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初めまして編
陛下は残念なおっさんです。
しおりを挟むこの世界は、大きく分けて三つの世界がある。
『神』と呼ばれる存在の住まう、天界。
『鬼』と呼ばれる存在の住まう、下界。
そして、人類と、天界や下界からやってきた『鬼』や『神』が共存する、地上界。
それが俺、ユラハ・ルミエールの住む世界だ。
俺は人類だから地上界に住んでいる。
だが、地上界は長年抱えている問題があった。
それは、地上界で『神』と『鬼』が争いを続けていることである。
ただの喧嘩ならまだいいのだが、彼等は人類には無い、異形の力を持つ。その力は強大で、人間では立ち向かうことすら出来ないほどだ。
そんな彼等が傍迷惑な事に地上界で争いをしているのだ。
他所でやってくれ!世界が滅びるわ!!と言いたくなるが仕方あるまい。
何しろ彼等が共存出来るのは地上界のみ。
天界や下界は、それぞれ『神』もしくは『鬼』でないと行くことのできない世界なのだから。
さて、俺はユラハ・ルミエール。
この地上界一の大国、ツヴァルト王国の王族の血を引く公爵家の長男。
自分で言うのも何だが所謂エリートなのだろう。
そんな俺は、日々そんな地上界の争いを何とかして止められないかと奮闘していた。
が、しかし。
俺はその日、唐突に呼び出された。
そして、呼び出した張本人である、ツヴァルト王国の国王は言った。
「今日は急にすまないなぁユラハ。でも、大変なことが起こったんだ。致し方あるまい。」
「はぁ…で、大変なこと、とは?」
陛下は鷹揚に頷いて、大真面目な顔で言いやがった。
「すまない、ユラハ。手が滑って、異世界人を数名召喚してしまった。」
は??異世界人?召喚???ナニヲイッテルンダコイツハ。
頭が真っ白になった俺は思わず本音を漏らした。
「くそったれ!!!!」
俺は悪く無いと思う。
だって陛下が悪い冗談言ったからだし。
「で、だな。その異世界人6名を新しく宰相に任命しようと思うとだが。」
…ん?あれ、この流れはもしかして…
「陛下、まさかとは思いますが…先程の手が滑って~のくだりは冗談では無いのですか?」
「うん。」
「うん。じゃねぇよくそったれ!!!!」
「ごめん、ユラハ。やっちゃったぜ☆」
「黙れ、このゴミ虫!!!」
「ごっごごごごみむし!?!?」
おっといけない。また本音が。
いや、でもこれも俺は悪く無いと思う。
何だか目の前の陛下が多少涙ぐんでいるように見えなくも無いが、決して俺は悪く無い。
そうだ、この機会に日頃の恨み辛みをぶつけてやろう!
「あのですねぇ、陛下?俺はいつもいつも言っているでしょう。もう陛下の尻拭いは勘弁だ、と。それなのに!!このザマは何ですか、あぁん??」
若干敬語が崩れた気はしないでも無いがそんなことはどうでも良い。
これは全て陛下が悪い!!
「たまにはツヴァルトの偉大なる王としての威厳を見せてはいかがです。おい、おっさん聞いてんのか。」
すると陛下は瞳を潤ませながら美し~い謝罪の礼を見せてくれた。
「ごめんなさい。」
たった18の少年?にこうべを垂れる大国の王。
何だこれ。まるで俺が悪役じゃ無いか。
「で?さっきの話の続きですが…いささか無理がありますよ。異世界人にツヴァルトよ政治を任せるなんてふざけてんですかこの野郎。」
「ごめんなさいごめんなさい。いや、でもな?その6人は全員かなり秀でた能力があってな?」
先程から謝ってばかりだな、このおっさ…失礼、この国王。
「そうですか、つまり彼等は全員有能な人材、と…いや、それにしても無理がありますよ。相手は異世界人ですよ?それに、現職の宰相たちのままでいいのでは?」
現職の宰相は全員で七人いたはずだが、全員が全員、仕事のできる真面目な人だ。なにが不満だと言うのか。
すると陛下は言いにくそうに、小声で打ち明けてくれた。
「いや、なに、実はな…あやつら最近歳のせいか、変なことばかり口走るようになってな。」
「それが何です。優秀さに変わりはありません。」
すると陛下はまた、言いにくそうに…
「その口走る内容がな、『最近、川の向こうに花畑が見える夢ばかりみるわい!ふぉーっふぉっふぉ!』とか、『あそこに半透明の人がいるんじゃが、皆んな見えとらんのか?』とかなんだが…」
「辞めさせましょう今すぐに。」
こうして、現職の宰相たちは引退が決まり、次の新宰相に異世界人6人が任命されたのだった。
「あ、そうそう。あの6人だけだと不安なんでな、ユラハ。そなたに6人をまとめて欲しいのだ!と言うことで、今日付でそなたを宰相に任命する。」
「んなアホな。」
これが、新宰相ユラハ・ルミエールの誕生の瞬間であった。
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