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16章
追加の援軍・魔王
しおりを挟む「流石にこちらに来るまで時間がかかってしまいましたが、ザヴィート王国軍先発隊一万。加えて、後続部隊六万の計七万。ただいまより参戦させていただきます」
「は? 七万……!?」
ぱっと見だったが、やってきた人数はそれほど多くないように感じたから、まあこんなもんかと思っていた。
だが、それが全てではなかったと? 今俺が見たのは先にやってきた部隊ってだけで、全体は七万だと?
自国が襲われてるってわけでもないのにこんなに用意するなんて……よくできたな。
こっちに来るのがやけに遅いと思ったけど、お前、そりゃあ時間かかるわ。
「ご指示をどうぞ、魔王陛下」
驚いた俺の顔を見て、フィーリアはいたずらっけを感じさせる笑みを浮かべつつ恭しく礼をした。
それはフィーリアが……王国の兵が俺の指揮下に入ることを意味するんだが、それでいいんだろうか? 少なくとも俺たちは表立って手を結んでいなかったはずなのに。
もちろん俺たちとしてはありがたい。変に指揮官で揉めることもないし、その分労力も時間も短縮できるんだから。
まあそこにはフィーリアの思いも入っているんだろうが、国王であるルキウスの意向でもあるんだろう。そこには何かしらの思惑が含まれているはずだ。
まあ、だとしても現状ではありがたいことに変わりはないけど。
「お前まで魔王なんていうのかよ。……って、ん?」
驚きから意識を切り替えるために、俺は一度息を吐き出してから冗談まじりでフィーリアの言葉に文句を言ったのだが、そこでふと見覚えがある人物に気がついた。
「久しぶり。……あ、です?」
片手をあげて声をかけてきたあと、言葉遣いがまずいと思ったのかすぐに言葉を付け加えた人物。
弓を背負い、尖った耳と見目のいい外見をしているその女性は……
「ランシエ? お前も来たのか」
「そう。ランデルから伝言」
「『我が里の戦士五百と余り。魔王軍麾下に入ります』」
先ほどのフィーリアとは違い、ランシエは俺の前までやってくると目の前で膝をつき、そう口にした。
麾下って、お前らそれでいいのかよ。一応土地はザヴィート領内だろ。お前に関していえばザヴィートの守護者的な立場じゃん。
「よろしく」
言うべきことを言い終えたからか、ランシエは膝をついたまま顔を上げて俺のことを見つめた。
「魔王軍ではないんだが……?」
「そう? まあ構わない」
「いや、俺が構うんだよ」
俺は魔王を名乗ったが、だからって魔王軍と名乗ったことはない。
それなのに魔王軍だなんて呼ばれるとは……。なんていうか、恥ずかしいんだよな。
跪いていたランシエが立ち上がるのを見ながら、自分でもわかるくらい表情を歪めていると、今の時間は戦っているはずの親父がやってきた。
「おうおう、魔王様。随分と配下が増えたもんじゃねえかよ」
「親父。こっちきて大丈夫なのか?」
「まあな。こっち来る時軽く一掃しておいたから、まあしばらくは平気だろ。——それより、向こう見てみろ」
「向こう?」
親父に言われて指差された方向を見てみるが、そこには土煙を上げながらこっちに向かってくる巨大な何かが見えた。
「……なんだあれ? ……いやまて。は? おい、いや、あれ……」
その土煙の中心には、なんだかニョロニョロと動く触手のようなものが見えたため、変異生物がやってきたのかと思ったが、どうにも色合いが違った。
よく見てみると、その姿には見覚えがあった。
「あれ、魔王か?」
そう。花園にある聖樹を守るための存在として居場所を与えていたはずの『魔王』。
特に拘束しているわけでもないんだから、ここにいてもおかしくないといえばおかしくないんだが、それでもどうしてここにいるのか理解できない。
「俺にもそう見えるな。だからお前んところまで『なんでだ』って聞きにきたんだよ。なんか聞いてねえのか?」
「いや、まったく何も。……なんだってこっちに来たんだ?」
「お前の危険を察して、じゃないか?」
まあ共生というか協力関係と言ってもいい間柄なので、俺の状況が伝われば手伝いに来てくれるかもしれないが、それだけで来るのか、と思わなくもな——いや、邪神か?
