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バケモノだなんて失礼じゃない?
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――◆◇◆◇――
「てめえここがどこだかわかってんのか?」
裏路地の奥に進むと、さっきまでとは少しだけ雰囲気の違うチンピラたちが出てきて、私の事を囲んだ。これは当たりかな?
普通の令嬢であれば怯えたり虚勢を張ったりするのかもしれないけど、私にとっては丁度いい案内役でしかない。
案内役を探すための案内役だなんて、なんだか少し不思議な感じで、笑いが零れてくる。けどこれが目的のための最短……ではないかもしれないけど、近道であることは確実で、ついでに私のストレス解消になるんだから現状では最適の方法だと言えるだろう。
だからこんなチンピラに対する恐怖なんかよりも、私の胸の中を締めている思いがある。
――自由だ。
「おい。聞いてんのかよ! てめえ――は?」
私の事を囲んでいるチンピラの内、一人が私の体に手を伸ばしてきたチンピラの腕を掴もうとしたけれど、そんなチンピラを大きな放物線を描くように投げ飛ばす。
身体強化をすればこれくらいなんてことはない。神の加護によって強化されたわたしの身体能力を強化する魔法は、それまでとは比較にならないほど強くなっている。流石は攻撃系統の魔法を使えなくなるという代償を払っただけある力だ。まあ、こんなものいらなかったけど。
それに、やりすぎて相手を殺したら加護が失われるかもしれないから、こちらからとどめを刺しに行くことは出来ないのが残念だ。
でも、今はこうして相手を投げ飛ばしただけでも十分に気持ちがいい。だって、今まではこの程度の事すら体裁を考えていたせいでできなかったんだから。
――ああ、自由だ。
「ぜ、全員死ぬ気でぶっ殺せ! こいつただのガキじゃねえぞ!」
仲間が投げ飛ばされたのを見ていたからか、チンピラのうちの一人が少し怯えた様子で叫び、その言葉を受けてチンピラたちは一斉に武器を構え、ほぼ同時といってもいいタイミングで襲い掛かってきた。
この期に及んで私の見た目で油断しないところはグッド。
仲間がやられたとはいえ、見た目だけで言えば完璧にただの美少女である貴族の子女に全員で襲い掛かるなんて、普通はやってこない。
でもそれができているということは、危険に対する意識が高いという事。そして一人の指示に従って全員が一斉に動き出すことができるというのは、統率が取れている証拠。
それはつまり、このチンピラたちが所属している組織の力の強さを意味している。だって、単なる素人のろくでなし集団だったら、ここまで危険に対する意識は高くないし、ここまで統率の取れた動きはできないから。
仲間がやられたとみるや一斉に襲い掛かってきた彼らは間違いなく優秀だ。
もっとも、その優秀さも路地裏のチンピラ集団としての優秀さでしかないけど。普通の警邏部隊や巡回騎士程度では梃子摺るかもしれないけど、私にとっては相手に手ごたえが出てきて嬉しいという感情しかない。
――本当に自由なんだ。
「おいおい……なんだよこの騒ぎはよぉ。ああ?」
襲い掛かってきたチンピラたちと遊んでいると、何やら裏路地の奥から大柄の男がやって来た。その登場の仕方やタイミング、纏っている雰囲気から、この男がきっとこの辺りのまとめ役――ボスなのだろう。
なるほど。ボスと呼ぶにふさわしいだけの人物だ。そんな人物が私の遊び相手になってくれるなんて、なんとも喜ばしい事か。
――私を縛るものは……
「もう何もない」
今の自分の置かれた状況を理解した私の口からは自然とそんな言葉が漏れており、知らず知らずのうちに口元は弧を描くように歪んでいた。
「てめえ……聖女か? なんだってこんなところに……いや、なんでこんなことをしてやがんだよ……」
あれ? この男は私が聖女だってことを知ってるみたい。まあ聖女として炊き出しに参加したこともあるし、色々と街を練り歩いたりもした。ああ、ついでに教会での式典や祭典にも参加してたっけ。まあそんな感じでそれなりにいろんなところに顔を出してたし、私の事を知っていてもおかしくはないか。
