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Ⅰ.出会い編

22.騎士との日々

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「ふぅ、疲れた」
「お嬢様、こちらをどうぞ」

 今日やる分の勉強を終え背伸びをしていると、反射速度の試験かと思うくらいスピーディーにテーブルへ紅茶が置かれた。

「ローレンスいたのね」
「はい、お嬢様がいるところ私ありでございます」
「それはそうとモルナは?」

 モルナとは私の専属侍女だ。いつも紅茶を出すのは彼女がやってくれていた。ローレンスほど素早くはなかったけどモルナが淹れてくれたお茶は美味しかったのよね。お昼休憩にでも行っているのかしら?

「ああ、彼女はお嬢様の邪魔になりそうでしたのでご退出願いました」
「はい?」

 予想外の返答きました。
 なんだって? 追い出した、だと?

「お嬢様の素晴らしい集中力を引き出すには1人でも周囲の人間を減らす必要があると思いまして」
「あなたが退出すればいいのでは?」
「私はお嬢様の専属騎士なので」

 いや、全然回答になってないし。なんで専属騎士が専属侍女を追い出すのよ。そこはあくまで対等な関係でしょ?
 もしやこいつ…専属侍女のポジションまで狙っているのか。確かに一口飲んだ紅茶はモルナと大差ないくらい美味しかった。いやでもさすがに着替えとか湯浴みはやらないよね?

「ローレンス…ちょっと着替えたいのだけど」
「かしこまりました。それでは私がてつだ──」
「ぶん殴るわよ?」
「冗談です。モルナ様を呼んで参ります」

 全く…冗談かどうかわかりにくいからやめてほしい。もし本心だったら一大事だ。もう他のことは諦めたけど倫理観はまだ健在であってほしい。

 というか、こんな感じで割と強めの口調で対応しているのになんでローレンスは通常運転なんだろう。初対面の時みたいに興奮することはなくなったけれど。冷静になった分本当は何を考えているか分からなくて怖い。

 とりあえず今のところは扱いきれているからいいけどね。多分だけどローレンスの攻略法は“強気でいること”で合っていると思う。
 ローレンスの場合は2人のように“どうやって攻略するか”より“どうやって手綱を握るか”考えることが重要だ。

 あの後もザックやアゼン様と出会でくわすたび空気がピリつくのを肌で感じる。
 2人はまだ『あの騎士はやめた方がいい』と言ってくるけれど、まあ大人しくなったし問題は起こしていないから一先ず大丈夫だろう。

 それに本当に腕は確かなのだ。私は暇潰しによく街へ出かけることが多いのだけど、怪しい店には入る前に気付いてくれるし面倒な輩に絡まれた時も迅速に対応してくれる。
 1人で手探りで行動するよりも断然楽なのだ。このままの良い関係が続くのであればデメリットよりもメリットの方が勝つ。

「それではお嬢様、おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい。今日も一日ご苦労様」

 穏やかに笑うローレンスを見上げて私も微笑む。うん、目の保養だ。
 ザックもアゼン様も最近は忙しいのか前より顔を見る頻度が減ってしまった。ルリアーノの顔も大好きだが今は自分の顔だし癒しの対象にはならないので、ローレンスの顔を毎日見れて嬉しい。

 今日も良い夢が見れそうだ……。
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