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Ⅰ.出会い編

ローレンスside≫騎士の欲望 後編

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 そして漸く自分に満足がいった頃には初めてお嬢様を拝見してから2年が経とうとしていた。

 アルランデ公爵に王宮からの騎士を切望する数多の手紙と数々の大会で手にしたトロフィーを見せれば即採用してくれた。契約書には小さな文字で『如何なる理由があっても四六時中お嬢様のそばにいる事を許す』と書き足しておいたのだがおそらく気付いてないだろう。これでもしお嬢様に拒まれても大義名分ができる。

 久方ぶりのお嬢様は美しさに磨きがかかっており、ご成長を見守れなかったことを少しだけ後悔した。

 銀糸のように輝く白銀の髪に薄紫色の瞳。やはり本物は花なんかとは比べ物にならないくらい綺麗だった。
 完璧すぎて一見冷たそうに見えるその外見だが、中身までそうとは限らない。むしろ慈愛に溢れた聖母のようなお方だった。鬱陶しさしかない弟君と婚約者殿のお相手をしているのだから相当懐が広いのだろう。
 かといって一般貴族女性のようにか弱いわけではない。騎士である私に“守られるほど私は弱くない”とキッパリ言い放った時はどれだけ感動したことか……。ただでさえ溺れていたのにこれで抜け出せないほど深みにハマってしまった。
 お嬢様は罪深いお方だ……そんなところも魅力でしかないのだが。


 それから私はあることに気付いた。お嬢様が強気な発言をするたび、どうも全身が熱を帯びるようになったのだ。
 今まではお嬢様のことを守ってあげたい、甲斐甲斐しく世話をしたいと思っていた。
 勿論今もそれは変わらない。けれどそれらとは反対の欲が存在することに気付いてしまったのだ。

 ──お嬢様に支配されたい。

 この身体も、この心も。お嬢様の言葉一つで縛られ、苦しまされ、悦びを与えられたい。

 まさか自分にこんな潜在的な欲望があったとは思いもしなかった。しかしお嬢様の美しく冷淡な瞳に見つめられたら否応なく胸が騒ぐのだ。こんな気持ちをご主人様に持ってしまうのは悪いことなのかもしれない。

 弟君や婚約者の皇太子殿下にも、普通の騎士であれば忠誠を誓うべきなのだが、むしろ邪魔な存在だと思ってしまう。お嬢様の表情を一瞬でも曇らせるお二方が気に入らない。お嬢様にはキツく言われたから暫く手は出せないが──もしお嬢様に害をもたらす存在と判明したならば、きっと私は喜んで排除するだろう。

 もしお嬢様に嫌われてしまっても大丈夫だ。私にはあの契約書がある。あれがある限り──お嬢様は私から逃げられないのだから。

 だからルリアーノお嬢様、どうか、どうかこのローレンスのご主人様であり続けてください。


 ──永遠に。
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