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1章
2話
しおりを挟む「あっもしもし 杏(あん)か?いま行くから開けてくれ
それと ちょっと連れ込みたい奴いるんだけどいいか?」
「ああ じゃあ頼む」
プツ 電話が切れる
「・・? えっと やっ やっぱり 誰かと一緒なんですか?」
予想はしていたが やはり戸惑う・・一拓が そう男に疑問を投げかける・・
「ああオレのダチ!協力してくれてんの
実は もう1ヶ月近く匿ってもらってる奴なんだ
心配すんな!お前も入れていいってさ!」
と嬉々としてそう答える男・・
「えっ! そ・・そうなんですか・・」
(い・・意外に すごい逃亡期間だ・・
自分のニュース以外 気にしてる余裕なかったから知らないなぁ・・)
「さ 行くぞ!」
ガチャ
そして そう言って その簡易扉のフタの取っ手を掴み
上に引き上げてグイッと扉を開ける深緑の上着の男
中は真っ暗い深淵の闇が・・・・ぽっかりと口を開けている・・
「・・・・っ!」
ちょっとゾクっとする一拓・・・・
「・・・そ そういえば これ・・一体どこ繋がってんですか・・・?」
「ああ ダチのうちだよ! いいから入れ~
暗いけど途中で灯りはあるぞ ビビんなくても平気だ~ガハハハ!」
こんな状況でも笑って 信じろ!と促す彼・・・
「う・・・・・・ううん・・・」
(内心 怪しい・・でもこの人は大丈夫・・うん そこは納得してる・・
追われているなら こういうとこも きっと自分なら使う・・
うん 場所も人も多分見かけによらない・・たぶん・・・!
よし・・と とりあえず行ってみよう・・・)
・・信じると決めたのに すぐに揺らぐ 一択の気持ち・・
(うーん・・信じるって難しい・・でもお互い見ず知らずは同じ・・
この人はオレをすぐ信じて警戒してる様子すらない・・信じたらまっすぐ・・すごいや・・)
・・そんな一拓の懸念をよそに・・当の男本人は
ずっと嬉々として秘密基地に招待している そんなやんちゃな少年のよう・・
(はは・・でもこんな状況なのに 調子狂うなぁ・・まあそれが この人の良さ・・かな)
・・その開いた扉の下は・・よく見ると 四角い穴が下へとまっすぐに続いていた・・そして
「じゃ!足元注意しろよ~先行くわ!」
と言って男は先に穴に入り出す・・
そして・・その男が入った後 一拓が もっとよく扉を観察してみると・・
それは普通に掘っただけの穴ではなく 縦にしっかりと
下へ降りるためのハシゴが取り付けられ
コンクリートっぽく舗装も ちゃんとされている穴 だった・・
「あ すまんが その扉閉めてくれなー 鍵もついてるからかけてくれ」
「あ はい・・」
そして・・すうっと吸い込まれるように深緑の上着の男は穴に消え
カツカツと靴の音だけが聞こえる・・しかし すぐ・・
「あっワリィ!」
「うわっ!」
そう言って突然 彼が戻り 穴から光る携帯が差し出された
「ほら扉閉めると さらに見えないだろ あかりだよ 忘れてた~ガハハハ!」
「なっ・・なんだ・・はははは・・」
(ドキドキドキドキ)
目の前の状況は ほとんど見えない暗い穴から出た手の周辺だけが光に照らされて
ブンブンと左右に 携帯を振る手があるだけなのだ・・一見すると非常に怖い・・
まあその主は 誰だが分かっていると すぐに平静を取り戻す一択・・
「まあ 早く降りてこいよ」
「は・・はい じゃあ 降りますよ・・」
カツン そして ハシゴに足をかける一拓
・・そして一拓は 言われるがまま その穴に入り
あかりを頼りに扉を閉めて鍵をかけ下へと降り進んだ・・
(よかった・・やっぱり変な事にはならない・・この人は きっといい人だ)
安堵する一拓・・そして少しすると
「・・ああ ここはな 杏の父ちゃんがさ こういうの好きで
杏が子供の時に作ってたんだってさー
自分の家まで穴掘ってな 実際にはすぐそこの家の住人なんだけどなー」
「えっ・・そっ そうなんですか・・」
暗闇で続く会話・・降りながら話す2人
(あれ・・そういえば あんって 杏っていう字か?じゃあ まさか おっ女の人・・??)