ロロエルから聞いた話では、勇者もそうだが魔王は元々邪神に対抗するための存在だったそうだ。であれば、ここに邪神の存在を感じ、やってきたと考えることができなくもない。
しかし、邪神の存在なんてそんな感じ取れるものなんだろうか? いや、ここに来ている以上はなんらかの方法で知ることができたのかもしれないが……
「わ、わ、わああああ~~~!? とみゃっ……とみゃりなしゃああああい!」
なんて考えていると、魔王の方からなんだか変な声……というか悲鳴が聞こえてきた気がした。
「……魔王……の割にはなんか変な声が聞こえるな。親父はどうだ? 俺の耳がおかしくなったのか」
「あるいは頭かもな。でも安心しろ。俺にも聞こえてっから」
親父と軽口を叩いていながらも、警戒しつつ様子を見ていたのだが、しばらくすると魔王が俺たちの前までやってきてその動きを止めた。
うん。やっぱり魔王だな。やってくる段階でも分かってはいたけど、近くで見たことでそうなんだとはっきりと理解することができた。
けどこの魔王、こっちにやってきたのはいいんだけど、なんか〝付属品〟がついている。
「お前なんでここに……え、なに? 手紙?」
その〝付属品〟についてとても気になるし、こいつがどうしてここにきたのかも気になるんだが、そのことについて尋ねる前に魔王が触手を動かし、手紙を差し出してきた。
『拝啓、魔王陛下。お互いに忙しいと思われますので、挨拶は省略させていただきます』
そんな書き出しから始まったが、これエドワルドからの手紙か。
肝心の本題だが、花園で待機中だった魔王をこっちに寄越した理由について書かれていた。
なんでも、元々魔王自身がこっちに向かおうとしていたが、それをエルフ達が止め、エドワルドが説得に入りとめていたそうだ。今向かえば邪魔になるからとかなんとか言って。
確かに、魔王がこっちにくればそれはそれで問題だろう。
ただ、戦力になることは確実なので、こちらの状態を予測して、問題ないであろうタイミングを見計らって送ってきたようだ。
加えて、神樹の気配のようなものを感じ取ったようでエルフ達に落ち着きがなく珍しくレーレーネが里から出て花園にやってきたようなので、口車に乗せて何かの役に立てば、とこちらに送り込んできたらしい。口車に乗せてって……役に、立つのか? ……まあ、一応レーレーネも聖樹の御子だし何か意味はあるだろ、多分。
『報酬は聖国の復興指揮を取らせていただければ構いません』
最後に報酬を求めるのがあいつらしいといえばらしい。
「なんだって?」
「なんか、魔王がこっちに来たがってたからタイミングを見て送ってきたってさ」
手紙を覗き込んできた親父に手紙を押し付けつつ、魔王について軽く説明をした。ひとまずの説明としてはこれで十分だろ。あとは自分で読め。
「ふっふふ~ん! ねえねえねえ! 追加で人が来たのよね! じゃあじゃあ、わたしもついに自分の部下を——おおおお!?」
援軍がやって来たことに気がついたようで、リリアがご機嫌な様子でスキップしながらやってきたのだが、その言葉は途中で止まり、叫びに変わった。
「ああああっ!! ままあ!? え、うそっ! なんでここにいるの!? わたし何にも悪いことしてないんだからね!」
自身の母親であるレーレーネを見つけてしまったことで、リリアは目を丸くしながら後退りし始めた。
親に対する態度としてはとてつもなく失礼極まりないが、そんな態度を取るのも理解できる。何せ最初に「悪いことしてない」なんて言葉が出て来るんだ。普段どんな扱いされてるのかわかるってもんだろ。
数歩ほど後退りしたリリアだが、その後にキョロキョロと辺りを見回すと俺の方に駆け寄ってその背中に隠れた。
……おい、なんでこっちに来るんだよ。素直に逃げとけばいいじゃんか。
まあ、多分レーレーネも俺が相手では怒ることもできないだろうとか考えたのかもしれないし、実際そうだろうが、もし仮にレーレーネが怒りそうだったら俺は迷うことなくお前を差し出すぞ。
「り、りりあ? ……りりあ~! うわーん! こわっ、こわかったよ~!」
リリアの叫び声はしっかりとレーレーネに聞こえたようで、魔王の引いていた荷台の上から降りると、転びそうになりながらもリリアの元へと駆け寄っていった。
そして、俺を無視して俺の背後にいるリリアへと抱きつき、情けなく泣き出した。女王の威厳とかあったもんじゃないな。
「まったく。普段外に出てこないくせにこんなところまで来ちゃうんだから。ほら、わたしを見てよ。もう、ほら。こんなに堂々としてられるんだからね!」
自分のことを怒らないで泣いている母親を見たからか、リリアは怯えていた様子から一転してニヤリと笑って調子に乗り始めた。
「おい、あれどうすんだよ」
「なんで俺に聞くんだよ」
偉そうに腰に手を当てながら胸を張っているリリア(娘)と、それに縋り付いているレーレーネ(母)を見ながら親父が問いかけてきたが、俺に聞くのはやめてほしい。そもそも俺が呼んだわけでもないんだから、どうしていいのかわからないのは俺も同じだ。
「なんでも何も、エルフはお前の担当だろうが」
「いやまあ、そうかもしれないけど……送り込んだのエドワルドだろ?」
「ここにいないやつに文句言ってなんになるんだってんだ。ほら、さっさと行けや」
ええー……。こんな人前で泣き叫んでる人に話しかけるとか、気まずすぎるんだけど? 泣いてる方だって、こんな状況で話しかけられたくないだろ。
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