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1章
1話
しおりを挟む・・いま思えば・・あれは絶対に・・運命のいたずらだった・・
「はあ・・はあ はあ・・」
季節は11月初旬・・晴れていて風も穏やかな夜だが 冷たく透き通る寒空の下・・
人気のない路地の暗闇から 薄青色のパーカーを着て フードをかぶり・・
疲れた様子で走る 若い男が現れる・・
(もう少し 離れないと・・)
・・そして 路地の出口へと なおも変わらずにスピードを上げ急いで走る男・・
・・しかし もう出口という ところへ・・
進行方向右側からスッと・・突然 人影が現れる! そして・・
「うわっ⁉︎」
「ああっ⁉︎」
2人は衝突してしまう
バタッと倒れるパーカーの男・・
「あっ!すっ すみませんっ!」
パーカーの男が その後すかさず上体を起こしながら振り返って謝る・・
パタパタと服の汚れを払うが パーカーのフードが 彼の頭から外れた事には気づかない・・
・・パーカーの男が ぶつかった相手を見ると・・
膝上くらいまである丈の長い深緑色の上着を着て、大きめで厚いフードを深くかぶり
首には口元が隠れるようにマフラー、表情は伺えない・・
だが、とても背が高く、おそらく男だろう・・そんな人物がいた・・
・・その人物は どうやらよろける程度で済んだようで
その場に普通に立ち、こちらの様子をじっと伺っていた・・
「・・・なぁ」
そして しばらく黙っていた人影が口を開く・・
ドキッ!
(声が低い・・やっぱり男か・・)
そして続ける深緑の上着の男・・
「・・えっと・・・ま まさかとは思うけどさ・・もしかしてお前 ニュースの・・? 」
(うっ!)
パーカーの男はドキッとする
そう言いきると パーカーの男に近づき ずいっと顔を覗き込んだ
深くかぶったフードで相手の男の特徴は・・やっぱりよくわからない・・
「うっ!なっ にゅっニュース??」
焦りながらも男の方をちゃんと向いたままで言う パーカーの男
・・そして その深緑色の上着の男を見た時・・
そこで初めて その周辺の状況も やっと視界に捉え出す パーカーの男・・
あの路地の先・・つまり自分のいるこの場所は、人通りはあまりないようだが
所々外灯が灯り、ガードレールがある歩道だった。この歩道の先は車道・・
そしてその向こうにまた歩道があり、その周辺の雰囲気から
ここは おそらく店がだいたい閉まった商店街のようだと推察する
・・そして その歩道には今も深緑の上着の男がいて 自分を見て立っているわけなのだが、その男の横つまり自分が出てきた路地の出口すぐ右側には 小さな電気屋があり そこは、まだ営業しているのかガラス張りの奥にテレビが置かれ そこから音声が流れ出していた・・
・・そして 深緑の上着の男に唐突に聞かれ返答し
同時に自分の現在と周辺の状況を確認した その間にかかった数秒間の後・・
ピ ピ ピ ポーン!
22時になりました ニュースをお伝えします
すかさず 小さな電気屋に置かれた あのテレビが沈黙を破った・・
(うわあっ なんでこんな時にテレビがっ)
パーカーの男がうろたえる
「あ ちょうどいいやな・・」
そう言って 深緑の上着の男がすっと後ろを振り返り そのテレビを見始める・・
(う ウソだろ・・どうしよう・・こっ このまま逃げたら通報されちゃうよ・・
かといって確かめられても困る・・ううん・・で でも)
パーカーの男が そんな風に うろたえているうちに・・
・・さて 繰り返しお伝えしていますが 先月10月27日頃
東京都 実苗(みなえ)町で起きたとされる殺人事件の容疑者
御磋崎 一拓(みさざき いったく)容疑者(18)が 現在も逃走中です
不審人物の目撃情報などもございましたら こちらまでご連絡…
(ああああっ!でっ出ちゃった!?どっどうしよう)
「あ ほら!やっぱり!これお前だろ?」
間髪入れず なぜか嬉々として追求する深緑の上着の男・・
・・そこには 黒髪でやせ型 優しげな表情を浮かべ
人など決して殺しそうにない雰囲気をした若い男の写真が
「殺人の容疑者だ」として報道され映っている・・
「・・うっ・・いっ いやいやいやいや ちっ違いますよ!
