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未来は掴み取るんじゃなくて奪い取るもの

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「それよりも、フレンはどうしたのかしら? あの子もその茶番に関わっていたの?」

 茶番……まあ茶番だったけど、そういえばあの後フレンはどうしたんだろう? 私の弟ってことで王子の側近として生活することになっていたんだけど、私が婚約破棄された今はどうなっているんだろうか。何事もなく仲良しごっこをしている、なんてことはないと思うけど……あの王子ならあるのかな?

「んー、多分知らなかったんじゃない? あの茶番の時に驚いてたし、目が合ったら首を振ってたから」

 まあ今どうなっているか、今後どうなるかは分からないけど、少なくとも王子の茶番に協力したわけではないと思う。昨日会った時も特に不自然なところはみられなかったし……

「そう。まあ姉を茶番で処理するんだものね。万が一寝返ったり情報が漏れないように、黙っていたんでしょう」
「こういうことを防ぐために王子の側近としたのだがな。まあいい。詳しいことは本人から直接聞こう」

 私の弟であるフレンが王子の側近となったのは将来のことを考えてではあるが、今のような状況を作らないための仲介役として送り込んだからだった。正確に言えば、私が無茶をして以前のような振る舞いで王子との関係をぶち壊すんじゃないかと懸念した両親が、私達の間を取り持つことができるようにと補助として送り込んだサポート役。それがフレンだった。

 だというのにこんな事態になってしまって自身の役目を果たせていないとなれば、フレン自身に聞きたいと思うのは当然のことだと思う。

 けど、フレンもこれから大変だろうなぁ。私が婚約破棄されたせいで王子の側にはいづらいだろうし、両親と共に後始末を手伝わされると思う。
 ……まあ、これもフレンが自身の役目を果たせなかったせいだってことで、どうか頑張ってほしい。フレンがあの……えっと……愛人聖女と阿呆王子を御しきれなかったことが今回の事件の理由でもあるんだから。

「それで、私が領地に帰るのはいいんだけど、明日帰ってもいい?」
「あら。私が戻る時に一緒に戻ろうとおもっていたのだけれど、どうしてそんなに急ぐのかしら?」

 お母様は今回私の卒業ということで王都に来ていたけれど、普段は領地で家の管理を引き受けている。
 こちらでの後始末が終わったら領地に戻るんだろうけど、それじゃあ遅い。後始末といっても大半はお父様に任せて、お母様は最低限の事しかしないだろうけど、そうだったとしても数日はかかるはずだから、絶対にその間に問題が起こるに決まっている。

「どうせ明日になれば招集がかかるでしょう? その時に何を言われるかなんてわかりきっているもの。どうせ婚約破棄を無かったことになんてできないんだし、面倒なことにしかならないでしょ。その上、王家との繋がりも維持することになるだろうから新しい結婚相手でも見繕われるんじゃない? そんなの嫌よ。だからそうなる前に傷心だって言ってさっさと家に帰るの」
「あなたがいなくなったところで面倒な状況だというのは変わらないけれど……分かりました。流石にあなたが領地に戻ってしまえば、王家も無茶なことはしないでしょう。――ただし、見送りはしません。貴方は一人で帰ることになります」
「お、おい。なぜそんな……」

 お父様はお母様の言葉に驚いて目を見開いた。確かに、普通の令嬢であれば自領に戻るのに一人で戻るというのはありえないことだ。道中の世話もそうだけど、不埒な輩や魔物の危険があるのだから当然の事。それは誰でも理解していることだ。

 でも、もしそんな中で貴族の令嬢が一人で自領に帰ってしまったら? そんな分かりきった危険の中に突っ込んでいくような愚かしいことをしたとしたら?

 お母様の発言はその行動に込められた意味を理解してのことだ。

 どういうことか簡単に言うと……

「一方的に婚約破棄された令嬢が、傷ついたことで家の命令を無視して一人で領地に帰ったとなれば、王家の罪悪感も増すというものでしょう? こんな状況です。もう何を言ったところで元に戻ることはないのですから、私達ができる最善を尽くして最も利のある未来を奪い取らなければなりません」

 つまりはそういうこと。そんな分かりきった危険の中に突っ込んででも領地という安全な場所、安らげる場所に帰りたい……いえ、逃げたいと思っているほど傷ついたのだ、と言外に示すために、お母様は私に一人で領地に帰れと言ったのだ。
 まあ、そこには私の武力を考えに入れての発言だっただろうけど。私なら攻撃系の魔法が使えなくなったって言っても王都から領地に帰るまで余裕で帰れるし。

「確かに、普通の貴族の娘は一人で領地間を移動することもないし、親の命令を無視して家に帰ることもないだろうからな。それを実行したとなったら、それだけ悲しんでいるのだと同情を誘うには十分だろう」

 でも、つかみ取る、ではなく奪い取る、というところが流石は私の母親らしい。

 なんて、そんなことを思ってクスリと笑ってしまった。

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