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デビュー編
もっとお話いたしませんこと?
しおりを挟むアルカティーナが歩くと、皆一斉に道をあけた。
「ありがとうございます、皆様。」
お礼は忘れません。
それに、本当にありがたいですし。
こんな人混みの中を進むのは普通ならもっと時間がかかるはずです。
それにしても、公爵令嬢というのは凄いです。
デビューしたばかりの小娘でも、こんなに優遇されるのですから。
本当は、アルカティーナが有能だという噂の影響もあるのだが…本人は気がつくはずもなく、ただただ感謝の意をしめす。
陰口を叩いていた令嬢たちは、アルカティーナがかなり近くまでやって来たところで、漸く自分たちの身に迫る危機に気が付いた。
慌てて誤魔化すように扇で口元を仰ぐと、不自然にふいとアルカティーナから目をそらした。
誤魔化しきれるとでも思っているのでしょうか。
……馬鹿な人達。
「ねぇ、なんのお話をしていらっしゃったのですか?わたくしも混ぜて下さいまして?」
にっこりと、全く邪気のない純粋な笑みを浮かべながらそう言ったアルカティーナに、何を勘違いしたのか例の令嬢たちは先程までの慌てた様子を捨て、安心しきった表情で自信たっぷりに話し始めた。
「あ、あらごきげんようアルカティーナ様。」
「私達、流行りのドレスについてお話ししていたの。」
「よかったらご一緒しません?」
媚を売るような、おキレイな笑顔の彼女らをアルカティーナは一瞬、睨んだ。
ーー嘘つき。
アルカティーナは再び気合を入れると、にっこりと笑顔を向けた。
「まあ、それは素敵なお話ですわね!」
「そうでしょう?是非アルカティーナも…
「で?」
嫌な笑みを浮かべる令嬢の声を遮ったのは、酷く冷たくそれでいて美しい声。
その凍えるような声に、令嬢たちは怯えた。
目の前には、その声を発した張本人アルカティーナが立っている。
令嬢たちは恐る恐るアルカティーナの顔を見て…ひっと小さな悲鳴をあげた。
アルカティーナは笑っていた。
笑いながら怒る人ほど怖い人はいないとはよく言うが、本当にその通りだ。
興味本位でこそこそと見ていた野次馬達も、アルカティーナを見てヒュッと息を飲んだほどだった。
その笑顔は、誰よりも美しく。
誰よりも艶やかで。
そして、誰よりも冷たい。
何より、細められたその目は全く笑っていなかった。
凍りついた周囲のことは気にも止めず、アルカティーナは続ける。
「で??その流行りのドレスとやらのお話の中に、どうして誹謗中傷の言葉が出てくるのです?」
「「「「……ひっ!!」」」」
アルカティーナは、令嬢たちに一歩、また一歩と近づいていく。
令嬢たちはそれに合わせてジリジリと後退した。
「ねぇ、どうして逃げるのです?お話に混ぜてくれるのでしょう?ドレスについてお話していたのでしょう?もっとお話いたしませんこと?」
野次馬たちも会話から何となく状況を察したのか、固唾を飲んで見ている。
このままでは勝ち目がないと判断したのか一人が騒ぎ始めた。
「何ですかアルカティーナ嬢!私達が誹謗中傷をしていたと仰るのですか!あんまりだわ!!何の証拠も無いじゃない!」
すると他の令嬢たちも便乗して何やら騒ぎ立てた。
「そ、そうですわ!いくら公爵令嬢とはいえ失礼が過ぎますわ!」
「マナーがなっていないのではなくって!?!?」
「本当、失礼しちゃうわ!」
それを暫く黙って聞いていたアルカティーナだったが、途中で持っていた扇をパチンと音を立てて閉じた。
その音は、やけに響いた。
令嬢たちもその音にビクリとして騒ぐのをやめた。
しん、と静まり返る会場の中、アルカティーナはやはり笑顔で口を開いた。
「あら、あら。証拠がないと、仰いますのね?では、あったら貴方がたはいかがなされるおつもりで?」
「ふんっ!ある訳ないわ!」
「そうですわ!第一、わたくしたち誹謗中傷なんてしてませんもの!」
「ええ、そうよそうよ!」
「証拠も無いくせに出しゃばらないで!」
再び騒ぎ立て始めた令嬢たちに、アルカティーナはニタリと笑みを深めた。
「…では、証拠があれば出しゃばっても良いのですね?」
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