あの殺人事件の容疑者 オレと顔がよく似てて困ってるんですよね~
前も一回間違われて困っちゃって~ あははははー」
とても慌てふためいて喋る「一拓」
(ああ・・お・・終わった・・・オレ)
そんな雰囲気が漂い・・諦めかけたその時
「うーん…」
そう言いながら 突然フードを頭から右手で外し マフラーを緩め・・
「なぁ あのさ・・オレの顔は・・見て驚かねぇ?」
そう言って 少し嬉々として話し出す深緑の上着の男・・
「・・は??」
その問いの意味がわからず あっけに取られる一拓
・・その深緑の上着の男は 茶髪で 美容院でセットされたような髪型
耳にはピアスだろうか?背も高く足も長くて とてもスタイルが良さそうな
見た目は そんな今風の若者だった・・
(か・・軽そう・・・)
思わず その男の感想が心に出てしまう一拓・・しかし その男が口に出したのは・・
「あ~そうか~ 逃げるの大変だったのか~
そうだよな~ TVなんて悠長に見てらんねぇよなーガハハハハ!」
そう言って 一拓を予想外に気遣う言葉だった・・
がしっ!
・・だが・・そんな言葉も束の間 一拓の右腕を
なぜか がっしりと掴んだその深緑の上着の男・・
「!?」
「うっ!? ちょっちょっと!?」
「あははは~大丈夫だ! 逃げてんのオレもだから!」
そう言って嬉しそうに 少し上から一拓を見下ろす深緑の上着の男
「えっ!?」
その言動に目を丸くして固まる一拓
「・・もちろん オレも無実だよ・・あんたも そうなんだろう?」
ハッとする一拓
「あ ほら やっぱり!その顔 安堵感!間違いないでしょ!」
「うっ・・」
予想外すぎる状況・・しかも簡単に自分の心境を見透かされ たじろぐ 一拓・・
「ガハハハハ!いやさ おまえ ついこの前のオレと
おんなじ顔してたからさ ちょっとね~ これは放っておけねぇ・・」
そう言いながらフードを再度かぶり
マフラーも また同じように顔にかかるよう巻きだす その男・・
その周辺に 未だ人通りはない・・
・・一拓は 初対面で・・しかも自分が殺人容疑だと知っても
一切の警戒感なく・・しかも嬉々として接してくるその男を・・
少し不思議そうに それでも まっすぐに見据え・・
「あ・・ありがとう・・確かにオレはやっていません・・」
正直に 落ち着いて そう話した
「ああ!オレは信じるぞ! 」
「そ 即答・・ ははは ・・あ ありがとう‥」
(人は見かけによらない・・なのか・・・?
まあ 信頼できるのかは まだわからないよな・・でも・・)
疑われも警戒もされなかった事に とても安堵する一択・・少し緊張が解ける・・
「ニヒヒ!オレ 一応人を見る目はある方なんだよね~
雰囲気からだけど それにおかしいと思ったんだよなー
殺人犯がぶつかった奴に ちゃんと謝るなんてさ
お前からは嫌な感じもしないし! ほら お前も もうフード かぶっとけよー」
「えっ フード⁉︎ 」
「なっ! 外れてるの今気づいたのかよ!
やっぱり お前は殺人なんて やってねえな~あはは」
とても初対面とは思えない話ぶりで 嬉しそうにそう話す深緑の上着の男
(あわわ・・)
慌ててフードをかぶる一拓
「ハハ!まあ ここであったのも何かの縁だ
あんた まともに休んでなさそーだし オレんとこ来いよ!」
「えっ」
(…この人 オレを本当に信じて…今時 なんて珍しい人だろう・・
いくら同じ境遇でも面倒は嫌なものだ・・
少し話したら もう そこで終わりだと思ったや・・)
「で・・でも 悪いですよ・・」
「あはは~いいからいいから!
本当 オレも逃げてんだから通報とかあり得ないから!