「・・さて ここからは横穴だ こっちだぞー」
・・少しして 下から そう話す声と ハシゴから下へ着地したような足音が聞こえてくる
そして 携帯が照らす人影が立って手を振り上げ こちらを下から見上げているのもわかった
下は少し広いらしい・・それを見て さらに安心した一拓だったが女性かもと知り
一瞬だけ懸念する・・しかし とりあえず後でにするか と そこは先へ進む事を優先し
そして一拓も無事 下へと着地を終えた・・
「ここから先は横穴でなー狭い通路だから 少しかがんで 這って行かないと進めないんだ 」
「おぉ・・そ・・そうなんですか?それにしても よく作ってありますね・・」
「だろ~」
・・男の携帯で照らされた辺りをよく見ると 手作り感が満載の穴ではあったが
その壁が明るめの色で塗られていた そして これも娘を思っての事なのだろう
壁は崩れないよう しっかりと全面舗装がされており 安全面の信頼もしてよさそうな作りをしていた
・・ところどころに子供のラクガキらしきものも そのままに残っている
(まあ オレらも通れるという事は・・そのお父さんも一緒に入って遊んでいたのだろうな・・)
それを考えたら 少し微笑ましく・・杏という人の事も 少し垣間見えた気がした
(・・・でも 大丈夫かなぁ・・ううん・・)
「さて!そいじゃあ行くぞ!」
「あ はい・・」
もちろん気づいてはいないだろうが 一拓のする心配を
まるで知っているかのように ズバッとさえぎって言う深緑の上着の男・・
・・その先も さっきと同じ壁が続く横穴で・・やはり手作り感のある穴だったが
今度のは暗闇の少し先にあかりが チラチラと見えていた
「ああ あっちはあかりあるんだ!あれ目指していけばいいから」
「は・・はあ・・」
・・そしてその 横穴に入ると道は まっすぐで
今度は少し行くと比較的すぐ そのあかりの部屋に出た・・・
「あ・・出口・・」
その時 すでに穴を出て 一拓の先を行っている深緑の上着の男は
スタスタと慣れた様子で あかりの方へと歩いていく・・
・・一拓は 安堵しつつも 穴からまず様子を伺った
そこは・・先ほどくらいの少し広い空間に オレンジ色の温かい光・・とても明るい場所だった
そしてその光の正体を探してみると・・視線の先に玄関ドアによくついているような電灯 それが壁に設置されていて灯っているのが見えた・・少し不思議な空間だった
・・その雰囲気は まるでかまくらの中でチラチラする光
そして洞窟探検の灯火のような そんな独特の温かみに近く・・
少しだけ まどろむ 一拓・・しかし・・
(えっ!あれっ? )
・・その電灯の隣にある物を見て驚いた
なんと その隣には・・普通に「家の玄関ドアらしきもの」も あったのだ・・
・・それは先ほどの不思議空間から いきなり現実へと引き戻され
「まるで 洞窟探検中に玄関ドアを発見した!」かのような
とても異様な光景だった・・そして
コンコン
「帰ったぞ~」
ガチャ
「ああ うん 」
・・と・・さらにそこで・・ごく普通に
「家族の元へと帰還したサラリーマンを出迎える主婦」
みたいな会話まで さくっと繰り広げられ・・
一拓は さらに現実へと ずいずい引き戻されてしまったのだった・・
(う・・うう・・)
「ん?そういえば 連れてきた奴っていうのは?」
ガチャ 先ほど男を出迎えた女性がドアを開けて出る
「ああ それは あいつさ」
そして いま穴から這い出たばかりの一拓の方を見る2人・・
(はあ・・やっぱり女の人だったな・・)
そう思いながら一拓も 2人を見る・・すると・・
(ええっ! す すごい格好だな・・)
特に目立つ女性の方を見て一拓は驚いた
・・そこに現れた女性は 目が大きくて上品な顔立ちだが
先ほどの「父と娘の家庭愛溢れる話の印象」とは えらくかけ離れすぎた黒い服・・メイク フリフリのフリル そして 頭には何やらレースやフリルのついた黒い帽子のようなものまで かぶり・・しかも 頭も黒髪のツインテールだったのだ・・唯一 髪に添えられた赤いバラの髪飾りが ようやく鮮やかな「色」を
やっとそこで呈している・・
その様子に 少しギョッとする一拓だった・・
(こ・・これは・・もしやゴスロリというやつ・・か・・?