けど、なんでこんなことをしているかって? ……えっと、そういえば楽しすぎて本来の目的を忘れてた。
「え? あー、ええっと……ああそうだったわ。この街をそろそろ離れるのだけれど、最後に観光をしていこうと思ったのよ。それで地元民しか知らないような場所を案内してくれるひとをさがしていたの」
確か最初はそんな感じの言い訳をして裏路地に入ったんだった。こうして遊ぶのも久しぶりだからついつい遊びに熱が入りすぎて建前の目的を忘れていたけど。……あ、建前じゃなくて本来の目的だった。私が路地に入ることになった本来の理由が街の案内をしてくれる人を探すことだった。危ない危ない。そこを間違えると後で言い訳をするときに面倒なことになるかもしれないし、建前っていうのは大事にしないと。
「……そんな理由でこんなところまで来たってのか?」
普通そんな理由で聖女がこんなところまでやってくることはないからだろうけど、裏路地のならず者たちを纏めているボスが訝しげな顔をして首をかしげているのはなんだか少しかわいらしく思えた。これがギャップ萌えというやつなんだろうか。
「ええ。裏路地の人間ほど街を知ってる人なんていないでしょう? 本当は入り口付近で子供でも捕まえて案内させようと思ったのだけれど……子供はいないわ身汚い男達が邪魔してくるわで、だったらいっそのこと奥にいる元締めに会ったほうが早いんじゃないかって思ったのよ」
「……イカレてやがんだろ」
まあ失礼ね。私みたいな美人を捕まえてイカレてるだなんて。……なんて。まあ私も自分が普通じゃないことなんて理解しているし、今の状況が普通じゃないことも理解している。
「だが、そんな理由だってんなら、俺達が街を案内できる奴を紹介すれば――」
「ただ、それよりも、今は遊んでほしいのよね」
こんな楽しいところで通と半端に終わらせてなるものか。やっと盛り上がってきたんだから、最後まで遊びつくさないと。
あなたもそう思わない? そう思ったからこそ、そんなにたくさんの部下を引き連れてこんなところまでボスが出向いてくれたんでしょう?
「少し、パーティーで仲間外れにされてしまったの。だから、代わりに踊ってくれる相手になってくれないかしら」
時間的にもそろそろ卒業パーティーが終わる時間だと思うし、ラストダンスを踊るには丁度いい。
「さあ、皆様方。存分に踊りましょう。ご安心を。わたくし、これでも聖女ですので。お疲れの方も、転んで怪我をされてしまった方も、私が全力をもって〝癒し〟て差し上げます。ただ――」
私は聖女だ。誰が何と言おうと、私自身が求めていなかったとしても、聖女であり神様とやらの力の一端を使うことができる。
だから、多少の怪我であれば問題なく治すことができるし、なんだったら多少でなくとも死んでさえいなければ治してみせる。
だから私達がまんぞくするまで幾らでも戦いを続けることができる。
ただ一つだけ問題がある。それは……
「もしかしたら少しだけ〝癒し〟過ぎてしまうかもしれませんが」
興が乗りすぎてしまえば、神の加護で得た力をちょっと変わった感じに使いだすかもしれないが、それはご愛敬ということで。
そう言って笑いかけると、チンピラたちはなぜだか突然体をブルりと震わせた。
あまり日の光が入ってこない路地裏にいるからか、その雰囲気も相まってとても昼間とは思えない薄暗さとなっている。
普段であれば不気味だ、辛気臭いと思うところなのだろうけど、頭上を覆っている板や布が日差しを遮っているが、その隙間から零れる光がまるで夜空の星のようにさえ思えるのだから気分というのは不思議だ。
さて、パーティーをするのは夜だと相場が決まっている。だからこの薄暗さは丁度いい。今だけはここは昼ではなく夜で、裏路地のゴミ捨て場ではなく輝かしいパーティー会場。私が躍るには十分な状況だと言える。
というか、誰も認めなかったとしても、私が認める。ここは素晴らしい遊び場だと。
「……何が聖女だ、バケモノめ」
私の笑みに何を思ったのか、ボスの男は顔を顰めながら吐き捨てるようにそう言ってきたけど、流石にそれはひどいんじゃない?
