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閑話2
かくれんぼをしても一人
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翌日。
七瀬は上機嫌だった。
知らず知らずの内に頬が緩み、カーペンターズの『Top of the world』を口ずさんでしまうくらいに、すこぶる上機嫌だった。
世の中機嫌の良い人というものはどこにでも少なからず存在しているもので、傍から彼らを見ているとこちらまで上向きな気分になってくる。普段の七瀬は後者だが、今日ばかりは前者だった。朝から幸せオーラをふんだんに撒き散らしている。
『ああいいことがあったんだな』と誰が見ても分かるに違いない。そして実際の所、いいことはあったのだ。
意中の相手と一緒に帰ることが、いいこと以外の何だと言うのか。
昨夜は結局あの後、渚を彼女の家まで送り届けてからさよならをした。故に何かしらの進展があった訳ではないのだが、二人きりの時間を作れただけでも十分実りのある夜だった。
「何だか嬉しそうね」
気分に任せて鼻歌を歌っていたせいか、午後のバイト中に案の定そんなことを言われた。
頭上に広がっている木々の葉に日が遮られて、いい具合に涼しいここは花屋『花鳥風月』。七瀬がアルバイトとして働いている、個人経営の花屋だ。
話しかけてきたのは緑店長である。本日もまたいかなる手段を用いてか、年齢詐称ものの美貌をキープしていた。
「何かいいことでもあったのかしら」
「やっぱり分かりますか?」
「そんな顔をしてるもの。まるで自分が世界一の幸せ者です、みたいな顔。で、何があったの? ちょっと気になる」
枯れ葉を毟りながら店長が訊いてきた。
「気にしたって、別に何にもないですよ」
「そう言われたら、逆に気になってしまうのが人の性ね。……まあ十中八九、昨日の夜でしょう? 闇鍋の後、好きな娘とでも一緒に帰ったとか」
「うっ」
ピンポイントで言い当てられたせいで、七瀬は動揺した。一瞬で顔が真っ赤になる。手元が狂って、あやうく持っていた鉢を取り落しかけた。
「店長?」
「うん?」
「どうしてそれを」
「あら、正解だったのね」
「えっ」
「ま、強いていうなら女の勘ってやつかしら。なんとなーくそんな感じがしたものだから、ね」
恐ろしい。
どうやら店長の感は、人が心の奥底に秘めている秘密を白日の下へ晒し出すことに特化しているようだ。いや、もしかすると店長に限らず、女性全般がそうだったりするのだろうか。そういえば南部長にも、自分の恋心は一撃で見抜かれているようだったし。
「それじゃ、私は店の前を掃いてくるから。この辺はよろしくね」
鼻歌を歌いながら遠ざかる背中に苦笑を浮かべてから、七瀬も仕事を再開する。
今やっているのは見回り。具体的には枯れた部分の除去と虫がついていないかどうかの確認だ。一言で表わすなら『手入れ』で、下手をすれば一見何もやってないように見えるが、地味に大切な作業である。枯れた所があればどうしても見栄えが悪くなってしまうし、毛虫やアブラムシ等が付いていれば、そもそも誰にも買ってもらえなくなる。『売り物として』植物を扱う以上、その辺りはどうしても重要だ。
そうしていたとき不意に、目の前を何かが横切った。
つられてそちらに視線をやれば、一匹の白い蝶が、翅を羽ばたかせて立ち並ぶ花たちの間を飛んでいた。モンシロチョウだ。この時期はあちこちでよく見かける。
しばらく目で追いかけていると、やがて蝶は近くにあったアヤメの花に留まった。休憩しているのだろうか。二枚の翅がゆっくりと、まるで呼吸をしているように上下していた。“紫と白”と聞くと、何となく合わないような気がするけれど。今回ばかりはその逆で、花びらの紫と蝶の白が合わさって、互いに相手を引き立てている。
