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図々しい義妹夫婦を撃退したら夫に捨てられました

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デイジーは美しい花を眺めても心は重苦しかった。

デイジーとサーストンは婚約しているが、その関係に誰よりも強く反対したのがサーストンの妹のヘレンだった。
せっかく婚約し結婚するというのに、相手の家族が反対しているのでは幸せな結婚生活は難しい。
しかしまだ時間があるため、デイジーは時間をかけてでもヘレンに理解してもらうつもりだった。

「どうしてヘレンはあのように反対するのかしら……」

デイジーは独り言をつぶやいた。
ヘレンは兄の幸せを願っていることは間違いない。
ただ、その相手が自分では納得できないのだろう。

ヘレンから向けられる態度は敵を見るようなものだった。
説得しようとして失敗したことは何度もある。
このまま時間をかけて解決する問題なのかと、デイジーはますます気が重くなった。

その時、背後から足音が聞こえた。
振り返るとサーストンが歩み寄ってくる姿が見えた。

「デイジー、ここにいたのか」

彼は微笑みながら言ったが、その声には重みがあった。

「サーストン……。ヘレンのこと、どうにかならないの?」

デイジーは口を開いた。
彼女の心の中では、愛と不安が渦巻いていた。
婚約者の妹が結婚に反対するなんて想像もしていなかったのだ。
しかも関係の改善が難しいとなればサーストンに頼るしかない。

サーストンはため息をつき、少しの間黙っていた。

「俺もヘレンの気持ちを理解しようとしている。でも、彼女には俺の気持ちを分かってもらえないんだ」

デイジーは彼の言葉を聞き胸が痛んだ。

「ヘレンにも理解してもらいたいけど……。理解が得られないまま結婚しても幸せになれないかもしれないわ」

「そうだな、ヘレンも理解していると信じたいが……」

サーストンは目を伏せた。

彼の頼りない言葉に、デイジーは無力感を感じた。
彼への愛が揺らぐように思えたが、この程度の問題で揺らいでしまっては今後の生活に支障が出る。
デイジーはサーストンを信じることにした。

その一方で自分も何かすべきだと考えた。

「私は諦めないわ。ヘレンと話してみる」

デイジーは決意を固めた。
自分の気持ちを伝え、サーストンとの愛を理解してもらうために、彼女は一歩踏み出す覚悟を決めた。

サーストンは彼女の手を優しく握り、微笑んだ。

「デイジーがそう言ってくれると俺も勇気が出る。二人で乗り越えよう」

「ええ」

問題はヘレンなので、二人がどれだけ努力しようが乗り越えられない問題かもしれない。
そのように考えても口には出さず、デイジーはヘレンと話し合うことに希望を抱いた。





ある晴れた午後、彼女はヘレンがよく訪れる庭の一角へ向かった。
そこには美しいバラのアーチがあり、花々の香りが漂っていたが、デイジーの心は重かった。

「ヘレン、少しお話できるかしら?

デイジーはヘレンがバラを手入れしている姿を見つめながら声をかけた。

ヘレンは顔を上げ、少し驚いたように眉をひそめた。

「デイジー……。何の用なの?」

「サーストンとのことなんだけど、あなたの気持ちを聞かせてほしいの」

デイジーは心を込めて言った。
彼女はヘレンが自分の想いを理解してくれることを願っていた。

しかし、ヘレンは冷たく答えた。

「兄様は家族を第一に考えるべきよ。それはあなたじゃないの。私たち家族のことなの。あなたがどれだけ兄様を愛していても、私たちの家族の絆が揺るぐことはないわ」

「でも、私たちの愛は本物なのよ。私だって結婚すれば家族の一員でしょう?」

デイジーは声を震わせながら訴えた。

ヘレンの表情は変わらなかった。

「愛だけではすべては解決できないわ。あなたがどれほど努力しても、私たちの家族にはなれない。私は兄様があなたと婚約していることは間違いだと思う」

デイジーは言葉を失った。
ヘレンの目には、強い決意と冷たい意志が宿っていた。
デイジーはこれ以上説得することが無駄だと感じた。

「わかったわ、ヘレン。あなたの意見は尊重する。でも、私もサーストンを愛していることは変わらない」

ヘレンはため息をつき、バラに戻る。

「それがあなたの選択なら私はどうしようもないわ。でも忘れないで。兄様を守るために何があっても反対する」

デイジーはその言葉に胸が締め付けられる思いだった。
彼女は立ち去ることにしたが、背中には重い影がのしかかっていた。
ヘレンとの話は失敗に終わり、サーストンとの未来がどうなるのか、ますます不安になった。