「あら、淑女に向かってバケモノだなんて、少しマナーがなっていないんじゃないかしら?」
「生憎、こちとらマナーなんざ習うような生き方をしてこなかったもんでな。てめえが教えてくれんのかよ」
「ええ、いいわよ。貴方がそれを望むのなら、今日だけは付き合ってあげるわ」
まあ、教える場合は言葉でではなく、拳でだけど。暴言を吐いた分だけ叩きのめし、どちらが上なのか理解すれば言葉や態度なんてものは自然とそれらしいものになるのだ。むしろ、頭で覚えさせるよりも手っ取り早く確実で効率的な手段だと言えるだろう。
「は……マジで、なんだってこんな化け物が聖女なんてやってたんだよ。この国の奴らは全員節穴だろうがよ、クソッタレ」
何て言い草だろうか。これでも学園では理想の女性として慕われていたというのに。王妃様からだって貴族子女の手本となれると言われたし、民衆からも聖女として愛されてきた。そんな私にクソッタレだなんて……まあ、私自身私が聖女なんてやっていることに疑問を持っていたけど。というか、疑問しかなかった。神様はなんで私なんかに目を付けて加護なんて呪いを与えたんだろう?
もし私が聖女に相応しいと思って加護を与えたんなら神様の目は節穴だし、上っ面だけ聖女っぽく振舞っている私を褒め称えている者達も節穴だ。聖女を信仰している民衆には悪いと思うけどね。
その点ではこの男は視る眼があると言えるかもしれない。
「仕方ないわ。神様が決めたことだもの。恨むなら、私を聖女なんてくだらないものにした神様を恨みなさい」
頭上の隙間から漏れた光が私を照らし、それがまるでスポットライトのように感じられた。
そんな光を満喫してから、私はカーテシーをしてその場にいたチンピラたちに微笑みかけた。
……あら、そんなに怯えた顔をするのは失礼じゃなくて?
「てめえここがどこだかわかってんのか?」
裏路地の奥に進むと、さっきまでとは少しだけ雰囲気の違うチンピラたちが出てきて、私の事を囲んだ。これは当たりかな?
普通の令嬢であれば怯えたり虚勢を張ったりするのかもしれないけど、私にとっては丁度いい案内役でしかない。
案内役を探すための案内役だなんて、なんだか少し不思議な感じで、笑いが零れてくる。けどこれが目的のための最短……ではないかもしれないけど、近道であることは確実で、ついでに私のストレス解消になるんだから現状では最適の方法だと言えるだろう。
だからこんなチンピラに対する恐怖なんかよりも、私の胸の中を締めている思いがある。
――自由だ。
「おい。聞いてんのかよ! てめえ――は?」
私の事を囲んでいるチンピラの内、一人が私の体に手を伸ばしてきたチンピラの腕を掴もうとしたけれど、そんなチンピラを大きな放物線を描くように投げ飛ばす。
身体強化をすればこれくらいなんてことはない。神の加護によって強化されたわたしの身体能力を強化する魔法は、それまでとは比較にならないほど強くなっている。流石は攻撃系統の魔法を使えなくなるという代償を払っただけある力だ。まあ、こんなものいらなかったけど。
それに、やりすぎて相手を殺したら加護が失われるかもしれないから、こちらからとどめを刺しに行くことは出来ないのが残念だ。
でも、今はこうして相手を投げ飛ばしただけでも十分に気持ちがいい。だって、今まではこの程度の事すら体裁を考えていたせいでできなかったんだから。
――ああ、自由だ。
「ぜ、全員死ぬ気でぶっ殺せ! こいつただのガキじゃねえぞ!」
仲間が投げ飛ばされたのを見ていたからか、チンピラのうちの一人が少し怯えた様子で叫び、その言葉を受けてチンピラたちは一斉に武器を構え、ほぼ同時といってもいいタイミングで襲い掛かってきた。
この期に及んで私の見た目で油断しないところはグッド。
仲間がやられたとはいえ、見た目だけで言えば完璧にただの美少女である貴族の子女に全員で襲い掛かるなんて、普通はやってこない。