何かと思って身構えてしまったや・・)
「あ そうか! お前 杏見るの初めてだもんなー こいつこういうの好きなんだって
でも意外に編み物とか得意なんだぞ~」
深緑の上着の男が言う
「あ ・・あはは そ そうですか・・」
苦笑いする一拓
(・・・あっ そうだ挨拶・・)
「・・あっ はっ初めまして・・突然すみません」
「あーいいえ あなたも何か困ってるんでしょ?こいつが連れてくるのは いつもそういう人だから
でも こんな状況でも連れて来るなんて よっぽどの事ね・・ま 遠慮なく上がって いいわよ 」
「あ・・有難うございます・・」
(み・・見透かされているや・・いい人そう・・・ううん・・でも)
やっぱり・・と そう思い 先ほどからの懸念を 一応話す事にした一拓・・・
「あ・・あの・・」
「ん?」
「じっ 実はその・・最初 知らずについて来ちゃったんですけど・・
ここって その・・やっぱり・・彼女さんの家なんじゃないんですか・・?
さすがに悪いですよ・・・」
言いづらそうにだったが・・きちんとそう話した一拓・・
・・それを聞いた2人は ハタっと 目を丸くする・・
(ああ・・やっぱりそうなのかな・・)
その2人の反応を見て思う一拓
あの男の善意は・・本当に素直に嬉しいし彼はダチだと言っていたが・・
一拓からすると目の前のそこは どう見ても カップル空間にしか見えないのだ・・
・・・普通に考えて そんな平和そうな場所を
殺人事件の容疑者がジャマするわけにはいかないだろう・・
彼らが どんないい人でも 彼らにとって自分が迷惑な事にやっぱり違いはないのだ・・
今は まだ何も言われてはいないが 後で嫌な思いをさせるのなら と
一拓は そこを懸念していた・・
「・・あ・・・」
「あははははっ!そっか そっか~!
確かに知らないと そう見えるかもね~あははははっ
いやだ おっかしい あはははっ」
予想に反し 女性の方が 突然ケラケラと笑いだす
「えっ・・?」
「あはは あのねーご想像のとこ悪いけど 違うわよ こいつは ただのダチよ!
こいつの他のダチだって家に来る事あるわ~ それに ここ
私の部屋とは しっかり隔離されてるわよ」
「!ああ~そうか そう見えたか~悪いなぁ 気ぃ使わせたか?ガハハ
全然違うぞー まあダチだ!ガハハハハ~」
深緑の上着の男も言う
「あ・・うう・・」
予想外の反応・・そして その2人の様子を見て そこでようやく・・
「1人だけピントの外れたような事を 真面目に気にしてしゃべっていたのだ 」と
そう気づいた一拓・・・・
(ううん・・なんだ・・・ちょっと恥ずかしいや・・
1人で深刻に考えすぎていた・・かな・・)
「あなた真面目なのね~」
・・そして クスっと笑い 女性は語り始める
「・・フフフ まあ 覚えときなさい! 私の理想はとっても高いのよ!
背が190センチ以上で 王子様みたいなー」
キラキラした憧れの表情を浮かべる彼女
「ガハハハ!」
「は・・はは・・・」
「・・ま 「凪(なぎ)」は いい奴だし 身長も183くらいだし!顔も そこそこなのは認めるけどねー
・・でも それでも やっぱりダチなのよ!!うん!それは凪も知ってるわよ」
かなり断言している彼女
「ガハハハハ!そうだな~お互いの理想は前に話した事あるよな~
予想通り全然違ってて笑ったよな!!ガハハハハ~」
「あはははっ そうそう!懐かしいわね」
もはや談笑に変わり 一緒に笑う2人 どうやら むしろ親友という感じのようだ・・
(・・・う・・しかし この2人は・・前からこんな風に困ってる他人を受け入れているのか・・?
ううん・・・付き合いは長そうだけど・・って そういえば・・凪・・・?
もしや名前か・・? ああそうか まだ名前も 聞いてなかったんだっけ・・)
「はは・・」
そうして 今までの状況を思い返す一拓
「・・・って あれ? そういえばあんた・・どっかで見たような気がするわね?」
「うっ!」
先ほどまで笑っていた女性に ふと言われ ビクッとする一拓
「ああ こいつ大丈夫だから~」
「なっ・・まっまさか・・!」
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