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一章
魔王様は土下座をしますか?
しおりを挟む宰相に引き摺られながら、例の『サタンコロース』が入れられているという牢へとのやってきた魔王は、目を見張った。牢の前まで誘導した護衛の者も、それは同様であった。
薄暗くて殺風景な牢に閉じ込められた者の反応は個々に異なる。喚いたり、泣いたり叫んだり、もしくは諦めて大人しくしていたりと、これまで様々な者達を魔王も宰相も見てきたつもりだ。だが、この目の前の少女は違った。喚くでも泣くでもなく、何故こうする事を選んだのか…さっぱりわからない。
「すーすー…むにゃむにゃ……」
「……………………………宰相ごめん。僕、急に目が悪くなったみたいだ。さっきから錯覚が見えるんだ。目の前で『サタンコロース』がぐっすり眠ってる」
長い指で目元を押さえながらそう言った魔王に、宰相は首を振った。
「残念ながら魔王様、それは錯覚ではなく現実です。私にも同じ状況が見えていますから」
「ぇぇええ………錯覚じゃなかった!何、これ。何なのこの人。牢に入れられてまだ数時間しか経ってないはずだよね?それなのにこの状況って、ある意味すごいなこの人」
宰相と牢の中の『サタンコロース』を慌ただしく交互に見つめながら、やや興奮気味に捲し立てた魔王たちの様子に、それまで呆然としていた護衛の者も我を取り戻した。
「はっ……!!も、申し訳ありません魔王様、宰相様!すぐにこいつを叩き起こしますので…!」
魔王と宰相ともあろうお方をお連れしておきながらこの状況……謝って済む話ではない。
だが、慌てて牢の中に入ろうとする護衛に、魔王は首を振った。
「いや、別にそこまでしなくてもいいよ。また明日来ればいいだけの話だから」
「し…しかし……」
戸惑う護衛を諭すように、今度は宰相が口を開いた。
「魔王様が良いとおっしゃるのですから良いのですよ。大丈夫です、魔王様は大抵暇なのでいつでも連れてきますよ」
「大抵暇!?いや、暇だよ?暇だけど、もうちょっと違う言い方が……!」
宰相のあまりの言いように、少し悲しくなった魔王が弁論をしようとした時のことだった。ぐっすりと眠っていたはずの『サタンコロース』がむくりと起き上がった。
「………ん~~…」
緩慢な動きで伸びをして目線を上げた『サタンコロース』とハタと目があった。
「…………誰?」
眉を顰めつつそう呟いた『サタンコロース』に護衛は素早く反応した。
「無礼な!このお方は魔王殿下と宰相閣下であられるぞ!!」
普通の人間であれば、ここで震え上がって土下座をして許しを請うところだ。しかし、『サタンコロース』は違った。
「へ~~え、そう」
眠っていた時に少し皺になったフードの裾を引っ張って、極限まで顔を隠しながら、淡々とそう告げた。しかも、その口元はくっきりと笑みを浮かべている。
魔王と宰相は互いに顔を見合わせた。
妙だ。相手は魔王と宰相だぞ?
自分で言うのも何だけど、人間にとって魔王というのは脅威の存在なのに、この反応?
おかしくないか??
「貴様…!一度では足らず二度までも!無礼であるぞ!!」
捲したてる護衛を止め、魔王は『サタンコロース』に話しかけた。このままでは話が進まないだろうと考えた結果であった。
「初めまして、僕が魔王です。君は城に侵入した時、尋ねられても名を名乗らなかったそうだけど、僕は先に名乗ったから教えてくれるかな?」
蹲み込んで、『サタンコロース』と目線を合わせながらそう言った魔王に、『サタンコロース』は笑みを深めた。
「ふふ……わかりました。では改めまして魔王サマ、初めまして」
言いつつ、目の前の『サタンコロース』は被っていたフードに手をかけた。そしてそのままバサリと勢いよくフードをとる。
露わになったその容貌に、一同は目を見張った。護衛に至っては「ひぃっ…!」という情けない声と共にこうべを垂れた。
そして宰相も、腰を折ってお辞儀をした。
『サタンコロース』は、……いや、その少女はにっこりと艶やかに微笑むと自己紹介をした。
「私はカトレア・メルシェ。メルシェ一族の唯一の生き残りにして、現族長です。以後、お見知り置きを」
少女の背中に落ちたフードと共に現れた、真っ黒な髪。それこそが、護衛が態度を一変した理由であった。
髪の色は、魔力の量によって個々に異なる。
魔力量が多ければ多いほど、その色は濃く、そして暗くなる。よって、魔王の髪色も黒である。しかし、魔族でも目の前の少女のような美しい闇色の髪を持つものはそういない。
この少女に対抗できるのは魔族の中でも、魔王くらいしかいないだろう。
つまり、何が言いたいか?
護衛も、そして宰相も。
目の前の少女には勝てないと判断したからこそ、こうべを垂れたのだ。
そして、僕ーー魔王は、と言うと………『カトレア・メルシェ』と名乗ったその少女に土下座をした。
決して、目の前の少女に勝てないと思ったからではない。僕には、彼女に土下座をしなければならない理由があったからしたのだ。
「すみませんでしたぁぁぁ!!!」
牢の前で土下座をする魔王……。
カオスである。
***************
最近思うんですよ。
このお話のヒロインとヒーロー、性別逆にした方が良くね?って。
皆さん、そうは思いませんか?
まあしませんけどね…(*´-`)
そもそも誰だよ、性別逆にした方がしっくりくるようなヒロインとヒーローのキャラ考えたの。私だよ、知ってるよ!!
こうなると分かっていても、登場人物のキャラを濃くせずにはいられない……。
最早ここまでくると病気ですね。
読者様の中でお医者様がいらっしゃるなら、是非とも私を治してください。ただし注射は嫌です。
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