…! ヒロインだぞ!? ヒロインにそんな態度取っちゃって大丈夫!? いずれはこの子と結ばれるかもしれないのよ!?
 アゼン様に強引に腕を引かれながらやっとの思いで振り返る。あわあわとミシェルの心配をしていると……あれ、めっちゃ睨まれてる。
 え? なんで? アゼン様が聞く耳持ってくれなかったから? 私の手を引いているから? これぞ本物の嫉妬というやつだろうか。この短時間でアゼン様に惚れたってこと? あんな冷たい態度取られていたのに……まさかのヒロイン、ドM説。

 というか本当に泣き真似だったの? じゃあそこまでヒロインは弱くないってこと?

 ……そういうことなら、もうちょっと悪役令嬢キャラを満喫してもいいかしら? 本当に傷付けているのならやめようと思ったけれど、睨む余裕があるなら大丈夫よね?

 でもあくまで悪役なのは私であるから、アゼン様まで厳しい必要はないと思うのだけど……まあいいか。アゼン様の心がヒロインに解かされるまで悪役令嬢を楽しむとしよう。
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