デイジーはサーストンにヘレンとの出来事を話した。
そして今後どうするかを話し合った。

「デイジー、ヘレンのことを考えてみた。彼女が少しでも心を開いてくれるように、時間をかけてみよう。焦っても仕方ない」

デイジーはサーストンの言葉に頷いた。

「そうね、私もそう思う。ヘレンは家族を大切に思っているから、彼女の心を理解することが大切だと思うわ。時間がかかるのも仕方ないわ。それに結婚まではまだ時間はあるもの。焦ってはだめよね」

サーストンは微笑み、彼女の手を握った。

「その気持ちだよ。心に余裕があればヘレンも気が変わるかもしれない。焦らず二人でこの試練を乗り越えよう」

「ええ、そうしましょう」

サーストンの前向きな気持ちがデイジーにも伝わり、彼女も前向きな気持ちになった。
現状では問題は何一つ解決していないが、きっとどうにかなると二人は信じていた。





日々の中でデイジーはヘレンと接する機会を大切にした。
家族の集まりやお茶の時間、さりげない会話を交わす中で、少しずつヘレンの心情を理解しようと努めた。
ヘレンもまた、デイジーの誠実さに触れ、彼女の存在を無視できなくなっていった。

ある夕暮れ、デイジーはヘレンと二人きりで過ごす機会を得た。
彼女は思い切って話しかけた。

「ヘレン、あなたがサーストンを大切に思う気持ち、私もわかるわ。私にとって彼は特別な存在なの」

ヘレンは少し驚いたように顔を上げたが、すぐに冷静さを取り戻した。

「あなたがそう言う気持ち、少しは理解できるかもしれない。でも、兄様の幸せが一番大切だということを忘れないで」

デイジーはその言葉を受け入れ、心の中でヘレンの思いを尊重することを決めた。

「私もサーストンを幸せにしたいの。彼のために最善を尽くすつもりよ」

ヘレンは少し考え込み、ゆっくりと口を開いた。

「もしあなたが本当にそう思うのなら、私はあなたを信じてみる。でも、私の兄を傷つけるようなことは許さないから」

その言葉にデイジーは心の中で希望が芽生えた。
ヘレンの心が少しずつ変わり始めているのを感じたのだ。

デイジーは笑顔で答えた。

「私も、あなたを信じるわ。サーストンと共に、私たちは家族になるの」

デイジーは前向きな気持ちを言葉にした。
ヘレンにとっては不服だった。
自分の我儘で婚約を破棄させるようなことができないと理解していたため、不服でも受け入れることを選んだ。





ある日の夕方、デイジーはサーストンと静かな庭のベンチに座っていた。
夕日が柔らかな光を投げかけ、二人の間に穏やかな雰囲気が漂っていた。
デイジーは心の高鳴りを抑えながら、ヘレンとの最近の会話を思い返していた。

「サーストン、少し話したいことがあるの」

デイジーは、彼の目を見つめて言った。

「どうした?」

サーストンは彼女の真剣な表情に気づき、少し緊張した様子で答えた。

「ヘレンと話したの。彼女は私たちの婚約について、少し考えを変えてくれたみたい」

デイジーの声には希望が満ちていた。

サーストンは驚き、目を大きく開いた。

「本当か? それは良い知らせだ。彼女が心を開いてくれたのなら安心して結婚できる」

「ええ、彼女は私の気持ちを理解しようとしてくれているみたい。ただ、まだ完全には納得していない様子だけど……」

「それでも、進展があるのは嬉しいな」

サーストンは微笑んだ。

「でも、ヘレンが急に変わるのも意外だ。何か理由があるのかもしれないな」

デイジーは言うべきか一瞬考え込んだが、言うことを選んだ。

「実はヘレンが最近男性と一緒にいるところを見たという友人がいるの。もしかしたら彼女に恋人ができたのかもしれないわね」

サーストンは驚いた表情を浮かべた。

「恋人? 確かに、それが関係しているのかもしれないな。ヘレンが自分の幸せを見つければ俺たちのことにも理解を示してくれるかもしれない」

「そうね、悪い事ではないと思うわ」

「恋人ができることで愛の意味を理解するかもしれない。そうなればいいが……」

「私もそう願っているわ」

懸念もあったが、ヘレンはそれから態度を改めた。
そのことにより二人の関係は結婚に向かって進んでいった。





デイジーとサーストンはヘレンとの関係を大切にしながら愛を育んだ。
ヘレンの変化は一時的なものではなく、彼女自身の恋も生まれ、考え方を変えた。
そのことで結婚への障害がなくなり、デイジーは念願のサーストンとの結婚を迎えることになった。

ある晴れた日の午後、豪華な教会で結婚式が執り行われた。
美しい白いドレスを身にまとったデイジーは輝く笑顔で祭壇に向かって歩いていく。
サーストンは彼女を見つめ、幸せに満ちた表情を浮かべていた。
ヘレンも参列し祝福した。

式の後、ヘレンはデイジーの元に駆け寄り、微笑みながら言った。

「あなたがサーストンを幸せにすることを心から願っています。お幸せに」

その言葉に、デイジーは感動し、二人は抱き合った。

こうしてデイジーとサーストンは家族の絆を大切にしながら新たな生活をスタートさせた。





結婚して間もなく、サーストンが驚くべき知らせをもたらした。

「デイジー、いい知らせがある!」

彼は目を輝かせて言った。

「何かあったの?」

デイジーは興味津々で彼を見つめた。

「ヘレンが恋人のダラスと結婚することになった!」

サーストンは声を弾ませた。

デイジーは驚きのあまり、言葉を失った。

「本当に? ヘレンが結婚するなんて思いもよらなかったわ。でも良い相手と巡り会えて良かったわね」

「そうだろう? まさか結婚を決めるなんて驚いた」

サーストンは嬉しそうに言った。
しかしデイジーには懸念することがあった。

「ヘレンが幸せになってくれるのは嬉しいけれど、急すぎる気がするわ」

「彼女が本当に愛している相手なら、きっと素晴らしい結婚生活が待っているよ。俺たちも応援しよう」

デイジーは微笑みを浮かべたが、心の奥では複雑な感情が渦巻いていた。
ヘレンの幸せを願う一方で、相手のダラスへの不安があった。
デイジーはダラスと面識がない。

「私たち、ヘレンを祝福してあげるべきよね。彼女の幸せを一緒に喜びたいわ」

デイジーは自分に言い聞かせるように言った。

「もちろんだ。ヘレンの幸せが俺の幸せでもあるから」

サーストンの言葉はヘレンの幸せを願う兄のものだった。
しかし見方を変えれば妹の幸せを普通以上に気にしているようにも思える。

デイジーは自分が良くない考えを抱きそうになっていることを自覚し、自分を戒めた。

結局タイミングを失したため、ダラスについてサーストンに尋ねることができなかった。





ヘレンとダラスの結婚式の日、デイジーは華やかな会場に心を躍らせながらも、どこか緊張を感じていた。
ヘレンの新しい人生の門出を祝うために、彼女は心から参加するつもりだった。
しかし、式が進むにつれて、デイジーは初めて見るダラスに対して嫌な印象を抱くことになった。

式の最中、ダラスはヘレンの隣で満面の笑みを浮かべていた。
彼の髪は整えられ、豪華なタキシードを身にまとい、周囲の視線を集めていた。
しかし、デイジーはその笑顔の裏に潜む自信過剰な態度を感じ取った。

「彼、なんだか傲慢そうね……」

デイジーは他人に聞こえないように呟いた。
ダラスはヘレンに対して、まるで自分が特別な存在であるかのように振る舞っていた。
それは恋人という特別な関係だからではなく、自分が正しく自分に従えという、自分が優位だと思い込んでのことのように思えた。
親族や友人たちに対する彼の言動は、どこかうさん臭さを漂わせていた。

式が進むにつれ、デイジーはダラスがヘレンに対して示す愛情表現にも疑問を抱いた。
彼はヘレンの手を握りしめると同時に、周囲を見回し、自分の存在を誇示するような態度を見せていた。
デイジーはその様子を見て、心の中で不安が広がっていくのを感じた。

「本当にヘレンを幸せにできるのかしら?」

デイジーは思わず眉をひそめた。
ダラスの傲慢な態度が幸せの障害になるように思えた。

式が終わり、祝宴が始まると、デイジーはダラスと直接話す機会を持った。
彼女は自分の気持ちを抑えながら、彼に微笑みかけた。

「ヘレンをよろしくお願いします」

ダラスは一瞬彼女を見つめ、軽く笑った。

「もちろんだとも。これから楽しい日々が始まるからね」

その言葉にデイジーは不快感を覚えた。





ヘレンがダラスに嫁いでから数週間が経ったが、彼女は毎日のようにデイジーとサーストンの家を訪れては、食事を共にして帰っていった。
初めは新婚生活の合間に訪れるのだと思い、デイジーも優しく接していたが、次第にその頻度が増していくにつれ、彼女は不快感を覚えるようになった。

「なんだか、ヘレンは新婚なのに家にいないのね。ダラスと一緒に食事をすればいいのにね」

デイジーはある日、サーストンに言った。
彼女の声には苛立ちが滲んでいた。

「でも、彼女は家族だから……」

サーストンは少し戸惑った様子で答えた。

「毎日来るなんて、ちょっと図々しいと思わない? ダラスを優先すべきではないの? ダラスはどう思っているのかしら。彼女がこんなに頻繁に家を訪れるのは、彼に失礼じゃない?」

サーストンは考え込んだ。

「ヘレンは新しい環境に慣れていないのかもしれない。ダラスも忙しいだろうし、彼女は心細いのかもしれないよ」

擁護するサーストンにデイジーはため息をついた。

「そうかもしれないけど、いつも家に出入りするようだと結婚した意味が薄れるわ。これがきっかけで関係が悪化してしまうかもしれないわ」

「それは大丈夫だろう。ヘレンだって、そこまで愚かではないだろう

サーストンはデイジーの気持ちを理解しようとしたが、ヘレンを思うあまり、なかなか彼女の意見には同意できなかった。

「ヘレンが俺たちを頼りにしているのだと思う。彼女が本当に必要としているとき、俺たちが支えになってあげられるのなら、それが家族の絆だろう」

デイジーはサーストンの言葉を受け入れようとしたが、心の中の不快感は消えなかった。





今度はヘレンとダラスが一緒になってデイジーとサーストンの家にやってくるようになった。
彼らは共に食事を楽しみ、笑い声が響き、ヘレンはまるで自分の家のように振る舞っていた。
その夫であるダラスも同様だった。
デイジーはその光景を見て、ますます不快感を抱くようになった。

ある日の夕食時、ヘレンがダラスと共にやってきたとき、デイジーはついに声を上げた。

「ヘレン、あなたは新婚なのだから、もっと自分の家で時間を過ごしたほうがいいと思うわ。毎日のように来られると迷惑なの」

ヘレンは驚いたように目を丸くした。

「私たちは家族になったのよ? 家族なら一緒にいて当然じゃない。家族のために持て成せるのだからお義姉さまも満足でしょう?」

「確かに家族だけど、あなたの新しい家はどこなの?」

デイジーは必死に問いかけた。

すると、ダラスがにやりと笑った。

「まあまあ。ヘレンは俺のことを支えてくれている。彼女がどこにいても俺は構わないよ。俺はここが自分の家でも構わないし」

ダラスの発言に、デイジーはますます苛立ちを覚えた。

サーストンは困惑した様子で見守っていたが、デイジーを擁護するようなことは言わなかった。
心情的にはヘレンの味方だったが、そのことを口にしてしまえばデイジーを怒らせてしまうと理解していた。

デイジーは心の中で孤独感を感じ、彼女の心配が理解されないことに悔しさを覚えた。
味方しないサーストンにも、図々しいヘレンとダラスにも。

その後も、ヘレンとダラスは変わらず頻繁に訪れ、デイジーの不満は膨れ上がっていった。
彼女は家族の一員としての扱われているのではなく、家政婦か何かのように扱われているように感じた。

このままではいけないとデイジーは考えた。





ある日、デイジーはついに我慢の限界を迎えた。
ヘレンとダラスがまたしても食事をしにやって来たとき、彼女の心の中には溜まった不満が爆発寸前だった。
彼らがリビングでふざけ合いながら楽しそうにしている姿を見て、デイジーは胸が締め付けられる思いがした。

