1 / 14
プロローグ
終焉
しおりを挟む人には様々な役割がある。
ヒーロー。ヒロイン。当て馬。ライバル。
沢山沢山ある中で、私が一番なりたかったのは『ヒロイン』だった。お伽話のお姫様。女の子なら一度は夢見るものでしょう?愛する人に愛させる奇跡の物語。
流石にそんな夢のような恋物語に憧れるようなことはなくなったけれど、私には「愛している」といっても過言ではないほどに好きな人がいた。
彼と私は許婚だった。私達は、魔族の貴族の嫡流だった。親同士が取り決めたものだったから、最初こそぎこちない関係だった。でもそれも長くは続かず、私達はすぐに仲良くなった。外面上は許婚として、内面上は友人の一人として、いつも一緒にいた。私はいつしか彼に恋をした。
けれど私は薄々気がついていた。
彼はヒーローだけど、そのヒロインは私じゃない。
許婚で両思いでハッピーエンド?
馬鹿みたい。
そんな夢物語、あるはずないのに。
彼には特別仲のいい女友達がいる。私という許婚がいるから言わないだけで、彼はきっと彼女が好きだ。
私に縛られて、動けないだけで。
私のことを見ているようで、心は彼女に向かってる。
辛くて辛くて、私のことを見て欲しくて。
彼と一番仲のいい男友達に相談したことだって何回もある。
なんて自分勝手。私を見て欲しいだなんて。
いつしか、私は彼の幸せを願うようになっていた。
私なんて見なくていい。
ヒーローは、ヒロインとくっつけばいいの。
私はきっと、当て馬役ね。
そして、そんな日々は突然終わりを告げた。
彼が、「魔王を討つ」と言ったことで。
彼はとても優しい人だった。
命の危険だってあるのに、民のためだと言って、権力にものを言わせて悪政を働く「魔王」に反旗をひるがえすほど。
魔王を討てば、その人物が次の魔王となる。
彼が魔王になれば……きっと素晴らしい世界が出来上がる。彼は機転がきくし、優しいもの。
そう思った私は、彼に協力するという旨を伝えた。
彼は人望が厚く、魔王討伐の日は大勢の仲間が集まった。その中には、彼女もいた。
こんなところまで来るなんて、やっぱり両思いなんじゃない。私はお邪魔ね。
自嘲気味な笑みを浮かべながらも、私は彼に続いて魔王の元へと向かった。魔王がいると言う広間の扉を開ける。
それが、悲劇の始まりだった。
魔王は強かった。
その強さは桁違いで、大勢いた仲間たちはたった数秒のうちに消し炭へと化した。
生き残ったのは、たったの数人。
私も、彼も、彼女も、その中に入っていた。
魔王が再び攻撃を繰り出そうと、拳を振りかざしたのを見て、私は咄嗟に彼の前へ出た。
でも、すぐに彼自身の手によって私は後ろへ回ることになった。私を庇うようにして立つ彼の背中は、涙で滲んで見えなかった。
なんて、優しいの。
あなたの邪魔しかしていない私を庇うなんて。
そんな時。
魔法を跳ね返すバリアをはって攻撃に耐えている彼を見て、魔王がニヤリと笑ったのを私は見た。
攻撃を全て避け切っているのは彼だけ。
魔王は、この中で一番強い敵が彼だと見破ったのだ。
「死の枷よ!」
声高らかに魔王が彼目掛けて放ったのは、存在すら危ぶまれていた伝説上のスキル。
膨大な魔力と自らの寿命を削ることでやっと使うことのできるスキルで、その枷に囚われたものは数秒のうちに死ぬという呪われたスキルだ。
あのバリアでは、枷は防げない。
まずい!まずい!まずい!!
私は彼のローブを引っ掴んで手前に引き、庇うように両手を広げた。
「ナユ!!」
後ろから、彼の絶叫する声が聞こえて来る。
仲間はみんな、その瞳に絶望を宿して私を見ている。
それでもまだ私を庇おうとする彼を、私は思い切り突き飛ばした。
ほらね。やっぱり私はヒロインじゃなかった。
ヒロインは、こんな土壇場で死なないもの。
所詮は当て馬ね。
でも、いいの。これでいいの。
これでやっと…やっと彼は解放される。
「死の枷よ……っ!!」
枷に囚われる直前、私は魔王にスキルを放った。
私は『復讐』というスキルを持っている。自分にされたことと全く同じことを、敵にそっくりそのまま返すことのできるスキルだ。習得しておいてよかった。
魔力のほとんどを失った今の魔王に、あれは避けられない。魔王は十中八九死ぬだろう。
安堵した瞬間、手首や足首に鉛色の重くて固い枷が私を拘束する。
「ナユ!」
「……っ」
何かが喉からせり上がってきて、思わず咳き込むと、それは血だった。全身からスーッと、まるで血を吸い取られているかのように、温もりが消えてゆくのがわかった。それと同時に力も抜けて、膝からカクリと崩れ落ちた。それを支えるようにして抱きとめてくれた彼を振り返って、最後の力を振り絞って告げる。
「バイバイ」
誰かの叫び声が、遠くから聞こえた。
***************
初めましての方も、そうでない方も、御機嫌よう。
お読みいただきありがとうございます!
血迷って?書き始めた新連載です。
暗いのは最初だけなので、ご安心をば。
誤字などございましたらご指摘くださいませ。
感想も、泣いて喜びますので。
宜しければブックマークを……:;(∩´﹏`∩);:
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる