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「ううっ、うっ……うええええんっ」
「……」
只今、目の前で大号泣している男の子。そんな彼を私は無表情で見下ろす。
左手には見るも無残な姿形になっているウサギのぬいぐるみ。さっきまで男の子が大事そうに抱えていたものだ。
「ひっ、ひどいよおおおっ僕の、うさちゃん……ッ」
「……」
つまりは、男の子が大事そうに抱えていたウサギのぬいぐるみを、私が力ずくで奪って、あろうことかぐちゃぐちゃに引き裂いた。
そりゃあ泣くわな。まだ6歳だし、そのぬいぐるみはお母さんに買ってもらった大切なモノだと言っていた。
だけど、1つだけ言わせてもらいたい。
私だってほんとはこんなことしたくないんだよおおおおお!!!!
―――何故、こうなってしまったか。
順を追って話そう。
私は少し前まで、純粋な《悪い子》だった。甘やかされて育った所謂我儘お嬢様。常に誰かに迷惑をかけ、毎日のように人を泣かせたという。
私にとってそれが当たり前の光景だったし、特に何とも思わなかった。思っていたのは泣いてる暇があったら早く言う通りに動けよ、くらいだ。
今思えば最低だと思う。僅か5歳でそんなことを考えるくらいだ、将来はさぞご立派な悪役令嬢になったであろう。
―――だけど、ある日を境に私の人格は一変した。
その日は私の6歳の誕生パーティーだった。
両親から抱えきれない量のプレゼントを貰い、満足して……いやこの3倍は欲しいなと思っていた時―――
『あなたに紹介したい方がいるの』
お母様にそう言われ振り返った先にいたのは、もじもじしている女の子のような男の子だった。
『ローランド公爵家のご長男、エドウィン・ローランド様。今日からあなたの婚約者になるのよ』
婚約者、と聞き慣れない言葉を噛み砕いた。
いきなりでびっくりしたけど、一応侯爵家の令嬢として生まれたのだ。いつかはこういう日が来ると思っていた。
婚約者として紹介された男の子を見てみる。銀色のさらさらな髪に、うるうると不安そうに見上げるルビーのような瞳。公爵様らしき人の服の袖をギュッと掴んでいるその手はとても小さい。
どう見ても庇護欲をそそられるような外見。だけど私の場合は嗜虐心をそそられた。
こんな子、少しつついただけですぐに泣いてしまいそうだ。それはさぞ楽しかろう。
婚約者という名の新しい玩具を手に入れたのだ。
と、心の中でほくそ笑んだ時だった。
―――あれ?でもこの見た目、どっかで見た覚えがあるような……。
そう思った瞬間、滝のように流れてきた数々の映像。
プラチナブロンドの髪にアイスブルーの瞳。まるで私をそのまま成長させたような風貌の女が銀色の髪の青年に踏みつけられ、剣を突き立てられている。
その近くには黒髪黒目の儚げな美少女が不安そうに眺めていた。
かの有名な断罪シーンだ。
『キャンディス・バーナー、これ以上君の悪行を見過ごすわけにはいかない。その命を持って償え』
綺麗な容姿からはとても想像できない冷徹な声。
そしてそのまま剣は振り下ろされ、女は断末魔と共に息絶え―――
その映像は確かに見たことがあった。―――前世で。
信じられないことに、高校生の時やっていた乙女ゲームだ。
とにかくライバル令嬢のキャンディスが極悪非道で、ヒロインを虐めに虐め抜いていた。
それはもう目も当てられぬほど酷くて、ヒロインは毎日のように泣いていた。
しかし、侯爵家という地位のおかげで制裁を受けることもなく―――なんてことはなく、ヒロインに惚れていた婚約者の公爵子息によって呆気なく殺された。
うん、あん時は爽快だったな~。一部では殺し方がむごいとかなんとか言われてたけど、それ相応のことをやってたんだし自業自得―――って私じゃん!! それ間違いなく私だよ!!
はあ!? 私殺されんの!!?
ライバル令嬢の名前は?
―――キャンディス・バーナー。はい一致。
婚約者の名前は?
―――エドウィン・ローランド。これも一致。
そして―――
『キャンディスとは6歳の時無理矢理婚約させられたんだ。その頃から誰かを虐めるのを生き甲斐としてて、僕もよく泣かされた。……でも安心して、君のことは僕が守る。あの女に生まれてきたことを後悔させてやるんだ』
そう黒い笑みでヒロインに向けて言ったエドウィン。はい、これも一致ですね。
お互い6歳で婚約してるし、さっきまでこの子泣かせる気満々だったし。
……うん、このままじゃヤバいね。間違いなく死ぬね。
てか、は? ここってほんとに乙女ゲームの世界ってこと?
じゃあ何? 私転生したの? 前世で死んだ覚えないんですけど。
いきなりこんな世界に投げ出された挙句、結末はデッドエンド!?
