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出会い編
ロゼリーナ・アゼルの物語
しおりを挟むロゼリーナの運命を変えることとなる物語は、母親が放った一言から始まる。
「ロゼ、ちょっとそこまでゴミ捨てに行ってくれない?今手が離せなくて困ってるのよー」
いかにも、困ってますというような顔で頰に手をあてがう母を見たロゼリーナは、もちろん喜んでそれを承諾した。
「うん、わかった!」
ロゼリーナは人、特に家族の手伝いをするのが大好きだ。嫌な顔一つせず、ゴミ袋を引っ掴むと元気よく外へ飛び出した。秋とは言え今はもう夜だからか、かなり寒い。駆け足で体を温めつつぱぱっと行って帰ってこようという魂胆である。
「おやロゼちゃん!お使いかい?」
「いえ、ちょっとそこまでゴミ捨てに!」
「暗いから気をつけるんだよ」
「まあロゼちゃんも今や聖女候補だからね、大丈夫か」
街行く人が、店番の人が、走るロゼリーナに話しかける。ロゼリーナは、人々に当たり障りない言葉を返しながら自然と微笑んだ。この街は、賑やかで明るくてロゼリーナは気に入っている。皆んな優しいし、仲が良いから街自体の雰囲気も自然と和やかなものとなっている。ロゼリーナが聖女候補になった今でも変わらず親しげに話しかけてくれる人が当たり前のようにいる街だ。そうなるのも必然かもしれない。
しかし、だからこそ辛いものもあった。
『聖女候補ロゼリーナ・ビアーヌは、アゼル伯爵家の養女に迎えることとなった。期日までに準備を済ませておくように』
そんな内容の手紙がゲレッスト王国の聖女候補支部から届いたのはつい先日のことだった。
昔から聖女候補は、一人前の淑女としての教育を受けなければならないと決まっている。庶民のロゼリーナが貴族の養女になるのは納得ではあるが、本人はそれを飲み込めずにいた。生まれてから十何年間もの時を過ごしてきたこの街を離れることになるなんて、考えられなかったし考えたくなかった。
もう、こうしてお母さんとお父さんのお手伝いをすることもなくなるのね…
別れを悲しんでいたロゼリーナではあったが、ひとつ決めていたことがあった。
『お母さんとお父さんとのお別れの時は、絶対に泣かない』
お別れだからこそ、最後に見せるのは涙じゃなくてとびっきりの笑顔がいいと思うから。これだけは絶対にそうすると決めている。
こういうお別れのシーンは、よく小説のネタなんかにされて読者は感動に心を振るわせるわけだが……この物語がどんなジャンルかなんて、誰も知る由はない。
ロゼリーナはふと空を見上げた。秋は空気が澄んでいるから空が高いとはよく言うもので、昼間や朝は空が透き通っていて綺麗だ。しかし、夜になるとそのせいで空の闇色がいつもよりかなり深いものになり、結構怖い。白や赤にキラキラ輝く星々も合間って幻想的である意味嫌いではあるが、空の黒だけを見ると何とも不気味なのである。 ロゼリーナは昔からオバケや幽霊が苦手だ。
「うう~…早く行って帰ろ」
それまでの高揚感が嘘のように、寒気に襲われたロゼリーナは道を急いだ。それまで以上に駆け足で、ゴミ捨て場まで走って行った。走って走って走って。そうして漸く到着したゴミ捨て場を目にして、ロゼリーナは思わずゴミ袋を落としてしまった。
「きゃあああああああああああああああ!」
いつもはないものが、そこにはあった。
色とりどりの、カラフルなランタンで照らされながらそこに佇むのは巨大な金塊のようなもの。それはぼんやりと光で照らされており、かなり不気味だ。
いや、金塊と言うよりはロボット…だろうか。腕や手、顔のようなものがある。
何にせよこんなに大きなロボットは見たことがなかったため分からないが、この状況が普通じゃないことだけは確かだった。
「何…これ。どうなってるの!?」
後ずさりしながら、巨大なそのロボットに改めて目をやると、やはり不気味である。秋の夜の暗さや寒さ、そのロボット…。全てがロゼリーナを恐怖のどん底に落とした。それによく見るとそのロボットはずらりと後ろに列をなしているではないか。一体、何十体捨てられていると言うのか。
それにしても何だろうか、これは。悪質ないたずらか何かだろうか。いや、それにしては少々度がすぎるか…。
スポットライトのごとくロボット達を照らすランタンが設置されているのを見る限り、これは意図的なものだろうと思われるが、何が目的なのだろう。