残しておきたいという思いが自然と浮かんできて、七瀬は携帯を取り出すとその光景を写真を収めた。
カシャリと、小さなシャッター音が一つ。
――うん、上手く撮れてる。
映り具合を確認。そしてふと、渚の事を頭に思い浮かべる。
記憶違いでなければ、たしか蝶が好きだったと言っていた筈だ。折角いい写真が撮れたのだから、彼女に送ってみるのもいいかもしれない。連絡先も交換しているのだし。
奇しくもアヤメの花言葉は“よい便り”。この状況にはピッタリだ。
メールの作成画面を開くと、七瀬は今しがたの写真をそこに添付した。題名は……少し迷って、『バイト先にて』としておく。
続いて文章。『バイト中に素敵な写真が撮れました。渚ちゃんにも見てもらいたかったので、送ります』と打ち込んだ所で、唐突に手が止まる。
この文章は少し堅苦しくないだろうか。よくよく考えてみれば、彼女にこうしてメールを送るのは初めてだ。何の脈絡もなしに送って変だと思われたりとか。それにそもそも普段はタメ口で喋っているのに、メールで敬語を使うのはどうなのか。いやしかし、軽い感じだと逆に馴れ馴れしくなるのでは。たかがメール、されどメールだ。送るものは一言一句とて間違えず、完全に整えられた文面にしなくては――。
そうして散々迷った末に、そのまま送信ボタンを押す。
「俊くん?」
「うわあっ!」
考え込んでいたせいで、店長がすぐ近くに来ていることに気がつかなかった。慌てて携帯を仕舞い込む。
「な、なんですか」
「そろそろ休憩はどう、と思ったのだけど」
そう言うと、店長は意味深な微笑みを浮かべた。どこから見られていたのか、訊こうとも思ったが、また恥ずかしい目に会いそうだったので止めておいた。
※
店長の誘いに乗って、少し休憩を挟むことにした。
店内にある、木枠が武骨なベンチに腰かける。壁際で、少し横を向けばいい具合に外が見える位置だ。
やがて店長が、奥からよく冷えた麦茶とお茶請けを持って現れた。一応業務中の筈だが、個人経営なので休憩時間は自由の極みに達している。七瀬にしても、その方が楽でいい。
「娘から聞いたんだけどね」
店長がそう切り出したのは、丁度七瀬がクッキーの小袋を開けた時の事だった。
「最近高校で、こっくりさんが流行ってるみたいなの」
「こっくりさん、ですか」
彼女の口調から察するに、どうやらあまり明るい話ではなさそうだ。とりあえずクッキーを横に置いて、聞く態勢に入る。
「そ。私が高校生の頃も一時流行ってたかな。もうあんなのは廃れたと思ってたけど、意外と再燃するものなのね」
「消えたと思っても何かの拍子にまた流行ったりとか、ありますよね」
「波でもあるのかな?」
「さあ。でもこっくりさんって言ったら……」
七瀬はゆっくりと息を吐いた。
〝こっくりさん″と聞いて、何のことか分からない人はそうそういないだろうと思う。それくらいに有名だ。
簡単に説明すれば、白い紙に五十音やら鳥居やらを書いて十円玉をうんぬん、というアレ。狐のイメージが強いが、お稲荷様とは一切関係ない。実際、漢字で書くと『狐狗狸さん』となって、狐のみならず狗や狸が幅を利かせてくる。
流行の始まりは数十年前と言われているが、今でも「エンジェルさま」などと名前を変えて残っているようだ。
「たしか、僕の高校でも同級生がやってましたよ」
高校時代。教室の隅で机をくっつけて、興奮した風で興じていた人たちは結構な数いた。一応表面上は校則で禁止されていた筈だが、そんなものお構いなし。勿論七瀬は、決してそこに混ざったりしなかった。
結局そのブームは、こっくりさんをしていた数人の女子生徒が、儀式の途中に痙攣して倒れるという謎めいた出来事によって終わりを迎えた。七瀬は実際にその場面を目撃したわけではないので、詳しいことは分からないままだ。すぐに症状は収まったらしいので、霊障ではなく集団催眠的な何かだとは思うのだが、もしかしたら本当に何かの霊が憑いていたのかもしれない。
