【完結】まだ結婚しないの? 私から奪うくらい好きな相手でしょう?

横居花琉

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リリーはケインから婚約するという連絡を受けた。
そして彼がフローラに婚約破棄したことも知っている。
リリーはフローラのもとへ向かった。

「お姉さま……。ケイン様との婚約が破棄されて残念でしたね」

リリーはフローラの部屋に入ると、少し沈んだ表情で言った。

「そうね、私も最初は驚いたわ。でも、もうそれで良かったのかもしれないと思うの。今はもう未練もないわ。すっきりした気分よ」

「それは安心です。それで私からもお知らせがあります。実は、私、ケイン様と婚約することになりました」

フローラは驚いた。
なぜケインが急に婚約破棄したのか理解した。
婚約者を代われるものなら代わってほしいとリリーに言ったことがあったが、まさか本当にそうなるとは思わなかった。
代わるというよりも奪われる形だったのかもしれない。
形はどうあれフローラはもうケインに悩まされることはなくなったのだから、妹の婚約を祝うべきだと考えた。

「そう……。それがあなたの決断なのね。私はその決断を尊重するわ。婚約おめでとう、リリー」

「お姉さま、気を悪くしていないかしら?」

「いいえ、全然気を悪くなんてしていないわ。あなたが幸せになるなら、私はそれを祝福する。だからね、リリー。幸せになってね?」

心の中ではケインとリリーが幸せになれるとは思えないという思いが渦巻いていた。
彼女はケインが自分に示していた結婚に消極的な態度を思い出し、リリーも同じような目に遭うのではないかと考えた。

「ありがとう、お姉さま」

リリーは感謝の気持ちを込めて言った。
フローラの不満から自分が婚約できたのだから、彼女へ感謝するのは当然だと思ってのことだ。
しかしこうなった以上、後は自分が幸せになるだけだ。
自分なら上手くやれる。
きっとケインともすぐに結婚できるだろうと考えた。
フローラが果たせなかったケインとの結婚を実現し、幸せになることがリリーの目標となった。





リリーとケインの婚約が決まると、両親はその知らせを喜びを持って受け入れた。
家族の中に新たな縁が生まれることを心から歓迎する気持ちがあった。

しかし、フローラにとっては複雑な心境だった。
彼女は自分の婚約が破棄されたことを思い出しながら、両親の反応に少し戸惑いを感じていた。

ある日、フローラは両親と共に食卓を囲んでいた。
リリーが不在だったために彼女に配慮する必要がなく、家族の話題は自然とリリーとケインの婚約に移っていった。

父親は笑顔を浮かべながら言った。

「リリーは素晴らしい選択をした。ケインは優れた家柄の青年だ。彼との婚約は家族にとっても良いことだ」

母親も頷いた。

「フローラ、ケインとの婚約がこういった結果になってしまったけど、これで良かったのかもしれないわね。彼のように態度をはっきりさせない人物と結婚しても幸せにはなれないでしょう」

その言葉を聞いたフローラは心の中で反発を感じた。
彼女は彼女なりに最善を尽くしてきたつもりだった。
その努力が結果的に実らなかったとはいえ、努力が無駄になったことを喜ばれているように感じた。
一方で両親の期待に応えることができなかった自分を情けなく思った。

「ケインの婚約は私たちの意志で断ることはできない。そういった力関係なのだ。しかし、彼がリリーを選んだのだからそれが全てだろう。お前が気にする必要はない」

フローラは自分の気持ちに翻弄されていた。
今までのことをどう考えればいいのか分からなかった。

「フローラ、私たちはあなたの新たな婚約者を探さなければなりません。あなたにも幸せになってほしいのです」

母親は優しい声で言った。
彼女の目には娘を心配する気持ちが満ちていた。

フローラはいつまでも過去に囚われていてはいけないと考えた。
目を向けるべきは未来だ。

しかし彼女はもう行き遅れと呼ばれそうな年齢になっている。
自分が本当に幸せになれる相手を見つけられるのか、という不安が消えなかった。

「焦らずに探せばいい。大切なのは自分自身が幸せになれる相手を見つけることだ」

父親は力強く言った。
フローラはその言葉に少し救われた気がしたが、現状は何も救われていない。
必要なのは新たな婚約者だ。
その存在が彼女の心に安寧をもたらす。

食事の後、フローラは一人で部屋に戻り考え込む。
自分の未来がどうなるのか、まるで見えない霧の中にいるようだった。
彼女は新たな婚約者を探すことに期待を抱いた。
その期待が儚く消えないことを祈った。