でもそれができているということは、危険に対する意識が高いという事。そして一人の指示に従って全員が一斉に動き出すことができるというのは、統率が取れている証拠。
それはつまり、このチンピラたちが所属している組織の力の強さを意味している。だって、単なる素人のろくでなし集団だったら、ここまで危険に対する意識は高くないし、ここまで統率の取れた動きはできないから。
仲間がやられたとみるや一斉に襲い掛かってきた彼らは間違いなく優秀だ。
もっとも、その優秀さも路地裏のチンピラ集団としての優秀さでしかないけど。普通の警邏部隊や巡回騎士程度では梃子摺るかもしれないけど、私にとっては相手に手ごたえが出てきて嬉しいという感情しかない。
――本当に自由なんだ。
「おいおい……なんだよこの騒ぎはよぉ。ああ?」
襲い掛かってきたチンピラたちと遊んでいると、何やら裏路地の奥から大柄の男がやって来た。その登場の仕方やタイミング、纏っている雰囲気から、この男がきっとこの辺りのまとめ役――ボスなのだろう。
なるほど。ボスと呼ぶにふさわしいだけの人物だ。そんな人物が私の遊び相手になってくれるなんて、なんとも喜ばしい事か。
――私を縛るものは……
「もう何もない」
今の自分の置かれた状況を理解した私の口からは自然とそんな言葉が漏れており、知らず知らずのうちに口元は弧を描くように歪んでいた。
「てめえ……聖女か? なんだってこんなところに……いや、なんでこんなことをしてやがんだよ……」
あれ? この男は私が聖女だってことを知ってるみたい。まあ聖女として炊き出しに参加したこともあるし、色々と街を練り歩いたりもした。ああ、ついでに教会での式典や祭典にも参加してたっけ。まあそんな感じでそれなりにいろんなところに顔を出してたし、私の事を知っていてもおかしくはないか。
けど、なんでこんなことをしているかって? ……えっと、そういえば楽しすぎて本来の目的を忘れてた。
「え? あー、ええっと……ああそうだったわ。この街をそろそろ離れるのだけれど、最後に観光をしていこうと思ったのよ。それで地元民しか知らないような場所を案内してくれるひとをさがしていたの」
確か最初はそんな感じの言い訳をして裏路地に入ったんだった。こうして遊ぶのも久しぶりだからついつい遊びに熱が入りすぎて建前の目的を忘れていたけど。……あ、建前じゃなくて本来の目的だった。私が路地に入ることになった本来の理由が街の案内をしてくれる人を探すことだった。危ない危ない。そこを間違えると後で言い訳をするときに面倒なことになるかもしれないし、建前っていうのは大事にしないと。
「……そんな理由でこんなところまで来たってのか?」
普通そんな理由で聖女がこんなところまでやってくることはないからだろうけど、裏路地のならず者たちを纏めているボスが訝しげな顔をして首をかしげているのはなんだか少しかわいらしく思えた。これがギャップ萌えというやつなんだろうか。
「ええ。裏路地の人間ほど街を知ってる人なんていないでしょう? 本当は入り口付近で子供でも捕まえて案内させようと思ったのだけれど……子供はいないわ身汚い男達が邪魔してくるわで、だったらいっそのこと奥にいる元締めに会ったほうが早いんじゃないかって思ったのよ」
「……イカレてやがんだろ」
まあ失礼ね。私みたいな美人を捕まえてイカレてるだなんて。……なんて。まあ私も自分が普通じゃないことなんて理解しているし、今の状況が普通じゃないことも理解している。
「だが、そんな理由だってんなら、俺達が街を案内できる奴を紹介すれば――」
「ただ、それよりも、今は遊んでほしいのよね」
こんな楽しいところで通と半端に終わらせてなるものか。やっと盛り上がってきたんだから、最後まで遊びつくさないと。
あなたもそう思わない? そう思ったからこそ、そんなにたくさんの部下を引き連れてこんなところまでボスが出向いてくれたんでしょう?