「誰しも通る道なのね」
「ああいうものオカルトにはまる時期ですから」
「随分枯れた物言いね……。それで心配なのは、あの娘が友達と一緒になってこっくりさんをやってはいないかってことなの。娘のやりたいことは基本好きにさせているけど、ああいうのはちょっとね。私が高校生だった時も、こっくりさんをして気分が悪くなった人がいて」
人差し指で前髪を掻き上げる。
「私は見たことないけれど、動物の幽霊が見えたって子も数人いたの」
「ああ……ありえますよね」
「そうなの?」
「オカルトな話になりますけど、いいですか」
店長が頷いた。麦茶を一口飲んで、七瀬は続ける。
「こっくりさんは、降霊術の一種なんです。占いみたいなものとよく勘違いされてますが」
「降霊術。〝霊を降ろす術″って、書くやつよね」
そう言うと、彼女は空中に指でその字を書いてみせた。
降霊術、と聞くと、恐山のイタコさんや沖縄のユタなど、しかるべき修行を積んだしかるべき人によって行われる物という印象が強い。
確かにそれは間違いではないのだが、霊を呼ぶことだけなら意外と簡単に出来る。こっくりさんは言うまでもなく、百物語や合わせ鏡、赤口さま等。ああいう〝幽霊が見える″〝幽霊に会える″類の物はおしなべて降霊術だ。
ただし。
「それで呼べる霊は、基本的にロクなものじゃないんです。動物の霊とか浮遊霊とか。性質たちが悪いのばかりで」
たまに、こっくりさんで神様と交信出来た、などと騒ぐ人がいる。だが七瀬からしてみればそんなことはありえない。十中八九それは神の名を騙るただの浮遊霊か何かだ。そもそも本当の神様なら、自分は神だなんて軽々しく言わない筈だろうに。
「一言で言えば、危ないです。幽霊が来ないにしても、その場の雰囲気に飲み込まれて集団催眠にかかることもありそうですし。関わらない方がいいと思いますよ」
「やっぱりそうかあ……。混ざったりしないように言っとかないと」
「娘さんは大丈夫だと思いますけどね。しっかりしてるじゃないですか。一緒に働いていて思いますよ」
「ふふ、ありがと。でもそれは、多分俊君の前だからだと思うわよ」
店長につられて、七瀬も笑う。
「それにしても、オカルトなことに詳しいのね、俊君」
そんなことを言われたので、七瀬は適当な理由で誤魔化すことにした。『幽霊が見えますから』なんて、さすがに言えない。
「そういうものオカルトに、興味を持った時期があったんですよ」
「へえ。じゃあこれは知ってる? 私が高校生だった頃にどこからともなくやってきて、学校だけじゃなくこの辺り一帯で噂になった、結構有名な話」
何かを描くように、店長は人差し指を空中で振る。その軌跡を目で追っていると、突然それは七瀬の方に向けられた。
「〝ひとりかくれんぼ″っていうんだけど」
※
ある所に、一人の男が住んでいた。
男には恋人はおらず、またこれといった友達もいなかった。加えて超が付く程のオカルト好きで、心霊スポット巡りは当然のこと合わせ鏡やこっくりさんも試したという。夜中の神社に藁人形を打ちつけたこともあるそうだ。
そんな男はある日、これまでやってこなかったあることに挑戦しようと決意した。それは、数多くあるオカルト遊びの中でもとりわけ危険と知られている遊び。
ひとりかくれんぼ。
そのやり方は、そこまで難しくない。ただし精神力が必要だ。
まず、ぬいぐるみを用意する。次にぬいぐるみの中に米と自分の爪を入れ、赤い糸で縫い合わせる。そうしたぬいぐるみを風呂場に置き、包丁で刺してから自分は隠れる。すると、ラップ音や足音が聞こえるといった心霊現象に出会うという。終了するためには、あらかじめ用意しておいた塩水を口に含み、人形の元へ行って吹きかけなければならない。