心配すんなよ!!ガハハハハ」
そう話を続け 掴んでいた腕を離し
背中をバシッと軽く叩き 一拓に前進を促す 深緑の上着の男
「あ・・は・・はあ・・」
そして さっきの路地を一拓が出た右側にあたる進行方向へと進み
先ほどの電気屋がある その前を横切って 2人は ゆっくりと その歩道を歩きだした・・
(・・・そういえば この人は 何の容疑で・・でも‥この人は きっと悪い人じゃない‥ はぁ・・まあ もうウソでもいいや・・久しぶりだ・・一瞬でも こんな人の温かさ・・)
一拓は その男から感じる人の良さに安堵し 少し安らぐ事が出来た事に変わりはないと・・そして疑う事もなく すぐに自分を信じてくれたその男を 自分も信じてみようと ついていく事に決めるのだった・・
そして 安堵と少しの疑念が入り混じる冬の空を見上げた・・
・・そして2人が去った路地 テレビの近くの電柱の広告・・
-東京都 希王市(きおうし)叶夜町(かなやちょう)-1丁目
・・誰も見ていないテレビからは なおも音声が流れ続ける・・
‥さて先月3日、東京都 叶夜町で起きた殺人事件の容疑者
弥凪 鷹楠 (やなぎ たかな)容疑者(20) ですが 未だ現在も逃走中です
実苗町と叶夜町の この2つの殺人事件は どちらも同じ希王市内で起きており
警察は この2つの事件について 何か関連がないかも含め 慎重に調べています・・
不審人物の目撃情報はこちらへ‥
ーここから オレ達のかくれんぼが始まったー
-同日 午後22時15分-
・・しばらく続いていた 深緑の上着の男が嬉々としてする話を・・
半ば一方的に聞きながら しかし同時に とても深く安堵しながら・・一緒に歩く一拓
・・すると 緑の茂みが多い公園が少し先に見えてきた
-夢見路公園-
「・・ん?」
(ゆめみじ こうえん・・?)
「ああ ここだよ 夢見ろ公園な!」
(ゆっ・・・ゆめみろ・・・夢見ろ・・っ?)
「夢を叶えるまでの路(みち)って意味らしいけどな~
そのまま読むと「夢見ろ」だよな~ ガハハハハ!」
「あ・・あはは・・」
(へ・・変な公園・・って!そんな事言ってる場合じゃなかった・・)
「え えっと・・そ その公園で野宿なんですか・・?」
「ああ いいや・・」
そう言うと 男は ササッと左右を見て誰もいない事を確認・・
「よし行くぞ 暗いけど心配すんな!こっちだ!」
「え? あ・・は・・はい」
なぜか 公園の暗い茂みの方に 足早に入っていく深緑の上着の男・・
一拓はそれに 戸惑いながらもついていく・・
(ううん これは・・ちょっとまずいような気も・・)
・・しかし 男は気にせず どんどん進んでいく・・
すると少し進んだ頃・・少しだけポカリと 茂みの生えていない 小さな空間に出た
周りは背の高い茂みだらけで 暗くてよく見えないが
公園の外灯で かろうじて周りが少しわかるという感じだった・・
・・深緑の上着の男はそこで止まり
「ああ ここなんだ」
少し小声で話す
「え?」
そして多分 携帯か何かだろう その明かりで地面を照らす
(・・?なんだろう ここ・・)
・・そこには 茂みに巧妙に隠されているが
地面に設置されている 鍵と取っ手のついた簡易扉があった
「!?」
「シシシ!いいだろこれ!秘密基地みたいな感じな」
「お・・おぉ~」
何気に感心してしまう一拓
(なんで こんなところに・・しかも誰が?まあ いいか・・)
その後 なおも暗くてよく見えないが 深緑の上着の男は どこからか また何か取り出して
ガチャガチャとやってみせた おそらく扉の鍵を外しているようだ・・
「うん これで よしっと 」
そして 今度はおもむろに電話を耳にやり 突然に かけ出した
(あ・・やっぱりあれは電話か・・でも お 追われてるのに大丈夫なのか・・?)
「ああ ちょっと待ってろ 電話はダチのだから安心しろよ!」
そして ニヤっとしてこちらを見ている深緑の上着の男
「ああ は はい・・」
(そっか・・友達の・・じゃあ 友達も ここにいるのか・・?)
一拓も 慌てて 精一杯の笑顔を返す
プツ
そしてつながった電話の相手と 深緑の上着の男は 通話をし始めた・・
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