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後編
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マークとの一件以来、グレースとジョシュアは話をする関係になった。
二人は図書室や庭園でしばしば顔を合わせ、雑談を交わしていた。
ある日の午後、穏やかな日差しの中で二人は庭園のベンチに腰掛けていた。
周囲には色とりどりの花が咲き乱れている。
「歴史の授業、面白かったわ。特に、あの王国の興亡についての話」
「そうだな。あの時代は大きな変化があったからな。今もその影響を受けていると考えると、やはり偉大な国家だったのだと思う」
授業の感想を語り合うこともグレースは嫌いではなかった。
二人の関係は確実に近づいている。
しかし、婚約の決め手になるものがなった。
ジョシュアはグレースに興味を引かれていた。
少なくとも安易に婚約者探しに夢中になるような人でないことは理解していた。
しかし彼女は伯爵家の令嬢だ。
子爵家の自分が親しく話しかけていいものなのかと悩んでいた。
マークとの一件は彼にとっては良いきっかけとなった。
あの一件以来、二人は会話をするようになったのだ。
話をするようになり、ジョシュアはグレースの性格や価値観を知っていった。
親しい会話を重ねるうちに、次第に彼女に対する好意を強く抱くようになった。
彼女の真剣な学問への姿勢や、優しさ、そして自分の夢を語る姿に心を奪われていた。
そこで立ち塞がる問題が爵位の違いだ。
「自分は子爵家の嫡男で、彼女は伯爵家の令嬢。釣り合いが取れるのだろうか……」
ジョシュアは同じ問題でずっと悩んでいた。
悩もうが爵位の違いは埋まるものではない。
「彼女は本当に素晴らしい。だが、俺の立場が彼女にとってどれほどのものなのか……」
ジョシュアはため息をついた。
悩みは解決とは程遠かった。
グレースはジョシュアが何かに悩んでいることを察していた。
彼が何も言わないからと様子を見ていたが、最近はますます酷く悩んでいるようで心配になってしまった。
「ジョシュア、何か悩んでいるの? もしよければ相談に乗るわよ」
見兼ねたグレースは優しく声をかけた。
ジョシュアは新たな悩みを抱えたが、グレースから話を振ってきたことで決意した。
「グレース、俺はずっと悩んでいたんだ。でも悩んでばかりでは解決しないことも理解している。相談というか……聞いてほしい」
「分かったわ。さあ、何でも話して」
グレースは余裕を感じさせるように微笑んだ。
ジョシュアは息を深く吸い込み、気合を入れる。
「俺は君に好意を抱いている。だが子爵家の嫡男である自分が君にふさわしい存在なのか悩んでいる」
グレースはその言葉に心を震わせた。
ジョシュアと婚約したいという気持ちを秘めたまま今まで友人関係として接してきたが、彼への気持ちが消えた訳ではない。
ジョシュアの真摯な気持ちが伝わってきてグレースは嬉しさを感じた。
「ジョシュア……私もあなたと同じ感情を抱いているわ。立場なんて気にしないで」
グレースは微笑みながら言った。
ジョシュアもグレースの好意に驚いたが笑みを浮かべた。
しかし次の瞬間、悩みが解決していないことに気づき表情を曇らせる。
「嬉しいよ。でも俺は子爵家の嫡男だ。グレースならもっと良い相手と婚約できるだろう?」
「それが何なの? 私はあなたが好きなの。子爵家の嫡男という立場だって理解して受け入れるつもりよ。それだけの気持ちがあるの」
「君は伯爵家の令嬢だ。トレイシー伯爵が婚約を許してくれるだろうか?」
「そんなこと気にしないで。大丈夫に決まっているわ。だって良い相手を見つけるよう言われたもの。相手の爵位なんて別に何も言われていないもの。私の判断で一番良い相手を選んだつもりよ」
「そう言ってもらえると助かるが……」
ジョシュアはグレースが自分の身分や立場を理解していての好意と知って安心できたが、納得できない部分もあった。
グレースは彼の表情を見て言葉を続けた。
「あなたの人柄や思いやりが私にとって一番大切なことなの。それにあなたと婚約し結婚すればトレイシー伯爵家の利益になることを証明するわ。私とあなたで証明するわ」
ジョシュアはグレースの気持ちに心が熱くなった。
彼女にそこまで言わせて悩んでいる自分が情けなく思えた。
「婚約しよう、グレース。絶対に後悔はさせない」
「喜んで婚約するわ。私も後悔させないことを約束するわ。それと……後悔しないと言うよりも幸せにするって言ったほうが前向きよね?」
「そうだな、そうだとも! 俺がグレースを幸せにする!」
「頼もしいわ」
ジョシュアなら誓いを守るだろうとグレースは考えた。
グレースとジョシュアの婚約の話は学園内で瞬く間に広まった。
友人たちや同級生たちは二人の幸せなニュースに心を踊らせ、様々な噂や祝福の声が飛び交った。
「グレースとジョシュアが婚約したって、本当なの?」