米と爪は内臓を、赤い糸は血管を意味しているらしい。そうして人形に命を吹き込む。
普通に行うだけでも見るからに危険なこの遊びだが、男は要所要所にさらなるアレンジを加えた。自分が、深い深い墓穴を掘っているとも知らずに。
使用する人形の段階から、男は凝った。髪が人の髪で出来ているという曰くつきのフランス人形を使い、そして中身には米と爪に合わせて自身の血、そして腐った鳥のモモ肉を詰め込んだ。縫うのに使った糸は、どこから手に入れたのか羊の血で染めた赤い糸。
出来上がった人形は、まさしく呪術に用いそうな様相だったという。
午後二時。草木も眠る頃。
男は予定通りに人形を浴槽に持ち込み、包丁で刺した。普通に刺したのではつまらないからといって、人形の目を狙って刃を突き立てた。執拗に、何度も何度も。やがてブルーの目玉が二つ、乾いた音を立てて床に転がる。
もしかするとこのあたりで、男は狂っていたのかもしれない。
隠れ場であるクローゼットの中に入った男だったが、いつのまにか人形を刺した包丁を落としていたことに気づいた。
確かに持っていた筈だったが。奇妙に感じた男だったが、すぐに考えなおした。これは怪奇だ。これこそひとりかくれんぼ。
そのまましばらく待っていると、やがてどこからか足音が聞こえてきた。
ヒタヒタという、濡れた足で床板を歩く音。水の滴りがそこにくっついている。
今も昔も、男の部屋にいるのは男一人だけの筈だ。いる筈のない気配に、男の神経は高ぶった。
それを皮切りに、木の板一枚で隔たれた向こう側から、種々雑多な音が聞こえ始める。
何か固いものを叩いている音。低音の鼻歌。つけた筈のないテレビの砂嵐。部屋を歩き回る何者かの足音。きわめつけは、部屋に置いてない筈の黒電話が鳴る音。
さすがの男も恐怖を感じ始めた。今まで色々と試してきたが、ここまでの事になったことは無かったからだ。
ひとりかくれんぼを終わらせようと、男は前もって用意しておいた塩水を口に含み、外に出る。その直後に違和感に気づいた。
点けていた筈の電気が、消えている。
部屋の中は真っ暗で。唯一の明かりがテレビの砂嵐だ。加えて得体のしれない音が自分を取り囲んだ全方向から聞こえてくる。男は動揺したが、とりあえず風呂場へ向かうことにした。そこに人形はある筈だ。
だが途中で、男は床にあった何かにつまずいた。その拍子に、口から塩水がこぼれ出る。
あっ、と。思った時にはもう遅い。
男の背中に誰かの手が触れる。
『みいつけた』
その後男がどうなったのかは、誰も知らない。
※
「一節には地縛霊になって今もその部屋にいるとか。そして人形は、次の相手を探してなおも彷徨い続けているという……と。こんなところよ。どう、聞いたことある?」
語り切った。そんな満足した表情で、店長が話を終えた。だが対する七瀬は、それを聞いて顔を強張らせている。
話が怖かったわけではない。ただ聞いている途中から、背筋に何とも言えない冷たい物を感じていたのだ。
「俊君?」
「……あ、すいません、大丈夫です」
〝聞かない方がいい話″というのは世の中に数多く存在する。聞くと呪われたり、幽霊を呼び寄せたりという話。店長の話もその類なのかもしれない。むしろ、仮にそうでないとしたなら。
――今店の窓に、たくさんの手が張り付いているのをどう説明すればいいのか。
数十の青白い手が、ガラスの向こうから窓を叩いている。その音はやけに大きく店内に響く。
〝怖い話をすれば幽霊が寄ってくる″とは言われている。だがそれにしたって限度がある。普通は、ここまで大勢集まってきたりしない筈だ。
もしこれらの幽霊が皆、ひとりかくれんぼの話に惹かれてやって来たものだとしたら。果たしてその話は――ただの噂だろうか?
「風かしら」
揺れる窓を見て、店長が何気なく呟いた。彼女には見えていないのだ。
震える声で七瀬が返す。
「外には出ない方がいいですね」
少なくとも、あの手たちがいなくなるまでは。
七瀬は上機嫌だった。
知らず知らずの内に頬が緩み、カーペンターズの『Top of the world』を口ずさんでしまうくらいに、すこぶる上機嫌だった。
世の中機嫌の良い人というものはどこにでも少なからず存在しているもので、傍から彼らを見ているとこちらまで上向きな気分になってくる。普段の七瀬は後者だが、今日ばかりは前者だった。朝から幸せオーラをふんだんに撒き散らしている。
『ああいいことがあったんだな』と誰が見ても分かるに違いない。そして実際の所、いいことはあったのだ。
意中の相手と一緒に帰ることが、いいこと以外の何だと言うのか。
昨夜は結局あの後、渚を彼女の家まで送り届けてからさよならをした。故に何かしらの進展があった訳ではないのだが、二人きりの時間を作れただけでも十分実りのある夜だった。
「何だか嬉しそうね」
気分に任せて鼻歌を歌っていたせいか、午後のバイト中に案の定そんなことを言われた。
頭上に広がっている木々の葉に日が遮られて、いい具合に涼しいここは花屋『花鳥風月』。七瀬がアルバイトとして働いている、個人経営の花屋だ。
話しかけてきたのは緑店長である。本日もまたいかなる手段を用いてか、年齢詐称ものの美貌をキープしていた。
「何かいいことでもあったのかしら」
「やっぱり分かりますか?」
「そんな顔をしてるもの。まるで自分が世界一の幸せ者です、みたいな顔。で、何があったの? ちょっと気になる」
枯れ葉を毟りながら店長が訊いてきた。
「気にしたって、別に何にもないですよ」
「そう言われたら、逆に気になってしまうのが人の性ね。……まあ十中八九、昨日の夜でしょう? 闇鍋の後、好きな娘とでも一緒に帰ったとか」
「うっ」
ピンポイントで言い当てられたせいで、七瀬は動揺した。一瞬で顔が真っ赤になる。手元が狂って、あやうく持っていた鉢を取り落しかけた。
「店長?」
「うん?」
「どうしてそれを」
「あら、正解だったのね」
「えっ」
「ま、強いていうなら女の勘ってやつかしら。なんとなーくそんな感じがしたものだから、ね」
恐ろしい。
どうやら店長の感は、人が心の奥底に秘めている秘密を白日の下へ晒し出すことに特化しているようだ。いや、もしかすると店長に限らず、女性全般がそうだったりするのだろうか。そういえば南部長にも、自分の恋心は一撃で見抜かれているようだったし。
「それじゃ、私は店の前を掃いてくるから。この辺はよろしくね」
鼻歌を歌いながら遠ざかる背中に苦笑を浮かべてから、七瀬も仕事を再開する。
今やっているのは見回り。具体的には枯れた部分の除去と虫がついていないかどうかの確認だ。一言で表わすなら『手入れ』で、下手をすれば一見何もやってないように見えるが、地味に大切な作業である。枯れた所があればどうしても見栄えが悪くなってしまうし、毛虫やアブラムシ等が付いていれば、そもそも誰にも買ってもらえなくなる。『売り物として』植物を扱う以上、その辺りはどうしても重要だ。
そうしていたとき不意に、目の前を何かが横切った。
つられてそちらに視線をやれば、一匹の白い蝶が、翅を羽ばたかせて立ち並ぶ花たちの間を飛んでいた。モンシロチョウだ。この時期はあちこちでよく見かける。
しばらく目で追いかけていると、やがて蝶は近くにあったアヤメの花に留まった。休憩しているのだろうか。二枚の翅がゆっくりと、まるで呼吸をしているように上下していた。“紫と白”と聞くと、何となく合わないような気がするけれど。今回ばかりはその逆で、花びらの紫と蝶の白が合わさって、互いに相手を引き立てている。
残しておきたいという思いが自然と浮かんできて、七瀬は携帯を取り出すとその光景を写真を収めた。
カシャリと、小さなシャッター音が一つ。
――うん、上手く撮れてる。
映り具合を確認。そしてふと、渚の事を頭に思い浮かべる。
記憶違いでなければ、たしか蝶が好きだったと言っていた筈だ。折角いい写真が撮れたのだから、彼女に送ってみるのもいいかもしれない。連絡先も交換しているのだし。
奇しくもアヤメの花言葉は“よい便り”。この状況にはピッタリだ。
メールの作成画面を開くと、七瀬は今しがたの写真をそこに添付した。題名は……少し迷って、『バイト先にて』としておく。
続いて文章。『バイト中に素敵な写真が撮れました。渚ちゃんにも見てもらいたかったので、送ります』と打ち込んだ所で、唐突に手が止まる。
この文章は少し堅苦しくないだろうか。よくよく考えてみれば、彼女にこうしてメールを送るのは初めてだ。何の脈絡もなしに送って変だと思われたりとか。それにそもそも普段はタメ口で喋っているのに、メールで敬語を使うのはどうなのか。いやしかし、軽い感じだと逆に馴れ馴れしくなるのでは。たかがメール、されどメールだ。送るものは一言一句とて間違えず、完全に整えられた文面にしなくては――。
そうして散々迷った末に、そのまま送信ボタンを押す。
「俊くん?」
「うわあっ!」
考え込んでいたせいで、店長がすぐ近くに来ていることに気がつかなかった。慌てて携帯を仕舞い込む。
「な、なんですか」
「そろそろ休憩はどう、と思ったのだけど」
そう言うと、店長は意味深な微笑みを浮かべた。どこから見られていたのか、訊こうとも思ったが、また恥ずかしい目に会いそうだったので止めておいた。
※
店長の誘いに乗って、少し休憩を挟むことにした。
店内にある、木枠が武骨なベンチに腰かける。壁際で、少し横を向けばいい具合に外が見える位置だ。
やがて店長が、奥からよく冷えた麦茶とお茶請けを持って現れた。一応業務中の筈だが、個人経営なので休憩時間は自由の極みに達している。七瀬にしても、その方が楽でいい。
「娘から聞いたんだけどね」
店長がそう切り出したのは、丁度七瀬がクッキーの小袋を開けた時の事だった。
「最近高校で、こっくりさんが流行ってるみたいなの」
「こっくりさん、ですか」
彼女の口調から察するに、どうやらあまり明るい話ではなさそうだ。とりあえずクッキーを横に置いて、聞く態勢に入る。
「そ。私が高校生の頃も一時流行ってたかな。もうあんなのは廃れたと思ってたけど、意外と再燃するものなのね」
「消えたと思っても何かの拍子にまた流行ったりとか、ありますよね」
「波でもあるのかな?」
「さあ。でもこっくりさんって言ったら……」
七瀬はゆっくりと息を吐いた。
〝こっくりさん″と聞いて、何のことか分からない人はそうそういないだろうと思う。それくらいに有名だ。
簡単に説明すれば、白い紙に五十音やら鳥居やらを書いて十円玉をうんぬん、というアレ。狐のイメージが強いが、お稲荷様とは一切関係ない。実際、漢字で書くと『狐狗狸さん』となって、狐のみならず狗や狸が幅を利かせてくる。
流行の始まりは数十年前と言われているが、今でも「エンジェルさま」などと名前を変えて残っているようだ。
「たしか、僕の高校でも同級生がやってましたよ」
高校時代。教室の隅で机をくっつけて、興奮した風で興じていた人たちは結構な数いた。一応表面上は校則で禁止されていた筈だが、そんなものお構いなし。勿論七瀬は、決してそこに混ざったりしなかった。
結局そのブームは、こっくりさんをしていた数人の女子生徒が、儀式の途中に痙攣して倒れるという謎めいた出来事によって終わりを迎えた。七瀬は実際にその場面を目撃したわけではないので、詳しいことは分からないままだ。すぐに症状は収まったらしいので、霊障ではなく集団催眠的な何かだとは思うのだが、もしかしたら本当に何かの霊が憑いていたのかもしれない。
「誰しも通る道なのね」
「ああいうものオカルトにはまる時期ですから」
「随分枯れた物言いね……。それで心配なのは、あの娘が友達と一緒になってこっくりさんをやってはいないかってことなの。娘のやりたいことは基本好きにさせているけど、ああいうのはちょっとね。私が高校生だった時も、こっくりさんをして気分が悪くなった人がいて」
人差し指で前髪を掻き上げる。
「私は見たことないけれど、動物の幽霊が見えたって子も数人いたの」
「ああ……ありえますよね」
「そうなの?」
「オカルトな話になりますけど、いいですか」
店長が頷いた。麦茶を一口飲んで、七瀬は続ける。
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そう言うと、彼女は空中に指でその字を書いてみせた。
降霊術、と聞くと、恐山のイタコさんや沖縄のユタなど、しかるべき修行を積んだしかるべき人によって行われる物という印象が強い。
確かにそれは間違いではないのだが、霊を呼ぶことだけなら意外と簡単に出来る。こっくりさんは言うまでもなく、百物語や合わせ鏡、赤口さま等。ああいう〝幽霊が見える″〝幽霊に会える″類の物はおしなべて降霊術だ。
ただし。
「それで呼べる霊は、基本的にロクなものじゃないんです。動物の霊とか浮遊霊とか。性質たちが悪いのばかりで」
たまに、こっくりさんで神様と交信出来た、などと騒ぐ人がいる。だが七瀬からしてみればそんなことはありえない。十中八九それは神の名を騙るただの浮遊霊か何かだ。そもそも本当の神様なら、自分は神だなんて軽々しく言わない筈だろうに。