「少し、パーティーで仲間外れにされてしまったの。だから、代わりに踊ってくれる相手になってくれないかしら」
時間的にもそろそろ卒業パーティーが終わる時間だと思うし、ラストダンスを踊るには丁度いい。
「さあ、皆様方。存分に踊りましょう。ご安心を。わたくし、これでも聖女ですので。お疲れの方も、転んで怪我をされてしまった方も、私が全力をもって〝癒し〟て差し上げます。ただ――」
私は聖女だ。誰が何と言おうと、私自身が求めていなかったとしても、聖女であり神様とやらの力の一端を使うことができる。
だから、多少の怪我であれば問題なく治すことができるし、なんだったら多少でなくとも死んでさえいなければ治してみせる。
だから私達がまんぞくするまで幾らでも戦いを続けることができる。
ただ一つだけ問題がある。それは……
「もしかしたら少しだけ〝癒し〟過ぎてしまうかもしれませんが」
興が乗りすぎてしまえば、神の加護で得た力をちょっと変わった感じに使いだすかもしれないが、それはご愛敬ということで。
そう言って笑いかけると、チンピラたちはなぜだか突然体をブルりと震わせた。
あまり日の光が入ってこない路地裏にいるからか、その雰囲気も相まってとても昼間とは思えない薄暗さとなっている。
普段であれば不気味だ、辛気臭いと思うところなのだろうけど、頭上を覆っている板や布が日差しを遮っているが、その隙間から零れる光がまるで夜空の星のようにさえ思えるのだから気分というのは不思議だ。
さて、パーティーをするのは夜だと相場が決まっている。だからこの薄暗さは丁度いい。今だけはここは昼ではなく夜で、裏路地のゴミ捨て場ではなく輝かしいパーティー会場。私が躍るには十分な状況だと言える。
というか、誰も認めなかったとしても、私が認める。ここは素晴らしい遊び場だと。
「……何が聖女だ、バケモノめ」
私の笑みに何を思ったのか、ボスの男は顔を顰めながら吐き捨てるようにそう言ってきたけど、流石にそれはひどいんじゃない?
「あら、淑女に向かってバケモノだなんて、少しマナーがなっていないんじゃないかしら?」
「生憎、こちとらマナーなんざ習うような生き方をしてこなかったもんでな。てめえが教えてくれんのかよ」
「ええ、いいわよ。貴方がそれを望むのなら、今日だけは付き合ってあげるわ」
まあ、教える場合は言葉でではなく、拳でだけど。暴言を吐いた分だけ叩きのめし、どちらが上なのか理解すれば言葉や態度なんてものは自然とそれらしいものになるのだ。むしろ、頭で覚えさせるよりも手っ取り早く確実で効率的な手段だと言えるだろう。
「は……マジで、なんだってこんな化け物が聖女なんてやってたんだよ。この国の奴らは全員節穴だろうがよ、クソッタレ」
何て言い草だろうか。これでも学園では理想の女性として慕われていたというのに。王妃様からだって貴族子女の手本となれると言われたし、民衆からも聖女として愛されてきた。そんな私にクソッタレだなんて……まあ、私自身私が聖女なんてやっていることに疑問を持っていたけど。というか、疑問しかなかった。神様はなんで私なんかに目を付けて加護なんて呪いを与えたんだろう?
もし私が聖女に相応しいと思って加護を与えたんなら神様の目は節穴だし、上っ面だけ聖女っぽく振舞っている私を褒め称えている者達も節穴だ。聖女を信仰している民衆には悪いと思うけどね。
その点ではこの男は視る眼があると言えるかもしれない。
「仕方ないわ。神様が決めたことだもの。恨むなら、私を聖女なんてくだらないものにした神様を恨みなさい」
頭上の隙間から漏れた光が私を照らし、それがまるでスポットライトのように感じられた。
そんな光を満喫してから、私はカーテシーをしてその場にいたチンピラたちに微笑みかけた。
……あら、そんなに怯えた顔をするのは失礼じゃなくて?
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