「本当よ。二人はお似合いよね」
「ジョシュアにしてみればグレースは伯爵家の令嬢でしょう? 良い相手と婚約できたわね」
「グレースだってジョシュアは子爵家の嫡男だから将来は子爵夫人でしょう? 悪くない立場だと思うわ」
「私も嫡男と婚約すれば良かったわ……」
「残念だけど焦って婚約するからよ。諦めて婚約者と一緒にがんばりなさい」
「はーい」
グレースとジョシュアの婚約は周囲に大きな影響を与えていた。
そんな中、アメリアも彼女の幸せを心から祝福した。
「グレース、本当におめでとう! ジョシュアとの婚約、素敵だわ!」
目を輝かせるアメリアにグレースは照れくさそうに微笑んだ。
「ありがとう、アメリア。あなたの応援があったから、ここまで来られたのよ」
「私も本当に嬉しいわ! 二人は本当にお似合いだもの! ジョシュアも素晴らしい人だし、あなたのことを大切に思っているのが伝わってくるわ!」
グレースは心が温かくなった。
「彼のことを信じているし、私たちの未来を一緒に築いていきたいと思っているの。彼と婚約できて本当に良かったわ」
「焦らずに相手を選んだ結果よね。私、グレースがそういった考えだってよく分かったわ。焦って婚約していたらこうはなれなかっただろうし」
「そうね。今度はアメリアの番よ。素敵な人と婚約できるといいわね」
「絶対にしてみせるわ!」
二人はしばらく一緒に話しながら、未来のことや結婚式の夢を語り合った。
グレースとジョシュアの婚約が学園内で話題になる中、彼女の父、トレイシー伯爵もこの知らせを喜んで受け入れた。
彼は娘が子爵家の嫡男であるジョシュアと結婚することに対して、非常に前向きな考えを持っていた。
「ジョシュアは素晴らしい人なのだろう。グレースが選んだくらいだから間違いない」
彼は父親として自分の娘が幸せになることを何よりも望んでいた。
また、伯爵としてはジョシュアの立場が好都合だった。
子爵家の嫡男ということは将来子爵家を継ぐ立場にあり、彼の影響力は大きなものになる。
グレースであれば、より高い爵位の令息に嫁ごうとすることもできるが、当主の妻になれない場合、その利益は限られている。
むしろジョシュアのように将来の当主としての地位を持つ相手と婚約したことを伯爵は高く評価していた。
「グレースがジョシュアと結婚することでトレイシー家も子爵家との関係を深め、互いに利益を得ることができるだろう。良くやってくれた、グレース」
伯爵はそう結論付け、自身の決断に満足していた。
そして娘の幸せな姿を想像し満たされた表情を浮かべたのだった。
二人は図書室や庭園でしばしば顔を合わせ、雑談を交わしていた。
ある日の午後、穏やかな日差しの中で二人は庭園のベンチに腰掛けていた。
周囲には色とりどりの花が咲き乱れている。
「歴史の授業、面白かったわ。特に、あの王国の興亡についての話」
「そうだな。あの時代は大きな変化があったからな。今もその影響を受けていると考えると、やはり偉大な国家だったのだと思う」
授業の感想を語り合うこともグレースは嫌いではなかった。
二人の関係は確実に近づいている。
しかし、婚約の決め手になるものがなった。
ジョシュアはグレースに興味を引かれていた。
少なくとも安易に婚約者探しに夢中になるような人でないことは理解していた。
しかし彼女は伯爵家の令嬢だ。
子爵家の自分が親しく話しかけていいものなのかと悩んでいた。
マークとの一件は彼にとっては良いきっかけとなった。
あの一件以来、二人は会話をするようになったのだ。
話をするようになり、ジョシュアはグレースの性格や価値観を知っていった。
親しい会話を重ねるうちに、次第に彼女に対する好意を強く抱くようになった。
彼女の真剣な学問への姿勢や、優しさ、そして自分の夢を語る姿に心を奪われていた。
そこで立ち塞がる問題が爵位の違いだ。
「自分は子爵家の嫡男で、彼女は伯爵家の令嬢。釣り合いが取れるのだろうか……」
ジョシュアは同じ問題でずっと悩んでいた。
悩もうが爵位の違いは埋まるものではない。
「彼女は本当に素晴らしい。だが、俺の立場が彼女にとってどれほどのものなのか……」
ジョシュアはため息をついた。
悩みは解決とは程遠かった。
グレースはジョシュアが何かに悩んでいることを察していた。
彼が何も言わないからと様子を見ていたが、最近はますます酷く悩んでいるようで心配になってしまった。
「ジョシュア、何か悩んでいるの? もしよければ相談に乗るわよ」
見兼ねたグレースは優しく声をかけた。
ジョシュアは新たな悩みを抱えたが、グレースから話を振ってきたことで決意した。
「グレース、俺はずっと悩んでいたんだ。でも悩んでばかりでは解決しないことも理解している。相談というか……聞いてほしい」
「分かったわ。さあ、何でも話して」
グレースは余裕を感じさせるように微笑んだ。
ジョシュアは息を深く吸い込み、気合を入れる。
「俺は君に好意を抱いている。だが子爵家の嫡男である自分が君にふさわしい存在なのか悩んでいる」
グレースはその言葉に心を震わせた。
ジョシュアと婚約したいという気持ちを秘めたまま今まで友人関係として接してきたが、彼への気持ちが消えた訳ではない。
ジョシュアの真摯な気持ちが伝わってきてグレースは嬉しさを感じた。
「ジョシュア……私もあなたと同じ感情を抱いているわ。立場なんて気にしないで」
グレースは微笑みながら言った。
ジョシュアもグレースの好意に驚いたが笑みを浮かべた。
しかし次の瞬間、悩みが解決していないことに気づき表情を曇らせる。
「嬉しいよ。でも俺は子爵家の嫡男だ。グレースならもっと良い相手と婚約できるだろう?」
「それが何なの? 私はあなたが好きなの。子爵家の嫡男という立場だって理解して受け入れるつもりよ。それだけの気持ちがあるの」
「君は伯爵家の令嬢だ。トレイシー伯爵が婚約を許してくれるだろうか?」
「そんなこと気にしないで。大丈夫に決まっているわ。だって良い相手を見つけるよう言われたもの。相手の爵位なんて別に何も言われていないもの。私の判断で一番良い相手を選んだつもりよ」
「そう言ってもらえると助かるが……」
ジョシュアはグレースが自分の身分や立場を理解していての好意と知って安心できたが、納得できない部分もあった。
グレースは彼の表情を見て言葉を続けた。
「あなたの人柄や思いやりが私にとって一番大切なことなの。それにあなたと婚約し結婚すればトレイシー伯爵家の利益になることを証明するわ。私とあなたで証明するわ」
ジョシュアはグレースの気持ちに心が熱くなった。
彼女にそこまで言わせて悩んでいる自分が情けなく思えた。
「婚約しよう、グレース。絶対に後悔はさせない」
「喜んで婚約するわ。私も後悔させないことを約束するわ。それと……後悔しないと言うよりも幸せにするって言ったほうが前向きよね?」
「そうだな、そうだとも! 俺がグレースを幸せにする!」
「頼もしいわ」
ジョシュアなら誓いを守るだろうとグレースは考えた。
グレースとジョシュアの婚約の話は学園内で瞬く間に広まった。
友人たちや同級生たちは二人の幸せなニュースに心を踊らせ、様々な噂や祝福の声が飛び交った。
「グレースとジョシュアが婚約したって、本当なの?」
「本当よ。二人はお似合いよね」
「ジョシュアにしてみればグレースは伯爵家の令嬢でしょう? 良い相手と婚約できたわね」
「グレースだってジョシュアは子爵家の嫡男だから将来は子爵夫人でしょう? 悪くない立場だと思うわ」
「私も嫡男と婚約すれば良かったわ……」
「残念だけど焦って婚約するからよ。諦めて婚約者と一緒にがんばりなさい」
「はーい」
グレースとジョシュアの婚約は周囲に大きな影響を与えていた。
そんな中、アメリアも彼女の幸せを心から祝福した。
「グレース、本当におめでとう! ジョシュアとの婚約、素敵だわ!」
目を輝かせるアメリアにグレースは照れくさそうに微笑んだ。
「ありがとう、アメリア。あなたの応援があったから、ここまで来られたのよ」
「私も本当に嬉しいわ! 二人は本当にお似合いだもの! ジョシュアも素晴らしい人だし、あなたのことを大切に思っているのが伝わってくるわ!」
グレースは心が温かくなった。
「彼のことを信じているし、私たちの未来を一緒に築いていきたいと思っているの。彼と婚約できて本当に良かったわ」
「焦らずに相手を選んだ結果よね。私、グレースがそういった考えだってよく分かったわ。焦って婚約していたらこうはなれなかっただろうし」
「そうね。今度はアメリアの番よ。素敵な人と婚約できるといいわね」
「絶対にしてみせるわ!」
二人はしばらく一緒に話しながら、未来のことや結婚式の夢を語り合った。
グレースとジョシュアの婚約が学園内で話題になる中、彼女の父、トレイシー伯爵もこの知らせを喜んで受け入れた。
彼は娘が子爵家の嫡男であるジョシュアと結婚することに対して、非常に前向きな考えを持っていた。
「ジョシュアは素晴らしい人なのだろう。グレースが選んだくらいだから間違いない」
彼は父親として自分の娘が幸せになることを何よりも望んでいた。
また、伯爵としてはジョシュアの立場が好都合だった。
子爵家の嫡男ということは将来子爵家を継ぐ立場にあり、彼の影響力は大きなものになる。
グレースであれば、より高い爵位の令息に嫁ごうとすることもできるが、当主の妻になれない場合、その利益は限られている。
むしろジョシュアのように将来の当主としての地位を持つ相手と婚約したことを伯爵は高く評価していた。
「グレースがジョシュアと結婚することでトレイシー家も子爵家との関係を深め、互いに利益を得ることができるだろう。良くやってくれた、グレース」
伯爵はそう結論付け、自身の決断に満足していた。
そして娘の幸せな姿を想像し満たされた表情を浮かべたのだった。
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