「一言で言えば、危ないです。幽霊が来ないにしても、その場の雰囲気に飲み込まれて集団催眠にかかることもありそうですし。関わらない方がいいと思いますよ」
「やっぱりそうかあ……。混ざったりしないように言っとかないと」
「娘さんは大丈夫だと思いますけどね。しっかりしてるじゃないですか。一緒に働いていて思いますよ」
「ふふ、ありがと。でもそれは、多分俊君の前だからだと思うわよ」
店長につられて、七瀬も笑う。
「それにしても、オカルトなことに詳しいのね、俊君」
そんなことを言われたので、七瀬は適当な理由で誤魔化すことにした。『幽霊が見えますから』なんて、さすがに言えない。
「そういうものオカルトに、興味を持った時期があったんですよ」
「へえ。じゃあこれは知ってる? 私が高校生だった頃にどこからともなくやってきて、学校だけじゃなくこの辺り一帯で噂になった、結構有名な話」
何かを描くように、店長は人差し指を空中で振る。その軌跡を目で追っていると、突然それは七瀬の方に向けられた。
「〝ひとりかくれんぼ″っていうんだけど」
※
ある所に、一人の男が住んでいた。
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ひとりかくれんぼ。
そのやり方は、そこまで難しくない。ただし精神力が必要だ。
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米と爪は内臓を、赤い糸は血管を意味しているらしい。そうして人形に命を吹き込む。
普通に行うだけでも見るからに危険なこの遊びだが、男は要所要所にさらなるアレンジを加えた。自分が、深い深い墓穴を掘っているとも知らずに。
使用する人形の段階から、男は凝った。髪が人の髪で出来ているという曰くつきのフランス人形を使い、そして中身には米と爪に合わせて自身の血、そして腐った鳥のモモ肉を詰め込んだ。縫うのに使った糸は、どこから手に入れたのか羊の血で染めた赤い糸。
出来上がった人形は、まさしく呪術に用いそうな様相だったという。
午後二時。草木も眠る頃。
男は予定通りに人形を浴槽に持ち込み、包丁で刺した。普通に刺したのではつまらないからといって、人形の目を狙って刃を突き立てた。執拗に、何度も何度も。やがてブルーの目玉が二つ、乾いた音を立てて床に転がる。
もしかするとこのあたりで、男は狂っていたのかもしれない。
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確かに持っていた筈だったが。奇妙に感じた男だったが、すぐに考えなおした。これは怪奇だ。これこそひとりかくれんぼ。
そのまましばらく待っていると、やがてどこからか足音が聞こえてきた。
ヒタヒタという、濡れた足で床板を歩く音。水の滴りがそこにくっついている。
今も昔も、男の部屋にいるのは男一人だけの筈だ。いる筈のない気配に、男の神経は高ぶった。
それを皮切りに、木の板一枚で隔たれた向こう側から、種々雑多な音が聞こえ始める。
何か固いものを叩いている音。低音の鼻歌。つけた筈のないテレビの砂嵐。部屋を歩き回る何者かの足音。きわめつけは、部屋に置いてない筈の黒電話が鳴る音。
さすがの男も恐怖を感じ始めた。今まで色々と試してきたが、ここまでの事になったことは無かったからだ。
ひとりかくれんぼを終わらせようと、男は前もって用意しておいた塩水を口に含み、外に出る。その直後に違和感に気づいた。
点けていた筈の電気が、消えている。
部屋の中は真っ暗で。唯一の明かりがテレビの砂嵐だ。加えて得体のしれない音が自分を取り囲んだ全方向から聞こえてくる。男は動揺したが、とりあえず風呂場へ向かうことにした。そこに人形はある筈だ。
だが途中で、男は床にあった何かにつまずいた。その拍子に、口から塩水がこぼれ出る。
あっ、と。思った時にはもう遅い。
男の背中に誰かの手が触れる。
『みいつけた』
その後男がどうなったのかは、誰も知らない。
※
「一節には地縛霊になって今もその部屋にいるとか。そして人形は、次の相手を探してなおも彷徨い続けているという……と。こんなところよ。どう、聞いたことある?」
語り切った。そんな満足した表情で、店長が話を終えた。だが対する七瀬は、それを聞いて顔を強張らせている。
話が怖かったわけではない。ただ聞いている途中から、背筋に何とも言えない冷たい物を感じていたのだ。
「俊君?」
「……あ、すいません、大丈夫です」
〝聞かない方がいい話″というのは世の中に数多く存在する。聞くと呪われたり、幽霊を呼び寄せたりという話。店長の話もその類なのかもしれない。むしろ、仮にそうでないとしたなら。