婚約者を作らなければならないのはフローラだけの問題ではない。
両親も協力的であり、フローラは婚約者に求める条件をはっきりと定めることにした。

その中でも結婚に前向きであることが、彼女にとって最も重要な条件だった。
もう年齢的に厳しいので当然なことだ。

両親は彼女の意見を尊重し、いくつかの婚約者候補を探し始めた。
彼女は数人の候補者と顔を合わせていく中で、自分に合った相手を見つけようとした。
その一方で焦って選んでしまえば失敗することになるという考えもあり、婚約者探しは難航していた。

そんな中、一人の候補者の名を聞き、フローラは懐かしさを覚えた。
その人物の名はエリオット。
彼女の学園時代の同級生である。

彼はいつも明るく優しい性格で、フローラは好印象を抱いていた。
フローラはケインと婚約することになっており、彼との婚約は実現しないものだと理解していた。
今になって彼のことを考えると、当時は彼のことが好きだったのかもしれないと思った。

こうやってまた縁があることに運命的なものを感じてしまった。
それは新しい希望になるかもしれない。

「エリオット……。まだ婚約者がいないのかしら?」

フローラは疑問を抱いた。
彼の性格であれば婚約者ができないはずがない。

「もしかしたら別の理由があるのかも……」

考えたところでどうにもならない。
彼女が決めるべきは会うか会わないかだ。

フローラは両親にエリオットと会えるよう手配してもらうことをお願いすることにした。

「お父様、お母様。エリオット様とお会いしたいのですが、会う機会を作っていただけませんか?」

両親は彼女の今までにない積極性に驚いた。
それだけ乗り気ならば今度こそ上手くいくだろうと考えた。

母親は微笑んだ。

「もちろんよ。エリオットは良い青年だから、あなたが興味を持つのも無理はないわね。すぐに手配してみましょう」

数日後、フローラは両親からエリオットと会う日程が決まったと聞かされた。
彼の家に招かれることになり、フローラの心の中で期待と不安が入り混じった。

いくら学園時代に友好的な関係だったとしても時間が空きすぎていた。
今の彼がかつての彼と同じようなのかは分からない。
それでも期待してしまう自分がいた。

フローラはエリオットのと再会がどうなるか、想像するだけで胸が高鳴った。





フローラはエリオットとの再会を心待ちにしていた。
学園時代、彼の明るい笑顔や優しい言葉は彼女の心に少なからず影響を与えていた。

再会の日、フローラは彼の家に向かう道すがら胸が高鳴るのを感じた。
エリオットの家に着き、彼はすぐに迎え入れてくれた。

彼の姿を見た瞬間、フローラは思わず息を呑んだ。
彼は以前と変わらず、爽やかな笑顔を浮かべていた。
その笑顔を見た瞬間、彼に対する少しだけ抱いていた好意が再燃した。

「フローラ、久しぶりだな」

エリオットは明るい声で言った。
彼の声は心地よく、フローラの緊張を和らげてくれた。

「エリオット、久しぶりね」

フローラは微笑みを返した。
心の中で、この再会を上手く婚約に結び付けたいと決意した。

応接室へ通され思い出話に花を咲かせ、ついに本題になった。

「フローラ、君がまだ婚約していないなんて信じられないよ。君は素敵な女性なのに」

「実は、以前はケインと婚約していたの。でも、結婚を先延ばしにされてしまって……。それで婚約破棄されたの」

フローラは少し声を落として言った。

エリオットは驚いた表情を浮かべた。

「そうだったのか。ケインも酷いな」

「私は待つことに疲れてしまったの。だから婚約破棄されて良かったと思っているわ」

エリオットは彼女の言葉を静かに受け止め、考え込むように目を細めた。

「実は、僕も婚約破棄があったんだ。婚約者が浮気して、僕から婚約破棄したけど」

エリオットとは自分の事情を打ち明けた。

フローラは驚き、彼に婚約者がいない理由に納得できた。

「エリオットも大変だったのね……」

「信じていた相手に裏切られるのは本当に辛いことだよ。彼女が他の人と関係を持っていたのを知ったとき、心が壊れそうだった」

「本当に苦しい経験ね……」

「でも、今はもう過去のことだと思っている。僕も早く結婚したいと思ってるんだ。今度こそ、裏切らない人とね」

エリオットは何よりも伝えたいことを言う覚悟を決めた。

「君となら幸せになれる可能性を感じる。婚約を前向きに考えてくれないか?」

フローラはその言葉に胸が高鳴った。
エリオットも早く結婚したいという考えを抱いていることは好都合だった。
彼女は心の中で彼と作り上げる未来への希望が芽生えていくのを感じた。

「私も同じ気持ちよ。お互いに新しい人生を築いていけるなら嬉しいわ。婚約しましょう」

「ありがとう、フローラ。幸せにすると約束するよ」

こうして二人は婚約した。
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