「もう、いい加減にして!」

デイジーは突然立ち上がり、声を張り上げた。
驚いたヘレンとダラスは一瞬静まり返った。

「あなたたちは新婚なんだから、自分の家で過ごすべきよ。毎日来て、私たちの家を占領するのはやめて!」

彼女の言葉には、これまでの不満が全て詰まっていた。

ヘレンは驚きの表情を浮かべた。

「お義姉さま、どうしてそんなことを言うの? 私たちは家族なのに……」

「家族だからこそ、あなたの新しい生活を尊重してほしいの! ダラスと一緒に、もっと自分の家で過ごすべきよ!」

その時、サーストンが部屋に入ってきた。
二人の口論を聞きつけ、驚いた表情でデイジーを見つめた。

「何が起こっているんだ?」

「ヘレンが毎日家に来て、私たちの生活を侵しているのよ。もう我慢できないわ!」

サーストンは目を見開き、怒りを顕にした。
怒りの対象はデイジーだった。

「それはお前の言い過ぎだ。ヘレンは家族で、俺たちを頼りにしているんだ。彼女が新婚生活に慣れるまで支え合うのは当然だろう!」

「でも、彼女には自分の家があるのよ! それを無視して、私たちの家に居座るのはどうかと思うわ!」

デイジーも負けじと反論した。
言い返されたことでサーストンもますます怒りが強くなる。

「お前は自己中心的に考えすぎだ! ヘレンは俺の妹で、彼女を守るのが兄としての役割だ!」

サーストンは声を荒げた。

デイジーは心の中で動揺しながらも、さらに言葉を続けた。

「私よりもヘレンのことが大切だというの? 私の存在って何?」

デイジーはヘレンがどういった表情をしているのか見ようとしたが、いつの間にかにヘレンとダラスは姿を消していた。
二人の撃退に成功したが、今度はサーストンが敵になってしまった。

「ヘレンはずっと昔から家族だったんだ。彼女のことを見捨てることはできない」

「それなら私よりもヘレンのほうが大切ってことよね? 私は何? 都合のいい存在? 家政婦扱い? こんな関係、私は望んでいないわ!」

それからも二人は言い争いを続けた。
デイジーは自身の気持ちをサーストンにぶつけても理解してもらえなかった。

サーストンの怒りと失望の中で、デイジーとの結婚を後悔した。
ヘレンの存在を許さないデイジーとはもう一緒に暮らせないと思った。

「デイジーの考えはよく分かったよ。もうこんな生活終わりにしよう。離婚だ、デイジー」

デイジーも離婚には賛成だった。
このような状況を続けたところで幸せになれるとも思えず、サーストンがヘレンを優先することが変わるとも思えなかった。

「分かったわ。サーストンはヘレンが大切なのね」

「当たり前だろう? ヘレンを傷つけるようなことは許さない。さっさと出ていけ」

こうして結婚生活は破綻した。





デイジーが追い出されたことでヘレンも満足していた。
ヘレンはサーストンの決断を褒めた。

「兄様、あなたは本当に立派だわ。デイジーを追い出すことで私を……家族を守ったのね」

「ああ、そうだとも。俺はヘレンが大切だからな」

「正しい選択をしてくれてありがとう。これで邪魔者はいなくなったわ」

その言葉に、サーストンはデイジーの存在がヘレンを苦しめていたのだと理解した。

「兄様が私を守ってくれたこと、心から感謝しているわ」

サーストンはその言葉に救われた。
離婚を選んだのは間違いではなかったと自信を深めた。





それからもヘレンとダラスが家にやってくることは変わらなかった。
サーストンは次第に二人の自由な振る舞いに困惑することが増えていった。

やがて二人は飲み食いだけではなくサーストンの財産を勝手に使い込むようになった。
自分たちは働くこともなく、家に入り浸り、好き勝手に振る舞っていた。
そうなるとサーストンも我慢の限界を迎えるのは当然だった。