何となくロボット達の足元を見たロゼリーナは、そこに大きめの看板を見つけた。怖さを紛らわせる為にも、それを声に出して読み上げた。
「『マドモアゼル・パークへようこそ☆』…ってどういうこと??」
本当に、全然意味がわからない。
マドモアゼルって何なの?というところから話は始まるのだ。そこをちゃんと説明してほしい。
大体、黒い木の板に赤い文字って……こんな怖い看板をよく作れたものだ。作った人は余程の変人だろう。
…実際にこれを作ったのは某天然令嬢の使役精霊なのだが……この時のロゼリーナは当然そんなことはゆめゆめ思っても見なかった。
ああ、嫌だわ。こんな不気味なところからは早く離れたい。
ロゼリーナは落としたゴミ袋を拾い上げると再びゴミ捨て場に近寄り、ゴミを捨てようとした…のだが。
「きゃっ!」
勢いあまって、何かに躓き転んでしまった。
「いったた…」
擦りむいて血のにじむ膝をさすりながら、顔を上に上げる。そうして目に入ったのは、この世のものとは思えないほどにおぞましい光景だった。
ギョロリとした目のようなものや、黒ずんだその胴体、今にも動き出しそうな躍動感あふれるその佇まい、そしてにたりと弧を描く唇、その背景の秋特有の深い深い闇色………言うまでもなく、ロゼリーナはあのロボットに躓いたのだ。
一瞬にして状況を把握したロゼリーナは力の限り叫んだ。
「いやぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
そしてその後すぐに、一種のショック症状が原因で、彼女は意識を手放してしまった。
◇ ◆ ◇
これは、ロゼリーナ・ビアーヌもといロゼリーナ・アゼルの真の物語。
「ん……あれ?わた、し…」
「!!ロゼリーナ!やっと気が付いたのね、良かった…あなたゴミ捨て場で倒れてたのよ?」
ぼんやりとした寝起きの頭でロゼリーナは考える。
さっきのロボット、めっちゃ気持ち悪かったなー。あれはないわ。最近は技術も発達してきて犬型ロボットとかも出てきたりはしたけど…あれはないでしょ、あれは。癒しもクソもない!大体、何でゴミ捨て場まで行かないといけないのか。家の前にでも置いといたらゴミ収集車が来て回収してくれるはず…って、あれ?
なんかここ、わたしの住んでる世界と違う。
何これ、どこ?…いや、でも妙に既視感あるなぁ。
「…ナ!ロゼリーナ!!」
ぼんやりしているロゼリーナを心配した母親の声に、ロゼリーナは目を見開いた。
「ロゼリーナ…?ああ、そうよ。わたしは…私は、ロゼリーナ・アゼル!!」
思い出したわ!全部、思い出した。
ロゼリーナ・アゼル。
わたしがプレイしてた、乙女ゲームのヒロインじゃない。既視感あるはずだわ!
「ロゼリーナ・アゼル…?嫌だわロゼリーナったら。貴方はまだロゼリーナ・ビアーヌよ。私の可愛い娘よ?そんな悲しいこと、言わないで?」
悲しげに笑う実の母親に、ロゼリーナはからっと笑顔でこう言った。
「?何言ってるの??わたしはロゼリーナ・アゼルよ!アゼル伯爵令嬢としてリリアム学園に通うんだから!!あ、アゼル伯爵の迎えが来る日っていつだっけ。あー、楽しみだなぁ」
「…!ロ、ロゼリーナ??…っそうね、そうよね。ロゼリーナは、これから新しい道を歩いていくんだもの、ね」
涙を堪えるように顔を歪める母親に、ロゼリーナは見向きもしない。気がつきも、しない。
これだけは絶対に、と決めていた事さえも。
どうでもいいと感じていた。
「ふふっ、はやくロゼリーナ・アゼルとして学園へ通いたいわ!」
ロゼリーナの運命を変えることとなる物語は。
感動の物語なんかじゃあない。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
どうしようヒロインがただの嫌なやつだ。
他作品とおんなじ感じのキャラに見える!
ごめんなさい!
でも、まだ出て来ていないだけで、ロゼリーナ・アゼルの本質はこれだけはありません。
もっともっと、こんなただの性悪女よりも、相当キャラは濃いです。ご安心下さい。(安心できるのか?これ)
さてさて、いよいよ学園編が近づいて来ました!
ですがこちとら学園編をまだまだまっったく見据えておりません。ちゃんとしなきゃ…。
あ、勿論話の流れとかはとうの昔に決まってるんですけどね??どうにも文に起こすのが…以下略
なんにせよ頑張ります。
ではでは!
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