ふざけんじゃねええええ!!
「……」
只今、目の前で大号泣している男の子。そんな彼を私は無表情で見下ろす。
左手には見るも無残な姿形になっているウサギのぬいぐるみ。さっきまで男の子が大事そうに抱えていたものだ。
「ひっ、ひどいよおおおっ僕の、うさちゃん……ッ」
「……」
つまりは、男の子が大事そうに抱えていたウサギのぬいぐるみを、私が力ずくで奪って、あろうことかぐちゃぐちゃに引き裂いた。
そりゃあ泣くわな。まだ6歳だし、そのぬいぐるみはお母さんに買ってもらった大切なモノだと言っていた。
だけど、1つだけ言わせてもらいたい。
私だってほんとはこんなことしたくないんだよおおおおお!!!!
―――何故、こうなってしまったか。
順を追って話そう。
私は少し前まで、純粋な《悪い子》だった。甘やかされて育った所謂我儘お嬢様。常に誰かに迷惑をかけ、毎日のように人を泣かせたという。
私にとってそれが当たり前の光景だったし、特に何とも思わなかった。思っていたのは泣いてる暇があったら早く言う通りに動けよ、くらいだ。
今思えば最低だと思う。僅か5歳でそんなことを考えるくらいだ、将来はさぞご立派な悪役令嬢になったであろう。
―――だけど、ある日を境に私の人格は一変した。
その日は私の6歳の誕生パーティーだった。
両親から抱えきれない量のプレゼントを貰い、満足して……いやこの3倍は欲しいなと思っていた時―――
『あなたに紹介したい方がいるの』
お母様にそう言われ振り返った先にいたのは、もじもじしている女の子のような男の子だった。
『ローランド公爵家のご長男、エドウィン・ローランド様。今日からあなたの婚約者になるのよ』
婚約者、と聞き慣れない言葉を噛み砕いた。
いきなりでびっくりしたけど、一応侯爵家の令嬢として生まれたのだ。いつかはこういう日が来ると思っていた。
婚約者として紹介された男の子を見てみる。銀色のさらさらな髪に、うるうると不安そうに見上げるルビーのような瞳。公爵様らしき人の服の袖をギュッと掴んでいるその手はとても小さい。
どう見ても庇護欲をそそられるような外見。だけど私の場合は嗜虐心をそそられた。
こんな子、少しつついただけですぐに泣いてしまいそうだ。それはさぞ楽しかろう。
婚約者という名の新しい玩具を手に入れたのだ。
と、心の中でほくそ笑んだ時だった。
―――あれ?でもこの見た目、どっかで見た覚えがあるような……。
そう思った瞬間、滝のように流れてきた数々の映像。
プラチナブロンドの髪にアイスブルーの瞳。まるで私をそのまま成長させたような風貌の女が銀色の髪の青年に踏みつけられ、剣を突き立てられている。
その近くには黒髪黒目の儚げな美少女が不安そうに眺めていた。
かの有名な断罪シーンだ。
『キャンディス・バーナー、これ以上君の悪行を見過ごすわけにはいかない。その命を持って償え』
綺麗な容姿からはとても想像できない冷徹な声。
そしてそのまま剣は振り下ろされ、女は断末魔と共に息絶え―――
その映像は確かに見たことがあった。―――前世で。
信じられないことに、高校生の時やっていた乙女ゲームだ。
とにかくライバル令嬢のキャンディスが極悪非道で、ヒロインを虐めに虐め抜いていた。
それはもう目も当てられぬほど酷くて、ヒロインは毎日のように泣いていた。
しかし、侯爵家という地位のおかげで制裁を受けることもなく―――なんてことはなく、ヒロインに惚れていた婚約者の公爵子息によって呆気なく殺された。
うん、あん時は爽快だったな~。一部では殺し方がむごいとかなんとか言われてたけど、それ相応のことをやってたんだし自業自得―――って私じゃん!! それ間違いなく私だよ!!
はあ!? 私殺されんの!!?
ライバル令嬢の名前は?
―――キャンディス・バーナー。はい一致。
婚約者の名前は?
―――エドウィン・ローランド。これも一致。
そして―――
『キャンディスとは6歳の時無理矢理婚約させられたんだ。その頃から誰かを虐めるのを生き甲斐としてて、僕もよく泣かされた。……でも安心して、君のことは僕が守る。あの女に生まれてきたことを後悔させてやるんだ』
そう黒い笑みでヒロインに向けて言ったエドウィン。はい、これも一致ですね。
お互い6歳で婚約してるし、さっきまでこの子泣かせる気満々だったし。
……うん、このままじゃヤバいね。間違いなく死ぬね。
てか、は? ここってほんとに乙女ゲームの世界ってこと?
じゃあ何? 私転生したの? 前世で死んだ覚えないんですけど。
いきなりこんな世界に投げ出された挙句、結末はデッドエンド!?
ふざけんじゃねええええ!!
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