私はヒロインになれますか?

水瀬 こゆき

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一章

魔王様は何者ですか?

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 「ちょっ…、やめっ、やめて!やめてよメルシェ嬢!フードを引っ張らないで!!痛っ痛い痛い!それ僕の髪の毛も巻き込んでるから!禿げる!禿げるーー!」

 「禿げて結構!逆に貫禄が出て良いんじゃないですか?あっ、宰相様を盾にするとはずるいですね。良いでしょう、宰相様もろとも禿げさせてやります」

 「おおっと大変だあ!魔王様、急用を思い出しました!今日のところはこれで失礼致します!」

 「おい宰相、棒読みだぞ!」

 今、僕はメルシェ嬢と格闘している。
何故自分の護衛になったはずの彼女と僕が格闘しているのかについては、深い理由がある……訳もなく、かなりしょうもないことだったりする。

 数分前、めでたく僕の護衛をする代わりに魔王城で養ってもらえることが決定したメルシェ嬢は、スライディング土下座をしたままだった僕のフードをむんずと掴むと、そのままグイグイ引っ張りだしたのだ。
正確には、フードではなく角を鷲掴みにして、だ。

 「この角、妙に胡散臭いですよね。本物ですか?もしかして魔王様の種族は悪魔ですか?この角もげますか?もげた暁には部屋に飾りますね」

 「最後!最後二つ怖いよ!?」

 「この間、父の形見であるマンモスの頭部の剥製の角を間違えて折っちゃったんですよ。だから丁度いいので、それに差し替えておきます」

 「それ形見じゃなくてただの装飾品じゃないかな?あと、それもう間違ったってレベルじゃないから。どうやったら角が折れるの!」

 「意図してやったわけではないんですが、気が付いたら手に角が二本あったんですよ。目の前には角がもげた剥製が…」

 「それ何のホラー映像!?」

 やめてほしい。
僕は怖いのが苦手なのに。

 「そう言えばあれは、マンモスの角が好物だという伝説級に強いモンスターを倒しにいく前日のことでした。マンモスの角があれば簡単に倒せるのになぁ、なんて丁度思っていたんですよ。そうしたら突然手にマンモスの角が」

 「明らかに意図的にもいでるよね、それ」

 メルシェ嬢は遠い目をしたまま、僕の言葉に返事をすることはなかった。そしてその代わりとばかりにお腹にパンチをいれてきた。

 「ぐっふぉ……!」

 「いえーい隙あり~」

 魔王サマ弱いねぇ、と言われましても困るんです。
だってメルシェ嬢の一族ってあれでしょ?
身体能力が並外れて良いんでしょ?
知ってるよ、昔本で読んだから。
どのくらい強いのかとは思ってたけど、まさか何の装備もなしで城壁に穴開けるような身体能力だとは思わないじゃない?せめて片手でリンゴを潰せるくらいだとおもうじゃない!
僕も種族的に身体能力はいいけど、流石に城壁破壊は出来ない。

 そんな一族のお方の腹パンを喰らった僕の気持ちも考えてもらいたい。正直死ぬほど痛いわこんにゃろー。

 「さてさて、それでは素顔を拝見しますかねぇ」

 ニヨニヨと怪しい手つきでフードを取ろうとするメルシェ嬢。まるで春に湧いた変質者みたいだ。変質者は変質者でも、『お嬢ちゃん今どんなパンツはいてんの?』とか聞いてきそうな変質者だ。

 抵抗も虚しく、バサリとフードを取り払われた。
視界が一気に開けて、照明がキラキラと目に眩しい。

 「わわ……」

 「!へぇ…魔王サマって、獣人さんだったんですか」

 初めて直接見たメルシェ嬢の顔は、驚きにその色を移していた。
 

 
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