――今店の窓に、たくさんの手が張り付いているのをどう説明すればいいのか。
数十の青白い手が、ガラスの向こうから窓を叩いている。その音はやけに大きく店内に響く。
〝怖い話をすれば幽霊が寄ってくる″とは言われている。だがそれにしたって限度がある。普通は、ここまで大勢集まってきたりしない筈だ。
もしこれらの幽霊が皆、ひとりかくれんぼの話に惹かれてやって来たものだとしたら。果たしてその話は――ただの噂だろうか?
「風かしら」
揺れる窓を見て、店長が何気なく呟いた。彼女には見えていないのだ。
震える声で七瀬が返す。
「外には出ない方がいいですね」
少なくとも、あの手たちがいなくなるまでは。
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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ここはとある別の世界
どこかの分岐点から、誰もが知る今の状態とは全く違う
いい意味でも悪い意味でも、大きく変わってしまった…そんな、日本という名の異世界。
一期一会
一樹之陰
運命の人
「このことは決まっていたのか」と思われほど
良い方にも悪い方にも綺麗に転がるこの世界…
そんな悪い方に転ぶ運命だった人を助ける唯一の光
それをこの世界では
「異世界転生」
とよぶ。
少年、その愛 〜愛する男に斬られるのもまた甘美か?〜
西浦夕緋
キャラ文芸
15歳の少年篤弘はある日、夏朗と名乗る17歳の少年と出会う。
彼は篤弘の初恋の少女が入信を望み続けた宗教団体・李凰国(りおうこく)の男だった。
亡くなった少女の想いを受け継ぎ篤弘は李凰国に入信するが、そこは想像を絶する世界である。
罪人の公開処刑、抗争する新興宗教団体に属する少女の殺害、
そして十数年前に親元から拉致され李凰国に迎え入れられた少年少女達の運命。
「愛する男に斬られるのもまた甘美か?」
李凰国に正義は存在しない。それでも彼は李凰国を愛した。
「おまえの愛の中に散りゆくことができるのを嬉しく思う。」
李凰国に生きる少年少女達の魂、信念、孤独、そして愛を描く。
化想操術師の日常
茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。
化想操術師という仕事がある。
一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。
化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。
クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。
社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。
社員は自身を含めて四名。
九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。
常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。
他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。
その洋館に、新たな住人が加わった。
記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。
だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。
たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。
壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。
化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。
野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
十年後、いつかの君に会いに行く
やしろ慧
キャラ文芸
「月島、学校辞めるってよ」
元野球部のエース、慎吾は同級生から聞かされた言葉に動揺する。
月島薫。いつも背筋の伸びた、大人びたバレリーナを目指す少女は慎吾の憧れで目標だった。夢に向かってひたむきで、夢を掴めそうな、すごいやつ。
月島が目の前からいなくなったら、俺は何を目指したらいいんだろうか。
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