「ヘレン! ダラス! いい加減にしろ!」

サーストンは声を上げた。
二人は驚いて彼を見つめた。

「どうしたの? そんな大声を出して」

ヘレンは不安そうに尋ねた。

「もう我慢できない。ここは俺の家だ。君たちがここで好き勝手に振る舞い、俺の生活を乱すのはもう許さない」

ヘレンは目を丸くした。

「でも、私たちは家族よ。兄様を頼りにしていたのに……」

ヘレンの言葉でサーストンは胸が痛んだが、ここで甘い対応をしてしまえば二人が家を乗っ取ってしまう恐れがあった。
だから彼は厳しく振る舞わなくてはならなかった。

「何事にも限度がある。少しは反省しろ!」

「はい……」

ヘレンは素直に反省したように見えたが、兄がこのような態度を取ったことで裏切られたと思ってしまった。

「ダラス! お前もだ!」

「チッ、うっせーな」

「何だ! その態度は!」

「反省してまーす!」

馬鹿にしたような態度を取られ、サーストンは激怒した。
いくらヘレンの夫であろうとも、このような振る舞いは許せない。

「お前ら……出ていけ! もう二度と顔を見せるな!」

「……残念だわ、兄様。行きましょう、ダラス」

「……」

ダラスは無言でヘレンと一緒に出ていった。

「……これで良かったんだ」

サーストンは自分の選択が間違っていなかったと自分に言い聞かせた。

デイジーを失っただけではなくヘレンまで失ってしまった。
大切だったはずの家族を失い、サーストンは呆然としていた。





後日、サーストンは家の中を整理していると、宝石類が全てなくなっていることに気づいた。
彼は驚いたが、すぐに思い当たることがあった。
ヘレンが家を出る際、彼女がその宝石を持ち出したのではないかという考えが浮かんだ。

「まさか、ヘレンがこんなことをするなんて……」

サーストンは呟いた。
彼は怒りよりも悲しみが先に立ち、胸が締め付けられる思いがした。
ヘレンとの関係が壊れたこと、そして彼女が自分の信頼を裏切ったことに対する悲しみだった。

サーストンは思い出した。
ヘレンが小さい頃から宝石を見て、いつか自分も持ちたいと夢見ていた姿を。
彼女の夢が、今や自分にとっての裏切りに変わってしまったことに、どうしようもない悲しみが込み上げてきた。

「もしかしたら、彼女には何か事情があったのかもしれない……」

サーストンは自分を慰めようとしたが、その思いも次第に薄れていった。
彼はヘレンの行動を許すことができず、彼女が選んだ道を理解しようとしても、心には大きな空洞が残っていた。

「もう、どうでもいいか」

サーストンは諦めの気持ちを抱きながら、目を閉じた。
彼は宝石を失ったこと以上に、ヘレンとの絆が壊れたことが心に重くのしかかっていた。

その夜、サーストンは静かな部屋で一人、過去の思い出に浸った。
ヘレンとの楽しい時間や、彼女が兄として頼ってくれた日々が思い返され、涙がこぼれそうになった。
彼は自分の選択が本当に正しかったのか、何度も自問自答しながら、孤独な夜を過ごした。





デイジーはサーストンから追い出されるように離婚したため、後になって自分の宝石がなくなっていることに気づいた。
なくなっていたのであればサーストンが何かしたとしか思えなかった。
彼女にとっては大切な思い出の品だった。
それを失ったことに対する悲しみや怒りが湧き上がった。

「こんなことが許されるはずがない……」

デイジーは騎士団に窃盗の被害届を出すことにした。

数日後、騎士団から連絡が入った。

「デイジーさん、犯人が捕まりました」

その言葉を聞いた瞬間、デイジーの心は緊張でいっぱいになった。

「誰が捕まったのですか?」

「ヘレンとダラスです。容疑を否認していますが宝石を売ろうとしていたことは事実です」

デイジーの心には衝撃が走った。

「まさか……二人が……」

デイジーは言葉を失った。
しかし騎士団が無実の人を捕まえるはずがなく、二人が盗んだことは明らかだった。

「後で都合のいいときに騎士団の詰所までお越しください。宝石を返却します」

「ありがとうございます。お手数をおかけしました」

こうして宝石を取り戻すことができたデイジーだったが、気持ちは晴れなかった。

サーストンとの婚約をヘレンに認められるよう努力した結果がこれだった。
ここまで仇で返すヘレンを許せなかった。
今になればサーストンと婚約したことが間違いであり不幸の始まりだったとしか思えなくなっていた。

「でもこれから幸せがあると考えたほうがいいわね。あんな人たちのせいで自分の人生を台無しにするなんてもったいないもの」

悩み苦しんだ果てにデイジーが出した答えは希望に向かって進むことだった。
人生はまだ長く、これからどんな幸せが待っているか分からない。
諦めてしまえばサーストンやヘレンに屈したように感じられ、それだけは受け入れられなかった。

だからデイジーは前向きになる。
デイジーは立ち止まらない。
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